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フェンリル母さんとあったかご飯 ~異世界もふもふ生活~  作者: はらくろ
第三章 いっつぁもふもふわーるど
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第十九話 空翔ぶ侍女を手に入れたルード。

『では、マリアーヌをよろしくお願いしますね。マリアーヌ、ルードさんとクロケットさんの言うことをよく聞くのですよ』

『うん、まま。だいじょーぶだよ』


 クロケットに抱かれて両手を上に突き出して元気に答えるけだま。


「ではお預かりします。近いうちにまた来ますね」


 けだまの頭をくしゃっと撫でながら、ルードはエミリアーナに再会の約束をする。


「けだまちゃんをお預かりしますにゃ」

『クロケットさん、我儘娘ですがお願いしますね。キャメリア、頑張りなさい』

『はい。女王様。お世話になりました』


 キャメリアはすでに侍女としての自覚があるのか、ルードとクロケットの少し後ろから会釈をしてエミリアーナに別れの挨拶をする。


『では、参りましょうか? ルード様、クロケット様』

「はい。ではまた」

「またですにゃ」

『いってきまーす』

『気を付けて行ってくるのよ。マリアーヌ』


 エミリアーナの目はとても優し気で、どことなくフェンリラの姿だったリーダに似ているような気がしていた。


 王城の最上階。

 そこにはヘリコプターの発着場のようなスペースがあり、周りをよく見るとどの建物にもそのようなものが屋上にある家が多い。

 そこでキャメリアは指輪を外す。

 瞬時に指輪が光り、キャメリアを包んでいく。

 ルードがフェンリルになるときと同じように、光が収束すると美しい真紅の鱗の大きなフレアドラグリーナの姿が現れた。


『ではお乗りください。ルード様。クロケット様』

「ありがとう。はい、お姉ちゃん」


 ルードがひょいとけだまを抱いたクロケットを抱えあげて、キャメリアの背に乗せてあげる。


「あ、ありがとですにゃ」

『ですにゃ』


 ルードは七つ尾、フェンリル耳の状態でキャメリアの背に乗った。

 もちろんクロケットがルードに背中を預けられるように。


『では、参ります』


 キャメリアはその真紅の翼を広げると、一度王城の上空でホバリングを始める。

 そして一気にメルドラードの国を背景のように置き去りにしてしまった。


「うおぉおおお、すっげー」

「うにゃあ。エミリアーナさんみたいに凄いですにゃっ」

「うん。でも、まったく苦しくないんだよね」

「ですにゃね」

『はい。魔法で空気の流れを制御しています。そうしないと、私も苦しいですからね……』

「そういうことだったんだ。あ、キャメリアさん」

『はい、なんでございましょう?』

「僕の家のあるシーウェールズは、ここより魔力が少ないから気を付けてね」

『お心遣いありがとうございます。肝に銘じます』


 体感的にはイリスがシーウェールズからエランズリルドまで駆け抜ける数倍の距離があったと思ったのだが、その時間よりも早くシーウェールズが見えてくる。

 もしかしたら、シーウェールズとウォルガードの間も以前より早く行き来できるようになるかもしれない。

 ルードはそう思ったのだ。

 徐々に速度を緩めていき、ルードは海岸の方へ誘導することにした。

 防風林の近くでホバリングすると、ゆっくりと降りていく。

 キャメリアは人の姿になろうとしたのだが、それをルードはちょっと待ったをかける。


『大丈夫なのですか?』

「うん。ここシーウェールズでは色々な種族の人がいるんだ。ドラグリーナだからって遠慮することはないと思うんだよね」

『ルード様がそうおっしゃるのなら』

「それにね、けだまも結構目立つんだよ。みんな可愛いって言ってくれるからね」

『ねーっ』

「ですにゃ」


 ルードはキャメリアを連れて堂々と正門から入ることにした。


「こんにちは、ウェルダートさん。この人は僕の新しい家族のキャメリアさんです」

「ルード君、おかえりな……。おぉおおおおおっ!」

「あ、やっぱり。ごめんなさい……」


 ウェルダートは案の定、腰を抜かしてしまった。

 とりあえず、彼はいつものことだと思って通してもらう。

 キャメリアはとにかく目立った。

 『ドラゴンだっ!』とか、『うぉー。かっけーっ』とか。

 すれ違う人々は喜んで迎えてくれているようだ。

 さすがは観光の国でもあるシーウェールズ。

 これくらいのことではブレないのであった。


 家に着いたのはよかったが、ルードは困ってしまった。

 入り口がキャメリアのサイズに合わないのだ。


『ルード様やはり人化いたしましょうか?』

「そうだね。お願い」

『かしこまりました』


 キャメリアは人化しようとしたとき、クロケットがそれを止めた。


「ちょっと待っててくださいにゃ」

「どうしたの?」

「私の服、持ってきますにゃ」

「あー、そういうことね」

『よろしいのですか?』


 確かに人化したキャメリアはクロケットと背格好が似ている。


「じゃ、庭で待ってるね」

「はいですにゃ。けだまちゃんをお願いしますにゃ」

「うん」

『だいじょーぶ、にゃ』


 けだまはぱたぱたとクロケットの手から飛び立つ。

 まだ少ししか飛べないが、地面に着地して右手を高く上げた。


『えへーっ。すごい? るーどちゃん、すごい?』

「うん、凄い。偉いね、けだま」

『えへへーっ』


 ルードはけだまの頭をぐりぐりと撫でてあげた。

 ルードたちは庭先に移動する。

 すると、リーダとイエッタ、イリスが居間にいたではないか。


「おかえり母さん」

「あ、ルードただい……、まぁあああああっ!」


 それは驚くだろう。

 リーダもドラグリーナを見るのは初めてなのだ。


「そ、そ、そ」


 珍しくリーダがびっくりしている。


「あら、ルードちゃんおかえり……、えぇっ?」


 イエッタも。


「おかえりなさいま……」


 イリスも固まった。


「あははは……」


 ▼


 ルードはあることを試してみようと思った。

 もしかしたら逆もできるのではないかと考えたからだった。


「この人はフレアドラグリーナのキャメリアさん。今日から僕とお姉ちゃんの侍女になってくれました。仲良くしてあげてね」


 ルードはほんの少しだけ右目に魔力を込めてから、キャメリアの背中に手を当てる。


『あの、私、言葉が……』

「いいから、そのまま話してみて」

『はい。私、今日からお世話になります、キャメリアと申します』

「ルード、私にもキャメリアさんの言ってることがわかるのだけれど……」

「えぇ。我にもはっきりと」

「そうですね。わたくしも聞こえました」

『えっ? もしかして……』

「うん。逆もできるんじゃないかなーって思ったんだ。今ちょっとだけ、右目に力を込めてるんだ。ほらけだまもおいで」


 けだまを抱き上げると。


『えへへ。ただいまー。ですにゃ』


「けだまさんの声も聞こえます。とても可愛らしい声です……」


 早くもイリスがメロメロになっていた。


「ルード、それって」

「うん。エルシードがくれた力だと思う。ここだと長くは使えないけど、ウォルガードとかなら一日使っても倒れないと思うよ」

「ルードちゃん、我も驚きました。まさか、我の血筋でそのような力が発現していたなんて。あの子もきっとルードちゃんの力になれて、喜んでいると思いますよ」

「うん。お兄ちゃんも、エルシードも僕といつまでも一緒だからね」


 ルードは両手で自分の両瞼の上から触った。

 心の中で二人に『ありがとう』そう伝えたのだった。


「ルードちゃん、こっち来て目を瞑るですにゃ」

「お姉ちゃん、わかったよ。けだまも一緒に行こうね」

『うんっ。るーどちゃん』


 縁側から居間に上がって、ルードは後ろを向いて座る。

 けだまを膝の上に抱えて。


「いいよ。お姉ちゃん」

「はいですにゃ。あ、言葉通じないかもですにゃ」

「ちょっとまって、もう一段階力を強くしてみる」


 ルードは右目にもう少し多めに魔力を流す。

 すると、屋敷全体を優し気な光が包むような感じになった。


「にゃんか、暖かい感じがしますにゃね」

『クロケット様。あなたの言葉がっ!』

「うにゃっ。キャメリアさんの言葉もわかるですにゃっ」

「ルード、あなたどれだけ……」

「もう言わないで。言いたいことよーくわかってるから……」

「本当にルード様はひじょ──」

「イリスには言われたくない」

「うふふふ……」


 キャメリアは指輪をどこからか取り出すと、言葉は通じても凄く難しい呪文を唱え始める。

 すると、キャメリアの身体が光って、その姿は裸の女性になった。

 真紅の髪。

 こめかみあたりから少し長くて上の方に若干曲がっている、白っぽい角が両側に一本ずつ。

 肌の色も若干日に焼けたような感じの健康的な色。


「はやくこれを着てくださいにゃ」

『はい。クロケット様』


 いそいそと服を着始めるキャメリア。


「ルードちゃん、もういいですにゃよ」


 ルードはクロケットの声で振り向いていた。


「おー。似合ってるね」

「ですにゃ」

『よ、よろしくお願いいたします……』


 ▼


「なるほどね。ドラゴンではなくドラグナ、ドラグリーナなのね」

「うん。母さん」

「メルドラード。我も初めて聞きました。人が到達できない国。それでは我も知らないわけですね」

「うん。でもね、綺麗な国だったよ。ただ、言葉が通じないからどことも交易ができなくて。それに内陸だから、そのね」

『あじがないのー、にゃ』

「うん。塩とかの調味料が貴重品なんだ」


 キャメリアはクロケットにもらったプリンの虜になってしまっていた。


『これは卑怯です。こんなに、味が濃くて、甘くて……。これが美味しいという感じなんですね。お世辞で使う言葉だと思っていました……』


 なんとも正直な感想だろう。


『うまーっ。やっぱり、うまーっ』


 横に座ってけだまも大人しく、ではないがプリンを匙を使って器用に食べていた。


「ですが、ルード様。先ほどから魔力を使い続けていますが、大丈夫なのですか?」

「うん。ちょっと辛いかも、でもね、けだまもキャメリアさんも喜んでるし。僕も嬉しいからさ」

「ルード。無理しちゃ駄目よ?」

「うん。なんとなくなんだけどさ、ウォルガードの食べ物がおいしい理由がわかったような気がするんだ。メルドラードの肉も野菜も美味しかったから。きっとね、大量の魔力を含んで育ってるんだと思う」

「あ、そうかもしれないわね。わたしも一時期考えたことはあるの。でも、比較できないからね……」

「あのさ。色々絡まっていた糸がほどけてきた感じがするんだ。だから、落ち着いたら僕、物資をね、メルドラードに届けてくるよ。その後、ウォルガードに行ってこようと思う。フェリスお母さんにも相談があるし」

「どんな相談なの?」

「あれ、キャメリアさんがつけてる指輪。フェリスお母さんならあれを複製できないかなーって。でなければ、あれに近い呪文を思いついてくれたらと思ったんだ。イエッタお母さんの祝詞を改造しちゃうくらいだし」

「フェリス母さんならできるかもしれないわね」

「うん」


 ルードはけだまの頭を撫でながら。


「美味しい?」

『るーどちゃん。うまー』

「うんうん。よかったね」

「ルードちゃん嬉しそうですにゃね」

「そりゃそうだよ。僕の妹みたいなものだからね」

「やっぱりそう思ってたんですにゃね」

「うん」

『るーどちゃんが、あたしのおにーちゃん?』

「うん」

『るーどおにーちゃんだね』

「うんうん」


 ▼


 ルードはその日のうちに大量の塩を買い込んでいた。

 適度な数の香辛料。

 味噌もひと樽。


「さて、どうやって持っていくかだよねぇ……」

『ルード様、これって』

「うん。エミリアーナさんにお土産かな」

『でしたら、こう。むー……』


 ぶつぶつと呪文を唱えると、目の前から物資が消えてしまった。


「えぇえええっ!」

『私たちには秘術とまでは言いませんが、昔から使っている魔法があるのです。原理はわかりませんが、荷物を隠すことができます』

「いや、かなりあったよ」

「はい。私の身体の十倍くらいまでは隠すことができのです」


 そのときルードはピンときた。

 これで物資の輸送は解決してしまうではないか。


「ちょっと待ってて。もっと買ってくる。イリス、迷惑にならない程度に塩と香辛料買いに行くから手伝って」

「はい、ルード様」

『あ、あの。まだ持っていかれるのですか?』

「うん。多ければ多いほどいいからね。塩はあるに越したことないでしょ?」

『ですが、塩みたいな貴重品を……』

「あ、この国はね塩が豊富に取れるんだ。安いんだよ」

『ほ、本当ですか?』

「うん」


 最初に集めた数倍の塩が集まった。

 それをあっさりとキャメリアは隠してしまう。


「じゃ、ちょっと行ってくるね。けだまはお姉ちゃんと留守番しててね」

『いってらっしゃい。るーどおにーちゃん』

「いってらっしゃいですにゃ」


 その場からキャメリアは上昇していく。

 二、三度上空を旋回してからキャメリアはシーウェールズを置き去りにする。


「キャメリアさん」

『私はあなたの侍女です。キャメリアとお呼びください。ルード様』

「うーん。わかった。キャメリア、加減しなくてもいいよ。お姉ちゃんとけだまのことを気遣って、目一杯飛んでなかったでしょう?」

『おわかりでしたか』

「うん。僕もお姉ちゃんを背中に乗せることがあるけど、優しく走るからね」

『ご要望とあらば、お目にかけます。私の全力の飛翔を』


 ぐんっと一気に加速が始まった。

 キャメリアの翼全体に強い魔力を感じる。

 なるほど、とルードは思った。

 周りの景色が溶けるように流れていく。

 その瞬間『ドンッ』という衝撃波のような音が鳴ったことだろう。

 かなりの上空でのできごとだったことと、乗っているルードには気づいてはいないが。

 これが低空飛行であれば、ソニックブームが発生していたかもしれないということを。

 よく見ると翼からは熱のような揺らぎが発生している。

 きっと炎の魔法を利用しているのかもしれない。

 例えていうならジェット戦闘機のようなもの。


「いけーっ。まだまだこんなものではないしょ?」

『まだまだですっ!』


 そんなやりとりをしてたら、あっという間だった。

 遠くにメルドラードの国が見えてきたのだ。

 荒かったキャメリアの呼吸も整ってきている。

 きっと大気中の濃い魔力を吸収しているのだろう。

 徐々に速度を緩め、そのまま幻影の壁を突き抜けていく。

 ルードたちはホバリングを経て、王城の屋上へ降り立った。


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