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迷宮の王をめざして  作者: 健康な人
二章・四人の敗北者編
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過去の出来事

誤字修正しました 8/31

 魔女が気を失った後、ソフィーは俺に一言断りを入れると気を失った魔女を村まで運びたいと提案した。

 俺としてもせっかく助けた魔女をこのまま寝かしているわけにもいかなかったので、ソフィーの提案はありがたかったため肯定の意を示すために頷く事で返事をする。

 俺が魔女に触れるのは色々と刺激が強いらしく、ザックが運ぶ事になった……まあ、当然と言えば当然の結果だろう。




 そして、言われるままにソフィーの村に帰る事になったのだが……ソフィーの村――俺たちが立ち寄った、美しい女ばかりが住んでいたはずの村はひどい有様だった。


 知らず目で追ってしまうような美しさで目を楽しませてくれた美しい女は一人残らず地面に倒れ伏し……まるで長い時間をかけてじっくりと水分を奪われた燻製肉のように、骨と皮だけの状態になっていた。

 水分を失った眼球は黒い穴となって虚空を見つめ、しかし頭に残っている髪は美しいまま。老人のように髪が抜けているわけではないその姿は、長い時間をかけて水分を奪われたのでは? と思った一印象とは違い、肌が痛まぬほどの一瞬で水分を奪われたのであろう事が容易に理解出来る。

 男にいたっては骨すら残っていない。

 まるでこの村に生きている者など最初から存在しなかったかのように、村のあちこちに大きめの灰の山が出来ているだけであった。

 たまに吹く風は灰の山を少しずつ削り取り、物悲しい音と共に村全体に灰を行き渡らせている。


 ……ほんの少し前に立ち寄った村がこのような状態になっているという事実に、俺は少なくない驚きを感じさせられた。


 何故? と疑問を浮かべながら、あたりを見回す。

 するとそれを待っていたかのように、背後から声をかけられた。一言聞くだけで若くないと理解する事のできるその声は、つい最近聞いたばかりでもあり――


「お前さん、魔女を倒してくれたみたいじゃのぉ。お前さんが放っておった力の質を考えれば、敵であった者は皆殺しになると思っておったが……ソフィーも彼女も、生かしてくれたのか」


 ――魔女の城の話を語っていたかたり人、この村に唯一存在する老人の声であった。


「お爺ちゃん……私……」


 振り向いた先に居たのは――この村で出会い、魔女の城の話を聞いた時と寸分違わぬ姿をしている老人であった。

 干乾びた元美女と灰を避けるように大地に立っているその姿は、出会った時と少しも変わっていない。しかし……いや、だからこそ、この老人が理屈抜きにして歪だと感じられる。

 以前は其処に座っている事が自然だと感じさせるような何かがあったが……まるで今の老人はその【何か】が失われてしまったかのように感じられる。しかしそれは……この村が既に終わっているからこその歪さでもあった。


 枯れ木ばかりの森に緑の葉が生い茂る巨木があれば、誰でもおかしいと思うだろう。

 この違和感はそう言った類のもの。

 どちらが良い悪いではなく――一言で言えば、この老人がこの村から浮いているのだ。それ以上でも以下でもない。


 老人を視界に納めたのであろうソフィーは、かたり人の老人をお爺ちゃんと呼び何かを口にしようとした。しかし老人はソフィーの言葉を手で制し己の言葉を続ける。


「言葉にしなくとも分かっておる。と言うよりも、ワシはそれで良いと思っておった。出会いは大切にするべきじゃ。好いた男が居るのであれば、尚更にな。……ソフィーの疲れはそろそろ限界じゃろうから、こちらさんの問いにはワシが答えておく故、今は休みなさい。それと――その槍と剣を扱う事が出来たザック殿も、ソフィーに付き添ってやって欲しいんじゃが……構わんよな?」


 ソフィーにそう告げる老人の言葉は優しく、まるで本物の祖父が娘に声をかけているかのようであった。ソフィーはその言葉を聞くと俺とザックを交互に見たが、俺がそのやり取りに口を出さなかったからなのか、はいと言うと近くの民家に向かっていった。


「……んじゃぁ、俺も休ませて貰うとするか。なんつぅか、流石に疲れたわ」


 そしてソフィーの後を追うようにザックが駆け足で民家に向かう。

 元々ソフィーよりも大柄であるザックはすぐにソフィーに追いつき隣に並んだ。どちらも声を発しているわけではないが、何となくお互いの距離が近く感じる。

 ソフィーとザックは近くの民家に消え、この場に残ったのは俺たちとスイ……そして、かたり人の老人だけであった。


『何があったのかは知りませんが……ザックさんたちだけで行動させてもいいんですか?』


 構わないだろ。


『……レクサスさんは魔女の城で力を見られ――ているかどうかは分からないですが、魔女の城での戦闘での城の崩壊は見られています。加えてこの村の惨状と、それを見ていると言うのに殆ど反応しないあの態度です。一応警戒しておいた方がいいと思いますが』


 まあザックも居るし、気にしなくてもいいんじゃないか。


(その通りだ。それに、ザック一人では魔女かソフィーのどちらか一人しか逃がせん。そうなれば当然……ザックは魔女ではなくソフィーを選ぶだろう。結局の所、逃げられたとしても大した問題ではない)


 ……そういう問題なのだろうか?

 俺としては、ザックがソフィーと一緒に逃げるとは思えないのだが……


「で、お前さんは聞きたい事があるのではないか?」


 そんな風にジズドとアリエルのやり取りを聞いていると、かたり人の老人が話しかけてきた。

 アリエルやジズドはザックたちが逃げる前提で話を進めているが、俺にはそうだとは思えない。


 だからザックが逃げるのではないかと考えを巡らせるよりは、この老人が何を知っているのかの方が気になる。アリエルとジズドは気にならないのだろうか?


『……確かに、そうですね。起こってもいない事に考えを巡らせるよりは、今この場での疑問を解決するべきですか』

(私は最初からそう言っているだろうが。お前は慎重すぎだ)


 まあ、とりあえずそっちは後でいいじゃないか。何か聞いておくことは無いのか?


『では、まずは私が。……まずはっきりさせておきたいのは、この老人はいったい誰なのかです。過去どんな事をしており、現状何を知っているのか。魔女を知っている風な口ぶりとソフィーさんとの会話――しかもこの場を引き受ける程度には魔女に関する知識に自信がある。……唯の老人、で済ませるには無理がありますよ?』


 俺はジズドが言った事をそのまま紙に書く。

 紙に文字を書いている俺の様子を見ていたのか、ジズドの言葉を紙に書き終え視線を上げると射抜くような眼光でこちらを見据える老人と目が合った。


 おかしな事はしていないつもりだが、何かあったのだろうか?


『紙を渡してみれば分かるんじゃないですか?』


 ……それもそうだな。

 ジズドの言葉に納得し、伝えたい事を書いた紙を手渡す。


「……思ったよりも普通の事を聞くんじゃな、お前さん。しかしワシが過去に何をしていて、現状何を知っているのか、か。これは魔女を……レーヌの事を、知っている事にも繋がってくる話じゃ。多少長くなるが、構わんよな?」


 魔女の本名を知っているのか、と。

 その事に対する驚きと興味が胸中を占め、多少話が長くなるなど気にならず肯定の意思を伝えるために首を縦に振る。


『魔女の本名を知っていて、あの態度……なるほど、面白いですね』


「ワシは、そうじゃな……一言で言えば、大昔に魔女レーヌの従者をしておった男じゃよ。嘘をついておると、そう思われても仕方ないが――それがワシがかつて持っておった肩書きじゃ。そして、今ではその肩書きを捨てて唯の爺として生きておる。不老不死の法を得られなかった唯の人間。何処にでもおる、枯れかけの爺じゃよ」


(その説明は、幾らなんでも無理があるだろう。不老不死に近づいた四人組の話を聞いたのは、ずいぶんと昔の話だ。人の寿命では、長命で説明できる範囲を超えている)


 当然、俺はその事を伝える。

 どれほど昔の話だと思っているのだ、そんな時代の人間が生きているわけが無いだろうと。……それこそ、不老不死でも得ていなければ。


「そうじゃな……お前さんが【不老不死】に関してどういった知識を持っているのかは分からんが――まず最初に話しておかねばならんのは、レーヌたちが体得した不老不死とは、常人が想像するより万能ではなかったという事じゃ。そして、ワシが人の寿命を超え生きているのは、その副作用と言える技の所為でもある」


 ……話が全く見えてこない。もったいぶらず、さっさと全貌を話して欲しいものだ。

 そんな俺の雰囲気に気付いたのか、少しだけ考えるような素振りを見せた老人はすぐに口を開く。


「……不老不死。不老になり、不死になる魔法。言葉にしてしまえば万能のように聞こえるが、その実万能からは程遠かった。――何故なら不老不死の解釈が、人によって違っていたからじゃ」

「そもそも不老不死とは何じゃ? もしも不老と呼ばれる事が現在の状態から変化せぬ事であったとしても、その解釈は多岐にわたる。例えば魔を極め、寿命がほぼ無いと思ってよい魔族へと至る事も立派な不老じゃ。怨霊となってしまった者は個我こそ残らぬが不老じゃし、表向きは禁忌とされておるが不死者なども不老に当たる。老いた体を捨てて新たに作り出した肉体に中身()を移し替えてしまえば、実情はどうであろうと外見的には不老じゃ。そもそも常に肉体を再生させ続ける莫大な魔力があれば、少なくとも肉体が“劣化”することは無い。……分かるか? 少し考えただけでも、不老になる方法など幾らでも思い浮かぶ。そしてそれは、不死にしても同じ事じゃった」

「不老にしろ不死にしろ、至るための方法が重要なのではない。至った後に不老や不死をどう維持するか、これこそが重要じゃった。そして、その問題をどうにか実用できる状態にまで昇華できたのが……ワシがかつて共にあった四人組が考えた、四通りの【不老不死】の魔法じゃった。そして、先の話を聞けば何となく分かったとは思うが――その四通りの方法ですら、完全な【不老不死】ではなかった。完全な不老不死は無いと、それがワシらがたどりついた不老不死の極点じゃった」


 かたり人の老人は一度言葉を区切り、何かを思い出すように目を細める。

 その目が何を見ているのかは分からないが……少なくとも、彼が見ている何かは彼にとって嫌悪するものではないのだろうなと、そう思える。

 誇らしさと懐かしさ、それ以外にもごちゃごちゃと。

 それはかつての栄光を思い出しているような――大切な宝物をしまった箱を開けるような、そんな雰囲気を感じさせた。


「お前さんには軽く語って聞かせたはずじゃが、ワシらが不老不死と呼ぶ魔法を体現した者は四人おってな。一人は【闘鬼】ゼン。そして【人形の魔女】レーヌ、【凪の風王】ヴァレイと続き……最後の一人は【白翼】プルクラと言う者たちじゃった」

「しかしその不老不死なのじゃがな――結局【闘鬼】と【凪の風王】は不老不死を良しとせず使わなかったのじゃよ。【凪の風王】は不老不死まで含めほぼ全ての魔術を極めてしまったから、これ以上生きていても刺激の無い生が長くなるだけと言っておった。とは言え、あやつは元々が殆ど不老のようなモンじゃから、今でも死んではいないじゃろう―――ワシと同じぐらいの爺には、なっておるじゃろうがの」

「【闘鬼】ゼンは生粋の戦士での。衰え、死ぬ。そこまで含めた全てが戦士である己なのだと言い張っておった。まあ、それにはワシも同感じゃったがの。若さに任せた身体能力と積み上げてきた技のバランス、一歩を踏み出す勇気と引く事の出来る強い意思、それらから来る駆け引きと読み合い、次の瞬間には勝敗が決するあの緊張感は、不老不死では味わえん―――と、少し長くなってしまったが、まあそんなもんじゃ」

「しかし……【人形の魔女】レーヌと【白翼】プルクラは違った。己の体得した不老不死で、世界を――未来を、よりよくしようと思ったのじゃ。【闘鬼】と【凪の風王】が体得した不老不死が、己一人を不老不死にするものであったのに対し、【人形の魔女】と【白翼】の不老不死は他人に影響を与える事ができたのも、考え方に差を生ませる原因だったのかもしれんが……今となっては、確認する術がないから、詳しいことは何も分からんがの」


 そして、かたり人の老人は言葉を区切った――


「それぞれがどの様な不老不死を得たのかは、ワシの口からは言えん。そういう契約であったし、これは部外者になってしまったワシの口からは言うべきではないと思っておる……どうしても、と思うならレーヌから聞いてくれ」


 ――疲れ切ったように、後悔するようなその姿は――


「……それと――詳しく語る事は出来んが、レーヌの不老不死の魔法は大きな欠点があっての。その不完全な部分が長い年月をかけて彼女を蝕んでいる――それ故に彼女は、不老不死に関わらぬ過去の出来事を殆ど覚えておらぬはずなのじゃ。……そしてレーヌは人の心を次第に失っていき、周りは彼女が作った人形ばかりになってしもうた。……この村の惨状を見たじゃろう? この村に生きた人間はワシだけで、他のものは皆レーヌの人形じゃったのよ。色々と特別じゃったソフィーはともかくとして、レーヌの力が急激に衰えた所為でこの様じゃ……まあ、あやつも引き返せぬところまで来てしまっていたし、これでよかったのかもしれん」


 ――何かを諦め、ゆっくりと朽ちる事を待つ老人その物であった。


「これが、ワシの過去と今知っておる事じゃ」


 ……

 …………まあつまり……この老人はかなり昔に魔女の従者をしていて、今は隠居生活をしている。

 で、魔女を含めた四人組の事も知っていた、と。

 ただ不老不死の魔法は四通りしか存在しないから、この老人が生きているのは、よく分からないけど別の理由がある。

 纏めてしまえばこんなものだろうか?


 自分なりに老人の話をまとめ、だから何なのだととアリエルたちに聞こうとした時、不意にジズドが口を開く。それはどちらかと言えば独白に近く、思っている事がついつい口から漏れてしまったかのようだった。

 何故? どうして? と込みあがってくる疑問を押さえられていないのだろう。……俺としては、何をそこまで疑問に思っているのか、と思ってしまうわけだが。


『【闘鬼】ゼンに【凪の風王】ヴァレイ――……どちらも聞いた事があります。たしか【闘鬼】ゼンは今はもう滅んでいる小国出身の英雄でしたが、王都建国の際に【教会】の創設に反対したある団体の主導者的立場だった大反逆者でもあったはず。争いの絶えなかった辺境で磨かれた武勇は無双を体現し、追い詰められてたった一人になりながらも女神の使徒を皆殺しにし初代国王直属の近衛騎士団を半壊させたとか……』

『【凪の風王】ヴァレイも似たようなもので、こちらも既に滅びた国出身の魔術師だったはずです。風に関連する魔術の基礎を作り、体系化させたのは彼だったと伝えられるほどの使い手だったはずで――彼が扱う風の魔術は絶対に見えず、感じられないなんて言われ、不可視の魔術は空間を支配するようだったとか……ですがやはり、彼もゼン同様に教会を襲撃した一人で、討ち取られこそしませんでしたが生死不明のまま表舞台から姿を消している』


 ……全く知らなかったが、そんな人物が居たのか。

 王都の歴史にでも記されていたりするのだろうか?


『しかし――この老人に以前話を聞いた時は「一人の男は戦場に立ち、一人の男は国に戻った」と……伝えられる人物像的に考えても、戦場に立った男は【闘鬼】ゼンで国に戻った男は【凪の風王】ヴァレイのことでしょう。ですがそうなると……おかしな事になってしまいます。私が知っている歴史では……放浪の旅から戻ってしばらく経ったある日【闘鬼】ゼンは女神を求め、それに賛同した同志たちと共に王都の教会に強襲を行ってそこで討ち取られています。ヴァレイの方もゼンと接触後彼の行動に賛同して己の魔術の研究を中止。傭兵やゴロツキ、継承権のない貴族の末端を束ね上げ一大組織を築き上げているはず。――この組織は当時の【大反逆】後に王都の武力部隊として吸収され、後に討伐者ギルドと探索者ギルドと呼ばれるようになり、大規模な戦闘を担当する部と情報の整理や真偽の確認などを行う部に分けられたはずなのですが…………レクサスさん、知り合い相手にここまで規模の大きい事をやりますか?』


 ……正直に言えば頭が痛くなりそうだし、急に話を振られても何を言っているのか分からない。しかも、そもそもの話をすれば……


 ジズドは【闘鬼】と【凪の風王】が女神と知り合いのように語っているが、お互いが知り合いじゃないと言うだけの話なんじゃないのか? 


『……あのですね……良いですか、よく思い出してくださいよ? 不老不死を得た人たちは「四人組」だったんです。で、魔女の城の門に三つの石像がありました。「大剣と大盾を持った男、杖を持った男、翼が生えた女」の三つです。そして、城の持ち主はその三者ではない魔女でした。加えてさっきの話を信じるなら、特徴的に考えても性別的に考えても「翼が生えた女」が放浪の旅に出た【白翼】と呼ばれる不老不死の魔法を持つ四人目である事は確実です』


 そうだな。


『……つまり、です。王都の教会が作られた時期と彼ら四人組みが各地に散った時期が重なっている上に、ザックさん曰く魔女の城にあった「翼が生えた女」の石像と王都の女神像は似ているんですよ? あんな場所にある事を含めて考えても、魔女の城の石像が教会の女神像を真似して作った可能性は限りなく低いです。しかもアリエルさんの話を聞く限り女神は高度な癒しの力を使うらしいですから……その癒しの力が【白翼】と呼ばれる彼女の持つ不老不死の魔法そのもの、もしくは一端である可能性はかなり高いんじゃないですか? そしてもしそうなら……【女神】と【白翼】は同一人物と言う事になります』


 ……つまり、どういうことだ?


『……要するにですね……【闘鬼】ゼンと【風凪の風王】ヴァレイは教会の女神……おそらく【白翼】プルクラである女神は、互いに知り合いであった可能性が非常に高いという事ですよ。加えて言えば【闘鬼】ゼンも【凪の風王】ヴァレイも不老不死の魔法は会得しているし、老人の話を聞く限りでは彼らの仲は良好だったはず――なのに何故大規模な組織を作り上げ、教会を襲撃してまで女神を……知り合いを求める必要があったのですか? 意味が分かりません』


 言われてみれば……なるほど、確かにそんな気がする。


(仲違いがあっただけではないのか?)

『【闘鬼】と【凪の風王】 そのどちらとも同時に仲を違えたとは考え難いです。……それこそ、彼らにとって許せない何らかの裏切り行為でもなければ』


 なら裏切られたんじゃないのか?


『そうなると、その事に老人が触れていない事がおかしくなります。ソフィーさんが町に出向いているのですから、先ほど語ったような大きな事件であれば最低限の事は知っていると思います。しかも【人形の魔女】と【白翼】が世界だ未来だをより良くしようとしている事を知っているのですから――己の主でもあり目が届く場所に居る魔女の方はともかくとして、【白翼】の情報は集めていて然るべきだと思います。……そして老人は「もう確認する術がない」とも言いました。魔女が記憶を無くしていく以上そちらに過去の出来事を聞けるとは思えません。つまり「以前は確認する術があった」と取れるこの言葉は、正気である【白翼】が今尚生きているとも取れます』

(なるほど、つまり【闘鬼】と【凪の風王】がかつての行為に走ったのは【白翼】の裏切りではなかった。しかし【白翼】と連絡を取る事はできなくなっており、だからと言って死んだわけではないと)

『虫食い状態の話を元にして、老人の話を信じるのであれば、ですが』


 ……

 …………ああ、なるほどわからん。


 つまり何だ? どういうことだ?


(王都の教会が胡散臭い、つつけば面白いかもしれんという話だ)


 なるほど、分かった。他の話題はないのか?


 さっさと次の話題にいきたい。

 何を言っているのかさっぱり分からない。気になっていれば後々アリエルかジズドが何をやればいいのか分かりやすく説明してくれるだろうから、それを待つとしよう。


『……そう適当に纏められるのもあれですが、確かにこれ以上の事は今考えても分かりませんか。次は、そうですね……ソフィーさんについて聞きたいです』


 俺はジズドの問いを、そのまま老人に伝える。


「ソフィーについて、か。ソフィーは……そうじゃのぉ――もう一人の魔女……とでも言えばいいか。これもレーヌの不老不死に関わる事ゆえ口にはできぬのじゃが……ソフィーは、唯一ワシが“創った”人形じゃ。――――――…………これ以上の事は、言えそうに無い」


 ……何と言うか、これ以上は聞いても無意味な気がするな。


『…………そのようですね。では最後に一つだけ……あなたが喋る事ができない原因は――呪いですか? 祝福ですか?』


 なんだそれは、と。

 そう思いながらその問いを老人に伝えると、老人は驚いたように目を見張った。

 そしてすぐに苦笑するような笑みを浮かべ、言葉を紡ぐ。


「最初は祝福じゃった。しかし祝福を受けた事は苦悩へと変わり、呪いのようにワシを苦しめた。じゃが時間と距離を置く事で祝福が薄まった時、ワシに残っていたのは未練だけじゃったよ。しかしおぬしと……何よりザック殿のおかげで、ワシの未練は無くなった。――これで満足かの?」


『なるほど……長くなりましたが、私は聞きたいことは聞けました』


 だからお二人ともどうぞ、と。そんな雰囲気が伝わってくる。

 ……これ以上何を聞けばいいと言うのだろうか。


 俺は、これ以上聞くことは無い。


(私もだ)


『そうですか? では魔女の所にでも向かいましょう。落ち着いてじっくり考える場所と時間もほしいですし、さっきの説明もしておきます』


 ……正直何が何なのか分からないが……まあ、ジズドが分かっているようなので取りあえず良いだろう。


 いい加減に何を言っているのか分からない。

 そう結論付けた俺はかたり人の老人と共に、ソフィーと魔女が休んでいる民家へと足を向けた。











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