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29・アルストロメリア市役所占拠

 

 古城を改装することによって近代化を果たしたアルストロメリア市役所は、かつての防衛設備に代わり、市域管理能力の全てを備えていた。


「第11班より連絡! 職員全員の身柄を確保! 食堂棟へ軟禁し完全封鎖完了とのこと!」


 革命的武装闘争集団、通称グローリアのトップである"アーノルド"は、大規模多目的ルームを中心に市役所を完全占拠していた。


 ロングの青髪の奥から、真っ黒な瞳が覗く。


「地図をよこせ、スピーカーの制御は奪取したな?」

「もちろんです同志アーノルド、これで市内全域に展開する同志機動部隊への指示も迅速に行なえます」


 顔に走るタトゥーが歪んだ。


「素晴らしい働きだな同志ワルシャ、どれ......」


 行動中のグローリア部隊を地図上に書き出し、爾後の行動命令をくだすべく戦術目標を導く。


「マギラーナへの攻撃、およびトロフィーの奪取は?」

「問題ありません、愚かなことにマギラーナのギルドメンバーはそのほとんどが武装しておりませんでした」

「非武装だと? いくら愚かな資本主義者たちといえど戦闘員くらいいなかったのか?」

「皆無です、奇襲の大口径魔導砲で正面玄関を破壊し数分でトロフィーを強奪完了、既に掃討戦へ入っているとのことです」


 アーノルドは怪訝な顔を向けた。


「非武装の相手なら、サッサと始末できないのか?」

「連中は防護魔法とバリケードで防衛線を築きました、まぁご安心ください......しょせんは敗北主義者共の儚き抵抗です。トロフィーを奪取した今、焦る必要はありません」

「だといいがな......」


 大音量の音声がこだました。

 市内全域に設置されたスピーカーを用いて、部隊に指示を送り始めたのだ。


「マギラーナに立てこもる連中はいいとして、1つ気になることがある」

「なんでしょうか? 同志アーノルド」

「コロシアムの第1〜第4班の伝令が一向にこない......、計画どおりなら占拠報告が来てもおかしくないが。しくじった可能性がある」

「まさか、第1〜第4班はアリシアやエマを含め精鋭揃いです。あるとしても多少の遅延程度でしょう」


「それに」と、ワルシャと呼ばれる肥満体の男は丸メガネを光らせた。


「既に優勝賞品である『アクシオスの血』は運び出しております、万一コロシアムの部隊がやられたとしても計画に支障はありません」

「ならいい.....」


 アーノルドは胸に積もる、灰のような違和感を拭えずにいた。

 なにか重要なものを見落としているような気がする、欠け落ちたパズルのピースはどこかにあるはずなのだ。


「なぜマギラーナは武装していない? この街の王国騎士団は1個連隊規模だが装備の整っていない第二線級なのは下調べで判明している。そこに賭けたとは考えにくい」


 腐っても金にありつく嗅覚と情報網を持ったギルドが、あえて無防備を貫く理由がわからない。

 ヤツらに増援のアテなどあるはずがないのだ、まさか噂の『白の英雄』? いや......連中は大規模魔法が主力と聞く。


 人口密集地では戦力外のはずだ。


「軍と言えば、偵察が騎士団の出動を先ほど報告してきましたが......いかがしますか?」


 不確定要素は多い......、しかし順調なのに変わりもない。

 "神竜召喚"の儀式は、確実に行わなければならなかった。


「籠城戦だ! 魔導車両をバリケード代わりに正門へ並べろ! 防空監視を強化! 市外で待機中の陽動盗賊部隊に突入命令を出せっ!!!」


 アーノルドは、計画の遂行を優先した。


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