20・会敵
宝剣祭がつつがなく進行する中、装飾品豊かなエントランスをエミリアは一般人に紛れながら歩き回っていた。
迷彩ポンチョの下には、グレネードランチャー付きアサルトライフルを隠している。
「なんか......えらいもん聞いてもーたなぁ」
そう、彼女はグローリアの中核と思われる"アーノルド"と、"アリシア"の秘密の会話を盗み聞きしたのだ。
諜報用にいつも持っている聴診器を使い、ストーカーも真っ青な盗聴を行ったのである。
今すぐ無線で上官であるイグニスに伝えるべきか、即決してもよさそうな問答をさっきからずっとしていた。
「けどなぁ〜、もしウチらの知らん未知の魔法で無線傍受なんてされたら速攻で詰むしなぁ」
両手で頭を覆う。
これなのである。
ここは異世界、未観測の超能力が跋扈するファンタジーワールド。
普段の通信ならともかく、こういった重要案件はできれば口頭で伝えたいというのが彼女の考えだ。
「手筈どおりに進んでれば、少佐がそろそろコロシアムに着く頃......。無線で位置だけでも聞いて急いで伝えな!」
彼女が小型無線機のスイッチを入れようとした瞬間、エントランス全体に大勢の声が響き渡った。
《第4回戦勝者! フィオーレ・アーカディアス選手!! ここまで無被弾、全勝! 圧倒的です! 紅髪の名は伊達ではありません!》
見上げれば、エントランス中央上部に空中モニターが4面映し出されていた。
そこには順調にトーナメントを勝ち上がる、フィオーレの姿が映し出されていた。
「すご......、フィオってあんな強かったんや。これなら優勝も全然狙えそう」
画面が移り変わり、トーナメント表が現れる。
いよいよ決勝へと駒を進めたフィオーレ――――その対戦相手を見たエミリアは......。
「なッ!?」
思わず絶句した。
同じく決勝へと進んできた次の対戦相手の名が――――"アリシア"と書かれていたからだ。
「アリシアって......地下にいたグローリアの一員やん!」
試合に休憩などなく、両者がバトルフィールドに立つ様子が映される。
「このままじゃマズい......! 急いで連絡を――――」
今度こそ耳の無線機を起動しようとしたエミリアは、
「貴方が噂の......白の英雄デースか♪」
「ッ!!!」
背後から突然掛けられる声。
すぐさま振り向けば、自分と同じショートヘアながら新緑色の髪をした少女が立っていた。
真っ黒なフード付きローブを着たそいつに、エミリアの右手はガッチリ掴まれていた。
「なんやねん自分......っ! いきなり触んなやっ!」
「これは失敬デース♪、未知の魔法を使う貴方たちに好き勝手動かれちゃこちらも困るのデース」
「ふざけた語尾は方言か? オラァッ!!!」
足を踏ん張ると、エミリアは肘寄せで相手の手を無理矢理に引き剥がした。
数歩距離を取る。
「いっだぁあああ!!! 腕が、腕が折れるかと思ったデース!」
「次はへし折ったるわ、ったく......」
周囲を見渡すと人で溢れている。
突然の襲撃、ここでは戦えないと判断したエミリアはすぐさま背を向けて突っ走った。
「てめコラ待つデース!!」
イノシシのように追いかけてくる敵。
どうやら、外見だけでなく中身もしっかりお子様らしい。
『アルナクリスタル』をポケットから出しつつ、エミリアは不敵に笑った。
「よしええやろう、案内したるわ......ウチのキルゾーンへ」




