45・一斉飽和攻撃
イグニス・ハルバード少佐が向けたレーザーは、アルストロメリア上空に展開していた全ての航空ユニットが探知していた。
『コントロールより、空域のタスクフォース203全部隊に告ぐ。ゲイボルグ作戦開始! “聖杯”を叩き壊せ、繰り返す! “聖杯”を叩き壊せ!』
聖杯とは、神龍アクシオスのこと。
この事態を、イグニスは数多あるプランの1つとして完全に予想していた。
否......むしろ彼は、最初からこうなるよう画策した張本人だ。
彼はずっと思っていた。フィオーレの懸念するトロフィーに封印されし存在......、どんな魔法をもってしても倒せない怪物。
口伝にて伝えられた神龍は、確かにこの世界のみでは手に余る。
だが、そんなふざけた化け物ごときに1人の少女が身を、––––人生を捧げて良いはずがない。
『コース策定! A-10全機、これより突貫する!!』
答えは断じて否だ! それが魔法で否定できぬなら、この世の真理たる科学でもって征服するだけのこと。
純然たる合理の鉄槌を、ふざけた幻想に叩きつけるべく自分たちはこの世界へ呼ばれたのだ。
『ストライクイーグル全機、LDAM全弾投下!!』
『3、2、1––––––ボムズアウェイ!』
4機のF15-SEから、計16発の500ポンド誘導爆弾が投下された。
それらは高度4000メートルを一気に滑り落ち、巨大な人間の形をしたアクシオスへ叩きつけられる。
『今だっ!! 飽和攻撃開始!! 全機––––全兵器全発射!!』
爆炎で見えなくなったアクシオスに、まだレーザーは照射されている。
そこ目掛け、A-10編隊が超低空で突っ込みながらAGMを一斉発射した。
同時に、市街上空に待機していたAH-1Zヴァイパー攻撃ヘリもハイドラ70ロケット砲を撃ち合わせる。
魚群のように尾を引いたミサイルが、生まれ落ちる寸前のアクシオスへ飛翔した。
◆
「もっと急げバカ!! これマジで死ぬぞ!!!」
「うっさいんじゃスカッド! こっちも必死やねんッ!!!」
ハーネスを身体につけ、俺たちは市役所の外壁を猛スピードで懸垂降下していた。
「地面に降りたらまっすぐ走れ! こんなところでくたばる気はないからな!!」
ギャーギャー喚くスカッド、エミリア組に続いて、俺もフィオーレをおぶりながら降下する。
レーザー照準器は、背中のフィオーレに持たせて誘導していた。
めちゃくちゃに揺れるのを、必死で堪えさせる。
「ちょっとイグニス! これどうなってるの!?」
「いいから照準に集中しろ! さっきの爆発はおそらく500ポンドLJDAMだ、次はミサイルが来るぞ!」
言ってる瞬間に、大量のAGMが同時弾着した。
凄まじい爆発に加え、狙いの逸れたハイドラロケットが市役所を揺らす。
「やっ!?」
「チッ!!」
否応なく体勢が崩れる。
落下しかけたフィオーレを、俺は腰ごと腕で掴んだ。
散らばり落ちる破片から身をよじり、彼女を守る。
「い、イグニス! 頭から血が......!!」
「皮膚を切った程度だ! 気にすんなッ!!」
「うん.....! でも、貰った照準器が!」
見れば、さっきの爆風でレーザー照準器は吹っ飛んでいた。
だが、役目はもう終わったに等しい!
「必要ない! それよりもうロープがもたん!!」
建物が崩落を始める。
おまけに千切れかけとなったアクシオスの腕が、黒煙の中に映った。
「どうするの!?」
「この体勢じゃどっちみち無理だな、壁を蹴って建物からできるだけ距離を取るぞ!」
「わ、わかった!」
スリングを解除して、もはや重しに過ぎないショットガンを落とした。
「行くぞッ!!!」
壁を蹴ると同時、A-10攻撃機の30ミリガトリング砲が頭上を薙ぎ払った。
アクシオスもろとも市役所は引き裂かれ、ロープが千切れるのと同じくして身体が落下する。
「きのう基地で教えた通りにやれ! いいなっ!!」
轟音と共に攻撃機が高速で上を通り過ぎた。
俺たちは、崩れ落ちる市役所の砂埃に覆い隠された。




