08
「先ほどからとても面白い言動をなさいますのね」
「は?」
「そういえば、私が入室してきたの時も、確か挨拶を貰っていませんわ」
「それが?」
「ふふっ、本当に面白いわ。単刀直入に言わないと分からない残念な頭をお持ちなのね。貴族に生きながら、位の高い家のものに先に挨拶をさせるとは何様なのかと、聞いているのよ?」
「な、なにを偉そうに!」
「事実、貴方たちよりは偉いわね」
「な、家のおかげだろう!」
「貴方たちも家のおかげじゃないかしら?それとも貴方個人に爵位をいただいているとでも?あら、そうとは知りませんでしたわ」
「っ、国王陛下に気に入られているから調子に乗っているのか?哀れだな」
「嫌だわ、調子にも乗れない方が言っても滑稽なだけよ?その無い頭をもっと使えば調子にも乗れるのではないかしら」
「ろ、ロズベルク様!あまり彼たちを苛めないで下さい!私が悪いんですよね?」
「そうよ。でも貴女、なにが悪いか分かってらっしゃる?」
「え?」
「分かってもいないのに自分を下げればなんとかなっていたのかしら?ふふっ、おかしいわ」
「あ、あの、私がなにかしましたか?」
「あら、本当に分かってらっしゃらないのね。でも、それを私が教えるのはおかしなことだと思わない?」
「…………」
「今度はだんまりかしら?その愛らしい顔をゆがませても今は誰も助けてくれないわよ」
「お、おい!!神子様になんて口を!!」
「神子様…そうね、神子様なら自分の行動に責任を持たなくてはいけないではないかしら」
「え?」
「神子様の行動におかしいところなどないだろう!」
「ご自分の部屋に不特定多数の男性を連れ込む行動もおかしくないと?」
「…神子様は我々に慈悲の心を!!」
「慈悲の心を持つにも、日にちが分かっている私との予定がある時間まで伸ばす必要があって?これでも公爵家の人間なのよ?ここまで馬鹿にされれのは初めてだわ。あぁ、でも神子様ですものね、公爵家の小娘に割く時間などないのよね。これはこれは、大変な失礼を」
「い、や、あの、そういうつもりで、は」
「ヴィーラ様、そろそろお時間です」
「あら、そう。どうやら時間がきたようですので、私は失礼致します。それではごきげんよう」
涙目になるほど言ったつもりは無いだが、涙目の、神子に至っては今にも涙が今にも零れそうな4人を残し侍女とリアンを連れ部屋を退室する。
少しはすっきりしたが、まだ少し言い足りない気がしなくも無いが時間ならしょうがない。
後の鬱憤は国王陛下にぶつけることにしよう。
侍女と途中で別れ、そう思っているとリアンが立ち止まった。
どうしたのかと思い、振り返る。
「ヴィーラ様、ありがとうございます」
「何の事かしら?」
突然のお礼に訳が分からないという風に装う。
「私の為に怒って下さったことです」
「…自意識過剰じゃないかしら」
「ヴィーラ様がそうおっしゃるのならそういうことにしておきます」
この従者には全て筒抜けなのだろうか…。そうだとしたら実に恥ずかしい。
「生意気」と吐いてから、赤くなる頬を隠すように前を向き、国王陛下の会見の間まで歩き始める。
歩調が早まったように感じるのは絶対に気のせいだ。
後ろでクスリと笑う気配がしたが、絶対に振り向いてなんかやらない。
国王陛下と会うときにいつも使う部屋の前まで来ると顔馴染みの衛兵が既に居た。
「国王陛下はもういらしゃっているのかしら?」
「はい、先ほど入室なさいましたよ」
「ありがとう」
衛兵との少し会話してから重厚な扉をノックする。
中から「どうぞ」という声が聞こえ、リアンが扉を開ける。
「遅くなってしまい申し訳ありません。少し立て込んでしまいまして」
「構わないよ、俺もついさっき来たところだ」
「ありがとうございます」
謝罪を済ませ、室内に入る。
神子がいた部屋より落ち着いた装いの部屋は国王の個人的な会見で使われる部屋だ。
執務室からも近く、国王の私物がそこかしこにあるので、少しごちゃっとしている。
「カナリアが遅刻とは珍しいな」
「お父様。少し神子様のところで立て込んでしまいまして」
「神子様と?」
国王陛下との個人的な会見のときは大抵父も一緒だ。
面白半分に私をからかう時に使うようになった「カナリア」という呼び方に、少し不服な顔を浮かべながら応えると、国王陛下は意外そうな顔を浮かべた。
「えぇ、神子様の部屋を訪れてきたのですが、先客の方がいらしてましたので、お節介かと思いましたが小言を申しておりましたの」
そう言えば、国王陛下は同情の表情を浮かべる。
この場合絶対に神子への同情だろう。
「ヴィーの小言は効いただろうね」
「あら、私まだ言い足りないくらいですのよ?」
そうだ。このまま国王陛下にあたろう。
ゆっくり微笑を浮かべ、口を開く。
「最近の若者の教育はどうなっているのでしょうね。嫌いな相手には己から挨拶をしてはいけないとでも教わっているのかしら?私そのような教え聞いたことありませんわ」
「そんなことあったのか」
「はい。国王陛下はいつからそのような教育に変更なされたのですか?」
「私も聞いたことありません。いつから私に無断でそのような教育に?」
「俺もそんな教育に変えたつもりはないよ!?」
「あら、そうなのですか?てっきり国の教育かと…」
「陛下、紛らわしいことなさらないでください」
「俺のせいなのっ!?」
私の冗談に乗ってくれた父と「もうやだ、この似たもの親子」と泣きまねをする陛下に、心がスッとする。
ノリのいい二人に心の中で感謝する。




