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迷宮の王をめざして  作者: 健康な人
一章・鉄の王編
49/72

池造り

遅れました。


少し修正しました  3/6

 死者の都へと続く門を潜り、降り積もった雪を踏みしめる。

 スイも俺の後に続き門を潜り死者の都へと足を踏み入れたわけだが…雪や氷が視界を埋め尽くす中に水でできたスイが居る事に若干の違和感を感じてしまう。

 見慣れていないだけなのかもしれないが……スイに対して感じるこの僅かな違和感は、一体何なのだろうか?


 …まあ、しばらくすれば気にならなくなるか。

 とにかく、まずはメディアを探すことにしよう。





 いつものようにメディアが居るであろう月の木が生えている辺りまで移動したのだが…そこは以前来た時よりも多くの氷の木が生えていた。

 氷の森と言えるほどに量を増し、確実に死者の都の中でその範囲を広げている。

 以前であれば遠くからでも月の木を見ることが出来ていたが、氷の森のは薄い吹雪のようになっており遠くを見ることが出来なくなっている。

 氷の草は以前からよく見かけたが、氷の木はこれほど多くなかったはずだ。それだけメディアが戦力を増やす事に力を注いで居ると言うことなのだろう。


「お帰りなさいませ」


 氷の森を眺めながらそんな事を考えていると、どこからとも無くメディアが現れて声をかけてきた。

 声が聞こえてきた方を向くと、メディアとその背後に控えている巨大な鎧が視界に入る。

 前回もそうだったが、いつの間に近づいてきたのかまったく分からなかった。今回は巨大な鎧まで居たと言うのに、だ。これはもう、メディアには何か特別な移動方があると思っていいだろう。


「そちらの方は…新しい配下の方でしょうか?」


 配下…ではないな。


 死者の都に家を造るのだから同居人か、近場に住んでいる顔見知りくらいが適切なのではないだろうか。


「そうなのですか?」


(なんだ、配下にするつもりはなかったのか)


 水精は弱いんだろう? なら、配下にする必要は無いと思ってな。


(ここまで連れて来たのだから配下にしてやれ。でなければ、こいつもいろいろと不便だろう)


 別にそれは良いが…役に立つのか?


(さあな。だがまあ、大地の裂け目の事もある。何を言っているのか分からん事も多かった事だし、そういったことに詳しいメディアに任せておけば良い結果を出すかもしれん)


 言い出した割にはずいぶんと適当だな。

 いつものアリエルであれば必要ないとでも言い出しそうだが、今回は配下にしたいとでも言うかのような気遣いのような意思が感じられる。何を考えているのだろうか?


 だがまあ、水精を配下にするのが嫌と言うわけではない。アリエルの提案を断る必要はないだろう。


(では契約するか。……スイ、正面に来い)


 アリエルがそう言うと俺の背後に居たスイが滑るように正面へと移動した。

 スイが正面に移動した時、何時ものように契約の意思が伝わってきたためその意思に従ってスイを配下にする。契約にも慣れたものだ。


 配下になった事だし紹介しておくか。今後はメディアに任せるようになるだろうしな。


 メディア、こいつは水精のスイだ。


「水精ですか?」


 そうだ。先ほど契約したが、こいつの家を造る事を約束していてな。家を造ることは俺がやるが、メディアは死者の都についての説明をしてやってくれ。


(この娘…メディアからこの場所について話を聞いておけ)


「分かりました」


「…ワカッタ……メディア…ヨロシク…」


「よろしくお願いします。ただ…説明、と言っても私も分かっていない事が多いですから、ある程度の事しか教える事ができません。ですがまあ、ここに来てから私が話せる方はあなたが初めてです。長い付き合いになりそうですし、友好的に過ごしたいものですね」


「…ソウ…ナカヨク…スル……ワカッタ…」


 メディア任せになってしまうが、死者の都の説明はこれで何とかなるだろう。

 次は…家だな。

 以前死者の都を見回った時には、ちょうど良さそうな穴や窪みはなかったはずだ。であれば、自分でそういった物を造るしかない。

 そして、せっかく造るのであればそれなりの物を造りたいと思う。水はアリエルが何とかしてくれるだろうから……


 必要なのは開けた場所だな。


「開けた場所が必要なのですか? であれば、中央広場の噴水跡はどうでしょうか。雪の下には瓦礫や武具の残骸が溢れていますが、中央広場であれば比較的そういった物が少ないです」


 中央広場の噴水跡か。

 言われてみれば、城の正面に開けた場所があったような気がする。

 あまり注意深く見ていなかったが、上半身が吹き飛んでいる像があった場所のはずだ。…まあ、それ以外のことは覚えていないわけだが。

 …とりあえず、中央広場まで行ってみるか。そこがだめそうならスイが何か言うだろうし、何も言わなければそこに造ってしまえばいいからな。


 メディアの話を聞きある程度の行動方針を固めた俺は中央広場へと向かった。








 中央広場についたわけだが……確かにメディアが言っていたようにかなりの広さがある。

 場所は見つけることが出来たが…さて、どうやって池を造るか。

 穴を掘れば良いだろうと思うが、それだけで良いのかとも思ってしまう。

 しかし家を造るとは言ったが、大地の裂け目で見たような石でできた家を造る事はできない。


 …

 ……本人に聞くか。


 アリエル、スイの言っている『家』はただの池で良いのかどうかを聞いてくれ。石を組み上げて家を造る事はできないからな。


(スイよ、お前はどんな物を欲している? ただの池か? それとも、形を持った建造物か? ただの池であれば今すぐにでもここに造りだせるが、建造物となると難しいぞ)


「……イケ…オネガイ…ココデ…ダイジョウブ………」


 池でいいし、場所もここで大丈夫、と。

 そうなると後は穴を掘るだけでいい訳だが……さすがに一から掘り起こすのは面倒だし、なにより時間がかかる。


 ジズド。形状変化の魔法でどうにかできないか?


 これが出来なければ死霊兵にやらせるとしよう。


『形状変化で穴を掘るつもりですか?』


 何か問題があるのか?


『小さな穴を開けるだけであればそれでも問題ないのですが…大きな池にするほどの大きな穴を造るのであれば、さすがに問題が出ます。主な物としては、掘った分の土をどうするかと術者の魔力の問題ですね』


 以前迷宮都市の迷宮を調べた時は何の問題はなかったが、小さい穴と大きい穴を造るのであれば勝手が違うということか。

 しかし、大規模なことに使えないとは……意外に役に立たないな。


『ですがまあ、そうは言いましたが…掘った分の土は適当にまとめておけば良いんじゃないでしょうか。きちんと整備すれば一応は壁としても使えますし、壁の補強にも使えます。レクサスさんほど魔力に余裕があれば大した問題ではないですよ』


 つまり、結局は大した問題じゃないのか。

 しかし土の山か土の壁か、それとも壁の補強に使うのか、か。その中から選択しなければいけないわけだが…どれも選ぶ意味がなさそうだ。


 俺の経験から考えると、以前戦った魔族も炎帝も土の壁程度であれば簡単に破壊してしまうはずだ。そうであれば、俺が移動することを邪魔するだけの物になってしまう。大体、すぐ壊される物に時間をかける気にはなれない。

 そんな事をするくらいなら適当な場所に山のように盛っておいたほうが良いだろう。

 壁の補強も必要だとは思えない。飛竜や石の巨人であれば、その程度の補強は何の問題も無く破壊してしまうだろうからな。

 ……そうなると適当にまとめておくのが一番良い。



(……大量の土による補強か。ジズドよ、それは壁以外にも可能なのか?)


『可能ですよ』


(可能か……であれば、あまった土を使って飛竜に肉付けしないか?)


 飛竜の肉付け?


(いつかの石の巨人と戦っていたのを思い出してな。今の飛竜は骨だけだ。土でも良いから骨を覆う肉のような物さえあれば、幾らかは元の力に近づけるのではないかと思ってな)


 そんな事が可能なのか?


(土が動きを邪魔して弱くなるかもしれんが…やってみなければなんとも言えん)


『土を貼り付けた後の能力のことを考えないのであれば、土を竜の形にするだけなので可能だと思います。ただ、必要な魔力はなかなかの量になると思いますが』


 魔力が大量に必要なのか。

 大量の魔力を使ったというのに、結果的に土が動きの邪魔をして弱くなっただけと言うのはかなり嫌だな。だがまあ、もしそうなっても土がない元の状態に戻せば良いだけだし、やってみる価値は十分あると思う。


 それに、これは面白そうだ。そういった意味でもやってみたい。


『分かりました。ですが、相応の魔力は必要ですからね?』


 さすがに分かっている。


(しかしそうなると雪を払い、地面に穴を開け、掘り起こした土を使う事になるのか……ふむ…私に良い考えがある。飛竜を呼んでくれないか?)


 アリエルの言葉に従って飛竜を呼ぶ。

 しかし、現れた飛竜の見上げるように巨大な体は何度見ても圧巻だな。


(待たせたが、今から池を造る。メディアとスイは傍から離れるな……まずは私が雪を払う。ジズドは穴と飛竜の肉付けを頼むぞ)


『分かりました』


「……メディア……イッショ…チカク…イク…」


「レクサス様の近くに控えていれば良いのですか?」


「…ソウ…イッテル…」


「分かりました」


 スイの言葉にメディアが頷き俺の近くに移動する。二人が近くに来ると宙に浮き、ザックが居た時とは違いかなりの速度で上昇する。飛竜の頭が横にくるほどの高さまで上り空中に停止する。


 これほどの高さになれば広場を一望出来るな。

 そんな事を考えていると視界の下の方、噴水がある場所の雪がすさまじい勢いで雪が水へと変化していたことに気付いた。

 枯れていた噴水に降り積もっていた雪が水へと変化し、まるで息を吹き返したかのように噴水から溢れ始める。溢れ出した水は壊れた噴水を中心に渦を巻き、瓦礫を押し流しながら円状に雪を削り取っている。雪はどんどんとその姿を変えていきながら自らの領域を増していく。

 そしてしばらくすると、円状であった水はさらにその形を変える。

 外へ外へと広がっていく円の外側が壁のように高くなっていき、それに引きずられるように円の内側から水が減っていく。

 最終的に高速で回転する水の壁が、広場とそれ以外を隔てる壁として作り上げられていた。


 地面はと言えば、雪化粧が消えた事でその味気ない姿を晒していた。

 土が地面から剥がれ始め、大地が飛竜に向かって移動を始めている。その様はまるで飛竜の体が大地に食われているように…あるいはその逆のようだ。


 徐々に、しかし確実に。飛竜の足元から土が飛竜の骨を伝って体を覆っていく。巨大ではあったが太くはなかった体が急速に膨れていきその威圧感を増していく。

 砕けた骨を土が飲み込み、折れた爪が鋭く伸びながら再生していく。片方しかなかった翼が双翼になり土で出来た翼膜が姿を現す。土で出来たそれはしなやかさなどない不恰好な物ではあるが、その代わりとでも言うように二つの大地を背負っているかのような重々しい威圧感を醸し出している。

 半分ほど吹き飛んだ頭蓋は土に覆われており、砕けた痕を見ることは出来ない。土で出来てはいるが、畏怖と神秘さを両立するその顔は俺が子どもの頃に想像していた『竜』そのものだ。


 足元に存在していた地面が消え失せ巨大な窪みが姿を現していた。

 窪みの中心には渦の中心でもあった壊れた噴水が存在している。そこだけが元の姿を残しているせいで、噴水が窪みの底から生えている天然の塔のようにも見えてしまう。


 そんな事を考えながら窪みを眺めていると、待っていたとでも言うかのように水の壁が崩れた。

 それは意思を持っているかのように不自然に、内側に向かって波一つ立てることはない。水を含んだ土が自壊するように、ゆっくりと潰れるように水が窪みを満たしていく。


 土で体を大きくした竜は水を避けるようにその巨大な翼を広げて空中に飛び上がった。

 飛び上がった勢いのまま空中で力強く羽ばたいてはいるが、ただそれだけで僅かも動くことなく宙に静止している。俺たちも翼が無い状態で飛んでいるし、竜の飛行は不思議な物が多いようだ。


 そんな事を考えている内に窪みは水で一杯になっており、中央に壊れた噴水が存在する巨大な池になっていた。


(私が出来るのはここまでだ。後はメディアと話しながら死者の都に溢れている魔力を使って自由にしろ。広げても良いし、【場】として作り変えても良い)


 アリエルがスイに家のことを何か言っているようだが、俺の意識は宙を飛ぶ竜に向いてた。

 この飛竜は巨大だが、池を作るために使った土はどう見ても竜の体に使われている土の量より多い。

 どれだけ押し固めればああなるのかまったく分からないその重さから繰り出される一撃は、一体どれほどの威力なのだろうか? そして、どれほどの硬さなのだろうか? 想像もつかない。



『以前見た文献の竜を元にして、骨に合うように形を整えてみました。空も飛べているようですし、動きに問題はないとに思いますが…どうでしょうか?』


(良いのではないか。ただ、見た目が飛竜ではなくなっているようにも思うが……まあ、死んでいた時点でその言葉は無粋かもしれんがな)


 どうやらアリエルも満足のようだ。

 まあこれを見て不満を言うのであれば、アリエル以外に納得できる物を造ることはできないだろう。


『納得してくれて良かったです。また作り直すのは、さすがに手間ですから』


 しかし、思っていたよりも良い出来だ。


 死霊兵にも同じことをやれば良いのではないのかとも思える。


『それは、さすがにやめておいた方が良いでしょう。……正直に言えば、何故これほどうまく形作れたのか分からないのです。翼を動かしているはずなのに間接部分の土は壊れませんし……とにかく、もう一度作るのは無理ですから辞めておきましょう』


 分からないならもう一度やっても作れるかもしれないじゃないか。


『何となく、それは無い感じがするんです。何故かは分かりませんが』


 ……まあ、そこまで言うなら無理にやらせなくて良いか。


(しかし、やはり飛竜には見えんな。何か別の呼び名が欲しいものだ)


『死霊兵の飛竜ですから、死霊竜で良いのではないですか?』


(飛竜と呼ぶよりは死霊竜の方がましか)


 死霊竜か。

 俺的には死霊兵から名前を取った死霊竜よりは、ジズドが作り出した土を纏っているのだから創造竜の方がしっくりくる。まあ、今まで死霊兵として扱ってきたのだから死霊竜の方が分かりやすいか。


 しかしまあ、呼び名などどうでもいいか。

 とにかく、これでスイとの約束通り家を造ったのだ。アリエルも言っていたが、後はスイが自由にするだろう。


 それにしても、アリエルとジズドが揃えば何をやるのにも時間がかからない。いつもであればそのまま次に行きたい場所に行くのだが…ザックにはスイの家を造るといって別れたのだから、幾らなんでも一日で合流というのは不自然だ。ザックにはザックの準備だってあるだろう。


 …


 二、三日ほど適当に死者の都の変化を見て回って、それから合流することにするか。








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