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迷宮の王をめざして  作者: 健康な人
一章・鉄の王編
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~氷の女王と水精・幸運な探索者~ 

誤字修正しました 3/11

 レクサスはメディアにスイの事を任せて早々に池から立ち去ってしまった。

 アリエルはスイに後の事は好きにしろと言っていたが…スイは死者の都のことを何もわかっていない。そんな中で自分の好きにするようにと言われて任せられても、困るだけである。

 だと言うのに任せられた。そう、彼女にとっての家造りの本番はこれからであったのだ。





「…行ってしまいましたね」


 レクサスは訳の分からない技術で造りこんだ竜を従えると、もうここに用は無いとばかりにこの場から立ち去ってしまった。その技術は私が必死になって戦力を増やしていたのが馬鹿馬鹿しく感じてしまうほど高度なものものだった。

 竜の骨の表面を覆う土の中に張り巡らされた魔力の血管としか言えない何かは、複雑に絡み合いながらもお互いを邪魔していない。それはまるで一本一本の血管に意思があるかのようであった。


「……イエ…マカセ、ラレタ……デモ…ナニ…スル…ワカラ、ナイ……メディア…ワカル…?」


 そんな事を考えていたのだが、スイに話しかけられたことで私は考えるのをやめた。

 今はスイの家を造る事が先だ。先ほどの術について考えるのであれば後からで問題はない。


「私にはあなたが何をしたいのかは分かりません。ですが、何をやってもダメだと言われる事はないでしょう。スイの好きにして良いと思いますよ」


「…スキニ…スル…イイ………ナラ…ケッカイ…ツクル…タカラモノ、モ…ツクリ…ナオス……チカラ…イッパイ…イル………デモ…ダイジョウブ、ナラ…スキニ…ヤル…」


「結界と宝物ですか。ここには魔力はありますから結界を作るのは難しくないでしょうが…宝物と言うほどの物を、そう簡単に作り直せるのでしょうか?」


「……チカラ…アレバ…ダイジョウブ……ツギ、ハ……コワレ、ナイ…ツクル…」


 スイはそんな事をいい、雪が水面に触れる事で小さな波紋を作り出している池に近づくと水でできた手を池に突っ込む。するとスイの手から流れのような物が生まれた。

 それは川のように一方に向かって流れていく物ではなく、大きな石を水に落とした時のように複雑でありながらも雑な物であった。

 しかもそれはただの流れではない。それは先ほどレクサスが竜を造るのに用いた術のように、血の通っていない池に魔力で出来た血管を張り巡らせたかのようだ。


 「流れ」に組み込まれた魔力が池に不可視で立体的な魔方陣を池の中に描いている。魔法陣の核となる魔力の塊は全部で三つあるようだ。

 どのような効果なのか、それを言い切ることは出来ないが……空間を狂わせる結界…おそらく、魔方陣の内側にある空間を繰り返すものだろう。


 術にかかった事さえ知覚させず相手を罠に嵌める事ができる強力な術なのだが……陣魔法のように地面に描けば効果が得られる物と違い、対象者の上下左右前後を全て魔方陣で覆わなければ効果が得られない。

 一本道の通路に仕掛けておくことで、敵を通路に閉じ込めるというのが主な使い方なのだが……魔方陣を上下左右前後の全てに仕掛けなければいけないため、大体の場合はすぐ気付かれる。

 知識がない者に対しては効果的だが…その程度の相手であれば、面倒な仕掛けを作らなくとも直接手を下したほうが早い場合がほとんどだ。

 ならば強い者に効果的なのかとも思えるが……あまり効果的ではない。上下左右前後を魔方陣で覆わなければいけないという性質上、どこか一箇所…何か一つが破壊されたらそれで終わりだ。壁か地面、天井のどこかに傷を付ければ効果は失われる。

 しかもこの結界…相手を閉じ込めておく目的で作られた物でありながら、内側からの転移を防ぐ事ができない。しかも閉じ込めるための空間は一つであるため、その結界に別の人物が入れば閉じ込めたはずの人物と会う事が出来るというおまけつきだ。しかも、結界の中は術者でなくとも自在に弄り回す事ができる。

 結界の中で生きていけるのであれば閉じ込める意味がない。

 …まあ、先に進む事ができないという役割は十分果たしてくれているわけだが。


 とにかく、この結界は効果以上の欠陥を持っているのだ。

 ……まあ、この術もそうだが、こういった強力かつ特殊な術はかつて存在していた強大な魔族が遊び感覚で作り出したものである事が多い。そして遊ぶための物である以上はどこかに抜け道が存在する。

 故に何らかの……それも見えやすい穴があるつくりであることが多く、本気での戦いになればいまいち役に立たない。


 だが、スイが作り出したこれはうまく考えられていると思える。

 池の中の水が魔方陣を描いているため見た目と言う点ではまず気付かれない…魔力の流れを注意して見る事で今の私のように気付く事ができるだろうが…気付くことが出来る者は少ないだろう。通路のような一本道ではなく、池という開けた場所に仕掛けられているため警戒される事もほとんどないはずなのも評価できる。何より…水で描かれた魔法陣であるため壊される事がないし、流れが一方向に向かっていないため無力化されにくい。

 例えばだが、これが川のように一方向にしか流れないものを使い作り上げた物であれば、強い魔力か石の巨人のような巨大な存在を空間に飲み込もうとした時、流れが狂い結界が破れる可能性がある。そうなれば結界に負荷がかかり核は破壊されるだろう。

 スイが作った物は、流れを最初からある程度狂わせておく事で流れが狂った時の負荷を減らしているのだ。核を三つにすることで流れをうまく操っているのだろう。

 高い完成度の高い物を作り上げておきながら万が一を考えておく作り。

 それは、かつての私にはない物だ。


「すばらしい出来ですね」


「…コンド、ハ…コワレル…ナイ……カンガエ、タ…」


「……そうですか。以前の事は知りませんが、これほどの物を作ることが出来るのであれば…それは、誇るべき事だと思いますよ」


「……ソウ…?…」


「私はそう思います」


「…ソウ……アリ、ガト……」


「思ったことを言っただけです……これでこの池が完成であれば、これから死者の都を案内しておこうと思うのですが…どうでしょうか?」


「…オネガイ………アト…メディア…ノ…イエ…ミタ、イ…」


「分かりました。まだ完成していませんが案内しましょう……それと…もし良ければなのですが、私の家造りに協力してほしいのですが、どうでしょうか?」


「…?…メディア…イエ…ナイ…?…」


「持っていますよ。ただ、死者の都に力の供給を繋ぐのが難しいんです。魔力の供給だけであれば簡単なのですが…空間を繋げるとなると、なかなか思うようには出来なくて……スイはその方面が得意なようですし、色々と聞きたいと思ったのです」


「……オシエル…ワカッタ…」


「助かります」


 戦力は確実に増えている。

 私の護りとなる鎧の巨人。

 空間を歪める高度な結界を使いこなすスイ。

 そして、放置しておきながら今更強化した竜。

 魔力を物質化する悪魔は城の修理や武具の作成を行っており、死霊兵一体一体の力は確実に上がっている。特殊な効果を持つ武具の作成は確実に進んでいる。今のまま進めばだが、強力な兵が生まれるのにそう時間はかからないだろう。



  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 俺は迷宮都市に戻るとまず水玉を半分に分けた。

 半分は記念に残しておき、残り半分をロウに売りつけるつもりだ。半分に分けてもそれなりの量があるためしばらくは金に困らないだろう。

 …まあ、そう考えていてもすぐに使い切ってしまいそうだが。


 半分を大事に服の内側にしまい込み、残った半分は手に持ったままロウの店へと足を運び勢いよく扉を開ける。


「おいロウ、この水玉いくらになる?」


 扉を開けてロウを探し、机に水玉の入った袋を置く。

 俺の言葉を聞いたロウが一瞬だけ驚きの表情を見せた。こいつが驚くなんて久しぶりに見たな。


「水玉だぁ? お前が金になるもん持ってくるなんて珍しいな」


「一発当てるって言っただろ」


「…まさかとは思うが、魔族の迷宮か?」


「そうなんだよ! いやぁ、マジですごかったんだぜ!? ……正直に言えば、死ぬかと思ったくらいにはやばかったわ。やっぱ話で聞くのと実物はモノが違うな」


 そんなことを言いながら体が水で出来た魔族のことを思い出す。

 思い出すだけで体が水の中に飲み込まれたように感じる、粘つくように濃密な魔力。術式さえなく高度な技である転移系統を発動させる、あの技量。

 魔族と言う種族的に考えるなら、あれは魔術とはまた違った系統の物かもしれないが……俺からすれば大した違いはない。


「よく生きて戻れたもんだな」


「お前の紹介のおかげだ。あの人が居なけりゃ死んでたかもしれん」


「…強かったのか?」


「戦闘になってねぇから、よくわからん」


「……はぁ、なるほどねぇ。変な事聞いちまって悪かったな」


 俺の返事を聞き、ロウが会話をきる。

 好戦的なものが多い魔族と遭遇したが、戦闘にならなかった。

 それは魔族が好戦的でなかったか……あるいは、魔族が戦う事を躊躇うほどにこちらが強かった時だけだ。

 もし後者であったので場合、魔族が戦闘を躊躇うほどの実力者であれば僅かな特徴だけでもすぐに正体に気付く事ができる自信がある。

 俺は大して強くは無い。であれば、必然的に強いのはあいつだってことになる。

 だが正体はまったく分からない。本人も正体を隠しているようだし……そうなると下手な事は絶対にしたくない。

 しかし…掴み所はないが実力はあるし、俺を守ってくれた。扱う魔術のおかげで探索自体も楽になったし、気前だって良い。何より俺の集めた噂話や伝承、伝説に興味を示してくれたのだ。あれは嬉しかった。しかも自分に必要ないからといって今回持ち帰ることが出来た宝まで渡してくれたのだ。今後のパートナーとしてこれ以上の存在は居ない。


「別にかまわねぇよ。それよりさっさと水玉を見てくれ。俺が金欠なの知ってんだろ?」


「分かった分かった。そう急かさなくてもすぐに見る」


「おおよ、さっさと見ていいぞ。そんで驚いていいぜ?」


 ロウは俺の軽口に鼻を鳴らしながら机の上に置いてあった袋を手に取る。

 そのまま水玉を袋から取り出し…驚愕に目を開いた。

 何をそんなに驚いてるんだ、こいつは?


「…お前の軽口はいつもの事かと思ったが…これは驚いたな。どんな大物から奪ってきたんだ?」


「奪ったんじゃなくてこんぐらいの嬢ちゃんから貰ったんだよ。家探しの報酬だとよ」


 手で胸の下あたりに線を引くように動かす。

 宙に浮いていたため正確な大きさはわからないが、おそらくこれぐらいであったはずだ。


「…まあ、何でもいいけどよ」


 これは信じてないな。まあ、別に信じてもらいたい訳ではないからどうでもいいが。


「んな事はどうでもいいじゃないか。それより、いくらになる?」


「そうだな……これぐらいでどうだ?」


「…俺の知ってる相場の倍ぐらいじゃねぇか。何考えてやがる?」


 いつもみたいに相場より安い値段で売れなんていわれるかと思っていたのだが……あのロウが倍の値段で買い取るなんて言い出すとはな。一体何考えてやがるんだ?


「……いいか? こいつがかなり濃厚な魔力を宿してるのは認めるさ。それだけ見りゃ確かにかなりの値打ちもんだ。だがな、欠けちまってるから中の魔力はかなり散ってる。だったら残ってる魔力量的にもこれぐらいの値段が妥当だろ?」


 …どうやらロウは、俺が渋ったのだと勘違いしたようだ。

 と言うか、冗談で言ったつもりだったが…本当に値打ちもんだったとはな。しかし…あの人はそれが分かっててこれを俺に渡したのか?

 …そう言えば、次の迷宮に行く時まで取っておいてもいいなんていってた気が…もしかして、売らないほうが良かったのか? だが今は金なんか無いからどの道売らないとどうしようもないし…


「…半分だ。その袋の半分なら売ろう」


 考えた結果、俺は袋の半分を売る事にした。

 正直に言えば売る気分ではなくなっていたが、ロウに実物を見せてしまい引っ込みがつかない事と生活のために必要な金のことを考えれば仕方ないだろう。

 ロウが示した値段も本来の相場の倍であるから、半分売れば最初に考えていた金額は手に入る。

 量的には俺が持っている四分の一の量なのだが…ロウは俺が服の中に水玉を持っていることは知らない。ロウからすれば半分買い取る事ができたことになるため納得するだろう。


「まあ仕方ないか。半分だけ買い取らせてもらうぞ」


「はいよ。……あと一応聞いときたいんだが、何で水玉の値段をそんな値段で買ったんだ? 確かに値打ちもんだとは思うが、水玉自体はそこまで珍しいもんでもないだろ」


「売れるからに決まってるだろ。何でそんなこ聞くんだ…って、そういやお前は出掛けてんだったな」


「一人で納得するな。教えてくれよ」


「ルフ要塞の状況はお前も聞いたことぐらいあるだろ?」


「ああ、近づきたくはない状況だったな。…何かあったのか?」


「少数精鋭の討伐者ギルド支部みたいなもんを作るんだとよ。鋼板に名前を書けばルフ要塞に居る間は身分が保証されるらしい。死者の都の悪霊一体討伐で銀貨一枚。有効な討伐方法を考えれば金貨百枚。…王種【喰らう者】討伐で金貨五千枚だとよ。それ以外の強力な悪霊を討伐すれば個別に報酬が支払われるらしい。しかも死者の都を王種討伐者の領地にすることも認められたって話だ。そのせいで人がほとんどあっちに流れやがった。売れるもんも戦闘用のもんばっかだ」


「金貨五千枚って…まじかよ。領地も死者の都の分を使えるみたいだし、国が出来るぞ?」


「周りの国はそのつもりらしい。死者の都周辺の国は何だかんだで小国だ。あの辺りの流通の中心でもあった死者の都…大都市ジズドを廃墟になる前の状態に戻したかったらしい。いろんな事情で足並みが揃わなくて今まで放置されてたわけだが…今回共通の敵が現れた事で足並みが揃ったって話だ。しかも戦闘能力の高い鬼族も種族を挙げて全面協力だとよ。鬼族が連れてきた種族もルフ要塞に集まってるって話だ。……もうあっちじゃ様々な種族が住む事が出来る国造りだって盛り上がってるらしいぜ? 人も増えたからルフ要塞を囲むように壁を作り直したって聞いたな。規模を聞く限りじゃぁもう要塞じゃなくて都市だよ」


「そりゃまた……で、連中はいつ攻めるつもりなんだ?」


「報告さえすれば後は個人で自由にやれって方針で行くつもりらしいから、その辺りのことは分からん。まあ、気の早いやつはそろそろ攻めるんじゃないか。たぶんだがな」


「……大体分かった。しかしあれだな。小国はそれでいいだろうが、そんな理由じゃ王都の連中は動かないだろ。……何があったんだ?」


「不死の秘宝があったんだとよ。ほんと呆れるぜ」


「噂話がマジだったのか?」


「真偽は知らん。ただまあ、王都の連中はそれがあると踏んだから力を貸してるみたいだ」


「へぇ…よくやるもんだな。頭が下がるわ」


 大々的にやってはいるが結局兵士を集めているに過ぎない。身分を保証しているのはいざと言うときにすばやく人を集めるためだろう。

 ルフ要塞にいる連中も、状況がそこまで整っているなら死者の都を攻めなくともルフ要塞が既に大都市になっている事に気付くべきだと思う。

 要塞都市ルフ。十分やっていけると思うがな。

 だがまあ、死者の都の悪霊に脅威を感じすぎて排除以外の考えが頭から飛んでいるのだろう。

 …まあ、大量の金と英雄になれる機会まで目の前にあれば飛びついて当然か。


「まったくだ。…とにかく、これからはルフ要塞が熱い。行ってみればどうだ?」


「死者の都に行くくらいなら別の場所に行くわ。…しかし金貨五千枚ね。どう考えても盛りすぎだろ。そんだけ金持ってりゃ上流貴族の仲間入りじゃないのか?」


「炎帝を中心とした討伐者ギルドの連中がそれぐらいにしろって言ったんだとよ。危険度は金額で表すべきだってな。だがまあ、許可が通ったってことは連中がそれだけ本気って事だろ」


 その通りなのだが…よく通ったものだ。まあ、俺には関係ない話みたいだが。

 聞くことは聞いたし次の旅の準備をするか。


「なるほどね。まあ、向こうに支店を出すつもりなのか商売だけなのかは知らんが頑張ってくれ。俺は次の準備があるから帰るとするわ」


「はいよ。…それと夜には転移の宝珠が届くから安く売ってやる。その時また来い」


「いつも助かるぜ」


 そう言い俺はロウと別れた。

 しかし死者の都とルフ要塞か。あの辺りは何もない事だけが売りだったてのに、いつの間にか物騒になったもんだな。




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