21・宝剣祭コロシアム・決勝戦
観客席の一番上層部に着いた俺は、いよいよ始まろうとするトーナメント決勝戦をぼんやりと眺めていた。
コロシアムのボルテージは最高潮に達している。
『こちらスカッド、配置につきました』
「コピー、合図があるまで待機しろ」
『了解』
対物狙撃ライフル(M107A1)を持ったスカッドが、射撃態勢に入ったのを確認。
彼は市役所の傍にある塔から、このコロシアム会場を射程に収めている。
無線のチャンネルを変更。
『中隊長、こちら車両班。軽車両に扮して市街地に入れました』
「行商人の練習が功を奏したな小隊長、ガトリングのモーターは常時ONにし、M2重機関銃の薬室には弾丸を入れておけ」
『所定の動作は全て確認済み、あとはあなたの命令だけです』
「よろしい、待機維持しろ」
地上戦力は展開完了か。
チャンネル変更。
「こちらイグニスだ、そっちは何か掴めたかいエミリア?」
『.....ザッ――――』
「? こちらイグニス、感明送れ、繰り返す、感明送れ」
「ザッ――――ザァーザァー......」
返ってくるのはノイズのみ。
応答は一切ない。
ふむ、おおよその状況は掴めた。
「中隊長より展開中のドラゴニア隊員へ、状況はステージ2へ移行、繰り返す、ステージ2へ移行」
この分だと、エミリアはグローリアの魔導士と会敵した可能性が高い。
爆発音と銃声が地上に届いておらず、また民衆に動きがないことからおそらく舞台を地下へ移したのだろう。
「さて......」
俺は激しく轟音の響くコロシアム中央へ視線をやった。
「あとはフィオーレの試合がどうなるかだな」
◆
荒れた石畳の上で、ロングヘアーを紅色に染めたフィオーレが高速で機動していた。
「あっはは! やるぅ! この決勝で邂逅したのもなにかの縁よ! もっと楽しみましょう紅髪!!!」
藍色の髪を振った少女――――アリシアが、フィールドのあちこちから氷柱を具現化する。
彼女の得意魔法は、ほとんど無制限に氷を錬成する属性魔法だった。
試合は火炎を飛ばすフィオーレに対し、アリシアが氷でカウンターを試みるという一進一退の攻防が展開されていた。
「あなたを倒して優勝賞品はわたしが貰う! マギラーナの名に賭けて!」
「うーん、それはダメかなぁ。わたし優勝賞品に興味はないけどあなた――――紅髪に勝利をあげるわけにいかないの」
切り返し、懐へ突っ込むフィオーレ。
剣先がアリシアの前髪を僅かに掠めた。
「それがお兄ちゃんの、グローリアの願いだからさ」
「グローリア......!? ッ! だったらぁッ!!!」
左足を軸とした、炎を纏った蹴りがアリシアの顔を横から殴る。
「がふっ!?」
氷をいくつも砕きながら吹っ飛んだアリシアは、場外へと落ちる直前、自らの背後にひときわ大きな氷壁を錬成した。
大きくヒビが走り、叩きつけられた衝撃でアリシアは膝をつく。
ダメージと引き換えに場外落下を防ぐ荒業に、フィオーレは思わず舌打ちする。
「残念だけど、トロフィーも優勝賞品のキーも渡さない。あなたの氷属性魔法は強力だけどわたしの炎の前では意味をなさない」
「あっはは、さすがは紅髪ね......。今のは効いたわ。すっごく効いた。確かにグローリアはあの優勝賞品を必要としているわ」
氷の破片を押し退けながら立ち上がったアリシアは、瞳を水色に輝かせた。
「けどね、わたしにとっては組織なんてどうでもいいの。わたしはただ貴方の、愛おしいくらい可愛くて愛らしい紅髪が、わたしに屈する姿が見たいの」
頭から血を流しながらしゃべるアリシアに、フィオーレは一種の恐怖を覚えた。
今すぐ勝負を決めるべきだと脳が警鐘を鳴らす。
「このフィールドのあちこちに立った氷の柱......、全ては今この瞬間のための布石よ紅髪」
「ッ!!?」
見れば、足元を急速に氷が覆っていた。
すぐさま動こうとしたフィオーレだが......。
「えっ、あれ!?」
左手――――次いで武器を持つ右手が、まるでなにかに掴まれたがごとく動かなくなったのだ。
全てが遅すぎた。
「氷属性拘束結界魔法――――『アイシクル・プリズン』!」
マークスマンと狙撃手は本来別物ですが、スカッドは驚異的な腕前で兼任している状態です。




