31・ランスロット隊
広大な面積を持った広場に直結する形で、アルストロメリア市役所の正門はそびえていた。
奥には古城が構えており、威厳と風格を漂わせている。
「騎士大隊長! 周辺住民の退避完了ッ!! ランスロット隊による突入準備もできたとのことです!!」
鎧に包まれた隊列の後方......、同じく銀色の防具を身に着けたランスロット隊の若い隊長が声を張る。
テロ発生の報告を受けて、王国騎士団は『機動市外戦実働部隊』を市役所へ派遣していた。
グローリアの魔導士たちは市内の数カ所に展開しており、騎士団は戦力をそれぞれに分散させる形で対処を決めた。
このアルストロメリア市役所には、ランスロット大隊600名以上が詰めかけている。
指揮官の大隊長は、台の上から正門を一瞥した。
「魔導車がバリケードになっているな......、こちらにも魔導士がいれば魔法で対処できるのだが......」
「アルストロメリアには、近接職である我々ランスロット隊しか配属されておりません。応援は今しばらくかかるかと......」
「やむを得ん、予定時刻になったらこちらも装甲魔導車を突入させて一気に活路を開く。正門からの一点突破だ、テロリストの跳梁をこれ以上許してはいかん」
建物の影――――市役所からは見えない車道に、騎士団の車列が群をなしていた。
装甲化されており角張った見た目のそれは、輸送用の非武装車両だ。
「突入時刻まで1分ッ!!」
市役所内からも、騎士団の軍勢は確認できるはず。
だが、不思議なことに迎撃等はいまのところ全くされない。
大隊長は、グローリアが建物内で待ち伏せているのだろうと思考する。
「テロリスト共は合理的だな......、だが無意味だ。ランスロット隊は市街戦や屋内戦を想定して近距離戦闘に特化している。有象無象の傭兵クラスでさばける手合いじゃない」
証拠に、騎士団の先鋒は取り回し優先の短剣がメインだった。
最前列には大きな盾を持った騎士が立つ。
「3、2――――――1......定刻だ、突入を開始せよッ!!!」
建物に潜んでいた装甲車が一斉に飛び出した。
サイドの車道を全速で駆け抜けて正門へ到達――――バリケードとなった大型魔導車を蹴散らした。
「車両隊の突入成功っ!! ランスロット隊! 前へッ!!!」
見れば、警備のグローリア連中は慌てふためいた様子で奔走している。
建物に逃げ込む者や、蹴散らされなかった魔導車へ入る者など様々だ。
「魔法攻撃に注意!! 上空支援を密としろ!! 正門を突破した小隊からなだれ込め!!」
3騎のワイバーンが、ブレスを吐いてグローリアの魔導士を攻撃する。
ここまでいけばもう勝ちだ、室内戦闘でランスロット隊が負ける確率はゼロに近い。
王国騎士団の精鋭として、恥じぬ戦いをするはずだった。
「妙です......手応えがありません、大層なバリケードのくせに突破が容易すぎませんか?」
「杞憂だランスロット隊隊長、彼らの練度にワイバーンの支援を合わせれば一騎当千......」
言いかけた口が途中で止まる。
なぜなら、バリケードとして並んでいた車両のシートが一斉に剥がされたからだ。
「なッ......!?」
緑色のシートの中からは、大隊長も式典でしか見たことのないものが現れた。
荷台部分に固定される形で、2本の砲塔が突き出す。
それは、決してテロリスト連中が持っていい代物ではない。
「ま、『魔導連装砲』だとっ!? バカな! あんなの中央軍にしか配備されていないぞ!! いかん! 退けっ! 退けぇッ!!!」
けたたましい作動音と共に、連装魔導砲が連射を開始した。
せっかくエンチャントされた盾も、貫通属性の魔力弾を前には鉄くずと化す。
瞬く間に前衛部隊がミンチにされていった。
連装砲は全部で"8基――――合計16門"、グローリアは騎士団の突入に慌てふためいていたのではない。
車両に設置されたこれら兵器を、起動していただけだったのだ。
「だ、大隊長......!!」
第1波突入部隊が全滅すると同時、市役所上層部の壁が一部崩落した。
すぐにそれが意図的なものだと気づく、空いた穴からも連装魔導砲が覗いていたからだ。
――――ドドドドドドドドドドドドドドッドドドドド――――!!!!!!
弾幕によって、たった3騎しかいなかったワイバーンは一瞬で叩き落とされる。
そればかりか、正門へ押しかけていた第2波突入部隊へも射撃を開始した。
乗り込んでいた騎士団の魔導装甲車が、次々に火柱を上げていく。
「作戦中止!! 作戦中止だ!! 総員一時撤退せよッ!!!」
統制を崩されたランスロット隊は、広場から散り散りとなって一斉に逃げる。蜘蛛の子を散らすようだった。
王国騎士団による1回目の突入作戦は、予想外の反撃を受けて失敗に終わってしまう。




