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34・【恒久不落の英雄】

 

 車載された魔導砲の銃口が、一斉に俺へ向けられた。

 前衛だろうローブ姿の魔導士たちが、突如現れた奇怪な存在として俺をクスクスと笑っている。


 騎士団を退けたことで、中途半端に自信過剰となっているようだ。

 都合がいい、傲慢は転落の直前にくるということを教育してやろう。


 ––––ボンっ––––!!


 俺のすぐ目の前に、炸裂音と共に煙幕が湧き上がった。

 理由は簡単––––事前の指示で、エミリアが後方の高台からM203グレネードランチャーで40ミリスモークグレネードを撃ち放ったのだ。


 その後も矢継ぎ早に撃ち込まれ、正門周辺は魔導砲のバリケードに至るまで白煙で覆い尽くされる。

 俺はM870のフォアエンドを少しだけ引いて初弾を確認後、猛然と駆けた。


 風属性魔法を詠唱していた魔導士の顔面へ、銃口を突きつける。


「視界不良で叫ぶのは感心しないな、それともあれか? お前らみたいに低レベルな人間はいちいち詠唱しなきゃならんのか?」


 返事を待つことなく、引き金をひいた。

 12ゲージ散弾を至近距離で食らった敵は、首から上を消失させる。


 視界は以前として煙幕で潰れており、だからこそ同士討ちを恐れて敵は魔導砲を撃たない。

 素早くフォアエンドを往復させ、撃ち殻を排莢する。


「スモークを張られた時点で、貴様らコミーの練度なんてたかが知れてるんだよ」


 背後でほんの少し聞こえた音を頼りに、振り向きざま散弾を叩き込んだ。


「な......っ、ぜ!?」


 吹っ飛んだ魔導士がまたも呆気なく絶命した。


 簡単だ、俺が耳に付けているイヤホンは高性能無線機の役割を果たすと同時に、『TCAPS』––––いわゆるスマート耳栓の機能を持っている。


 これはクソデカい銃声や爆発音から耳を守ると同時に、ほんの微かな物音すら逃さない地獄耳を与えてくれるのだ。

 それに加え––––


「風属性魔法だ!! 詠唱急げ! こんな煙幕サッサと吹き飛ばせっ!!


 愚かにも敵は自分の位置を喧伝し、魔法の発動を優先していた。スモークにより方向感覚と判断能力を奪われた結果だろう。


 これにより、俺は一定時間限定の無双モードへ突入したと言っていい。


 魔法の発動など一切許さず、次々に共産主義かぶれの魔導士連中を射殺していく。

 詠唱するマヌケはそのまま撃ち倒し、物音を出さず、銃声を頼りに俺を狙う輩は『TCAPS』により位置を把握、問題なく捌いた。


 気づけば8発目のシェルを撃ち尽くし、ショットガンが弾切れを起こす。

 スモーク内で生きている魔導士はもう1人、相手は好機とばかりに杖を俺へ向けた。


「死ねッ!! イカレ野郎がっ!!」


 放たれた光の矢は、真っ直ぐこちらへ飛翔後––––見えない壁にぶつかったかのごとく消失した。


「なっ、なんで! なんでなんでなんで!!?」


 連射された魔法は、一切が俺へ届かない。

 無意味なリトライを重ねる彼へ、見かねて胸にぶら下がる宝石を見せびらかした。


「魔法無力化アイテム––––『オーバーロード』だ、ここへ来る数週間前に君のお仲間の盗賊たちから拝借させてもらった。実に便利だね」

「ふざっけんな卑怯者ッ!! 魔導士への冒涜も大概にしやが......」


 言い終わらせる前に、俺はホルスターのハンドガン......今回はグロック17を発砲した。


「ぐあぁああっ!!! があぁ......!!」

「単刀直入に聞こう、市役所の人質はどこに分散配置している?」


 答えを待たずさらに追加で3回発砲。

 いずれもふくらはぎの同じ箇所を狙い澄ました。


「サッサと言え、時間が押してるんだ」

「に、2階と1階だ!! あと地下室の大ホールにも収容するってアーノルドは言ってた!! 細かい場所はわかんねぇっ!!!」

「そうか、ありがとう」


 すぐさま眉間を撃ち抜く。

 弛緩した死体が、バッタリと倒れた。


 これで歩兵は全滅だな......、一応人質を分散配置する脳くらいはあるようだ。

 スモークが徐々に晴れていく。


 惨劇が明らかになれば、敵はすかさず魔導砲で俺を狙うだろう。

 いくらオーバーロード装備でも、さすがに兵器級は止められん。


 人質が対空砲の側にいないことがわかったのが、とりあえず収穫だった。

 無線を入れる。


「アーチャー1−2へ、空爆指示要請求む。目標は敵対空砲、正門と尖塔を吹っ飛ばすよう伝えろ」

『了解』


 スモークが晴れる。魔導士たちの死体があらわになった。

 俺は悠然と歩を進める。


「俺はテロリスト共がなにより嫌いだ、社会に貢献すべき合理的な脳みそを......あろうことかなんの生産性もない行為へ捧げる」


 16門の魔導砲全てが、怨嗟をもって俺へ向けられる。


「今回のテロで一体どれだけの無垢な命を奪った? いつの世も貴様らは革命だの権力への抵抗だの......中二病こじらせたガキみたいなことをのたまう。いくら大義名分を掲げようと貴様らの行為は––––」


 甲高いエンジン音が上空をこだました。


「根っこから終わってんだよッ!!!!」


 バリケード代わりの魔導砲が、大爆発を起こした。

 防弾性能すらないトラックが、AGM(空対地ミサイル)によって爆炎へと飲み込まれる。


 ––––ブゥゥウウウウウウゥゥウウウウウウウンッ––––!!!!!!!!!!


 ミサイルを発射し終わったA−10攻撃機が、3機編隊で古城の尖塔目掛けてアヴェンジャー30ミリガトリング砲を撃ち放った。


 専用のタングステン弾により、要塞を守る魔導砲群は1基残らず粉砕––––爆発炎上した。


 堂々と火の海を進みながら、俺は市役所内へ進入した。

 無線機から声が響く。


『さすが、全ての行動に無駄がありませんね。AGMの加害範囲も心得てらっしゃる』

「お世辞はいいよ、共産主義者に恐怖付きの演出と敗北を味わわせてやっただけだ」


『謙遜を、さすがは少佐––––いえ......【恒久不落の英雄】。イグニス・ハルバード少佐』



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