38・全ては勘であるのだが
「奴は......本当に死んだので?」
スーツ姿で鼻血を顔につけた男性が、ヴォルコフの死体を見つめていた。
その後ろには人質となっていた市役所の職員たちが集まり、寄り添い合うようにして固まる。
「やむを得ませんでした、あなたたちの救出を最優先としましたので」
「とんでもない! あなたは我々の命の恩人だ......私はリムと申します。ここで市長秘書の役職に就いています」
「市長秘書ですか、っとなるとあなたの上司である市長さんはどこに?」
俺の問いに、リムはゆっくり首を横へ振った。
「我々がここへ移される寸前、アーノルドという男によって1人連れ出されました......。おそらくヤツがこのテロの首謀者です、市長はきっと今も人質に......」
「大丈夫です、落ち着いてください。どこへ連れ出されたかわかりますか?」
市長秘書のリムは責任を感じているのか、ワナワナと震えながら言葉を絞り出す。
「おそらく、ヤツはきっと、あぁ......私の責任です......! 私が魔導士として無力だったばかりに」
言葉が支離滅裂になっている。
これは無理矢理にでも座らせて、水を飲ませなくては飛び出す勢いだろう。
いや、人質は他にも分散配置されており一刻を争う。
残り2カ所の人質を解放するには、のんびりなどしていられない。
俺はあえて体をズラし、死に絶えた黒魔導士の”大杖“がリムの視界に入るよう図った。
案の定、汗を滝のように流した彼は、駆け出すと同時に大杖を掴み上げた。
「なにをっ!!」
とっさに銃と剣を構えたエミリアやフィオーレを、右手で制す。
「エリーゼ市長を助けないと......!! これ以上、テロリスト共の好きにはさせない!!」
全力疾走で階段を駆け上がるリム。
思ったとおりだ、なまじ責任感が強く真面目な性格ならこうやって無謀に走ることもおおいにある。
「エミリア、フィオーレを連れて彼を追跡しろ。その先に市長とテロの首謀者がいるやもしれん」
「なっ、なんでそうだとわかるの? 闇雲に探し回るだけかもしれないわよ」
「フィオーレ。彼が市長秘書ならエリーゼさん個人の魔力をきっと覚えているだろう、犬のように突っ走ってまっすぐ向かう可能性が高い。どうせあの状態じゃ聴取なんざ望めんしな」
利用するようで申し訳ないが、ここはカードとして使わせてもらう。
フィオーレも納得したようで、エミリアに続いて階段を登っていった。
同時に、2人の状況がわかるよう無線を常時オープンにするよう指示した。
「俺らはどうしますか? この人らに聞いて、残りの人質を解放していきます?」
「いや......それはスカッド––––お前に任せたい、第1小隊と合流して市役所内を制圧しろ」
「それはいいですけど、なにをするつもりですか?」
GM6対物狙撃銃の薬室チェックをしながら、スカッドは不思議げに訪ねてきた。
どうせだし主観でも述べておこう。
「俺の勘だが......市長とアーノルドとかいうヤツは、最上階付近にいるだろう」
「言い切りましたね、根拠があるので?」
「あくまで勘と言っただろう、だからもしそうであった場合に備えて動くだけだ」
粉砕された出入り口から、通信担当兵を始めとした部下たち第1小隊が入ってくる。
「ヘリを1機寄越すよう連絡してくれ、そうだな......MH-60ヘリコプターでいい。ガトリングの弾が残っている機を頼む」




