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36・ヴォルコフの悪行

 

 いったい市内は、市長はどうなってしまっているのだろう......。

 度重なる爆発音と振動を感じながら、人質として捕らえられている市長秘書は、胸中に不安を募らせていた。


「ちくしょうどうなってやがる!! アーがノルドのやつ......これじゃ約束が違うぞ!!」


 エントランスの階段を、数人の部下を引き連れたガタイのいい男が叫びながら降りてくる。

 剥き出しの筋肉にはイタい紋様を刻んでおり、スキンヘッドの頭には血管が浮き出ている。


「落ち着けヴォルコフ! とにかく今はこの兵器置き場を守るのが先決だろう」

「俺に指図するな! やっぱり見せしめに人質の死体でもぶら下げてりゃよかったんだ! さっき地下で女をぶっ殺したんだからそいつを使ってよ」


 思わず拳に力が入る。

 あのヴォルコフという男によって、数時間前に罪のない大事な部下である女性職員が無惨に刺殺された。


 あの時、ヤツは殺人を楽しんでいた。

 体格などを無視して理不尽にタイマンを要求し、嫌がった彼女から人生を奪ったのだ。


 グローリアの残酷さと、己の無力さに吐き気すら覚える。


「そうだ、いいことを思いついたぜ」


 蛇のような笑顔を浮かべたヴォルコフが、また別の女性職員へ近づいた。

 小柄な彼女の髪を強引に掴むと、床へ叩きつけた。


「嫌っ......! やっ、助けて......! 触らないでっ!」

「そう泣くなってクソメスがよぉ......、おいこら、黙れって言ってんだろッ!!!」


 抵抗する彼女の腹を、思い切り蹴飛ばす。

 床を転がった女性職員は、涙を流しながら咳き込んだ。


「やめろっ!! どうして貴様らはそう残酷な真似ができるんだ!! そんなに鬱憤を晴らしたいなら彼女じゃなく俺を殴れば良いだろう!」


 あまりの光景に、気づけば市長秘書は叫んでいた。


「お前、地下でも歯向かって俺にぶん殴られたのを忘れたのか? 脳みそが鳥くらいしかねぇとすーぐ忘れちまうんだな」

「なんでもいい! 彼女から離れろっ!!」

「そいつはできねぇな部下想いの秘書さんよ、こいつは今から俺たちの大事な装備になるんだ」

「装備だと?」


 山積みになった武器置き場から、黒ローブが2メートルはあろう木の板を持ってきた。

 嫌な汗が伝う。


「おぉーいいじゃねえか、おあつらえ向きだぜ」

「なにを......」

「見てわからねぇか? 今からこのクソメスを木板へ(はりつけ)にしてお手製人間シールドにするんだよ」

「ふざけるなっ! 人命を冒涜するのも大概にしろ!! だったら俺がなってやる! 彼女には家族がいるんだぞ!!!」

「そりゃダメだ、女を盾にしてこそ侵入者や騎士団も狼狽する。お前みたいなパッとしないもやし男を出しても効果は薄いからな」


 ヴォルコフは女性職員を強引に掴み上げると、黒ローブたちに彼女を木板の上へ仰向けに押さえつけさせた。


「特別に俺が手のひらに釘を打ってやるよ、おら! 手を開きやがれっ」

「嫌だッ!! やだ! やだやだぁっ! お母さん!! お父さん!! だれか、誰か助けてぇぇッ!!!!!」

「抵抗しても痛いだけだ!! お前らしっかり押さえてろよっ」


 市長秘書はもはや後先のことなどかなぐり捨てた。

 ここで殺されても構わない、これ以上あのクソ野郎の好きにはさせたくなかった。


 人質の塊から飛び出そうと駆けるが、ヴォルコフの裏拳が秘書の顔を直撃した。

 尻餅をつき、激痛の走る鼻を押さえた......。


 大量の鼻血が溢れ出ている。


「英雄気取りのもやし君にはなにもできませ〜ん、そこで大人しく見てるんだな妄想野郎」


 クソが、クソがクソがクソがクソが!!

 どうしようもないのか? 杖がない魔導士はここまで無力なのか!?


 震える足で憤りながら立ち上がろうとするが、彼女の手にはもう釘の先端が据えられていた。

 ハンマーが振り上げられ、ヴォルコフの邪悪な笑みと女性職員の悲鳴が走馬灯のようにゆっくり視界を覆った刹那––––––


「うおぁっ!!?」


 バリケードで埋められていたエントランスゲートが、業火によって吹き飛ばされたのだ。

 火のついた破片が飛び散る中、床へ転がった秘書は声を聞いた。


「ありがとうフィオーレ......爆薬を使う手間が省けた、おかげで色々と間に合ったようだ」


 顔を上げると、そこには見たことのない格好をした男が立っていた。

 魔法杖とは異なる長い棒状の物体、全身を白い軍服に包んでおりいくらか血のようなもので赤く染まっている。


 騎士団の人間ではなさそうだ。


「なんだお前?」


 強引に開いた女性職員の手のひらへ釘を打とうとしていたヴォルコフは、ハンマー片手に立ち上がった。

 白い男も状況を把握したようで、ため息を吐いた。


「英雄だよ、不本意だがそう呼ばれてる」

「ブッハッハッハッハ!! こいつは痛々しい妄想野郎の登場だ! まぁちょっと待ってくれないかな兄ちゃん、今お手製の人間シールドをこしらえてたんでよ」

「断る」


 耳をつんざくような炸裂音の後、ヴォルコフの持っていたハンマーが吹っ飛んだ。


「なぁっ!?」

「気が変わった、簡単に銃殺してもらえると思うなよ......妄想痛々しいテロリスト君」


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