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46・レベル999のドラゴンなんてワンパンですよ

 

 全身に鈍い痛みを感じた瞬間、俺はそれの成功を確信した。


「ったく......、給与に見合わん労働だ」


 俺が行ったのは、空挺式の着地方法だ。

 五点で落下の衝撃を全身へ分散させることにより、ダメージを受けなくする方法。


 俺はともかく、フィオーレができているかすぐ不安になる。

 だが、すぐにそれは杞憂となった。


「......お前らちゃんと連携できるじゃないか、あんな嫌がってたのに」


 瓦礫を避けてゆっくり歩く。


 見下ろすと、そこには落下したフィオーレを守るようにしてスカッドとエミリアが下敷きになっていた。

 これもまた、出撃前に何度も訓練したものだ。


「冗談じゃないですよ少佐、こいつと一緒の行動するなんてこれが最後です.....」

「ほんま、ウチもこれっきりでごめんやわ......」


 2人同時に起き上がる。

 飛び退いたフィオーレが心配げに周囲を見渡す」


「あっ、ありがとうみんな。大丈夫?」


「僕は大丈夫ですよ、まぁ死にかけましたが......少佐の命令を遂行しただけです。それに、美女の下敷きになるというのも悪くありませんでした」


「キッモ! そんなにお望みなら好きなだけ踏んだるわ」


「てめーは論外なんだよ野蛮人、一昨日きやがれ」


「はぁーっ!? こんな美女に親指下へ向けやがったなこいつ! 今ここでぶっ殺してKIA(戦死)にしたるわ!!」


「上等だ蛮族女かかってこい!!」


 取っ組み合いを始めた2人を無視して、俺はスカッドの愛銃であるGM6リンクス対物狙撃ライフルを、地面から掴み上げた。


 コッキングレバーを少しだけ引いて、初弾の装填を確認。

 この銃は12.7ミリという大口径弾を撃てるわりに、ブルパップ方式なので非常に取り回しがいい。


 そんなライフルを持って、俺は潰れた市役所へ向かった。

 後ろからフィオーレ、遅れてスカッドとエミリアが喧嘩をやめてついてくる。


「さすがの神龍といえど、あれだけの火力を撃ち込まれればひとたまりもないか」


 眼前には、瀕死の重傷を負いながらも未だに眼をギョロギョロと動かす、“アクシオス”がいた。

 乳児のようだったそいつは、もう殆ど成人に似た外見へ変貌している。


「アクシオス、貴様が過去にどれだけの文明を滅ぼしたのかは知りかねるし詮索するつもりもない。けれども人間に害をなす存在である以上––––お前の住処はここにないんだ」


 銃のストックを肩へつけた。

 エミリアとスカッドも、ホルスターからハンドガン(グロック19)を取り出す。


「だからせめて、俺たちが弔ってやる......。永劫孤独な貴様に、フルメタルジャケットの鉄槌をもって安楽をくれてやる」


 アクシオスの眼に魔力砲発射の光が瞬くが、もう遅い。


「さらばだ––––レベル999のドラゴンよ」


 一斉にトリガーを引いた。

 セミオートの対物ライフルに加え、2(ちょう)のハンドガンが連続で––––間断なく射撃を行った。


 硝煙が燻り、弾丸によってアクシオスの顔面が木っ端微塵に吹き飛ぶ。

 やがて、マガジン内の残弾がゼロを迎えて世界は静かになった。


「......戦闘終了、総員––––ご苦労だった」


 無線で全部隊に告げる。

 終わったのだ、これでようやく。


「エリーゼ市長と、リムさんは......」


 フィオーレの問いに、俺は振り返りながら答えた。


「エリーゼ市長はアクシオスに潰されて間違いなく死んだ。市長秘書のリムさんは、ラペリング降下するとき一緒に降りるのを拒否した、彼にとっては......たとえ裏切り者であっても市長が全てだったんだろう」

「なんだろう......、もう全部嫌になりそうだよイグニス......!」


 大粒の涙をこぼすフィオーレ。

 俺はライフルを置くと、彼女を抱きしめた。


「大なり小なり、きっとこの戦いで多くのものが失われた。俺たちにできるのは、その記憶を忘れず、前を向いて進むことだ」


 確信を口にする。


「そうだろう? “王国第一王女様”」


 スカッドとエミリアが、飛び退く勢いで目を丸くした。


「マジかよ......」

「嘘......、フィオがこの国の王女様......!?」


 端麗な顔を涙目で上げるフィオーレ。


「いつから正体に気づいてたの......?」

「基地で最初に会ったときだ、普通の商業ギルドに所属する女の子が『安全保障』なんて言葉は普通使わんだろ?」

「それだけで?」

「あとは香水とか諸々でな、っつーか良いのかよ。王女様がこんな最前線でボロボロになりながら戦って......」


 一歩離れたフィオーレは、開き直ったようにクルリと背を向けた。


「うん、お父様や近衛は許してくれないと思う。正直言うと外の世界を舐めてた、けれど......我慢できなかったんだ、自分だけ王城でシカトするのがさ......これじゃ王女失格かな」

「たしかに、為政者としては失格だな」


 少しうつむいたフィオーレの頭を、ポンポンと撫でた。


「けれど、お前が頼ってくれたおかげで俺たちと––––世界は結果的に救われた」


 迎えのヘリコプターが、上空から降りてきた。

 ローターの風圧が残った土埃を吹き飛ばし、太陽の光が強く照りつける。


「その決断と、俺たち仲間は誇ってもいいと思う。さぁ帰ろう、騎士団の基地まで送り届けますよ––––王女様」


最終話更新は1月31日となります

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