23・カオス
「なっ、なんですかあなたは!! 今は決勝戦の最中ですよ!? 乱入は困ります!!」
取り乱した司会が、俺へ目掛け一気にまくし立ててきた。
観客席からも、試合が中断されたことで一斉にブーイングが飛んだ。
よくもまぁ、知らないとはいえ卑怯な手で少女が一方的に殴られるのを"試合"などと言えたものだ。
全くもって―――――――――胸くそ悪いッ。
――――ダァンッ――――!!!!!
真上へ向けてショットガンを発砲。
突然の轟音に驚いたのか、ブーイングは一気に静まり返った。
これで穏やかに話ができるというものだ
「さて司会さん、試合形式は1対1が原則だったな?」
「はっ......はい! なので急な乱入は――――」
「ではこれを見てどう判断いたします?」
ショットガンを持つ手を勢いよく下ろす。
それは、スカッドへの狙撃の合図だった。
俺と司会者の間へ、12.7ミリ弾が音速を超えて突っ込んだ。
何もなかったと思われた空間から、血が吹き出す。
「ごあ......ハッ!?」
現れたのは、全身を真っ黒なローブで包んだ男。
そいつの左肩は、装甲車すらぶち抜く弾丸によってまるごと消滅していた。
観客席から悲鳴が上がる。
「見てのとおりだ、アリシアという女は透明化した手下を忍ばせている。とてもフェアとは言えないな?」
身を起こしたアリシアが、忌々しそうに俺を睨めつけた。
「な、なんでわかったの......! 魔法を探知する魔導具でも最新の隠蔽式透明化魔法は見抜けないはずなのに」
「機密につきノーコメントだ、だが貴様らグローリアの行為は少々目に余るんでね」
「その格好......噂の【白の英雄】か、構成員全員が強力な魔導士とか言われてる。そこの紅髪と一緒にわたしを謀ったってわけね」
「そういうことだ」
不自然に拘束されていたフィオーレが、うつ伏せに崩れ落ちた。
どうやら連中が魔法を解いたらしい。
「っ......イグ、ニス......」
「しばらくそこで休んでろフィオーレ、こいつらは――――――」
フォアエンドを前後させ、空薬莢排出と同時に次弾を装填した。
「俺が叩き潰す」
「威勢だけはいいわね、状況がわかってないようだから教えてあげる」
アリシアは腕に魔力を宿すと、下卑た笑みを浮かべた。
「あなた達は、コロシアムを生きて出られない。優勝賞品を拝むこともできずにね」
「どういうつもりですかアリシア選手! これは重大なレギュレーション違反です! あなたはただちに失格と――――――」
腕が勢いよく振られると、先ほどから俺の横で叫んでいた司会の胸に穴が空いた。
突き刺さった氷が、彼を貫通していたのだ。
「愚民共の娯楽はおしまいよ、わたしの秘密を暴かなければこの司会も、あなたも死なずに済んだのに」
血を噴き出した司会が倒れると同時、コロシアムはパニックとなった。
あちこちの出口から、客たちが一斉に外を目指す。
悲鳴のシャワーを浴びながら、俺は銃を握りなおした。
「古今東西......テロリスト共は計画が狂うのを嫌う、完成しかけた一縷の無駄なき数式にカオスが紛れ込むからだ」
「えぇ、本当に困ったわ......。正直紅髪をいたぶるだけでも十分だったけど。"兄さん"との約束は守らないといけない。だから――――――」
アリシアが俺へ手を向けた。
「狂った計算はわたしが正す、混在した貴様はただちに取り除く」




