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第25話国王vs王太子

 ふたりがキャンプをしている同時刻。王都では新たな動きが発生していた。


 玉座の間において、ついに国家の最高権力2人が論争を展開していた。


「王太子よ。私がここに呼んだことの真意がわかっているかな」

 玉座の主であり、国家元首でもある国王は王太子に向けて冷たく言い放つ。国王は、怒りに震えていた。自分に無断でマリアとの婚約を破棄した王太子の行為は、国家の最高権力である自分のことをないがしろにするものだった。


 さらに、婚約破棄されたマリアは自分の親友の娘であり、家族同然の子供のようなものだ。愛情だけなら、王太子よりもマリアの方が深い。


 王太子は、結局のところ甥であり、さらに敵対派閥の象徴だ。憎たらしさすらある。今まではマリアの婚約者として尊重していたが、甥自身が超えてはいけないラインを自ら超えたのだ。


「婚約破棄の件ですか。あれは、すでに慰謝料を払うことで、問題は解決済みかと」

 王太子は苦しい言い訳をする。すでに、内心では冷や汗をかいていた。

 ミーサを妻にすると決めた時点でこうなることはわかっていた。だが、シナリオが狂ったのだ。本来であれば、マリアの罪をあの場で洗いざらい暴き立てて、周囲を味方にするつもりだった。だが、ラファエルの妨害とマリアの逆上によって、周囲の評判はこちら側の方がおとしめられていた。


「その程度の幼稚な言い訳で、我をだませると思うなよ」


「くっ」


「調べたが、ミーサ子爵令嬢がお主に伝えたマリアの悪行は、ほとんど言いがかりだったではないか。さらに、次期国王の婚約を我が裁可なしに破棄するなど逆賊行為に等しい。この一連の動きは、お主からの宣戦布告だと受け取って構わないのだろうな?」


 やはり、こうなったか。マリアの失脚の際に世論を味方につけることができなかった時点でこちらが劣勢になるのはわかっていた。


 こうなったらやるしかない。虚勢を張ってでも、国王と戦う。王太子はそう決断する。


「そうお考えになりたければ、そうすればよいのではないですか?」


「ほう?」


「仮に、陛下が私を排除しようとしてもできないはずですよ。そうなれば、この国は内乱になる。どちらかが潰れるまで戦う内乱にね。血で血を洗う戦争を嫌うのは陛下のほうでは?」


「民を人質に取るのか!! この外道が!? それが将来の国王としてのセリフか!!」


「ならば、このまま私とミーサの婚約をお認めください。そうすれば、あなたが大事な民の生活は守れます」


「なるほど。ここで折れるつもりはないということか。ならば、仕方はあるまい。お主の権力を少しずつそぎ落としてやる。権力をすべて失った者の末路がどんなに悲惨かを味わうがよい」


 負け惜しみを。王太子は内心でそうバカにする。

 自分の派閥を切り崩すなどできるわけがない。


「一つだけ言っておこう。我は本気だ。覚悟するがよい、王太子よ」


 こうして、ふたりの対談は決裂する。王太子は少しずつ破滅の道を歩み始めた。


 ※


 なんとか、国王の追及を逃れて、王太子は気持ちを切り替えてミーサと合流した。


「ミーサ、何とか帰って来たよ」


「お帰りなさいませ、殿下。それで国王陛下はなんとおっしゃったのですか?」


「廃嫡を迫ってきたよ。もちろん拒否したがね」


「そんな!! 殿下が一体どんなに頑張ってきたかがわからないなんて……ついに、陛下ももうろくされてしまったのですね。ああ、殿下。ご安心くださいませ。私は常に、殿下の味方です。たとえ、誰であっても我々の絆は壊せませんわ」


「ああ、ミーサ。キミだけだよ。魑魅魍魎ちみもうりょうな貴族社会でも、安心してすべてを任せることができるのは」


 そして、二人は情熱的なキスをする。この世界にふたりだけしかいないような幻想を抱くキスを……


 しかし、ふたりの幻想は簡単に打ち砕かれた。


「殿下、ミーサ様。よろしいでしょうか?」

 秘書官の声だった。二人は露骨に不機嫌になりながらも、秘書官を迎え入れた。


「どうした? こんな夜に。重要なことでなければ、用事は明日にしてくれ」


「今回は重要案件です。ジャンリ・クルー様からこのような通達が……」

 ジャンリ・クルーとは、王都でも最も力がある大商人の一人だ。王太子派の政商ともいえる存在で、彼からの献金は王太子派の重要な資金源になっている。


 要は、大口のスポンサーだ。仮に王太子が玉座に就けば、ジャンリ・クルー商会には莫大な利益が転がり込むことになっている。運命共同体のはずだった。


「なんだと。これ以上の献金は取りやめるだと……」

 王太子は、怒りに震えながらジャンリ・クルーの書状を読んだ。そこには、資金繰りの悪化を理由にこれ以上の支援はできないということが丁寧に書かれていた。


「どうしてですか!! もしかして、国王派の圧力!?」


 そう考えるのが妥当だった。まさか、国王がこの1週間以上、何も手段を講じていないわけがなかった。水面下では国王派が中心になって、王太子派の切り崩し工作が進んでいた。しかし、このふたりはその兆候すらつかむことができなかったようだ。


「すぐに、ジャンリ・クルー商会へ向かう」


「しかし、こんな夜にですか?」

 秘書官は止めるが……


「私は王太子だ。一商会の元にわざわざ出向くのだ。止めるではない」


 彼とミーサはジャンリ・クルー商会へと向かった。


 ※


「これはこれは、王太子殿下。わざわざ、こんな夜に出向いていただきありがとうございます」

 ジャンリ・クルーは、迷惑そうに彼らを出迎えた。嫌味のような言葉を吐きながら。


「ジャンリ代表。支援を取りやめるとはどういうことですか!!」

 王太子はいきなり激高し叫んだ。


「どういうことと言われましても。書状の内容通りですよ、殿下。商売というのは難しいのです」


「そんな子供の言い訳が通用するか!! 国王派からの圧力か?」


 代表はめんどくさそうに王太子を見て笑った。


「殿下。私には殿下の方が子供に見えますが?」


「なんだと!!」


「我々はビジネスをしているのですよ。お互いにお互いを利用し、価値を高め合う。そして、価値を高め合うことができなくなれば終わりです」


「……」


「失礼ながら、殿下のここ最近の言動は愚行だらけです。マリア公爵夫人との婚約を破棄し、準備も整っていないにもかかわらず、国王派を激怒させた。さらに、政治顧問であり、王太子派のかなめでもあったラファエル殿まで一緒に放逐なさった。いったい、どんな政治的な読みが働いたのかお聞かせいただきたいところですな」


「ちぃ……」


「純愛。演劇やロマンス小説の中なら、あなたがたの恋愛は賞賛されるでしょう。ですが、あなたがたがいるのは政治の世界です。自分の損得勘定もできないビジネスパートナーを信用することなどできましょうか?」


「だが、私なら国王派に勝てる!!」


「その根拠は? あなたは、一度後継者に指名されたからという消極的な理由で国王派から生かされていただけに過ぎない。それでも、あなたには若さがあった。それだけが、国王陛下にはない最大の武器だ。何もせずに待っていさえすれば、すべてが手に入ったのです。私が、魅力に感じたのは、その簡単なことを成し遂げてくれる王太子殿下です。まさか、ただ待つだけのこともできないとは思いませんでした」


「不敬です!! あなたは王太子殿下のことをなんと!!」


「その証拠がどこにありますか? まあ、あなたがマリア公爵夫人にやったことでもありますが。王太子殿下の愛人の分際で、ビジネスの話に出しゃばってくるのはいかがなものですかな?」


「私は、れっきとした殿下の婚約者です」


「残念ながら、あなたは自称です。王太子殿下との婚約は発表されていませんし、そもそも内閣も国王陛下も承認されていませんよね。"自称"婚約者様? もう、これ以上のお話は無駄ですね。お引き取り下さい。ここで話したことで確信しましたよ。あなた方は、国王陛下にもマリア公爵夫人にもラファエル殿にも及ばない。捨てたものが大きすぎましたね。それを自覚できていないこと自体、政治センスは皆無なのでしょうね」


 二人はなかば追い出されるような形で商会を後にした。


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