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37・どんなクズでも罪は償わなきゃな

 

【恒久不落の英雄】か......。

 そういえば現代の世界じゃ、いつのまにかそう呼ばれていた。

 グローリアに中二病だのなんだの言ったが、これも相当気恥ずかしいので自分では極力言わないよう気をつけていたのだが......。


「んだよ今の......、お前どうやって俺の手からハンマーを弾きやがった!? ナニモンだてめぇッ!!」

「だから英雄だと言ってるだろ」


 吠える男に、淡々と答えた。


「妄想も大概にしやがれ......!! どういう魔法かは知らねえが関係ねぇ! おい!」


 男が下っ端であろう魔導士を怒鳴る。

 1人が磔にされかけていた女性を盾にしようと起き上がらせ、もう2人が人質たちへ魔法陣を広げた。


「その人たちをどうするつもり......!?」


 紅髪に変身したフィオーレがたじろぐ。

 とことんゲス野郎共だ、俺はハンドガンをホルスターにしまった。


「人質はこっちの手にある、てめえらが噂に聞く【白の英雄】や紅髪だとしてもこうされちゃ手が出せねぇだろう?」

「あぁ、確かに俺やフィオーレには手が出せないな」


 魔法陣を向けていたローブたちが、立て続けに頭部から血を吹いた。

 瓦礫に隠れていたエミリアが、アサルトライフルのセミオート射撃で鮮やかに撃ち抜いたのだ。


「おい!! 女をこっちに––––」

「はっ、はい! ヴォルコフさん!」


 女性を盾にしていた男が身じろぎした一瞬、かぶっていたローブごと魔導士の頭が弾けた。

 ほんの一瞬遅れて銃声が後ろから轟いた。


 わかるはずがない、塔からラペリング降下したスカッドが大急ぎで正門に展開。

 新しく部下から受け取ったGM6リンクス対物狙撃銃で、水平に隙間を縫うようにして撃ったのだから。


 女性がその場に倒れ込むと、鼻血を出した男が駆け寄ってきて引きずるようにしながらヴォルコフから遠ざけた。

 身なりからおそらくこの市役所の職員だろう。


「女性を頼んだ、あとは俺がやる。フィオーレ、スカッド、エミリアは周囲を警戒しろ」

「「「りょうかい」」」


 ゆっくりと、歩を進めて距離を詰める。

 この快楽殺人犯によって、いったいどれだけの犠牲と恐怖が振り撒かれたのだろうか。


 そもそも女を磔にし、盾として使おうと考えていた時点で十分万死に値する。


「女性より男の方が体格に勝るのは当たり前だ。だから好き勝手していいなんて本気で思っているとしたら、それは大間違いだ」

「俺に説法垂れるたぁ何様だっ! 俺は天下のオーガ殺しと謳われたヴォルコフ様だぞっ! クソみたいに弱い下等人間がいくら死のうと別に––––」


 助走をつけたヴォルコフが、右腕を振りかぶった。


「悪影響なんざねぇんだよッ!!!」


 右ストレートが俺の胸部に叩き込まれる。

 ガードの類いはいっさいしていない、する必要もないからだ。


「なぁっ......!?」


 ヴォルコフの拳は、俺の胸筋によって完璧に止められていた。

 全身全霊の一撃がノーダメージだったことで、ついにヤツの額へ汗が流れる。


「オーガ殺しのヴォルコフか......、女ばかりターゲットにしてる時点で察してはいたよ。オーガもどうせ子供の個体ばかり狙ってたんだろう? パンチに全く腰が入っていない、スクワットをサボって上半身ばかり鍛えてるからこうなるんだ」


 足腰のトレーニングをサボって上半身ばかり鍛えていると、足だけ細いチキンレッグになる。

 こいつは分厚いズボンで隠しているが、貧弱なのは明らかだ。


「パンチはな、腕だけで放つもんじゃないんだよっ」


 今度はこちらが、手加減なしのパンチを顔面へ放った。

 転がったヴォルコフが、鼻血を滴らせながらもんどりうった。

 感触的に鼻を砕いたようだ。


「どうした? 人質や女性にばかりイキっててもつまらんだろ。俺が遊んでやる、サッサと立て」


 いつまでも膝をつくヴォルコフを無理矢理立たせると、今度は腕を後ろへ回すようにして関節技を仕掛ける。

 驚くほどアッサリ、ヤツの右肩は脱臼を起こした。


「おあああぁぁああああああッッ!!!!」

「まだまだ元気だな、体格差で女性を虐める悪い腕だ。右肘も貰っておく」


 うつ伏せに倒れたヴォルコフの右腕へ、M870のストックを叩きつけた。

 関節部分を何度も打ちつけ、もう人なんて殴れないよう徹底的に砕いた。


「ぐおおああぁぁあああ!!! クッソガァぁあああ!!!!!」


 起き上がったヴォルコフが、まだ残っていた左手で裏拳を放ってくる。

 せっかく残しておいてやったのに......。


 裏拳を絡め取ると、そのまま背負い投げへ移行。

 床へ叩き伏せた。

 同時に、またうつ伏せとなった彼の左腕を踏み潰す。

 骨の砕ける音が響いた。


「たとえ冒険者崩れのクズでも、罪は償わなきゃな」


 悶絶するヴォルコフの顔を、またも無理矢理上げさせる。

 視界には、さっきまで痛めつけていた人質たちや女性が映っているはずだ。


「彼らに本気で謝れ、己がいかに無力で矮小で愚かな存在であったか––––被害者諸氏に詫びろ」


 涙と血で顔をぐしゃぐしゃにしたヴォルコフは、数分前とは180度違う態度となった。


「じっ......自分は無力です、イキってすみません、殴って申し訳ありませんでした......! 殺してしまった女の子たちにも謝ります、本当にごめんなさい」

「よく言えたな、でもお前が殺した人たちは二度と戻ってこない。永遠に。遺族の元へ帰るのは冷たくなったご遺体だけだ」


 スリングの内側に付いていたシェルを取り出すと、4発ほどショットガンに装填した。


「燃えて詫びろ」


 ためらいなく引き金をひき、ヴォルコフの背中へ“ドラゴンブレス弾“を叩き込んだ。

 マグネシウムのペレットが、発砲時に着火して哀れなテロリストを業火で包んだ。


「があああぁぁあああっ!!? あっがああああ!!!」


 異世界人特有の頑丈さが災いして、焼き焦げる苦痛を最大限に味わっているようだ。

 火が弱まらないよう、間隔を置いてゆっくり撃ち込む。


 自身の燃える臭いを嗅いでもらい、焼かれる苦痛の中で絶命していただく。


 残弾を撃ち切ると、ヴォルコフは完全に焼死していた。

 ......せめて死者は喜んでくれるだろうか、わかりもしないことを胸中でつぶやきながら、このフロアの人質を解放することに成功した。



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