43・終わりの始まり
「さて市長さん、残るは貴方だけだ」
足をミニガンによって負傷したエリーゼへ、俺は見下ろしながらいった。
ぶっちゃけ、この構図だと第三者視点で俺が悪役に見えても仕方がない。
「少佐〜、なんかこっちが悪役みたいになってますよ」
速攻で同様のツッコミをエミリアから食らう。
「遺憾だな、これでも一応お前らを助けてやったんだぞ?」
「一応って......」
呆れたような顔で立ち上がったエミリアは、バヨネット・ナイフをしまいながらこちらを見た。
「っつーか少佐さぁ、わたしたちがボコられるのわかってて派遣したでしょ。昔からいっつも過酷な環境に置いて育てようとする節があったし」
「半分正解で半分ハズレだ、正直お前はまだまだポンコツだからな。【殲滅の爆撃王】だとか言われて浮かれてるから、ちょいと試しただけだ」
「うーわ最悪、それで結果は?」
「は? 不合格に決まってるだろ」
真顔で宣告する。
当然だ、エミリア1人がボコられるならともかく、フィオーレに尻拭いさせるようでは失格もいいところ。
銃でぶん殴ってこようとするエミリアをいなしていると、声が掛けられた。
「あなた達っていつも戦場でこうなの......?」
「フィオー! 気がついたん!? 生きてて良かったぁ!」
「ちょっ、エミ......苦しい!」
抱きついてくるエミリアをどかしたフィオーレが、ゆっくり立ち上がった。
「大丈夫か?」
「なんとかね、それより––––」
ひざまずく市長を見る。
「この人はどうするの?」
「どうする? 決まってるだろ」
俺は我ながら下卑た笑みを浮かべた。
「絶望を味わわせてやる、こいつの信じるものを軒並みぶっ壊してな」
「ッ!! 舐めるんじゃないわよクソ男ッ!!!」
一瞬で姿勢を取ったエリーゼは、鋭利なナイフを俺の腹部へ突き刺してきた。
軽い衝撃が走るも、俺は勝ち誇った顔の市長の腕を掴んだ。
ナイフはボディーアーマーに阻まれ、逆にへし折れていた。
鎧じゃないと見て勝機を見出したのだろうが、無駄である。
「それは......」
「これかい? これは『ドラゴン・スキン』っていうレベル4の防弾ベストだ。たかだか刃物じゃ貫けん。製造国が輸出規制品目に入れているくらいだからな」
ドラゴン・スキン。
その防御力は絶大で、通常の防弾プレートだと容易に貫通するMP7の4.6ミリ高速弾すら弾いてしまう。
まさに最強の鎧だ。
蹴り飛ばし、エリーゼの右腕へショットガンを撃った。
着弾と同時に炸裂し、骨ごと引き裂く。
市長の断末魔が覆った。
「少佐......、それもしかしてFRAG-12弾?」
エミリアが近づきながら言った。
「確か炸薬が詰まってる特殊弾頭で、障壁はおろか軽装甲車すら打ち負かすっていう」
「正解、ついでだから持ってきた」
さて。
銃口を横に向け、部屋の奥にあった『トロフィー』を3連射で粉砕した。
血のような液体がぶちまけられ、木っ端微塵に砕け散る。
「やった! これで召喚も止まる......!」
手を握ったフィオーレへ、俺は冷静に告げた。
「マンガやアニメじゃないんだ、エミリアたちが部屋に来た時点でとっくに起動し終えてる。そうだろう市長?」
口から血を流しながら、エリーゼは不敵に笑う。
「えぇそうよ、神龍召喚の儀式はとっくに終わってるわ。具体的にはあなた達がここへ来る......36分前にね」
高笑いしながら、エリーゼは叫んだ。
「大革命の始まりよ!!! 震えるがいい白の英雄!! こうべを垂れて祈りなさい、己の無力さを噛み締めて、怨嗟に苦しみながら泥濘に沈めッ!!!! あっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!」
俺は全員を少し下がらせると、AA-12を天井に向けて連射した。
FRAG12弾により、天井は瞬く間に崩落。
落ちてきた瓦礫に潰され、エリーゼはその場で生き埋めとなった。
かろうじて顔だけは見える。
「無駄な抵抗ね......、神龍アクシオスはもう止められない」
無くなった天井を見上げると、空には超巨大と言っていい魔法陣が浮かんでいた。
さて、いよいよ大詰めだ。




