7・スカッド・ガルドニクス
「くそっ! クソックソックソックソッ!!!!」
たった5人の生き残りを連れて、魔導士狩りのオルンゲと呼ばれた上級冒険者は逃走していた。
どうやって森を出たか、もうほとんど覚えていない。
とにかく、あの乾いた音と見えない攻撃から逃げることだけを考えていた。
さっきまで一緒にいた盗賊団長プラーガは、敵の放った魔法で頭を吹っ飛ばされて死んだ。
無敵の統率スキルを持って、国を征するという彼の夢はアッサリ砕かれてしまった。
いや、プラーガは間違いなく大陸で国と渡り合えるだけの強さを持っていた。
それが、こんなにも簡単に......。
「オルンゲさん! 俺たちはどこへ逃げれば!?」
「今は何も考えず走れ! 北へ抜ければ温泉都市【アルストロメリア】へ行けるはずだ!」
あの恐ろしい悪魔たちは、きっと既存の魔法じゃ絶対に倒せない。
なんとしても組織に伝えなければ......!!
「がっ......!?」
直後、先頭を走っていたオルンゲの足に激痛が走った。
遅れて響く謎の轟音、転倒した彼は右足の膝から下がないことに気づく。
「オルンゲさん!!」
「大丈夫ですか!? 肩に捕まってください!」
仲間たちが助けに入ってくれるが、オルンゲはすぐさま叫ぶ。
「全員逃げろぉっ!! これはハンターの上等手段だ!」
攻撃魔法を使う暗殺ギルドでは、あえて敵の足を狙って殺さないよう動けなくする。
そして、助けに入った一味を矢継ぎ早に始末する方法が稀に取られる。
これはその典型だった。
◆
「膝下に命中、想定どおり敵群は逃走を停止」
丘陵の上で、モコモコとしたギリースーツを身に纏い、地面に伏せた男たちがいた。
1人は双眼鏡を持ち、淡々と状況報告。
もう1人は、イケメンの顔に迷彩塗料を塗りたくっていた。
その手には7.62ミリ マークスマンライフル(HK417)が握られていた。
マークスマンライフルとは、連射可能な狙撃に使える銃である。
「さすがハルバード少佐、連中が北側に逃げることまで読んで俺を配置するなんてマジすげぇ......。やっぱ尊敬もんだわ」
スカッドは、倍率スコープを助けに入る盗賊連中へ向けた。
偽装が完璧に行われており、敵は全くこちらへ気づいていないようだった。
「全く容赦がない人だ」
――――ダァンダァンッ――――!!!
2回発砲、大弓男を助けようとしていた盗賊の頭と首を撃ち抜いた。
「ヘッドショット、標的 Bダウン」
観測手の報告を聞き、スカッドはバイポッドで固定された銃口を次々に発射炎で瞬かせた。
――――ダァンダァンダァンッ――――!!
「標的 E、およびCをハートショット、標的 Dは逃走中」
まだ元気な剣を持った男をスコープの中心近くに重ね発砲。
地面を低空で飛翔した弾丸は、男の胸を横から貫いた。
「標的 Dダウン、残りは負傷中の大弓男......Aのみです」
スカッドは息を吐いた。
どうやら大弓男はこちらを見つけたようで、ギッと睨みつけているのがスコープ越しに伺える。
度し難い理不尽、圧倒的な暴力を前にようやく無力さを痛感したといったところだろう。
それでも、スカッドは自身が絶対忠誠を誓う上司の命令を実行した。
最後の1発が放たれ、こちらへ弓を指向していた男の頭が消し飛んだ。
脳を失った体が、パッタリと倒れる。
「こちらスカッド、全ターゲットキル。ミッション完了」
通信で報告すると、すぐに返事が来た。
「よくやったスカッド、盗賊群はそれで最後だ。こちらは捕虜をとっ捕まえたよ」
イグニス・ハルバード少佐からだった。
「さすがですね少佐、うざったらしいエミリアのヤツは戦死しましたか?」
「残念、ピンピンしてるよ。君と同じだ」
「それは残念極まりないですね、こちらは死体確認後にすぐ戻ります」
「頼んだ、こっちも基地へ戻る――――全く、我々は異世界でスローライフを送りたいというのに」
通信が切られる。
この日、大陸最大と呼ばれた盗賊団が壊滅したとの報せは、またたく間に国中へ広がった。
もちろん、【白の英雄】の圧倒的過ぎる未知の強さも一緒に。




