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unspell  作者: 久保田千景
その後
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最後の手紙

それはずっと先のこと。けれど必ず訪れる最後の時。

 あなたがこれを読んでいるということは、私はもうこの世にはいないのですね。

 最近、自分の最期が近いと、何となくですが感じるようになりました。確証はないし余計な心配を掛けさせたくないのでなかなか言い出せないですが、何も言えぬまま突然消えてしまうことは嫌なので、眠っているあなたの腕の中からこっそり抜けだしてこの手紙を書いています。気付かなかったでしょ?


 あなたと出会ってどのくらい経ったでしょうか。一緒に過ごした年月は長かったけれど二人とも見た目が変わらないせいか、今でも出会った頃のような感覚でいます。

 二人の子供達が自立した後、各地を旅して色々な経験をしましたね。

 南の国では数百年に一度しか現れない幻の都市に迷い込んでしまったり、東の島では勘違いから「魔王」と「女神」として祭り上げられそうになってこっそり逃げ出したりと、今ではもう笑い話ですが子供達に怒られるから秘密にしていましたよね。

 西の山岳地帯ではあなたと同じくらい長生きしている竜や、北の森では「銀の魔女」と呼ばれている不老不死の呪いに掛かった薬師に出会い、多くの出会いや別れを経験しましたね。


 喜びも悲しみも誰かと共有できるということは幸せなことです。そしてその相手があなたである私は果報者です。

 あなたが私に契約という呪いを掛けたと、心苦しく思っていたことは気付いていました。でも、私があなたと共に生きたいと願ったから契約したのです。自分で考え、自分で決めたことです。たとえ、それが人から見れば『呪い』であっても、私にとっては大切な『絆』でした。感謝こそすれ、後悔したことなど一度もありませんでした。あなたと一緒だったから長い人生の様々なことを挫けることなく乗り越えられたのです。

 大切な人達や子供達を見送ったときは本当に悲しく寂しかった。けれど、自分が先立ち、誰かにこんな思いをさせてしまう方が辛いです。

 だから、今、あなたには本当に申し訳なく思っています。


 ずっと一緒にいたのでもう書き残すことはないと思っていましたが、結構あるものです。そろそろあなたが起きてしまいそうなので、とりあえずこれくらいにしておきますね。

 すぐに逢えると思うのでさよならは言いません。あなたが来るまで死者の門は開けないので、急がなくても大丈夫ですよ。

 いつも私があなたを待たせていましたが、今度は私があなたを待っています。


 ずっと傍にいてくれてありがとう。

 たくさん愛してくれてありがとう。

 あなたが思っている以上に、私はあなたのことが大好きです。

 

 出会ったあの日からずっと、今この瞬間も、私はとても幸せです。



愛するセイアッドさんへ  


サラより




追伸:面倒がらずにご飯はちゃんと食べてね。


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