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生まれは平凡な家庭だった。

仮面夫婦の下に生まれた私は、点数にしか興味の無い母と、仕事にしか興味のない父と暮らしていた。

家族旅行どころか、家族イベントに参加した記憶がない面白みのない家。

幼少期はそれが許せなく、親におねだりをしたこともあった。勿論、そんな両親だ、願いを叶えられたことなど無かった。

小学校に通うようになると、家の中で無い会話が楽しく、外では沢山喋るようになった。

最初は子供の小さな嘘だったと思う。その何気ない嘘に母が反応したのだ。


それが嬉しかった。


点数を取らないと見向きもしない母が、こちらを向いてくれた。

それだけで、子供の簡単な脳は嘘に味を占める。

気づけば、嘘を吐く私を回りは遠巻きにするようになっていた。

嘘しか吐かない子供に両親はいつしか、視界にも入れなくなっていたのに気づいたのは中学に上がった頃。

世間体の為に捨てられることは無かったが、あれも立派な育児放棄だったと思う。


しかし、両親は我慢の限界だったのだろう。高校を卒業すれば無一文で家を追い出された。

18歳そこらの子供が無一文で生活できるはずも無く、人からお金を巻き上げて生活するしかなかった。


それが、私の始めての詐欺。私の礎。


そんな私が、あいつを拾ったのはほんの気まぐれだった。

見るからに社会からのはみ出しもの。薄汚れていて、世界に飽いた目をしていたその男に、声をかけたのだ。

男は私に一瞥しただけで、他に反応をしなかった。

それがなぜか面白く、男の手を無理やり引き、連れ帰った。


私の生涯一人だけの相棒との出会い。


相棒は、何事にも無関心だった。いや、私以外に無関心だったと言うべきか。

詐欺の相手は勿論、物にすら関心を持たなかった。

だが、私には執着というほどの関心を見せた。

私が怪我を負えば、狼狽して泣く。まるでペットを飼っている感覚だった。


そんな相棒が少しずつ感情を見せ始めた頃、私は殺された。





結局、相棒はあの後どうなったのだろう。

前世を思い返しながら雪のチラつく暗い森の中を進んでいく。


先ほど、神殿にて結界の張り直しと、前から言い渡されていた強化を行い、正直体はへとへとだが、最後にあいつに会わなくてはいけない。

指定された場所まで進んでいるのか、遠のいているのか分からないが、止まったら動けなくなりそうなので、取り合えず足を動かしている。


そもそも、私の転生した訳は、あいつの気まぐれだ。

前世、私の生きていた世界の住人にしては魔法の素質があるから、と訳のわからない空間で告げられ、この世界に転生させられたのだ。

転生してからも、度々現れたあいつは、他の人には見えないようで、面白半分に私を構った。

それも、今日でおしまいだ。



「やっと見つけた」



森の少し開けた場所。

中性的な容姿、中性的な体格の性別不明の人物を見つけ、呟く。

その人物は神々しい容姿に微笑を浮かべた。


「お疲れさま」


よく通る、清らかな声が、目の前の人物が唇を動かすと辺りに響く。


「もう体はへとへとよ」


私がそう返すと、そいつはクスクスと笑う。


「ねぇ、この世界は楽しかった?」


そいつ、この世界の『神』は私に一歩近づき、尋ねる。


「私には勿体無いくらい…楽しかったわ」


とても、とても楽しかった。

色々な人々からの愛情をもらった。幸せだった。

前世では感じなかった心まで感じた。

幸せな思い出がいっぱいある。


そう顔にでたのだろう。神は柔らかな笑顔を向けてくれる。


「なら、その寿命が尽きるまで生きてみる?」


「…いらないわ。もう幸せは十分もらったもの」


「君の事を戻って来てほしいと願っている人が居ても?」


「えぇ」


「頑なだね」


「私、一度出した言葉は絶対の責任を持つの。口だけや、口約束だからって蔑ろになんてしないわ。ましては神との契約を違えるつもりはないの」


「そう…そうだったね」


どこかで言った言葉をもう一度言う。

違えるつもりなど最初からない。


神はどこか悲しそうな表情をする。


「私に情でもわいたのかしら?随分と渋るわね」


「情か…そうかもね。お前に愛着がわいたのかも」


「神がなにを言うのかしら…。でも、契約よ」


結界の張り直しと強化が終わった私は地獄に落ちる。

その契約は今、実行される。




「私を殺しなさい」




言い切った直後、強い力で後ろに引かれ、後頭部になにか硬いものがぶつかった。

目の前の神が実に楽しそうな笑顔を浮かべていることから、後ろの硬いものの正体に気づく。


「残念、タイムアウトだね!!」


「謀ったわね」


「言っただろ、情がわいたって。それに今死なせたら幸せなままだ」


神を睨んでいると後ろから強い力で抱き込まれる。

あまりの強さに息が苦しくなる。


「生きることは辛い事だよ。精々生きて苦しみな!」


神々しい顔に嬉しそうな、楽しそうな表情を浮かべ、神はそう言って消えた。


「あの、腐れ神」


思わず零れた恨み言も、仕方ないことだと思う。



「ねぇ、ヴィーラ。どういうことかな?」


氷魔法が使えない相手の冷たい声。

光のような温かさは感じられない、後ろの相手。


錆びたブリキのように、ギギギと音が鳴りそうになりながら後ろを振り向く。

後ろには言葉では言い表せないほどの表情をした三人がいた。


次はエピローグになります。

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