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フェンリル母さんとあったかご飯 ~異世界もふもふ生活~  作者: はらくろ
第三章 いっつぁもふもふわーるど
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第五話 お姉さんの幼馴染との再会。

「ジョンズさん」

「はい。なんでございましょう?」

「フレットさんとワイティさんはご在宅です?」

「……申し訳ございません。今、お二人で町の散策を楽しんでおられています……」

「そうだったんですか。確認なしに来てしまってすみませんね」

「いえ。その、私としてはとても助かりました。なにせ、ミリス様がここまでお元気だったとは思わなかったのです……」


 ジョンズは苦笑いをしつつ、温かい目でミリスを見ている。


「ですが。フレンダもブレンダも、ミレディもいるのに、何故私が追いかけられるのか不明だったのです。おまけに誰も助けてくれないという……」

「あははは。きっと気に入られているんですよ」


 ルードもクロケットの優しい笑顔とミリスの嬉しそうな笑顔を見て、心休まる感じがしていた。


「僕もこのまま待たせてもらってもいいですか?」

「えぇ。構いません。ですが、よろしいのですか?」

「クロケットお姉さんも、子供が大好きなので楽しそうですから大丈夫ですよ」

「助かります」


 ルードの家には男性の家族がいないから、ジョンズの気苦労がわからないかもしれない。

 もしかしたらマイルスたちも何かしら苦労していないか、今度聞いてみようと思ったのだった。


 ルードはイリスに手を振ってみた。

 だが、イリスはそれに気づいていないようだ。

 仕方なくイリスの傍に寄り、耳元でイリスを呼ぶ。


「イリス……」

「……ミリス君、可愛すぎます。わたくしも、本当ならこれくらいの子がいても……」

「イリスってば」

「──はっ、はい。ルード様どうされ──」

「しーっ。声を大きくしないの」

「申し訳ございません……」


 ルードは手招きをして少しクロケットとミリスから離れるようにする。

 イリスは名残惜しそうにミリスを見ていたが、すぐに切り替えたようにルードの後をついてくる。


「あのさ、また遊びに来れるんだから、今度来たときはミリス君を抱かせてもらったら?」

「それはいいで……、いえ。どうされましたか?」

「あははは。あのさ、僕とクロケットお姉さんはここで待ってることにするからさ、イリスにはエヴァンス伯父さんに言われた屋敷を見てきてほしんだ。今日からそこに泊まることになるだろうからね」

「ぷにぷにしたミリス君を抱っこできる……。はっ。すみませんでした。これから行ってまいります」


 イリスはモフリストだけでなく、可愛いもの全般に目がないのだろう。


「あ、食材もある程度買っておいてくれるかな?」

「かしこまりました。では行ってまいります」

「うん。お願いね」


 イリスは深くルードに礼をすると、一瞬その姿がブレたように見える。

 そのまま気が付けばルードの前からいなくなっていた。


「イリスって、よくわかんないな。どうやったら、あんなことできるんだろう……」


 イリスの身体能力はルードにとっても底が知れない。

 そんなイリスの凄さを再確認した一瞬だった。


 ▼


 クロケットは笑顔でミリスをあやしていた。

 赤子を抱くようにミリスを左手で抱えて、背中を右手で擦るようにしていた。


「く、くすぐったいですにゃ。ミリスちゃん。耳、好きにゃんですかにゃ?」

「うん。すきー。もふー、もふー」


 ミリスはクロケットの問いに答えると、また一心不乱にモフり始める。

 それはまるで、与えられたおもちゃで無心に遊んでいるかのようにも見えるのだ。


「にゃははは……。元気ですにゃね」


 ルードがクロケットを見たとき、ちょっとだけ異変があった。

 猫は構いすぎると痩せてしまうというらしいが、人間に近い肉体を持つ猫人はどうなのだろう。

 クロケットが前に言っていた『猫人はですにゃね、好きな人にしか耳を、尻尾を触らせにゃいのですにゃ。ルード坊ちゃまは、私の大好きな人ですから、いいんですにゃっ!』という言葉を思い出した。

 子供が大好きなクロケットは、ミリスもお気に入りになったのだろう。

 それでも彼女は、さすがにモフられすぎたのか、ルードの目にも少し消耗しているように見えたのだ。

 ルードはクロケットだけにミリスの面倒を見てもらうわけにいかないと思い、あることを試すことにする。


「んー。確かこうだっけ。『祖の姿、印となる証を顕現させよ』(あとはフェリスお母さんの名前が入ってたから言わなくてもいいんだよね?)」


 詠唱が終わると、耳と尻尾の出るあたりに髪の色と同じ白い霧状のものに包まれる。

 こめかみあたりと尾てい骨あたりに違和感を感じたそのとき、霧状のものが晴れると同時に、ルードにフェンリルの姿と同じ耳と尻尾が現れたのだった。


「うん。成功してるね。よし」


 ルードはミリスのところへ近寄る。


「ミリス君。ほら、モフモフ」

「あー、もふもふ」


 ミリスがルードの耳に目を取られた隙に、クロケットの腕からミリスを抱き上げる。

 クロケットがしていたように、ミリスのお尻に腕を回して抱き上げて耳を触らせる。

 ミリスは無心にルードの耳をもみくちゃにしていた。


「クロケットお姉さん、お疲れ様。交代ね」

「あ、ありがとうございますですにゃ……」

「もふー、もふー」

「うはっ。これはすっごくくすぐったいや……」


 そのままクロケットの横に座った。

 ミリスは白い耳がワイティと同じだからだろうか。

 お気に入りのようだった。

 そのままクロケットの頭を、胡坐をかいた太ももに誘導する。


「あ、膝枕ですかにゃ。嬉しいですにゃ」

「うん。少し休んだらいいよ」

「ありがとうございますですにゃ。可愛いのは大好きにゃんですが、ちょっと疲れましたにゃ……」

「もふもふー、もふー」

「あははは。ミリス君は元気だねぇ」


 ルードはミリスに好きなようにさせつつ、クロケットの髪を手で梳いている。

 なるべく耳には触れないように、耳の逆立った髪の毛も直しながら、優しくゆっくりと。

 ルードはクロケットの黒い髪が好きなのだ。

 指先からするりとこぼれ落ちる漆黒のつやつや髪の毛は、なんだかとても懐かしさを感じる。

 クロケットは目を細めて、とても気持ちよさそうに目を閉じていた。


 ミリスはとにかく元気だった。

 ひたすらルードの両耳をもふもふと、一心不乱にモフりまくっている。

 猫人の女の子、クロメをモフっていたときとは違い、ルードを夢中にモフっているミリスの姿もまた可愛らしくて仕方がない。

 クロケットは本来、ルードのフェンリル姿や狐耳の状態でモフるのが好きなはずだ。

 その彼女が、消耗するまでミリスに好きにさせていた。

 彼女もミリスが可愛くて仕方がたなかったのだろう。

 もしかしたらミリスは、ワイティにこうできない気持ちをルードとクロケットに向けているのかもしれない。

 父であるフレットと同じくらいに立派な『小さなモフリスト』なのだろう。

 クロケットが消耗したように、ひたすらモフられ続けるのは思ったよりも消耗するものだった。

 ルードもちょっと疲れてきたかな、というときだった。

 ミリスがぐったりと力を抜いて、ルードにもたれかかっていた。

 ルードはミリスの顔を確認すると、ミリスは眠ってしまっていた。

 力の限り遊んだのだろう。

 その表情はとても満足そうな感じだった。


 ▼


 クロケットがルードの右の太ももに頭を乗せ、ミリスは左の太ももに抱き着くように眠っている。

 右手でクロケットの髪を撫で、左手でミリスの背中を撫でている。

 忙しそうに見えるのだが、ルードの表情はとても穏やかだった。

 そうしていると、庭の先。

 この屋敷の正門から男女二人の姿が見えてくる。

 その二人はフレットとワイティだった。

 仲睦まじい二人は楽しかったのだろう。

 フレットが両手に抱えたものは、きっとミリスへのお土産。

 抱えた腕に抱き着いて横を歩いてくるワイティ。


「あ、フレットさん、ワイティさん。お邪魔してます」


 ルードも人が悪い。

 二人が気づく前に声をかけた。

 みるみるうちにフレットの顔が青ざめていく。


「──うにゃ。あ、寝てしまいましたにゃ。にゃにやら、とても気持ちよかったですにゃ……」


 ぐっすりとルードの膝枕で眠っていたクロケットが目を覚ました。

 彼女のぼけぼけの声に気づいたのか、ワイティがクロケットに近寄ってくる。


「その喋り方。もしかして、クロケットちゃん?」

「……うにゃ? どちら様でしたかにゃ?」

「忘れたの? 冷たいわね。といっても、小さいころに会ったっきりだものね」


 クロケットは身体を起す。

 一度ルードの頬に自分の頬をすりすりしてから、声の方向を見た。


「うにゃ? あにゃ? どこかで見たようにゃ……。あっ!」

「やっと思い出したのね?」

「……どちら様でしたかにゃ?」


 こてっと首を傾げるクロケット。

 背中をぽんぽんと叩いてルードが促す。


「知り合いだったの? ワイティさん」

「ワイティ。……あぁっ! ワイティちゃんですかにゃ? ファルセッタおばちゃんのところの?」

「……ほんとに、変わらないわね。久しぶりね」


 ワイティはクロケットの前にしゃがんで、彼女の身体をきゅっと抱きしめた。

 クロケットはすんすんとワイティの肩口から首筋の匂いを嗅ぐ。

 目を大きく見開いて、ワイティの背中越しに手を合わせた。


「にゃるほどですにゃ。どうりで、ミリスちゃんから懐かしい匂いがしたわけですにゃね。ワイティちゃん、ここで働いていたんですにゃね?」


 ミリスを膝から抱き上げて背中を撫でていたルードは、そんな二人を見ながらぼそっと言う。


「クロケットお姉さん。ここのご主人、フレットさんの奥さんだってば」

「えぇっ! 奥様だったんですにゃか?」


 幼馴染だけあって、若干だが言葉遣いがフランクになっている。


「そんな大層なものじゃないわ。内縁の妻ですもの。それよりも、クロケットちゃんこそ、ルード様のところで働いていたのね?」

「いえ、僕の婚約者なんですけど……」

「そうですにゃ。でも、あとルードちゃんが成人するまで、あと三年くらいはお姉ちゃんなのですにゃっ」


 笑顔のワイティだったが、固まっていたフレットの青ざめた表情で思い出したのか、彼女も徐々に顔の血の気が引いていく。


「……お」

「お?」

「お、お、お……」

「うにゃ?」

「お妃様じゃないですかぁあああっ?」


 フレットが青ざめた顔で、こくこくと顔だけ頷いている。


 庭先で五体投地のフレット。

 その横で同じようにしているワイティ。


「お願いですから、それ、やめてくださいってば……」

「いえ、ルード様にミリスの面倒を見てもらっていただなんて……」

「申し訳ございませんでした……」

「いいんですって。待ってる間暇だったので、それにこんなに可愛いミリス君と一緒だったので、楽しかったですから」

「そうですにゃね。私も、こんな可愛い子がほしいですにゃ……」

「あのねぇ……」


 なんとか頭を上げてもらって、ワイティにミリスを預けることができた。

 起さないようにそっとワイティに抱かせる。


「今何歳なんです?」

「まだ四歳なんです」

「そっか。可愛い盛りですね」

「えぇ。それより、ルード様の髪が……」


 ミリスにモフられまくって、ルードの髪はくしゃくしゃになっていた。

 クロケットが手櫛で優しく直してくれている。


「大丈夫ですよ。そういえば、クロケットお姉さん、ワイティさんと知り合いだったんだね?」

「はいですにゃ。小さいころに交流のあったところの、村長さんの娘さんにゃのですにゃ」

「えぇ。そうなんです。難しいしゃべりかたをしていたので、覚えていたんです」

「あぁ。クロケットお姉さんのしゃべり方ね?」

「これは、猫人の古くから伝わる言葉にゃから、にゃくしちゃいけにゃいと思っているのにゃ」

「そうだね。ヘンルーダさんに怒られてるとき、普通のしゃべり方してたもんね」

「それは忘れてくださいにゃ……」


 クロケットのこのしゃべり方は、意識して使っているということだったのだ。

 クロケットが言うには、その昔、大きな猫人の国があって、そこにいたお姫様が使っていた言葉だというのだ。


「それにしても、クロケットちゃんがルード様のねぇ……」

「駄目ですかにゃ?」

「いいえ、とても素敵だと思うわ。優しいし、可愛らしいし」

「にゃははは……」


 クロケットはまるで自分のことを褒められらかのように照れている。

 ワイティもここにいる経緯をクロケットに包み隠さず話していた。

 まるで同窓会で久しぶりに会った女学生のように。

 とても懐かしそうに、嬉しそうにしている二人だった。


「実は、私もね。ルードちゃんに助けられてしまったのにゃ。それはもう、物語の王子様みたいだったのにゃ……」

「へぇ……。それはかっこよかったんでしょうね」

「それはもう。かっこよくて、可愛らしくて。フレットさんも、優しそうな男性(ひと)ですにゃね」

「この人はね。優しいだけなのよ。意気地なしだし、いまだに公爵になったのをいじいじと……」


 いきなり話を振られたフレットは焦る。

 ばつが悪そうな表情をしつつ、ルードに改めて聞いた。


「そうです。何故私が公爵なんですか? 他にも優秀な方は」

「フレットさんは、ママとエルシードがお世話になったし。それにね」

「はい」

「『モフモフ好き』に悪い人はいませんからね?」


 ワイティを見てからにやっと笑う。


「そうですにゃ。モフモフはいいものですにゃっ」


 何気にクロケットはわけのわからない合いの手を入れる。


「いや、間違ってないんだけどさ。それに、フレットさんも、ワイティさんも、僕の家族みたいなものですから。伯父さんを手伝ってくれるのなら、そういう人じゃないとね。それに今後は、獣人さんたちのことをわかってるひとじゃないと駄目でしょ?」

「えぇ。この人は、耳と尻尾が大好きですからね……」

「そんな、私はそこまで」

「好きですよね?」

「はい。大好きです……」


 語るに落ちたフレットだった。


「それにしても、ミリスったら。そんなにやんちゃな子だったのね」


 寝ているミリスを見て、苦笑しているワイティ。


「えぇ。とても元気が良かったですよ。クロケットお姉さんも、くたくたになるくらいに」

「そうですにゃね。元気が良くて、可愛らしくて、人懐っこくて」

「それに多分、同じ『白』だからじゃないですかね。一心不乱にモフモフしてましたから」


 形は違えど、ルードとワイティの毛色はそっくりだった。

 そこでやっとワイティが気づいたようだ。


「そういえば、ルード様。その耳」

「あぁ、これはね。母さんのお母さんのお母さん。んー、ややこしいね。ウォルガードの先代の女王のフェリスお母さんから教わった呪文でこうなったんですよ。実はね、こんなこともできるんです」


 ルードは一度、フェンリルの耳をしまってから、もうひとつの祝詞を唱えた。


『狐狗狸ノ証ト力ヲココニ』


 『ぽんっ』という音と共に煙のようなものがルードを包んだ。

 煙が消えると、そこには狐の大きな耳と、七本のふさふさの尻尾が姿を現した。

 さすがにワイティは驚いた。

 それはそうだろう。

 フェンリルだとは聞いていたのだが、まさか狐人でもあるとは思っていなかったのだから。


「それ、すごく可愛らしいですね」

「あぁ、そっちの意味ね。うん。僕のママは狐人の血を引いてるから。僕もこんな感じになれるんだよね」

「噂に聞く、九尾……、あら? 七本なんですね」

「うん。九尾は僕のママのお母さんのお母さん。イエッタお母さんがそうなんだよね」

「ちょっと待ってください。伝説の九尾の方と、フェンリル様……。それってもう……」

「あははは」


 気が付けば、クロケットがルードの尻尾に顔をうずめて、モフりまくっていたのだった。


 ミリスが目を覚まして、ルードの肩によじ登ってまたモフりまくっている。

 その目は、もう夢中で一心不乱だった。


「もふもふー、もふもふ」

「これも血筋なんですかねぇ……」


 フレットがそう言った


「そうかもしれませんね……」


 ワイティも呆れたようにフレットを見ると、ため息をついた。


「いい子でしたにゃよ。少し元気すぎるだけですにゃ」

「そうだね」

「まーまー」


 ワイティを見てニコっと笑うと、またモフり始めるミリス。

 クロケットも負けじとルードの尻尾をモフりまくっていた。


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