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06


8歳の誕生日に私専属の特殊部隊をもらった。

もらったという表現はおかしいかもしれないが、日ごろ屋敷を抜け出す私に父がお守りとして部隊をくれたのだ。


抜け出したといっても私の行く所など城下町や貧困街など人の多いところ限定なのだが。


何故私が町に行くかというとそこに人がいるからとしかいえない。

どんなに人に怨まれようと人が好きで、人の生活を見ていると不思議と元気が出るから。


活動元を求めに私は今日も町に下りる。


護衛の特殊部隊も後ろから付いてくるのを感じながら今日の目的地、貧困街に向かう。



2年前、国王陛下に貧困街の革命者がいると聞いた。

あの時ははぐらかしたが、革命者とは間違いなく自分だろう。


5歳の頃初めて訪れた貧困街。その現状に衝撃を受けた。

いくら前世が詐欺師だったとはいえ、所詮生きていたのは現代日本という治安のいい国。貧富の差は世界でも小さい。

ここまで荒れ果てた場所に人が住んでいることなど考えたことなどなかった。


いや、考えるも何も自分ひとりのことしか考えていなかった前世ではこの現状を見ても心にも残らなかっただろう。

それくらい前の私は薄情だった。


しかし、この世界に生まれてからは心の感じ方が違うのだ。

泣く子を見れば声をかけたくなる。困っている人を放っておけない。子供がかわいいと思ってしまう。

前世なら確実に放っておいたことが放っておけないのだ。決してお人よしと言うわけではないが、この心境を前世の私が知ったら確実に腹を抱えて笑っていただろう。「お前は馬鹿だ」と。


その心が貧困街の子供が必死に今日の食い扶持の為に生きているところを見て叫んだのだ。


「この場所を変えたい」


自分の心の声に最初は困惑した。私は善人じゃない。悪党だ。人に怨まれ殺されるほどの悪党だ。

そんな人間が善人の真似をしたところで善人になれるわけではない。

なのに…行動をしたくて体が動こうとするのが不思議でならなかった。


「おねぇちゃん、どうしたの?」


葛藤の中聞こえてきたか細い声。正面を見るとぼさぼさの髪が見え、少し下を見ると大きな深緑の瞳が私を覗き込んでいた。

ボロボロの服から覗く腕は骨と皮のみ。その中で目立つ膨らんでいるお腹は栄養失調の証拠なのだろう。


「さっきからずっとそこにたってるけど、どうしたの?」


何も答えない私にその子供はもう一度尋ねてくる。


「なんでもないよ」


「おねぇちゃん、しんいり?」


「…そんなところかな」


「じゃあおれがあんないしてあげる!」


元気よく私の手を掴み、貧困街の入り口から中に引き込む子供。自分を俺と言ったところから男の子なのだろうと推測する。

町に下りていくために着ていた庶民の服から私を今日から貧困街に住むと思ったのだろう。

骨が浮き出た手に握られた私の手。子供とは思えない低い体温を感じ、何故だか涙腺が刺激された。


子供に案内される貧困街はどこもかしこもボロボロで途中紹介された子供たちもボロボロの服に骨と皮の体だった。

こちらを興味と不穏な眼差しでみる大人たちもボロボロの服で死んだ目をしていた。

あぁ、あの目は前世でもみた。私を殺した人間と同じ目だ。

その他にも私が誑かし借金を抱えてしまった人間も同じ目をしていた。


前世では感じなかった心に重しが乗っかる感じがした。

これが世に言う罪悪感というものなのだろうか…


貧困街は思いのほか広く、縄張りもあるのだという。

子供の親は?と聞いてみたところ数日前に唯一の肉親の母親が死んだのだと悲壮の表情で呟いた。

「でもひとりじゃないから」その言葉で子供を抱きしめたくなった。


ここに来てから知らない感情ばかりだ。

私のなかにこんなに感情があったなんて知らなかった。


一通り案内し終わった子供は満足そうに話かけてくる。


「ひどいところだけど、たまにいいひともいるんだよ?」


「そうなの?」


「うん!おれのうらにすんでるじいちゃんなんかはたまにごはんわけてくれるんだ!」


「ほかにもしごとくれるおじちゃんとか!」と身振り手振りで楽しげに話す子供。笑みを絶やさず話す姿がかわいいと思う。


「そういや、おねぇちゃんなまえなていうの?」


「…ヴィヴィだよ」


「ヴィヴィ!おれはリアンっていうんだ!!」


「いいなまえね」


本名をいうことが出来ず適当に名前を言えば嬉しそうに私の偽名を呼ぶ。

また罪悪感が募った気がした。


「リアン、今日はあんないありがとう」


罪悪感を覆い隠すようにお礼を言えば花開くような笑顔を浮かべる子供…リアン。



リアンと別れ、貧困街を後にすると私は駆け出した。

城下町まで出ても私の足は止まらなかった。途中いつも着替えている家屋に入り着替える。


この家屋の住人は遠方に行くから家の面倒を見てくれ、と間借りしているのだが割愛してもらう。


手早く着替え、また私は駆け出す。普段淑女らしくを心がけているので、駆けるなんてしない。

それでも今日は早く屋敷に帰りたかった。とにかく駆けた。


屋敷の裏口から転がるように入る。抜け出した私が慌てて帰ってきたことに使用人たちは驚いて寄ってきたが、「なんでもない」と言って足早に図書室に入る。

そこからは手当たりしだい歴史書を開いた。


もちろん調べることは貧困街の建て直しについてだ。

もう善人も偽善者も言ってられなかった。あの子に…リアンになにかしてあげたかった。


貧困街を立て直せば救えるかもなんて私にしては安直な考えだったかもしれない。それでも行動したいとおもったのだ。

夕食に呼ばれるまで図書室に篭り、夕食を食べ終わったらまた図書室に引き篭もった。

父との夕食後の会話もせず引き篭もり歴史書を読む。途中レイノが淋しさで図書室に訪れ、そのままに眠ってしまったがそれでも読み続けた。


家にある歴史書には参考になるものが少なく、徹夜で読み終わた歴史書を参考に翌日王立図書館に赴いてまた歴史書を読む。

昼食も忘れるほど読みふけったとき、一冊の私小説に目が留まった。

その私小説はとある国の国王が書いたことで有名な私小説だった。元は庶子のスラム出身で王家に行く前にスラムを立て直した事も書かれていた。


今までの歴史書より参考になることが多い。小説のようには上手くいかないかもしれないが、やってみよう。

そう思って行動し始めた。それが5歳ののときだった。


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