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最終話・白の英雄

 

 アルストロメリアの争乱から2週間後......。


 俺たちは約束どおり、商業ギルド・マギラーナから鮮生鮮食品の供給を受けることができるようになった。


 長らく続いた非常食生活は、ようやく終わりを告げたのだ。


 いやはや実に危なかった、もしあのまま部下へ缶詰ばかり与えていたら絶対に暴動が起きていただろう。


「さて、ここか......」


 賑やかな城下町で、俺は装甲車から降り立った。

 城門の衛兵に近づくと、槍を持ったまま姿勢を正される。


「白の英雄の方々ですね、お待ちしておりました。そのまま車ごとお進みください」

「どうも」


 車に戻ると、俺はまた発進するよう扉を二回叩いてから助手席へ座る。


「さすがに王都、すごく賑やかですね......。都会の喧騒が苦手な僕には住めそうにありません」


 アクセルをゆっくり踏みながら、運転席のスカッドがつぶやく。


「住めば都と言うだろう? 案外悪くないかもしれんぞ」

「街でカップルとすれ違うたびに、殺戮の衝動に駆られるのは嫌なんですよ......。ほんっと、リア充全員死なねぁかな......」

「俺が悪かったから運転に集中しろ、王城で事故ったんじゃフィオーレに会わせる顔がない」


 俺とスカッド、エミリアの3人は王城へ招待された。

 思ったとおり、フィオーレはこの国の第一王女であらせられたのだ。


 先のテロへの貢献、神龍アクシオス討伐の功労をねぎらいたいとのことである。


「うわ〜......綺麗な庭、ほらスカッド、景色を堪能しなきゃ損やで」

「ぶっ殺すぞクソエミリア、このまま城壁にアクセル全開突っ込んで心中したいか? 運転に集中させろ」

「あぁー怖〜、現代にいたなら映えとか考えんの? やっぱこいつ連れてきたの失敗ですね少佐」


 Wi-Fiの繋がらないスマホで写真を撮りながら、エミリアがスカッドといつものやり取り。

 いや君らの喧嘩に俺を出されても困るよ?


「ほら、降りろって言ってるぞ。エンジン切れスカッド」

「あっ、了解です」


 会話を軌道修正して、俺たちは車から降りる。

 なおもエミリアは写真を撮りまくっていた。


 なにやら自家発電できる充電器を持っていたらしく、彼女は異世界でもバリバリスマホを使っている。

 まぁもし元の世界に帰ったとき、証明できるものがいるだろう。


 俺は彼女に好きなだけ写真を撮らせた。


「少佐は不安に思わないですか? もし帰れなかったら......エミリアが今撮ってる写真だって全部無意味ですよ。前世界に残るのは空っぽの戸籍と基地跡だけです」


 隣を歩いていたスカッドが、城内を歩きながら言う。


「まぁ転移物で帰れる保証ってないしな、色々考えてもしょうがないだろう。補給ができるだけまだ恵まれてるよ」


「そうですけど、僕はともかく少佐はどうなのかなって」


「俺は......楽しいよ、ずっとフィクションだと思ってた異世界ファンタジーに部下たちと来れて......。本当に楽しい」


「僕もです、いや......貴方といれるならそこがどんな世界だろうときっと充実しています。不本意ですが、エミリアもそう思ってますよ」


「照れるな、でもそういえばコーカサスや中東で同じことエミリアが言ってたっけ」


「でしょうね、僕とエミリアが散々喧嘩してるのに同じ部隊でやれてるのは、ひとえに貴方への忠誠心があるからです。他の上官じゃ絶対さばけません」


「今日はいやに素直じゃないか、嵐でも来るかな?」


「いえ、なんとなくですよ。言うべき時にちゃんと言わなきゃと思って」


「そうか」


 扉が開くと、装飾絢爛な部屋が広がっていた。

 奥にある外へ面した広いバルコニーには、テーブルと食事––––そしてドレスに身を包んだ少女が待っていた。


「ほぅ......こりゃ豪勢な歓迎だ、これなら戦勝パレードがなかったのも許せるな」


「あら、ヒーローとして凱旋したかった? イグニス」


「冗談だよ、俺たち根なし草にそんなことは似合わない。––––歓迎ありがとうございます、王女殿下」


 揃って膝をつくと、フィオーレは慌てた様子で近寄る。


「そういうのいいって言ったでしょ? 英雄さんに膝つかせたらパパに怒られちゃう」


「悪い悪い、一度やってみたかったんだ」


「ほんと相変わらずね、食料は届いてる?」


「問題なく、おかげで壊血病には悩んでない」


「なら良かった......、じゃあ最後の約束を果たそうかしら」


 彼女の案内で、俺たちはバルコニーへ連れられた。

 蒼空の下、まぶしく料理が並んでいる。


 飛び出したエミリアが、勢いそのままにフィオーレへ抱きついた。


「フィオさすがーっ! お腹いっぱいご馳走するって約束、覚えててくれたんや」


「当然じゃない......、王女たるもの約束を反故になんてしないわ」


「すご......、僕こんな食事たぶん初めてです」


 指定の席へみんなが座る。

 元の世界が気にならないかと言えば、それはきっと嘘だ。


 俺は残してきた国も人間も、忘れるなんてことはできない。


 だから......絶対に忘れない、暗い日常の中––––明るい異世界へ想いを馳せていた時と同様、備えていればいずれ時が来ても慌てないで済む。


 だから今は、できることから進めていこう。

 人事を尽くして天命を待てばいいのだ。


「ついでだし、俺たちのこれからについてでも喋ろうか。せっかくのディナーが無言なんじゃ花がない」


「いいわね、じゃあまず防衛協定についてからでどう?」


「良いんじゃないか? 根なし草にも目的は必要だからな」



お疲れ様でした。

本作はとりあえずこれにて完結です、現代兵器と特殊部隊をいっぱい暴れさせたいという想いで始めたので、凄く満足です。


※この作品で興味をもって頂けた人は、ぜひ作者の他作品––––広告下のリンクから飛べる、最新作の方もよろしくお願いします。

本作ほどガチガチミリタリーではないですが、これも私らしい作品にしたいと思ってるので是非⬇︎⬇︎


(もしエラー吐いたら作者名をタッチかクリックしていただければ、そちらから読めます)

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