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07


開かれた扉。豪華な装いの部屋に入ると中には神子の他に3人の男性が居た。


神子が座る椅子を囲むように立っている男性たちには全員見覚えがある。

侯爵家の長子に伯爵家の次男、最近台頭し始めている子爵家の三男。

容姿が優れており、夜会では令嬢たちの視線を集めている3人。

そんな3人に囲まれながら愛らしい笑顔を浮かべる神子。


扉が開いたことでこちらに顔を向け、侍女を見た瞬間男性たちは恨めしげな表情を浮かべた。


「返事もなく扉を開けるのは失礼じゃないのか、君」


「王宮の侍女ならそれくらいわかっているだろう?」


私に急かされ、返事を待たず扉を開けた侍女に怨言を吐く男性たち。

貴方たちより位の高い私が入室してきたのに挨拶よりも先に怨言とは…教育の悪さが伺える。


「ごめんなさいね、私が彼女を急かせてしまったの」


うすら笑いを浮かべ、そういえば恰も今私に気づいたかのようにこちらを見る3人と神子。


「これはこれは、ロズベルク家のご令嬢ではありませんか」


侯爵家の長男が最初に口を開く。

随分と高慢な態度に少し腹が立つ。貴族社会に生きておきながら、位の高い人間にこの態度。

私は位に重視しているつもりは無いが、郷に入っては郷に従えという言葉の通り、ある程度の礼儀は必要だろう。

他の2人からの挨拶がないのも鼻に付く。


「ごきげんよう。今日は神子様に合いに来たのだけれど、お邪魔だったかしら?」


「お分かりになっていらっしゃるのならご遠慮願いたいですね」


「イヴァール!そんなことを言ってはいけないわ」


イヴァールとは確か侯爵家長男の名前だったか…

ダマート侯爵家の次代がこれでは先が思いやられる。今代の当主はしっかりした方なのに。


「申し訳ありませんロズベルク様。わざわざ私の相手をしていただく為にお越しい下さいましたのに…」


そう軽く頭を下げ、こちらを見た神子はその瞬間、私の後ろに釘付けになった。


唯でさえ大きな目を零れそうな程大きく見開き、小さなピンクの唇を開け、白皙の頬は淡くピンクに色づいている。

今は見えていない筈のオーラがピンクに染まって見える。

私は人が恋に落ちる瞬間をはじめてみた。


私の後ろにいるのはリアンのみ。他に人はいない。

神子はリアンに恋に落ちた。


可哀想に…

リアンに恋に落ちた神子にも、神子に惚れられたリアンにも、そう思った。



「神子様?どうなさいました?」


「あ、なんでもないの。あのロズベルク様…その、後ろの方は?」


神子が固まったことに男性たちが口々に神子を心配する。

男性たちの声で我に返った神子は取り繕いの笑顔を浮かべる。

しかし、リアンが気になるのだろう。チラチラとリアンを伺いながら私にリアンの紹介を促してくる。


「あぁ、申し遅れましたわ。彼は私の従者のリアンです」


「お初にお目にかかります。ヴィーラ様の従者のリアンと申します」


「リアン様…」


後ろに振り返り、リアンに促すと完璧な外面スマイルを浮かべたまま綺麗な礼をするリアン。

リアンの外面スマイルにまた呆け顔を浮かべ、ぼそりと小さな声でリアンの名前を復唱する神子。

私の従者という言葉は綺麗にスルーされているようだ。


「リアン?…確かご令嬢が拾ってこられた平民の人間では在りませんでしたか」


「あぁ、魔法契約までなされたあの」


「平民を魔法契約とは、なんと」


リアンの名前を出すと今まで蚊帳の外だった3人が騒ぎ出す。

一時期噂されていたことだ。明らかに私を蔑む視線を向けてくる。


基本、私は同年代の貴族に良いようには取られていない。

魔力が少なく、別れた母親似から愛人の子やら、国王陛下目当てで殿下の婚約者になったやら、性格が悪い、その他にも悪い噂は沢山ある。

それもこれもフェミニストではあるが、基本平等の国王陛下を始め、国の上役に気に入られている私への嫉妬だろう。

加え、夜会でも同年代より狸たちと話していることが多いことも要因だと思う。

同年代より精神年齢の近い狸たちと話していたほうが有意義なので改めるつもりは無いが。


取り巻きたちの言葉に神子は大きな目を見開きリアンと私を見る。


「そう、なのですか?」


「事実ですわ」


なにも間違っていない噂を肯定すれば、神子は憐憫の情をリアンに向ける。

その瞳の奥では獲物を定めた獣のように瞳を輝かせているが。


「事実ではありますが、私からヴィーラ様に魔法契約をお願いした事実が抜けております」


同情の視線を一身に受けていたリアン。しかし、彼にとっては一番重要な事柄が抜けていたことに珍しくも口を挟んできた。

滅多に口を挟まないリアンの発言に後ろを振り向くと、撤回も反省もしませんと微笑を浮かべられる。


「そう言わされるとは、なんとも嘆かわしいですね」


リアンの発言を私が強制していると思っているのだろう男性たち。

より一層同情の視線をリアンに向けた。


この時点で私は彼らの傲慢な態度に限界を迎える。

いい加減もういいだろうか?

そう一人心の中で呟くと、まるで心の声が聞こえたようにリアンが一歩下がるのを感じた。


くすりと笑うと私は口を開いた。


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