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第44話ずっと一緒に

 ふたりはゆっくりと場所で移動していった。

 もうそこまで急ぐ必要もないのだ。王太子たちが追手を仕向けてくるかもしれないという不安も無くなり、二人は勝手気ままに移動を楽しむことができる。


「世界ってこんなに広かったのね。鳥かご(王宮)にいた時は知らなかったわ」

 すべてのプレッシャーから解放された彼女は、本当の意味で自由になった。たしかに、巨大な権力を持つオルソン公爵家の当主であることに変わりはないわけだが、少なくとも次期国母となる立場と比べて責任は軽くなる。


「まだですよ」


「えっ?」


「その言葉は、まだ言ってはいけませんよ、お嬢様。私たちはしょせん国内だけを旅行しているのですから。王国と同じくらい広い国、いや、それ以上に大きい国なんて世界にはたくさんあるんですよ。まだ、一緒に見なくてはいけない場所がたくさんありますよ。それを見てから、先ほどの言葉を言ってください」


「ずっと一緒にいてくれる気なのね?」

 あえて、聞き取られないように小声を出す。ラファエルが聞き取れなかった場合はそれいいと彼女は思っていた。


「ええ、もちろんですよ。お嬢様が許して下さるなら、私はあなたと一緒に過ごしていきたいです」


「あっ……」

 いくつもの意味が込められた短い言葉だった。聞かれるはずのない言葉が相手に伝わってしまった。そして、その言葉が自分が期待していたものだった嬉しさ。でも、深入りすることが怖くてもっと直接的な言葉を聞きたいのに、それを聞くことができない怖さ。


 矛盾するたくさんの気持ちがせめぎ合いマリアの心を乱した。


「それってどういうことですか?」と聞けばすべてがわかるのに、彼女はそこから一歩踏み出すことをためらってしまう。


「大丈夫ですよ。すぐに、言葉が欲しいわけではありません。そもそも、昨夜にあんなに大変なことが起きたばかりなのに、私がこの言葉を言うべきではなかったのかもしれませんからね。お嬢様が言葉を発したいと思えるまで、私は待ち続けますから」


「ありがとう。でも、迷惑じゃないわ」


「……」


「とても嬉しいわ、ラファエル様。その言葉を聞けたこの瞬間を私は絶対に忘れられないと思うの。だから、すべてが終わって気持ちの整理がついたらちゃんと自分の気持ちをあなたに伝えるわ」


「ええ、待っています」


 政治的に有能な二人もまだ若者である。この言葉が事実上の「イエス」であるにもかかわらず、あえて自分たちの本心を隠そうとしていた。


 いや、本心を伝えるには、かけがえのない存在になりすぎたのかもしれない。


 そして、馬車は魔法都市へと到着する。


 ※


 マリア達が魔法都市に向かっている間、護送されている王子たちは別々の馬車で護送されていた。


 前方の馬車に乗るミーサは、抵抗し続けていたため拘束が強化されており、口にはさるぐつわをされて、腕と足は拘束されていた。


 それでも戦意を失わず、内務省の職員をにらみつけていた。


 それに対して、王子はすべてを受け入れて、大人しく目を閉じていた。こちらには内務卿が同乗しており警備は万全だ。王子も自分の運命を受け入れているため、何も抵抗せずに護送されている。


 このまま王都につけば、ミーサは裁判の後に処刑されるだろう。

 王子は、すでに廃嫡されており、王位継承権を失っている。このまま、王都にいても、野心家の道具になる可能性が高い。しかし、実の甥を殺すことは国王の歴史的な汚点になる可能性もある。


 そこを気にして、島流しにされる可能性もある。

 磔刑たっけいにされるか島流しにされるかは裁判での証言次第だろう。彼を取り戻そうとする旧・王太子派の貴族たちはほとんど失脚か転向している。


 もう、孤立無援だ。

 本人もそれが分かっているから、すでに達観しているようだ。


 馬車は、王都とシーセイルの中間地点まで進んだ。

 馬を休めるためにも、そろそろ休憩が必要なタイミングでそれは発生した。


「橋を超えたら、休憩しよう」

 内務卿は、そう指示した瞬間だった。


 馬車の眼前で大きな爆発が発生した。それは人為的に引き起こされたものだと内務卿はすぐに理解した。


「爆発魔力の攻撃だ! 戦闘員は、馬車を守れ」


 橋は中央付近に穴が開き、進行できなくなった。


『いまだ、ミーサを奪還しろっ!!』

 馬車の後方から十数人の男たちが、内務卿たちを襲撃する。


 すぐに内務卿は馬車の外に出て、状況を察して襲撃者を迎え撃つ。

 前方の襲撃者2人を斬り捨てた。


 そして、この事件の首謀者に語りかける。


「子爵、一体何のおつもりですか?」


「娘を助けるのに、理由が必要かね? 内務卿?」


「こんなことをすればどうなるか、わかっているのか!!」


「ミーサが死ねば、私の直系は途絶える。ならば、最後くらい親らしいことをしたいと考えるのが人間ではないかね?」


 子爵はそう言うと、部下たちとともに突撃を仕掛けた。

 数だけなら互角だ。だが、内務省の精鋭が集まっている。襲撃者たちは、次々と倒れていった。


「大人しく降伏したまえ、子爵!」


「内務卿も意外と甘いようで……」


 子爵の手からは魔力が放たれる。それは、王子が乗っている馬車を襲った。


「ちぃ」

 内務卿は、最優先目標である王子を守るために体を張って魔力を受け止める。


「やはり、そちらが王子の馬車だな!!」


 内務卿が魔力によって負傷したことで、一瞬、指揮にスキが生まれた。


 子爵は娘が乗っている馬車へと走った。


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