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30/47

30・前だけを見て進めっ!

 

「見えるかスカッド」


 市役所へ通じる大通りを、俺はパニックの群衆をかき分けながら歩いていた。

 予想通り敵は戦力をコロシアム、市役所、マギラーナの3方へ絞っており接敵はいまのところしていない。


『バッチリ見えますね、なんか車両みたいなのが広い正門内にドンドン入ってきました』

「バリケードにでもするつもりだろう、武装は確認できるか?」

『見かけはただのシーツをかぶったトラックですが......、たぶん隠してますね』


 スカッドの言うとおりだろう、グローリアは籠城戦の構えを取った。

 コロシアムの倉庫からは優勝賞品が消えていた、トロフィーも含めて連中の手中と考えるのが妥当か。


「フィオーレ、この世界にも大砲の類いはあるのか?」

「大砲ってのはわからないけど、『魔導砲』っていう短距離だけど炸裂魔法を発射するものはあるわ。ものすごく高価だけどそれの自走式バージョンも......噂程度に聞いたことがある」


 なるほど、状況はあまりよろしくないな。

 先ほどの爆発音は、その魔導砲とやらでマギラーナのギルドを攻撃したんだろう。


 もし敵が自走式の魔導砲――――――すなわち"戦車"をもっていたら騎士団などでは歯が立たない。

 前世界における第二次世界大戦でも、騎兵が戦車師団と交戦した記録があるが、結果は騎兵の惨敗だった。


 対戦車魔法なんてものも期待できない。


「ようやく密集具合が落ち着いてきたな、市役所まであと少し......」


 振り向けば、顔をうつむかせながらフィオーレが足を止めていた。

 俺とエミリアも立ち止まる。


「......どうした?」

「だ、大丈夫なんフィオ!? 怪我でも痛むんか?」


 全身を一瞥する。

 両拳を強く握り、歯を食いしばっていた。


「あぁ......、傷が痛い――――なんて生易しいものじゃないな。そうだろう?」


 時間はないが、必要なプロセスか......。

 俺はゆっくりとフィオーレへ歩み寄った。


「ギルドが襲われているのに何もできない自身の無力さ、トロフィーも優勝賞品も奪われたという焦燥感。囮の役割だったとはいえコロシアムで実質アリシアたちに敗れた敗北感。それは無情だが現実だ」


 フィオーレの体からほんのりと熱が感じられる。

 能力によるものか、はたまた怒りの表れか。

 彼女の筋書きなら最低でも優勝賞品は確保していたはずが、このザマである。


「フィオ......」


 近づこうとするエミリアを手で制す。

 今彼女に必要なのは同情ではないはずだ。


「フィオーレ、これは全て君の覚悟の下で行われていることだ。人間が死ぬなんざ算段の内じゃないのか? ここまで来て無力を痛感してもなにもならん」

「ちょ、ちょっと少佐! そんな言い方......!!」


 無線からスカッドの『エミリア、お前は黙ってろ』という声が刺す。

 エミリアが向こうでギャンギャン喧嘩を始めたのを尻目に、俺はフィオーレの前へ立った。


「ごめんイグニス......、でも、悔しいの.....! 悔しいの、ぐすっ、ぅ......」


 小さな肩が小刻みに震えている。

 頬を涙が伝った。


「わたしの決断で人が大勢死んでる! もっと、もっとちゃんとした計画を立てれば犠牲を減らせたかもしれない......!! そもそもわたしがトロフィーなんか持ち込んだから――――――――」


 銃をスリングで下げ、俺は年相応に泣きじゃくるフィオーレを思い切り抱き寄せた。

 この小さな体で、俺たちと契約し......グローリアに立ち向かう覚悟を決めたのかと思うと尊敬の意すら湧いてくる。


「勘違いするな、間違ってもテロリスト共の所業を自分のせいと見紛うんじゃない。お前は最善の選択をし、自らが死にかけてもなおコロシアムで役割を貫徹した」


 白の軍服に少女の熱が触れるのを感じた。


「前だけを見ろ......、後世の歴史家すらダメ出しできんほど徹底的にやろう。フィオーレの思い描いていた筋書きからは確かに外れたかもしれんが、俺を雇った者なら――――――」


 金髪をグシャリと撫で回す。


「堂々と、使えるものを全て使って勝てッ!! たとえそれが異世界人だとしてもだ!!」


 上げられた端正な顔から、迷いが消えた。


「うん......、そうだよね」


 涙ぐんでいた目元をブレザーの袖で、グシグシと拭う。


「わかったッ!! 行こうイグニス! エミリアっ!!! 戦いが終わったらたっぷりご飯奢ってあげるからッ!!!」


 スカッドと争っていたエミリアも、笑みを向けた。


「異世界飯むっちゃ楽しみやわ、もう缶詰生活はこりごりやから期待してるでフィオ!!」

「うん! グローリアをぶっ倒そう!! みんなで!!」


 吹っ切れた表情のフィオーレを、陽光が照らす。


『さすがですね少佐』

「俺はただ彼女の闘志を焚き付けただけだよスカッド、肝の座った女の子だ」

『貴方の好みドストライクじゃないですか、じゃあ次は少佐殿が頑張る番ですね』

「あぁ......、ここからは"本気"でやらせてもらおう」


 市役所方面で爆発が起きる。

 俺たちは再び走り出した


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