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迷宮の王をめざして  作者: 健康な人
一章・鉄の王編
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気付く者・気付かぬ者

ちょっと修正しました。  1/8

誤字修正しました。  1/12

『まずは…巨人と戦った広場まで戻ってみましょう』


 再度筆頭君たちを呼び出して残っている鎧を運ばせたのを確認すると、ジズドがそう口を開いた。


 俺はこんな場所を調べる時には、どこから調べたらいいかなど全く分からないため、ジズドの言う通り広場まで戻ることにする。

 広場まで戻るときは、ここに来た時よりも注意深く壁を見ながら広場へと移動したのだが…やはりというべきか、壁には明かり以外は何もないように見える。


 そうして移動しながら壁を見ていると、すぐに巨人と戦った広場まで辿りついた。

 視界が開けたこともあり、確認の意味も込めてぐるりと広場を見渡してみる。巨人が破壊した床や壁が目立ちはするが、それだけだ。扉らしいものはなく、仕掛けらしいものも見当たらない。

 やはりと言うべきか、俺はここに何かあるようには見えない。

 さて、ジズドは何をどう調べるのだろうか?


『まずは…左右どちらでもいいので、この広場の壁を調べてくれませんか?』


 調べるのはいいが…壁のどこを、どうやって調べる?


『壁の奥に何かないかを調べましょう。場所は…そうですね…この広場の中心から、十字の形になるように調べてみましょう。今ある出口と入口はもう調べましたから、あと二か所ほどお願いします』


 十字の形か。その形には何か意味があるのか?


『この場所は魔族が作ったものですが、神殿の形で作られているのは間違いないでしょう?昔の神殿では、十字の形に儀礼的な意味があったと覚えがあったんです。この場所があの日記の通り、長く生きる魔族の昔の拠点であれば、そういった古い知識の方が役に立つかと思いまして』


 そんな意味があったのか…しかし、こういったことに関しての知識はさすがだ。


 ジズドに言われるままに中心に移動し、その後に左右の場所に何かないかを確認するために、まずは右側の壁へと向かって壁を調べる。

 当然のように壁を破壊して、だ。


 壁へと手を当て己の障害を食らう。

 美しい壁が、手を当てた部分から砂となっていくと、手を当てた周りの壁を浸食して崩れ去っていく。壁は思った以上に分厚かったが、俺には関係なかったようだ。

 石の壁は壊したわけだが…石の壁の代わりに砂が積みあがってしまったため、結局奥を確認することはできない。


 つまるところ、こうして砂が積みあがってみると、石ではなく砂が邪魔になるということだ。


(なら砂まで食えばいいのではないか?)


 そんなことを考えながら砂の山を眺めていると、アリエルがそのようなことを言ってきた。確かに、そうしてしまったほうがいいのは分かっている。

 だが…ここの石は、凄まじくまずいのだ。できればもう食いたくはないと思うほどにはまずい。そのまずい石の、もっともまずい部分が砂となって残っているのだ。腹が減っているというわけでもないのに、こんなものを大量に食うなど絶対に嫌だ。


 これを食うぐらいなら、アリエルが水で流してしまった方がいい。


(ならそうするとしよう)


 アリエルは俺の思いに答えるように、水を発生させた。

 この神殿に入った時のように、透明に近い青色をした水が現れると一気に量を増やしていくと、緩やかな川のように流れを作りながら大量の砂を押し流し、砂の山が通ることができる穴へと変えていく。


 水の勢いが収まるころには、砂が押し流されたことによってできた大きな穴が開いていた。

 壁に開いた穴の中には今まで通ってきた通路のような作りの道があり、消えることなく存在する明かりが、この通路がまっすぐ奥へと続いていることを証明している。


『自分で言い出しておいてこんなことを言うのはおかしなことだと思うのですが、本当に道があるとは思いませんでした』


 おい、どういうことだ?


『いえ、変な意味ではないんです。本当に通路が隠してあるとは思わなかったんですよ。魔族は隠れる、と言うこととは無縁のように思っていたので』


 確かにそうだな。以前の戦いでは最初は隠れていたが、アリエルにはすぐ見破られていた。そんなことがあったから、魔族は隠れることが苦手だと思っていたのは否定できない。


(新しい道が見つかったのだから、そんなことどうでもいいではないか。早く進もうではないか)


 まあ確かに、アリエルの言うとおりだな。さっさと先に進むとしよう。



 隠されていた道は、やはりと言うべきなのだろうが、今まで通ってきた道と変わらないものであった。こうまで面白味のない通路が続くと、いいかげんに飽きてきてしまう。


 特に語るようなこともない全く作りの変わらない通路を無言のまま奥へ進む。




 通路の先にあったのは鍛冶場だった。いや、鍛冶場であった場所と言った方が正しいか。なぜならこの場所には、火の落とされた炉以外は何もなかったからだ。備え付けられるようにして残る鍛冶場の設備が、辛うじてここが鍛冶場であったことを証明している。


 まさに、古い拠点の鍛冶場跡と言った場所だ。


『ですね。…ここにも、何もないのでしょうか?』


 鍛冶場跡の部屋を見回していると、ジズドがそう問いかけてきた。

 俺には何もないように見えるが、何があってもおかしくない。傷だと思っていたものが、日記の文字だったということもあったからな。

 つまり、アリエルかジズドが何かを見つけるのに期待した方がいいということだ。今は、二人が何か見つけるまで待つとしよう。


(…何もないようだな)


 アリエルは何も見つけることはできなかったようだ。

 ジズドが何か見つけたら話が変わってくるだろうが、アリエルが何も見つけることができなかったのであれば、おそらくここは、完全に廃棄されている場所で間違いないのだろう。


(わざわざ隠していた場所にしては、大したものではないな)


 確かにアリエルのいう通りだ。こんな場所なら、わざわざ隠す必要がないように思う。


『ここにはないもないようですが、反対側の壁のはまだ調べていません。こちら側だけ通路があるとは考えにくいですから、戻って見てみましょう』


 ジズドも何も見つけることができなかったようだ。

 まあ、この場所を見た時に何かあるだろうと言う期待感は消えていたし、見つからなくとも仕方ないだろう。この場所は諦めて、さっさと次に行くとしよう。







 再度広場まで戻ってくると、先ほどの壁を破壊したのと同じ方法を使って残った壁を破壊する。

 やはりというべきか、破壊した壁の向こう側には、いいかげん見飽きてしまった見るべきところのない同じ道が続いている。今までの経験から、期待感が全く沸かない。


『広場の三方向に通路があるのに、この場所だけ通路がないのは不自然ですから。ここが本命の可能性は、十分あります』


 ジズドは何かあると思っているようだ。

 それに対してアリエルは、ここに誰もいないと分かった時ぐらいからやる気がなくなっている。積極的にしゃべらないのがその証だ。


 同じような通路を通り、同じような部屋にたどり着く。しかし今度の部屋では、明らかに他の部屋とは違う個所があった。

 部屋の中央には、紫に燃え盛っている大量の石が存在したのだ。おそらくこの紫に燃えている石が、この神殿の明かりに使われているものなのだろう。


(ようやくまともなものが見つかったな)


『…本当に、見つかってよかったです』


 安心した、といった風にジズドが言葉を発する。

 俺は何も見つからなくとも何の問題もないと思っていたのだが、どうやらジズドは、ここを探索してなにも見つからなかった時のことをかなり気にしていたようだ。

 俺としては、この神殿の内部に誰もいないと分かった時点でここに有用なものがあるとは思っていなかったから、巨人の鎧が手に入っただけでも十分だと思っていた。しかし、ジズドはそうではなかったらしい。

 …もっと適当に考えてもいいと、俺は思うのだがジズドはかなりまともな部類に入るため、それは難しいだろう。


『せっかく見つけたのですから、まずは調べてみましょう』


 そんなこと、ジズドに言われるまでもない。せっかく見つけた珍しそうな物を前にしながら、調べないという方がどうにかしているだろう。


 燃えている石に近付いて石を眺める。見た感じは、ということになってしまうが、この炎は通路の明かりに使われていたもののように見える。紫の炎など、そうあるものでもないだろう。燃えている石となれば、尚更だ。


(石が燃えているようだな)


『そのようですね』


 そんな言葉を発すると言うことは、アリエルもジズドも俺と同じように思ったのだろう。

 しかも二人がそれ以上のことを何も言わないということは、この石は紫の炎を発しながら燃えている、と言うこと以外は特に変わったところはないようだ。


 隠されていた割には、大したものではないのだろうか?


(明かり以外の使い道はないだろうな)


 俺の言葉にアリエルがそう答える。しかし本当に明かり以外に使えないなら…食ってしまってもいいだろう。


 俺は使い道のない珍しい鉱石を前にし、まずは食ってみることにした。


 燃えていることも気にせず、石を持ち食らう。そして、この石のあまりのまずさに手を離した。


『…この炎、熱くないです』


 ジズドの言葉も頭に入ってこない。それほどまでに、すさまじいまずさだった。


 …食って気づいたが、この石は…この神殿の壁などに使われている石と同じものだ。このまずさ、間違えようがない。


(この神殿はこの石で組まれていたというのか?ならば通路を照らしていると思っていた明かりは、まだ消えていなかった炎と言うだけの話か…)


 こんなまずい石なんて、なんだっていい。使うと言っても明かりくらいにしか使い道がないじゃないか。


『…まあ、明かりとして使うならメディアさんに受けがいいかもしれません。彼女に差し上げてはどうですか?』


 たしかに、俺たちは全く困らないが、夜は視界が悪くなる。どうせ明かりとして使うなら、明かりが必要なメディアに渡してしまった方がいいだろう。


 死霊兵を呼び出し紫炎の石を運ばせる。石の量はなかなか多いが、次々に呼び出される死霊兵の数は容易く石の量を上回った。こいつら一人一人は戦力としては大したことがなくとも、こうした所ではしっかりと役に立ってくれる。とてもありがたい。

 紫炎の石は、とりあえず城の宝物庫にでも運んでおけと伝えておく。この場所を探し終えたら一度死者の都に戻るつもりなので、メディアに伝えたいことは戻ってから伝えたらいいだろう。

 そんなことを考えながら死霊兵が紫炎の石を運び終わったのを確認すると、死者の都に続く門を潜った。



  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 筆頭君は迷っていた。

 主が打ち倒した鎧に宿った死にかけの命。これをどうするべきなのかを考えていたからだ。


 作り主の思いが長い年月をかけて魂となり、その思いのままに敵を屠り続けたことによって呪具になっている。呪具になったことにより魂は確固たる命となって、鎧に宿り続けているのだ。それぐらいのことであれば、一目見た瞬間に理解できた。

 そして、主が倒したこの命は死ぬ寸前までその命を食われており、放っておけば死ぬのもすぐに理解できた。


 そして、この命が死んでいないからこそ、止めを刺さないまま任されたと言うことが気にかかる。はたしてこれは、生かせという意味なのか、殺せという意味なのか。

 筆頭はその事について考え、主に与えられた命を思いだした。

 その命とは、メディアの命令を聞け、と言うものだった。


 もっとも新しく主から伝えられた命を思い出したことによって筆頭君の思考は加速する。

 そしてその思考は当然のように、四腕の魔族と戦いほとんど敗北と言っていい勝利を収めたことに思い至った。


 あの時に受けたメディアの命令を聞けという命は、メディアが生きていることが前提の命令だ。

 だからこそメディアからの命はなかったが、敗北が目前に迫っていたメディアを守ったし、彼女の敵となる存在を排除しようとした。しかし四腕の魔族は強く、足止めすら難しいほどの強敵であった。


 いままでであれば、それでもよかった。

 凄まじい不死性をもつ彼らにとって、肉体を破壊されることなどほとんど意味がないからだ。戦ったとしても、負けないのであれば最終的に勝利するのは間違いない。

 しかしメディアを守る、と言う話になればそうはいかなかった。彼女も魔族であるから腕や足の一、二本であれば問題ないかもしれない。だが、頭を砕かれたら死ぬし、上半身と下半身が離れるほどの怪我であれば生存は難しいだろう。


 ならば、どうするべきか。

 あの戦いで感じた問題点とその解決法。その答えが、この鎧ではないだろうか?

 動きは遅いが防衛であれば動きが遅いことは問題にならないし、防衛でないならメディアの近くに主がいるだろう。つまりこの鎧は、メディアの防衛のために彼女を守る者として持って来たものではないか?

 筆頭君はそう思いいたり、宝物庫に置かれた鎧へと視線を落とす。


 しかし…もしそうならば、新たな器が必要だ。

 何故ならこの鎧はすでに死んでいる。これでは食われた命を回復させたとしても、動ける体がないため戦えない。


 そんなことを考えていると、再び主から呼び出される。

 呼び出しに応じて門をくぐった先には、魂が入っていない巨大な鎧が存在していた。鎧をよく見れば、胸の部分で斬り裂かれていること以外は先ほど持ち帰った鎧と何の違いもないことが理解できる。

 つまり、先ほど宝物庫に運んだ胸を切り裂かれた鎧を、新品同然にしたものがこの鎧なのだ。


 呼び出された先で、主はこの鎧を持ち帰るように命じた。


 この命を聞くことによって、主は先ほどの鎧の中に宿る命を癒して配下として使うつもりなのだということを、ようやく理解することができた。

 ならば急がなければ。

 急いで鎧を持ち帰ると、壊れている鎧に手を添え、何かを掴むように手を握ると、何かを引き抜くように腕を後ろに動かす。

 鎧から離れた筆頭君の手には、弱々しい輝きが握られていた。命を引き抜いたことにより、何とか形を保っていた鎧が形を保てなくなりぼろぼろと崩れ去っていく。

 筆頭君は崩れた鎧など気に留めることもせず、鈍く輝く鉄のようなその輝きを手に持ったまま、城の上部へと急いだ。




 城の上部に存在する死者の都の迷宮核は、我が主の分け身とでも言うべき存在だ。

 その力は主とほとんど変わらないほど強力でありながら、主の大胆さとは反対に、彼はとても思慮深い。その思慮深さは、月の木を育てる穏やかさや、鏡の悪魔を助ける寛容さからも感じることができた。

 そして、彼はいつも知識に飢えている。自らと同じような存在を求めている。

 ただの思いから、命を持つ存在へと変化したこの魂を見れば、必ず助けようとするに違いない。


 主の部屋まで向かうと急いで扉を開ける。

 部屋の中に存在する迷宮核へと視線を移し、手に持った命を差し出しす。彼には多くを語る必要はない。故に、伝えたいことを一言だけ頼みこむ。


 助けてやってくれ、と。


 悪霊が迷宮核に命を差しだしているという光景は、普通に考えれば生贄に捧げられている命にしか見えないが、起こった現象はその真逆。

 弱々しい輝きは一瞬で輝きを増し、力強く脈打つ命へと変化した。

 本来の力を取り戻した命を握り、彼への感謝を伝える。


 この命も感謝を伝えるように数度大きく脈打つ。その後に何かを伝えるかのような脈動を何度か繰り返すと、手の中にある鈍く輝く鉄のような輝きが少しだけ陰った。


 その陰りの原因を、筆頭君はこの魂が死霊兵へと変化したと判断した。自分が今から行おうとしていたことを、彼が代わりに行ってくれたのだろうことが理解できた。

 死霊兵を作るために設置された陣までこの命を持って行く必要がなくなったことに対して、再度彼に感謝を述べてから部屋を出る。彼のおかげでやることがなくなったため、今度は急ぐことなく宝物庫へと足を進めた。





 城の宝物庫に置かれた鎧の前に向かうと先ほどの行動とは反対に、手に持った輝きを鎧に押し付けるように手を動かす。彼の手に灯った光が、鎧にしみ込むように消えていくと、倒れ込むような姿勢のまま動かなかった鎧が動き出した。

 床が軋み、鎧同士が擦れるような音を上げながら巨体が起き上がる。


 筆頭君はその様子を確認すると、やるべきことを伝えるからついてこいと伝え、鎧を引き連れてメディアの元へ向かう。

 これでようやく、彼女の盾となる者を見つけることができた。この結果に、主も満足してくれるだろう。




備考のようなもの


筆頭君は迷宮核のことを、彼と表現していますが迷宮核は男ではないです。レクサスが男であるため、勝手に彼と言っているだけです。



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