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第14話 娘よ!

「リリアッ! リリアッ! 良かった……無事だったんだな。良かった……」

「ああっ、リリア! 神様、ありが……うぅ……ありがとうございます。リリアをお守りくださりありがとうございます」


 顔を押さえてうずくまる俺を盛大にスルーし、ムロンさんとイザベラさんはリリアちゃんを抱きしめる。

 ふたりとも泣きはらした顔をしていて、目元にはクマができていた。

 リリアちゃんのことが心配で、一晩中起きていたのだろうな。


「リリア……リリア……お父さん心配したんだぞ」

「ごめんなさい」

「いいのよリリア。あなたがこうして帰ってきたんですもの。ね、あなた」

「……そうだな。リリアが無事だったんだ。それだけで……十分だ」


 家族の絆が深まる中、ひとりとり残されている俺。

 とりあえずドアの一撃を顔面に受けて鼻血が出ていたので、ティッシュをちぎって鼻につめる。

 さて、なんて話しかけようか?


「あ、あのー……」

「ところでリリア、昨日はいったいどこにいたんだ? お父さん、ずっと探してたんだぞ」

「そうですよリリア。お父さんはね、リリアを探してマサキさんと一緒に……あら? そういえばマサキさんがまだ戻ってませんね」

「おおっ! そうだった。マサキのヤツ、まだ森にいるんじゃ――」

「お兄ちゃんならそこにいるよ」

「「え?」」


 リリアちゃんに言われて、やっとふたりは俺の存在に気づいてくれた。


「ど、どもー」


 片手をあげて苦笑い。

 リリアちゃんを除いた俺たち3人に、気まずい空気が流れた。


「な、なんだよマサキ。お前も帰って――って、……ま、まさか、お前がリリアを探してきてくれたのか……?」

「リリアね、ハチにつれてかれてたとこをお兄ちゃんにたすけてもらったんだよ」

「なっ!?」

「まぁ!?」


 ムロンさんが驚いた顔を俺に向ける。


「マサキ……ジャイアント・ビーが出たんだな?」

「はい」

「リリアが……捕まっていたのか?」

「ええ。でもなんとか間に合いました」

「……マサキーッ!!!」

「おわぁ!?」


 ムロンさんが涙を流しながら抱きついてきた。

 それも全力で。

 体格のいいムロンさんの抱擁は、どう見てもベアハッグにしか見えない。


「お、折れるおれる! 背骨が折れる!!」

「ありがとう! リリアを救ってくれてありがとうマサキ! うおおぉぉぉ!!」

「ぎゃーーー!!」

「お父さんだけずるーい! リリアもお兄ちゃんにぎゅーするの! えーい!」

「うっぎゃーーー!!!」


 ムロンさんに背骨を、リリアちゃんに大たい骨を潰されかけ、俺の悲鳴は天まで響いたのだった。





「こうしちゃいられねぇ。イザベラ、リリア、村に行くぞ」


 ぐったりしてる俺の横で、やっと落ち着きを取り戻したムロンさんが真剣な声を出す。


「お父さん、リリアも村にいくの?」

「そうよリリア。みんなで家を出るの」

「どうして? おかいもの?」


 きょとんとするリリアちゃん。

 ムロンさんとイザベラさんは一度顔を見合わせてから、言い聞かせるように話しはじめた。


「リリア、森にはジャイアント・ビーがいる。リリアを捕まえた、でかいハチのことだ。あいつらから逃げるために、お父さんたちは村に行かなくちゃいけないんだ」

「逃げるの? なんで?」

「また襲ってくるかもしれないだろ?」

「えー。でもあのハチなら、リリアお兄ちゃんといっしょにやっつけたよ」

「……それは一匹だけだろ。ジャイアント・ビーはな、もっといっぱ――」

「んーん。もういないよ。だって巣にいたのぜんぶやっつけたもん」

「…………は?」


 ムロンさんの表情が固まる。

 その横では、イザベラさんも思考停止状態に陥っていた。


「だからね、お兄ちゃんとリリアでハチの巣ごとやっつけたの! リリアねー、すごいんだよ。いっぱいいっぱいハチやっつけたの!」

「ま、マサキよう、」

「……な、なんでしょうか?」

「リリアの話は……本当か?」

「はははー」


 俺は愛想笑いを浮かべながら頭をかき、あさっての方を向きながら答えた。


「いやー、ほんとーです。びっくりですよねー。ははー」


 俺の言葉に、ムロンさんとイザベラさん夫婦は意識のみどこかへと旅立ち、戻ってくるのにけっこーな時間を必要とするのだった。





 そしてその日の昼下がり。

 俺とリリアちゃんはムロンさんを連れて、ジャイアント・ビーの巣へ戻ってきていた。

 リリアちゃんが一緒にいるのは、俺ひとりだと巣の場所が分からなかったからだ。


「こ、こりゃぁ…………たまげたな」


 地面を埋め尽くすジャイアント・ビーの死骸を見て、ムロンさんが驚きの声をあげる。


「ね。リリアのいったとーりでしょ、お父さん」

「あ、ああ……」


 ムロンさんはしゃがみこんでジャイアント・ビーの死骸を触っている。

 状態を確認しているのか、その眼はするどい。


「おい、マサキ」

「なんですか?」

「お前さん……いったいどんな魔法を使ったんだ? ジャイアント・ビーが……形を保ってくたばってるなんてよ」

「あのね! ぶしゅーってするのでやっつけたの!」

「ん? 『ぶしゅー』ってなんだ?」

「これだよ!」


 リリアちゃんがマグナムブラスターをカバンから取り出し(念のため持ってきた)、ムロンさんに見せる」


「なんだぁ? こりゃあ」

「それは俺の持ってたマジックアイテムで、虫にだけ効き目のある毒の煙を出すんです」

「毒の……煙ねぇ……」

「こう使うんだよ。えい」


 リリアちゃんは得意げな顔をして、マグナムブラスターをムロンさんの顔面目がけて噴射する。


「おわぁ!?」


 突然の不意打ちに、パニクるムロンさん。

 リリアちゃん、それはひとに向けて撃っちゃダメだぞ。


「げほっげほっ……そ、そうか。ま、マジックアイテムを使ったのか……。すまねぇなマサキ、貴重な物を使わせちまってよ」

「いや~。俺もなんでこんなの持ってるか覚えてないんで、気にしないでください」

「そうかい。そう言ってもらうと助かるぜ。でもよぉ、記憶が戻ってから返せって言われても、返せねェからな」

「これでリリアちゃんを助けられたんです。返せなんて言うはずないじゃないですか」

「く~、お前はホントいいヤツだな! まあ、でもなんだ、」


 ムロンさんは立ち上がり、ジャイアント・ビーで埋め尽くされた一帯を指さす。


「こいつらを売れば、バカみたいなカネに変わるだろうさ」

「そうなんですか?」

「オレはイザベラと出会うまで冒険者をやっていてな。ジャイアント・ビーとも戦ったことがある」

「へー」

「こいつらジャイアント・ビーから採れる素材はなぁ、なんと金貨1枚で売れるんだよ」

「金貨……1まい……」


 とりあえず驚いたリアクションはしたけれど、金貨1枚の価値が俺にはわからない。

 でも話の雰囲気的に、けっこーな額なのだろう。


「つまりあれですか、このジャイアント・ビーを売れば……」

「ああ。マサキ、お前は大金持ちだ」

「わーお」


 数百匹はあるだろうジャイアント・ビーの死骸。

 それを前に、俺は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

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