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迷宮の王をめざして  作者: 健康な人
一章・鉄の王編
36/72

~筆頭と女王~

なんとか日曜日に間にあいましたが、遅くなって申し訳ありません。


誤字修正しました。1/1

「これはこれは…なるほど、納得がいきましたよ。まさかあなたが、こんな場所に居るとは…考えもしませんでしたよ。氷の女王殿」


 侵入者である魔族は私を見ると、なぜか納得のいくような表情を取ると、ずいぶんと気軽に話しかけてきた。

 …腕が四本もある魔族など、一度見れば忘れないだろう。だが私はこの魔族を知らない。私のことを一方的に知っているだけなのだろうが…私はそれほど有名になったつもりはない。なぜ私を知っているのだろうか?


「そうですか。私も、魔族がこんな場所までやってくるとは考えてもいませんでしたよ。あなたたちは、力にしか興味がないと思っていましたから」


「…いやはや、ずいぶん手厳しい。しかし、私たちの誰にも気づかれることなくこのような場所を作ってしまう女王殿から見れば、私程度などは野蛮に映るのかもしれませんねぇ。ですが、守りにばかり重きを置いていると思っていたあなたが、影でこのようなことをしているとは…こちらとしても予想外だったのですよ。…こんなことになるのならば最初から…いえ、やめておきましょう。どんな結果であったとしても、もう終わったことに変わりはありませんからね」


 …結局この魔族は何が目的なのだろうか?こうして話して見ると、どこか話がかみ合っていないように感じてしまう。何というか、一人だけで納得しているように感じてしまうのだ。


「私がどこで何をしていようと、貴方には関係ないでしょう。興味本位でここまで来たのなら、早々に立ち去ることをお勧めしますが?」


「まさか、あり得ませんよ。それではここまで来た意味がないじゃないですか」


「その目的とやらは、私には話せませんか?」


「ええ、そうですね。……と言うよりも、ここまで話して何の反応も返してくれないのですから、話すことなど、無意味でしょう?」


 わざわざ言わせるな、と言うような表情でそう口にする。ここまで話した?今の話のどこをどう聞けばこの魔族の目的が分かるというのだろうか?…まあ、どんな目的があろうとその目的を話さないような相手を信用することはできない。

 この流れならば、おそらく戦うことになるだろう。…無駄だとは思うが、一応帰るように勧めてみるか。


「何を考えているのか知りませんが、立ち去らないのなら死ぬことになりますよ?」


「そうですか。まあ、わざわざあなた一人でこの迷宮の創造を行っていたのですから、すんなり渡してもらえるとは思っていませんでしたがね。…では、魔族らしく行くことにしましょう。……女王殿、あなたを殺してこの迷宮をいただくことにしましょう」


 話は終わりだと言わんばかりに魔族は四本の腕に魔力を収束する。収束されている魔力はこの魔族が本来持っている魔力ではなく、この迷宮に満ちていた魔力だ。この魔族は、私が支配している【場】の支配も受けているはずの迷宮の魔力を、我が物顔で扱っている。こうもあっさりとこんなことができるのは、単純な力量差だけではないだろう。

 だが、そんなことができるからと言って、敵を倒せるとは限らない。

 人間たちを串刺しにした氷の槍を瞬時に発動させる。戦いになるのなら相手の準備を待つ必要などない。手に収束された魔力によって何かを起こされる前に、魔族を殺そうと氷の槍を降らせる。


「せっかちですね。せっかく戦うことになったのです、少しは楽しんではどうですか?」


 しかし、打ち出した氷の槍は魔力を纏った四本の腕を無造作に振るっただけで呆気なく無効化されてしまった。

 私が持つ術の中でも最速の技を、こうもあっさりと弾かれてしまうとは思わなかった。これでは正面から戦うのは厳しい。


 魔族は腕に纏っている魔力を変化させ、二本の腕から魔力の鞭を生み出す。それは先の人間が使った物とほぼ同じ性質のものでありながら、込められた魔力が違いすぎた。人間が使っていた鞭の大きさが木の枝ならば、この魔族の使う鞭はその枝をつけている木そのものと言ったところか。

 魔力の鞭を腕と共に振り下ろし、私の居る場所ごと叩き潰そうとする。だが反応できないほどの速さがあるわけではない、かわすことができないための捻りのようなものがあるわけでもない、そして単発の攻撃だ。そんな攻撃に当たるなどあり得ない。

 私を狙った振り下ろしを展開した氷の障壁で弾く、それと同時に地面に降り積もった雪を操り地面から氷の槍を生成し再び魔族を狙う。

 しかしその攻撃は、槍を形成するよりも早く移動した魔族には当たらなかった。私が弾いた魔力の鞭が地面に触れると、鞭は地面に吸いついたかのように固定され、魔力の鞭を縮めるという方法で回避されたのだ。

 それは縄を一気に巻き取る力によって移動しているのと同じだ。普通であればそんなことは不可能だ。だがこの魔族の、並みではない繊細で力強い魔力操作がそれを可能にさせているのだろう。

 一瞬だけそのようなことを考えたが、魔族が拳を繰り出したことによってその思考は中断されてしまう。

 魔族の繰り出した拳は私が張っている氷の障壁と拮抗していたが、魔族はさらに二本の腕を振りかぶり力づくで氷の障壁を強引に突破しようとする。だがその拳より早く氷の障壁から氷の槍を作りだし串刺しにしようとしたが、それに反応した魔族は体を覆うように腕を構えた。そのような防御の姿勢など関係ない、そう思ったが氷の槍は魔族の腕に触れた瞬間、腕に刺さることなく砕け散る。


 どうやらこの魔族は拳に魔力を乗せる、魔力で肉体を強化する、魔力を操る、そういった誰でも行えるものと、接近戦を得意としているようだ。

 そして、誰でも行えるものだからこそこの魔族の厄介さが簡単に理解できた。魔力の形状を一瞬で変化させ、細かいが力強いという動きを両立させる。四本ある腕から繰り出される攻撃は力強く速い。

 二本の腕で攻撃を行い、状況に合わせて残りの二本を動かし自在に戦況を操る。腕が多い、ということがこれほど厄介だとは思わなかった。

 また、先ほど見せた移動方も厄介だ。あの移動の速度があれば大技を使うために隙を見せることはできない。防御に魔力を回すのもありかもしれないが…そうなれば最悪、レクサスが戻ってくるまで決着はつかないだろう。……よく考えたらそれでいいのではないか?


 砕け散り、あたりに散らばった氷を鳥の形に固め、命を吹き込む。さらに、氷の鳥たちに命を吹き込む際に、羽ばたきと共に氷の槍を発生させるよう術を組み込んでおく。

 隙と言うほどのものでもない一瞬の合間に作ったものであったため、小さな鳥を数羽作ることしかできなかったが問題ない。一羽でも生み出した時点で数はこちらが上だ。…レクサスを待つための時間稼ぎにもなるだろう。


 氷の鳥がその小さな翼をはばたかせると、地面から氷の槍が生え魔族を襲う。

 先ほどまで私が行っていたそれを、最高の出来とは言えない小さな鳥が簡単に行ったことに対して自分でも驚いた。この小さな鳥では時間稼ぎ程度しかできないと思ったが…。

 魔族は地面から生え、自らを刺し殺そうとする氷の槍を一本だけを残し、ほかのすべてを拳で砕く。残った一本の槍を地面から引き抜くと、私に向かい投擲する。


 槍の速度は速いが一本だけでは当たるわけがない。

 そう思い避けるために体をずらしたが、氷の槍は私が避けた方向に向かい軌道を変えた。氷の槍が軌道を変えた時にようやく気づくことができたが、魔族の腕からは魔力の鞭が氷の槍に張り付いていた。その鞭を使い無理やり軌道を変えたようだ。

 避けられない。直感的にそう思った。



  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 これは避けられない。

 氷の女王メディアの回避に合わせる形で軌道を変えた氷の槍は、確実に直撃する軌跡を描いている。もっと早めに槍を迎撃していれば、回避ではなく防御を選択していれば、直撃は避けることができただろう。

 …まあ、防御を選択していたとしても氷の槍に張り付いている俺の魔力が女王の盾に張り付くからそのまま盾を奪うことも、肉体を魔力で強化し強引に突破することもできただろう。要は迎撃を選ばなかった時点で女王は詰んでいたのだ。


 …だが、いくらなんでも容易すぎたことに違和感を感じてしまう。


 女王は決して弱いわけではなかった。擬似的な生命の創造など、一体、何人の魔族が行えると言うのか。さらに驚異的であったのは即席で作った小さな鳥でさえ、自身が使うのと変わらない術を発動させたということだ。

 まるで迷宮自身がそう望んでいるかのように、自然にこの創造迷宮から魔力をくみ取るように作られた鳥は、正に迷宮の化身と言うにふさわしいものだった。

 しかし、この女王の戦い方は魔術師のそれだ。発動の速い術では俺の肉体は貫けず、だからといって大技を使うための溜めは一対一ではただの隙にしかならない。普通であれば何らかの対策をしているものだが…。

 そして最大の違和感は、繊細な魔力操作が可能であるというのに、俺にあっさりと迷宮の中にある魔力を使わせてしまっている、というものだ。女王自身が使用していた魔力も、少なくはないが多いというわけではなかった。多少でも迷宮に通じていれば、俺に魔力を使わせることなく莫大な魔力を使用することもできただろう。だが、それをしない…できない理由はおそらく、この迷宮は今までの迷宮とは何かが違うからなのだろう。そして、その迷宮の変化に女王が慣れていなかったに違いない。


 いつもは反目しているものまでが徒党を組んだ、そんな魔族の連中が襲撃する様を見ようと思ってここまで来たが…守りの戦力が迷宮の外に出ていき、馬鹿な人間たちのおかげで迷宮を守っている女の正体が氷の女王メディアだということも知ることができた。

 風のうわさで聞いたメディアの実力ならなんとかなるかもしれない。そう思って襲ってみたが、女王はこの迷宮の扱いに慣れていなかった。まさに運が良かったとしか言いようがない。


 さて、この女を殺した後この迷宮をどうするべきか。


 すでに俺の中では過去の敵となった女王を視界に収めたまま、今後について思考を巡らせる。

 だが、槍は女王に当たる直前に砕け散った。

 なぜ?

 そう思い女王に視線を向けると、槍が砕けた場所には髑髏が浮かんでいた。カタカタと耳障りな音を発しながら、転移の魔法陣のようなものを雪に刻みながら髑髏の胴体…骨の体が現れ、人の形に組みあがっていく。


 骨が組みあがった時に現れたのは、手に剣を持ち、蛇のような形の黒い霧を従えた悪霊だった。悪霊は俺から女王を守るかのように位置取ると手に持った剣を構える。


 女王メディアがなぜ、わざわざ自らの【場】である氷の世界を出てこんな場所に迷宮を作ったのか。その理由を俺は、この光景を見ることによってようやく理解することができた。

 氷でできた擬似生命ではなく、人を元とした擬似生命である悪霊を作る。

 なるほど、俺たちのことを力にしか興味がない、などというわけだ。俺たちが強い力を欲している間に、この女王は自らの手で命を作りだそうとしていたのだろう。その結果が創造迷宮と【場】の融合であり、目の前の死者に守られる生者という常識では考えられない光景というわけだ。


 おそらく、ここからが本番なのだろう。俺は先ほどまでの女王は容易いという思考を捨て、魔力を纏った拳を握りこんだ。



 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 直撃だと思った。

 だが、いつの間にか現れていた筆頭と呼ばれている悪霊の頭蓋が、私の代わりに氷の槍に直撃した。頭蓋は槍と共に砕け散ったがすぐさま元の形に再生する。頭蓋に続くように転移してきた体の骨が、音を立てながら人型に組みあがっていく。

 筆頭は組みあがった体を私と魔族の間に入れ剣を構える。それに対するように魔族は拳を握りこんで構えを取った。


 なぜ筆頭とまで呼ばれている悪霊が、身代わりになってまで私を守るのか。一瞬だけそう思ったが、レクサスが城に死霊兵を残しておくと言っていたということを思いだす。

 おそらくだが、筆頭は最初からこの戦いを見ていたのだろう。そして、私が負けそうになったからこそ戦いに割って入った、そう考えるのが妥当だ。


 なるほど、これならば勝てる。


 筆頭が魔族の相手をしてくれるならば、私は術の発動に集中することができる。確かにこの魔族は強いが、二対一ならばどうにでもできる。

 筆頭が私の身を守ってくれているのだから、と判断しすぐさま術の構成をはじめた。

 私の行動を確認した筆頭は、地面を蹴り魔族との距離を一気に詰め、それと同時に魔族も地を蹴る。お互いが繰り出した剣と拳がぶつかると、わずかな拮抗の後筆頭が吹き飛ぶ。魔族は吹き飛んだ筆頭に追撃を加えるため魔力の鞭を作りだして振り下ろそうとし腕を振り上げる。

 だが、魔族の邪魔をするように氷の鳥が羽ばたいて氷の槍を作りだす。

 魔族は氷の槍を二本の腕で弾くと残った一本の腕にも魔力の鞭を作りだし、その鞭を振りまわすことで魔族の周りを飛んでいる氷の鳥を叩き落していく。

 このままではまずい。そう思ったが魔族の動きは、なぜだか急速に鈍くなった。致命的と言うほど遅くなったわけではないが、筆頭に向かって振り下ろされた鞭を、筆頭が回避できるようになるほどには遅くなっている。

 筆頭は鞭の振りおろしを回避すると、すぐに魔族との距離を詰め、再び剣を振るう。

 だが魔族は二本の腕を交差させるだけで筆頭の振るった剣を弾き、反撃に二つの拳を繰り出す。一つの拳は筆頭の頭蓋を粉砕し、もう一つの拳は剣を持っている右手の肩を砕くことで武器を奪う。

 魔族はこれで終わったと判断したのか、崩れていく筆頭の体から視線を切ると私に視線を合わせる。筆頭が崩れたことにより魔族の姿がよく見えるようになり、その時に筆頭が従えていた蛇の形をした霧が視界に映った。

 蛇の額は開いており、その額に存在する不気味な単眼と目が合う。


 あれは城でレクサスに紹介された蛇だ。なるほど、あの蛇に睨まれたために魔族の動きが鈍ったということか。


 筆頭がやられたことに焦りはない。私を守った時も頭蓋は砕けたが、すぐに再生したのだ。今だけは再生できないなどと言うことはないだろう。

 その予想通りに、頭蓋と肩を再生しながら筆頭の体が組みあがっていく。魔族は筆頭が組みあがる音が聞こえたのか、私に合わせていた視線を切り再度筆頭に視線を向けようとする。

 だが、視線が筆頭に向くより早く筆頭は、地に落ちた剣を蹴りあげると空中でつかみ取り、魔族に体ごとぶつかるように体当たりのような形で突きを仕掛けた。


 しかし、その一撃はあっけなく防がれる。体重を乗せた突きでさえ、魔族の腕に少しも刺さっていない。

 剣を防いだ姿勢のまま、魔族は残った腕の一本で筆頭を殴り飛ばし距離を開けるとともに、もう一本の腕で単眼の蛇の目玉にめがけて拳から槍のように細長い魔力を放ち目を潰す。

 筆頭を吹き飛ばされ、単眼を潰されはしたが、魔族はすべての腕を使った。その隙を突くように、叩き落とされていない氷の鳥たちが氷の槍を作りだし、魔族の背中を突き刺していく。


 届いた。

 だが、そう思えたのは一瞬だった。そんな物では死なないと言うかのように、背中に刺さった氷の槍を体をねじることで強引にへし折りると、背中に刺さった氷の槍を引き抜く。引き抜いた槍を筆頭に向かって投げ捨て、私に向かって魔力の鞭を振りおろしてくる。


 魔力の鞭はなんとか回避したが、私が居る近くに触れた魔力の鞭を縮め一気に距離を詰められた。

 防御など考えずに繰り出された四本の拳は、小さな抵抗として作りだした氷の盾を簡単に砕き、私の体に打撃を与えてくる。

 私は、先ほど吹き飛ばされた筆頭のように吹き飛ばされた。痛む体と折れた腕を代償に、魔族との距離が開く。…侵入者の人間には通じた防御は、この魔族には何の意味もないようだ。

 そんな下らないことで意識を逸らすが、呼吸をするだけで胸が苦しく、反射的に防ごうと体の前に出した左腕が上がらない。傷はすぐに直りはするが、こうして動きにくい間に頭を潰されたら終わりだ。


 かなりの危機感を覚えながら、定まらない視点のままなんとか魔族を視界に納め続ける。そうして見てると、魔族の背後から高速で現れた筆頭が魔族を突き飛ばした。それによって距離が離れ、ようやく危機を脱したのだと理解できた。


 だが、これは、まずい。この魔族の強さは予想以上だ。筆頭と私が揃っていながら全く相手になっていない。なんとか組み上げたこの術式が通じなければ、私が死ぬ前にレクサスが戻ってくるのをどうにかして待つしかなくなるだろう。だが、やるしかない。私は、まだ死にたくないのだ。

 …それに、この魔族は私を殴った。骨だからと言う理由だからなのか、レクサスの時は感じもしなかった怒りの感情が込み上げてくる。私はその怒りの感情に任せたまま、持ちうる限りで最高の術式を解放した。



 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 女王を吹き飛ばした後、追撃に入ろうとした俺の邪魔をするために横槍を入れてきた悪霊を再度吹き飛ばし距離を取る。悪霊は当然として、おそらくあの女王も生きているだろう。一定以上の力を持った魔族は、基本的に首を落とすか、頭を砕きでもしなければ死なないからだ。

 そう思い女王にとどめを刺そうと足を向けようとした時、異変に気付いた。

 何かに引き寄せられてる。…いや、これは地面が動いているのだ。どうやら、女王が吹き飛んだ方向に向かって動いているらしい。おそらく何か仕掛けるつもりなのだろうが、ちょうどいい。それを凌いでとどめを刺してやろう。

 そう思い女王が吹き飛んだことにより、雪が舞って視界が悪くなっている場所を注意深く観察する。


 そして、そこで見えたものには、さすがに驚きを隠しきれなかった。

 地面から…いや、その地面の上に降り積もっている雪から、雪でできた巨大な竜の頭が生えてきていたのだ。目に痛いほどに白い巨大な顎が、俺と言う個人を狙い口を開けている。

 開いた口から洩れる膨大な魔力は、これから何が起こるかを考えるのも嫌になってしまう。

 これはまずい。

 先ほどまでの考えを一瞬で捨て去り、今の状況からどうすれば逃げることができるかという一点のみを思考する。


 だが、そんな考えを誰が待つかとでも言うかのように、雪竜は声なき咆哮と共に大地を削り取る一撃を放った。


 その一撃になんとか反応し、持ちうる限りの魔力で肉体を強化し防御の姿勢を取る。視界が一瞬だけ白く染まり、俺の意識はそこで途絶えた。



 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 私の【場】の魔力をそのまま放つ術式。これを見た魔族には、『まさに雪竜の怒りだな。』と言われた一撃だ。使えば【場】の魔力が空になり、何もできなくなる、というある意味当たり前である使う際の注意があったが、今回は仕方ないだろう。

 魔族の姿は死者の都の壁と共に消えており、消えた壁の向こう側にあるはずの森もきれいに無くなっている。


 この技は簡単に言ってしまえば、魔力を使い圧縮した雪の塊を圧縮している魔力と共に一気に解放して高速で打ち出すだけの技だ。だが、高速で飛来するそれは大地さえ削り取るほどの威力を持っている。

 大地さえ削り取るこの一撃を受けたのだ、死体さえ残っていないだろう。…さすがに、これを受けて生きているとは思いたくない。


 戦いは終わったと言うように、役目を終えた雪竜の顔が崩れ、雪に戻っていく。いつの間にか止んでいた雪が、再び死者の都に降ってくる。

 かなりの距離を吹き飛ばされていたのか、筆頭と単眼の蛇がようやく見ることができる距離までやってきた。速く大穴をあけてしまった壁を塞がなければいけない。体の傷も治ってはいるが、受けた痛み…精神的な傷までもがすぐに治るわけではない。…何が言いたいかと言うと、さすがに、少し疲れたということだ。


 私は、筆頭が近づいたのを確認すると倒れこむように意識を失った。



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次の更新は一週間ほど先が目安です。いつものように詳しくは活動報告に書いておきますので、気になる方はそちらをどうぞ。

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