35・ワルキューレ
イグニス・ハルバードが正門前でグローリア部隊と交戦していた頃......。
騒乱に包まれたトロイメライへ、高速度で接近する者たちがいた。
『ヴァイパー1より各機、まもなく市街地上空はへ差し掛かる。祭りの用意はできているな?』
空中で爆音を響かせながら移動するのは、軍用ヘリコプターの大部隊。
先頭の4機は『AH-1Z』と呼ばれる重武装攻撃ヘリコプターであり、対地ミサイルから多連装ロケットランチャー、ガトリング砲まで多くを装備。
まさしく空の戦車だ。
『イグニスさんも人が悪い、こんな佳境になってから俺らを呼ぶなんてなぁ!』
特殊作戦軍の隊員が、ローターの音に負けじと叫んだ。
彼らは『AH-6J』、および『MH-60』という輸送用武装ヘリに搭乗しており、いずれも完全武装だった。
『だからこそだろうよ! こんな品性のないゴリラ共が街をうろついてたら、テロリストじゃなくてこっちが先に職質くらっちまう』
『だからってよ小隊長、スカッドさんやエミリアだけじゃ不安でしょうに! 特にエミリアなんて今頃何人吹っ飛ばしてるかわかったもんじゃねーぜ』
『だからもクソもねぇよ! エミリアが生粋の爆弾魔なのは認めるが、スカッドが中隊長付きには最も相応しい。あのフィオーレって子もハルバード少佐がついてんなら大丈夫だ!』
いよいよトロイメライの街並みが視野に入ったとき、前衛の攻撃ヘリ部隊が散開した。
滑らかな挙動で、編隊を離脱していく。
『こちらヴァイパー1、市街周辺に怪異多数を目視! もしかしたら避難民の列へ突っ込むつもりかもしれん!』
『数週間前に基地へ押し寄せてきた盗賊団の残党か、モンスターとの交戦許可は出てないだろう?』
『心配するな、今許可を取った! 悪いが君らブラックホーク隊は先に前進してくれ!』
『こちらブラックホーク2、らーじゃ! テロリスト共の気持ち悪い笑顔と一緒に叩き潰しといてくれ! 俺らは予定通りギルドを助けに行く!』
編隊を完全に離脱した攻撃ヘリから、白い線が伸びた。
AGM-114ヘルファイア 対地ミサイルを放ったのだろう。
市街の屋根が足元を流れていく......。
見える範囲では人がごった返しており、コロシアムと市役所、マギラーナギルドから黒煙が立ち昇っていた。
『目標距離3000、ギルドを目視!』
『HQへ、こちらリトルバード3! 大砲のような兵器を視認した! ギルドはあれに撃ちまくられてるようだ』
『HQ了解、大砲と周辺への射撃を開始せよ』
『誤射の可能性は?』
『ハルバード少佐の手配で、ギルド員は非武装だ。武装している人間だけを徹底して狙え』
AH-6Jの左右に付いたミニガンが火を吹いた。
ミニガンと言っても、口径7.62ミリのガトリング機銃だ。
人間をミンチにするには、十分過ぎる威力を持つ。
「なっ、なんだあれは!?」
「翼がないのに飛んでる......!! ありえない!!」
一方的にギルドの冒険者を魔導砲で虐殺していたグローリアは、上空からの攻撃に混乱した。
石畳がえぐられ、魔導砲が次々に爆発を起こす。
『ガンズガンズガンズ!!』
『ここにゃ”イグラ“も”RPG”もいねぇ! とにかく撃ちまくれッ!!!』
MH-60に乗っているドアガンナーが、同様の7.62ミリガトリング機銃をぶっ放した。
数発に1発混ぜられた曳光弾が、まるで光のシャワーのごとくギルドを包囲中だったテロリストへ浴びせられた。
発射レートは毎秒75発。
排水溝が吸い込むのは、温水ではなく大量の鮮血だろう。
『コンパスムーブ!!』
リトルバード2機が互いの正面をすり鉢飛行する。
コンパスムーブとは、2機のヘリが円周上の正対称を旋回して攻撃する戦術だ。
今回はギルドに最接近、または屋上に登っていたグローリア連中が真っ先に狙われる。
生き残りのギルドの人間がいる区画は知らされているので、そこを避けて容赦なく機銃を撃ち込む。
「もっ、黙示録だ......! これはまさしく黙示録に他ならない! これは神の怒りなのか!? あぁ答えよ! これは神罰なのか!!? これは天罰であらせられるのか!!?」
発狂し、狂乱状態に陥った中年のテロリストはひたすらに空を仰いだ。
大量の空薬莢の雨の中で、眉間に穴が穿たれる。
「れっ......?」
身体中が瞬く間に引き裂かれた。
猛烈な機銃掃射で、一瞬の内に血の霧と化す。
その隙をついて、ブラックホーク隊が低空でホバリング飛行へと移行した。
特殊作戦軍の歩兵たちが、ラペリング降下の体勢に入る。
「カラビナよーし! グローブよーし! 装具点検!」
カラビナと呼ばれる命綱のような器具、それを隊員たちは素早く装着した。
「安全環よーし! ハーネスよーし!」
「降下用意よし!!
「降下っ!!!」
ギルド周辺へ、イグニスの部下である特殊部隊員たちは一斉に降下。
ヘリの機銃掃射から逃げてきたテロリストを、入れ食いのように撃ち倒していった。




