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「そういえば、貴方に犯行動機を聞かなくちゃいけなかったわね」


「そうですね」


地面に磔にされている相手に近づき、声が良く届くようにしゃがみこむ。


「この件は貴方の独断かしら?」


「はっ、どうだっていいだろう、そんなこと」


「そうもいかないわ。貴方…雇い主居るでしょう?」


カマを掛ければ一瞬だが、揺らぐ瞳。


お粗末な殺人の仕方、瞳の揺らぎ、幻覚の耐性の無さ。これだけでもこの暗殺者が殺人に慣れていないのは分かる。

暗殺対象への情報収集もお粗末だ。私が無属性の魔法が得意と分かれば幻覚に耐性をつけてきただろう。

この様子だと魔力探知のことも深く知っていない。

どこまでもお粗末だ。


恐らく裏にいる人間に金を見せられ簡単に頷いたというところか…


裏にいる人間…今世では家のこともあるし、金を巻き上げていないので、殺されるほど恨まれているとは思えない。

なら、誰か。時期的に該当するものは3人…いや4人か。


「でも、暗殺なんて愚かなことするのは一人かしら」


とびっきりの笑顔を浮かべる。

犯人は特定できた、と相手にわかるように。


「はったりなんかにのらねーぞ!!」


「あら、残念だわ。それじゃあ、もう一度水に沈む?」


「ひっ」


先ほどの幻覚を思い出したのだろう、見るからに顔を青くさせる。

その様が面白く、つい笑ってしまう。


「ふふっ、冗談よ。でも…貴方が雇い主を言わない場合、今度はもっとリアルに、もっと痛く、もっと恐怖を与えるかもしれないわ」


そう言いながら、手を相手に翳すと、相手は脂汗を噴出しながらハクハクと口を開け閉めし始めた後、声を張り上げた。


「神子様だ!!!!神子様の使いがきてあんたを殺したら神子様が報酬をくれると!!!!」


分かっていたが…随分あの神子は脳がないようだ。

自分が神子であることを自覚しているのか、甚だ疑問である。

刺客に自分をバラすなんて…


「そう…ありがとう。では、ごきげんよう」


そう言って相手に背を向ける。

後のことは護衛部隊が何とかしてくれるので、私は路地から出る。


あの相手が後でどうなろうと知ったことではない。


「神子様が何故ヴィーラ様を襲うのですか?」


路地から出て人通りの少なくなる屋敷付近に来るとリアンが神妙な顔で聞いてきた。


「理由は知っているけれど…貴方は気にしなくていいわ。神子様が役目を終えれば片付くことよ」


立ち止まったリアンに振り向かず応える。

リアンは気にしなくて良いの、そう言外に伝える。


「ヴィーラ様は何故、いつもお一人で答えを出されてしまうのですか。何故殿下に、レイノ様に…俺に相談をしてくれないのですか!」


リアンの怒声が静かな道に響いた。

今のリアンに出会ってから初めての怒声に心中驚くが、平静な声色を保つ。


「相談することはしているわよ。それでもこの件は相談するほどのことではないの」


「命を狙われてもですか」


「そうよ」


「……………」


気まずい沈黙が辺りを包む。


「俺は、ヴィーラ様がいつもお一人の気がしてなりません」


沈黙を破ったのはリアン。

声を絞り出すような声色だ。


「そうかしら」


「側に殿下が居られても、レイノ様が居られても、貴女はいつもどこか、違うところに居るような気がします」


「そんなつもりはないわよ。私はここにいるわ」


後ろに振り向き、リアンに目を合わせる。

哀しげに深緑の瞳を揺らすリアンに、微苦笑を浮かべ。


「今、ここにいるわよ」


そう伝える。


「貴女は今の約束しかしませんね」


「未来なんて不確かな約束は苦手なの」


「俺は不確かでも、貴女と未来の約束がしたいです」


リアンの懇願に苦笑だけで返答する。


ごめんなさい、リアン。それはできない約束だわ。この言葉はいえないけれど。



「申し訳ありません、取り乱しました」


「珍しいリアンが見れて面白かったわよ」


申し訳なさそうな顔のリアンに一笑すると、羞恥を感じたのか、目を背けられてしまう。


その姿にまた笑いながら…


「帰りましょうか」


そういうと二人で手を繋ぎながら帰宅した。







後日、神子が結界の張り直しに成功したと号外が流れた。

しかし、私のところに国王陛下から結界張り直しの御達しがきた。


神子はやはり結界の張り直しに失敗したのだ。








「この世界とのお別れももう少しね」


誰もいない暗い部屋。雪のチラつく窓を眺めながら、白い息とともに言葉が零れた。


これから物語のクライマックスに突入していきます。

あれこれ張っていた伏線も回収していきます。


正直、恋愛詐欺が否めないです…。申し訳ありません。

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