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迷宮の王をめざして  作者: 健康な人
一章・鉄の王編
37/72

油断

こうした方がいいという意見をくれた方、ありがとうございます。文章がおかしい、違和感がある、と言った意見はとてもありがたいので、どんどん教えてくれるとありがたいです。


修正しました  1/1

 魔族を撃退し死者の都に戻って来た俺は、持ち帰った魔族の骨を死霊兵にしておくように伝え、メディアを探した。いつものように月の木付近にでもいるのだろうと思い足を進めてたが、メディアは月の木にたどり着く前に見つけることができた。


 何故か、地面に倒れこんでいる。なぜ、そんなことをしているのだ?

 その光景を見て一瞬足を止めてしまうが、メディアの胸は上下していたため死んでいるわけではないということが理解できた。


 倒れこんでいるメディアのそばには筆頭君が佇んでおり、筆頭君のことを知らなければメディアが殺されたようにも見える光景だ。だが、筆頭君のことを知っている俺には、筆頭君がメディアを守っているのだろうということが理解できた。

 …アリエルはメディアが魔族を倒したと言っていたが、メディアではなく筆頭君が倒したのだろうか?

 そこまで考え、ようやく気付いた。


 壁がない。


 俺が魔族の撃退に出る前は、確かに存在した壁がきれいさっぱりなくなっている。壁の向こう側に存在するはずの…したはずの森もここから見ることのできる範囲では、草木一本確認できない。

 これは、一体何があったんだ?


(この娘、思っていたよりも派手にやったな)


 何があったのか分かるのか?


(分かるも何も、この娘の攻撃で壁と森が吹き飛んだと言うだけの話だろう。他に何がある?)


 なんでもないかことを聞くなと言うように、そう口にしたアリエルの言葉を理解するのに一瞬の間を要した。


 壁を吹き飛ばした?メディアが?


 穴のあいた壁からメディアに顔を向け、再度壁の穴に目を向ける。

 壁に大穴をあけ、森を吹き飛ばすほどの技をメディアが放ったということか?アリエルは数人の魔族が攻めてきた、としか言っていたため軽く考えていたが…ここに攻めてきた魔族はかなりの実力者だったのだろうか?


『彼女が倒れているのは、それほどの大技を使ったからですか?』


(それはないだろうな。使った後に自分が倒れるなどという欠陥のある術を、この娘がわざわざ組んだりはしないだろう。間違いなく別の理由があるはずだ)


 その辺のことは分からないというわけか。

 まあ、死んでいないなら起きるのを待てばいい。倒れている理由を聞くのも、攻めてきた魔族のことを聞くのもそれからでもいいだろう。






 メディアを近くの廃墟の中に移動させ、しばらくの間彼女が起きるのを待った。

 …しかし、なかなか起きない。建物の中だと言うのにメディアの周囲では氷の花が咲いている。

 見るものが見ればこの氷の花は、メディアの命を吸っているのではないかと思ってしまいそうだな。そんなことを考えながら彼女を見ていたのだが、最初こそ氷の花が生える様子が面白く、ずっと見ていたのだが…こうして長時間見ていると、さすがに飽きてしまう。


 そう言えば、俺が倒した魔族はどんな死霊兵になったのだろう?


 ここに戻ってきてすぐに、あの魔族を死霊兵にするようにと死霊兵たちに伝えたわけだが、それからはどうなったかを知らないことに気がついた。

 メディアが倒れていたことで魔族のことが完全に考えからなくなっていたが、あの魔族は強かった。死霊兵にすれば、あの戦闘の時に呼び出した鬼に匹敵する強さになるのではないだろうか?そんなことを考えながら、あの魔族について思考する。


『…言われてみると、どうなったんでしょうね』


 ジズドも気にしてなかったのか?


『ええ、どうせすぐ死霊兵になるのですから、気にするのも無意味かと思いまして…』


 ならメディアのことは筆頭君に任せて、あの魔族の死霊兵に会いに行くか。


(娘をこのままにしていいのか?)


 死んでいるわけじゃないからな。筆頭君が居れば十分だろう。


(それもそうだな)


 あの魔族はどんな死霊兵になっているか、少しだけ楽しみである。

 俺は、強者を従えるということに多少の優越感を覚えていることを自覚しながら、死霊兵になったであろう魔族を見るために死霊兵作成のための陣へと足を向けた。





 死霊兵を作るための陣がある場所にやってきたが…何故か人間が二人おり死霊兵との戦闘になっている。

 一人は金髪を肩ほどの長さで揃えている美しい女。もう一人はいかにも魔術師だ、というような大きな杖を持った老人だった。


 あの金髪の女には見覚えがある。確か、以前死者の都の宝物庫で戦いになったやつだ。


 死者の都は今、間違いなく攻められている。

 だが俺は、昔のことを思い出し自分を納得させていた。それほどまでに、この戦いは余裕がある一方的なものだった。


 女が呼び出している悪霊…竜牙兵と呼ばれているそれは、確かに強い。それを証明するように、死霊兵は竜牙兵の壁を突破できずに居る。だが、それで終わりだ。

 砕かれても砕かれても再生しながら押し寄せる死霊兵の群れは、確実に竜牙兵の壁を押している。竜牙兵の壁が押されるたびに老人と女が己の身を守ろうと一歩、また一歩と引いていく。


 そして、一歩下がるたびに竜牙兵の壁の密度が上がると同時に自由に動ける範囲が狭くなっていくのがここからでも分かる。

 その姿を見ていると、なぜ逃げないのか?なぜこんな場所に居るのか?なぜもっと多くの竜牙兵を呼び出さないのか?そう言った様々な疑問が湧いてくる。


(あれは、いつかの女だな)


 そうだな。


『…どんどん竜牙兵が押されてますけど、何がしたいんでしょうね?』


 俺が聞きたいくらいだ。


 俺には、この状況が分からなかった。

 なぜこんな場所に、二人だけで現れたのだろうか?戦うなら、もっと多くの人数で来ればいいではないか。偵察なら、戦闘になる前に逃げればいいではないか。

 だと言うのになぜこの二人は、あえて少数で戦うような真似をしているのだろうか?


 そんな、俺だけが感じたわけではないだろう疑問の答えは、次の瞬間に女が行った行動により一瞬で理解できた。


 女が呼び出したのは、間違いなく俺が殺したはずの魔族だった。肉がなくとも威圧感のある巨体。巨大な鞭のように長く太い尻尾。体を覆い、鎧としての機能も果たしていた迸る雷こそ存在していないが、それでもなおこの魔族の実力は色褪せていないのだろう。

 そんな俺と戦った時となんら変わることない威圧感を放っている肉体とは裏腹に、魔族が取った行動は生前とは大きく異なっていた。

 腕を地面に触れさせ擬似的な四足歩行のようにな姿勢を取ると、まるでどこにでも存在する獣のように、死霊兵と言う敵に向かって突進する。

 その行動には技術も…戦いを楽しもうと思う気迫も、何もない。

 ただ目の前の敵を攻撃することしか知らぬ、ただの獣が居るだけだった。


 あれは、本当にあの時の魔族なのか?


 ゆえに口を突いて出た疑問も当然のこと。

 あの女が行っていたことは、あの魔族を己の竜牙兵として使役するための何かだったのだろう。それはいい。それはいいが、あの魔族の姿はなんだ?

 あの魔族は確かに気に食わなかった。だが、確かに生きていた。間違いなく己の考えで俺を襲い、その結果として死んだはずだ。そんな相手を…もう終わったはずの命を、知性の欠片もない獣に落とす必要はあったのか?


 なぜこれほどまでに、魔族のあの姿に怒りを覚えているのか理解できない。あの魔族は、敵であり、それを殺したのは間違いなく俺だ。だと言うのに、何故だか怒りが湧きあがる。そう、俺は目の前の光景に、己の体を奪われ、いいように操られているような、そんな錯覚さえ覚えてしまっている。それほどまでにこの怒りは根本的な所から来るものだ。

 怒りに比例するように、俺の周りを漂う怨霊の密度が上がる。降り積もった雪が溶け、水へと変化していく。そう、それはまるで、見ることのできない雷に焼かれていくような――


『…いえ、違います』


 何?


『あれは、竜牙兵です。レクサスさんが倒したあの魔族ではありません』


 ジズドの言葉を聞き急速に怒りが抜けていく。

 最初から俺は、怒りの感情など感じていなかったのだ。そう勘違いしてしまいそうになるほど、俺の心は急速に平常心に戻っていく。


 詳しく聞かせてくれ。


 あの時の魔族の姿をした竜牙兵が死霊兵を蹴散らす様を視界にとらえながら、何故か俺は魔族のことについて聞いていた。

 同時に、なぜこれほどあの魔族にこだわっているのだと、冷静な俺がどこかで声を上げている。


『そもそも竜牙兵は、人造の悪霊を使役しています。ならば、同じ体を使っていたとしても中身までは同じではない。あの魔族が雷の鎧を使わないのは、中の悪霊があの技を使えないからでしょう』


 ジズドの言葉を聞き終わる頃には怒りは完全に消え失せていた。今では、なぜあれほどまでに怒りを覚えていたのか理解できない。


 そうか。


 だから俺は、そう一言だけ口にすることしかできなかった。

 ほとんど興味のなかったことに時間を取られ、本当にやらなければいけないことができていない。だからこそ、急いであの二人をやらなければ。

 そう思い竜牙兵と化した魔族とそれを操る女をやろうと足を進めた時、俺は女と目があった。


 視線の交差は一瞬、だがその一瞬で女は自らが置かれた立場を理解する。


「見つかった!!!!」


 女がそう口にすると転移の魔術が発動し、一瞬で二人と魔族の体が転送する。転移先はルフ要塞か、それとも全く別のどこかなのか。


 …俺を見た瞬間転移で逃げた。

 わざわざこんな場所で戦っていたのは、あの魔族の体を竜牙兵にしたかったと言うだけだったのか?


(逃げられた、と言うよりは最初から戦う気がなかったようだな)


『そのようですね。見事に戦利品だけ持って行かれましたよ』


 あの魔族の体…骨が戦利品か。確かに多少は強い竜牙兵ができたみたいだが、あのような獣では筆頭君にも、鬼にも届かないだろう。


 中身が奪われてないなら、どうでもいい。


(まあ、かなり食ったからな。魔族の骨を奪った程度ではどうにもできんだろう)


『でも、本当にそれでいいんですか?』


 要らんからな。


 そう、あんなものはどれだけ強靭であったとしても所詮は骨。中身のない木偶にしかならないのなら、なんら脅威は感じない。


 時間の無駄だったな。メディアの所に戻るか。

 心の底からそう思う。

 ここに来たことを無意味にしたくなかったので、その場に居る死霊兵たちによくやった、そのまま死霊兵を増やしておけと伝えて、俺は来た道を戻った。



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