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第42話王太子とミーサの破滅

「終わらせに来ました、すべてを。元婚約者として、王国の4大公爵家の当主として、そして、一番の友人としてです、殿下?」

 マリアは目を閉じながら、感情をこめて話す。そこには、迷いのようなものはなかった。


「何を言っている!! お前など過去の女だ」


「……私たちはどこですれ違ってしまったのでしょうか。私はもっとあなたに寄り添うべきだったのかもしれません。いえ、私たちというべきですね。本来であれば、あなたは玉座に座るべき立場だったのに……」


「うるさいわ。私に負けたあなたがなにを言うのよ。説教なんて聞きたくないっ!」

 ミーサも激高する。ふたりにはもう何を言っても言葉は届かない。ラファエルたちはそう確信した。


「殿下、あなたは優しすぎたのです。その優しさのスキを突いて悪に取り込まれた。グール男爵の件、裏にいたのはあなたたちなんですよね。なぜ、ですか? なんでみんなを裏切ったんですかっ!! 国民を守るべき立場のあなたが、どうして国民を苦しめるようなことをしたんですか。どうして、私たちを裏切ったんですか」

 そこで抑えていた感情が爆発した。マリアは、一緒に3年間を過ごした婚約者に詰め寄る。彼に恋愛感情を持っていたわけではない。だが、親愛の気持ちは少なからぬあったのだ。次期国家のトップとして重圧に耐えている彼を尊敬していたことも事実だ。そうでもなければ、婚約者として彼を支えなかった。


「なぜ、男爵の件を知っているんだっ!! あれはディヴィジョン公爵家が解決したはず……まさかっ!!」


「そうです。そのまさかです。あの件は、私たちと公爵家が協力して解決したのです。私たちはすべてわかっています」

 その言葉を聞いて、王子とミーサは真っ青になった。

 疑念は確信に変わったのだ。


 自分たちは、はめられた、と……

 あの婚約破棄すらマリアとラファエルに誘導されていたのではないかとすら思えてくる。自分たちは、ずっとふたりの手に踊らされていただけだった。そう考えると絶望が生まれる。


「黙れ。お前はいつもそうだ。説教ばかりで……ここに来たのも、最初からお前たちは裏切り者で俺を監視していたからだろう。婚約した時からお前とラファエルは繋がっていたんだ。そうに決まっている。お前たちは俺を失脚させるために国王から派遣されたスパイだ。この卑怯者めっ、殺してやるっ!!

 ラファエルに勝てないから、怒りをマリアにぶつけたのだ。


 剣は弾き飛ばされたから、拳を振るおうとマリアの元に駆ける。


 だが……


 それを許すラファエルではなかった。


「私の大切な人をそれ以上貶めないでください」

 ラファエルはかつての主君の顔面を右手で強打し地面に叩きつけた。


「ぐはぁ」


 血反吐を吐きながら地面に転がった彼は、もう王族とは思えないほどみすぼらしい。


「嘘よ。どうしてこんなに弱いのよ。相手は庶民出身の成り上がりでしょ。なんで、どうして……」


 ミーサは絶望した顔を両手で抑える。


「あなたとは違って、身分ではなく本当の自分を見てくれる……信じてくれる女性に仕えているからですよ」


「嫌よ、どうしてこんなことに……私はどうなるの」


「一連の策略はあなたが中心になって行われたのはわかっています。国家騒乱罪の首謀者はどうなるか、知らないわけではないでしょう?」

 ラファエルは冷たくミーサに言い渡した。それは、完全に死刑宣告に等しい。彼女の未来には冷たい死刑台しか待っていない。


「嫌よ。私はただ、幸せに暮らしていたかっただけなのに……」


「人を散々踏みにじっておいて、今更そんなことは通用しませんよ」


「なら、あなたは本当の絶望を味わったことあるの!? 私はスラム街で生まれたの。人を追い落とさないと幸せになれないのよ? わかる??」


「ですが、他人をないがしろにした先に、幸せがあるなんて本気で思っていたんですか!!」

 ラファエルは、やはりミーサを許すことができなかった。健全な努力ではなく、卑劣なことをして成り上がった彼女を認めれば、自分の過去すら否定されたことになるからだ。


 そもそも、子爵家に引き取られた時点で、人を追い落とす必要性なんてなくなっていた。結局は、彼女の肥大化した自尊心の暴走である。


 ミーサは、涙を流しながら王子に近づいた。

 マリア達は少しだけ警戒しながら、その様子を見つめた。


「あんたのせいよ。全部、あんたが無能だからいけないのよっ! これで私は死刑台に送られる。絞首刑よ。まだ、20歳にもなっていないのに……若くて楽しい時間がいっぱいあったはずだったのにっ!! 全部、全部、あんたがいけないのよ。どうして、こんなに近くにいたのに気付かなかったのよ」


 その様子を見て、マリア達はあきれた。国家を背負わなくてはいけないはずの立場の女性がここまで幼稚だとは思わなかったのだ。


「さあ、言いなさい。悪いの全部、自分だって。私は関係ないって……全部、あなた分が考えて実行したのよね? ねっ、そうよね、殿下? お願いだから私を愛しているなら、そう言ってよ」


 ミーサは完全に錯乱していた。策士策に溺れる。

 自分を介抱してくれるのかと思っていた王子はその様子を茫然ぼうぜんとみていることしかできなかった。


 こんな女を守るために、自分は王冠すら捨てなくてはいけなくなったのかと絶望を超える絶望を味わっていた。


 そして、二人に引導を渡すためにラファエルはゆっくりと近づいた。

 その行動はかつての主君への最後の恩情だったのかもしれない。


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