33・殺戮の演出
「まぁ、やはりダメだったか」
市役所にほど近い高台で、俺は広場から敗走する王国騎士団を見下ろしていた。
近接武器ばかりの異世界だと思っていたら、なんと敵は"対空砲"のようなものも保有しているようだ。
あまりの惨状に、フィオーレもショックを受けていた。
「あの連装砲......、この国じゃどれくらい普及してるんだ?」
中世クラスの騎士団が、第二次世界大戦クラスの対空砲によって木っ端微塵のミンチにされたのだ。
あんなものが出回り、中東のテクニカルよろしく走り回っていたんじゃいくら俺たちでもヤバい。
俺の問いに、フィオーレは震えた声で返した。
「あんなの中央軍や海軍の式典でしか見たことない......、数だって軍事予算が多めって言われてる王国ですらまだ50個もなかったはず......」
「そんな最新装備を、なぜテロリスト連中が持ってるのか......まぁ一応予想はつくか」
「つくんだ......」
俺は大方の憶測を呟いた。
「たぶんだが、隣国の支援を潤沢に受けた武装組織だ。近くに物騒な大国はないのか?」
「隣の共産主義国家とは、長年折り合ってないみたいだけど......」
決まりだな。やはり犯人は共産主義者だろう。
動機は今のところ不明だが、革命を起こしたがる性格は異世界でも健在か......。
全く嫌になる。
「スカッド、ひと段落ついたらラペリングで塔を下れ」
「わかりました、しかし狙撃の支援ができなくなりなすよ?」
「構わん、正門は俺に任せろ」
振り返った俺は、エミリアの銃を見た。
「エントリーアシストを頼む、煙幕弾は持ってきたな?」
「はい!」
「よろしい」
M203グレネードランチャーから擲弾が排出され、煙幕弾が装填される。
「すみません少佐、MGL140があればもっと良かったんですけど」
「構わん、単発発射でも十分だよ」
彼女の言ったMGL140とは、回転弾倉式グレネードランチャーだ。
スプリングで稼働する6連発のランチャーで、グレランの最高峰だが今回はない。
俺は無線チャンネルを変えた。
「アーチャー1より第1小隊へ、展開は終わったな?」
『こちらアーチャー1−2、火力誘導の準備は完了。民家の窓からレーザー指示器によりいつでも空軍へ爆撃要請ができます』
「素晴らしい、空軍はどこまで来ている?」
『サンダーボルト隊はホールディングエリア3にて待機中、またヘリボーン部隊も間も無く到着します』
演出は大事だ。
暴力装置でほとんどが片付くこの野蛮な世界においては、ただの殺戮にも畏怖と衝撃を持たせねばならない。
「イグニス、あなたまさか......!!
まさかだ、俺は石畳を蹴ると助走をつけて一気に跳躍した。
髪や服が風になびき、重力に引かれるのを感じる。
大ジャンプの末、俺は市役所前の大広場へ受け身を取りながら着地した。
衝撃を逃し、速やかに体勢を整える。
あちこちに騎士の死体が散らばる。
グローリアの魔導士が、正門を固め始めていた。
異常を察知した魔導砲が、一斉に俺へ向けられた。
さぁ......始めようか、戦争を。




