もう少し
家に帰ると自然な流れでサラはベッドで押し倒された。
その覚悟はちゃんとしていた。嫌でもなかった。でもそういう状況になった途端、不安と恐怖で頭が真っ白になった。ボタンの一つも外されていないのに、まるで凍ってしまったかのように身体が固まっている。
セイアッドはそんなサラの状態に気が付いたのか、怒るでも馬鹿にするでも呆れるでもなく、楽しそうに笑い出した。
「そ、そんなに笑わなくても――」
セイアッドの思いがけない行動に緊張が解れ、平常心を取り戻したサラが涙目で訴えると、彼は口元を掌で押さえながら上体を起こした。
「すまない。あまりに可愛くて」
セイアッドの気遣いに救われた一方で、サラは自分の不甲斐なさを感じていた。
「――ごめんなさい」
セイアッドは少し困ったような顔でサラを優しく起こすと自分の腕の中に閉じ込めた。
「謝ることはない」
優しくそう言ってサラの背中をさする。いつもは冷たいと感じる手がとても温かかった。
「それに、焦らされるのは嫌いじゃない」
安心しきっていたサラが驚いて顔を上げると、セイアッドは妖艶な笑みを浮かべながら唇を重ねてきた。
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「一緒に寝るのはいいか?」
黙って小さく頷いたサラにセイアッドは満足そうに微笑むとごろりとベッドで横になった。サラが戸惑っていると「おいで」と腕を広げる。
初めての経験が連続したせいで思考が停止しかけて固まるサラに、セイアッドは楽しそうな笑みを浮かべて掌でベッドをぽんぽんと叩く。
ここに横になれ、という意味らしい。
「お、お言葉に甘えて――」
場違いな返事で了承はしたものの、緊張と混乱の極みにいるサラはどう横になっていいかすらわからなくなっていた。迷っていると腕を掴まれ引っ張られる。視界がぐるりと回り、気が付けばセイアッドの腕の中にすっぽりと収まっていた。
微笑んでいるセイアッドはサラの額に軽く唇を落とし「おやすみ」と囁く。
「お、おやすみなさい」
この状態では休めない!
心の中でそうぼやいたものの、サラが極度の緊張で悩んでいたのはほんの数分だけで、心地よいセイアッドの腕の中ですぐに眠りに落ちた。
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「案外早く寝たな」
セイアッドはすやすやと眠るサラの寝顔に苦笑すると、腕の中の彼女を抱き寄せゆっくり目を閉じた。
・・・お預けはもうしばらく続きます。ごめん、セイアッド。




