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迷宮の王をめざして  作者: 健康な人
一章・鉄の王編
34/72

三つ目の勢力

修正しました  1/1

 ジズドに言われるまま死者の都を調べる。とはいえ俺はジズドが何を調べているのかも分かっていないわけだが。


(何か分かったのか?)


 迷宮の確認作業はしなければいけないがおもしろくないという思いがあったが、どうやらアリエルも同じ気持だったようだ。他にやることがないのは間違いないわけだが、こうして死者の都を歩くだけというのはつまらないものである。


『私の感覚では死者の都が【場】になっているのかも、迷宮になっているのかも理解できませんね。ここが変わった、という感じがしないんです』


(なら、もう調べなくともいいのではないか?調べると言って何も調べることができないのなら、調べることに意味などないだろう)


 俺もそう思う。何も分からないなら、もういいのではないだろうか。


『そうでもありません。調べることによって分からないということが分かった。何が分からないのかが分かると、その分からなかったことを調べることができる。そうやって分からないことを一つ一つ調べていくことで、調べたいことに辿りつけるんですよ。これが調べると言うことだと私は思っています。ですから、今回のことも十分意味がありますよ』


(なるほど、私には分からん感覚だ)


 俺にも分からない感覚である。分からないことを調べ続けることが苦痛ではないのだろうか?


『分からないことが分かっていくから楽しいのですよ』


 そんなものか。


『そんなものです』


(だが、結局何も分かっていないのだろう?)


『…』


 …まあ、なんでもいいがな。メディアなら死者の都がどうなっているのか理解しているだろうからあまり問題ないだろう。


(そんなことよりレクサス、お前も気づいていないのか?)


 何の話だ?


(死者の都に何かが近づいているぞ。まあ、大した力は持っていないがな)


 炎帝を逃がしたのがまずかったのか?またアリエルに力を貸してもらうことになるだろうな。


(まだまだ離れているというのに、こちらに気づかれる様ではな。隠す気がないのか、それともただの雑魚なのか。まだ炎帝とか言う男の方がましかもしれんぞ)


 あいつは特別だ。あんなのが何人もいたらまずいだろ。


(確かにそうかもしれん。あの男なら魔族を倒せる可能性は十分あるだろう)


 …魔族だと?


 人間じゃないのか?


(ああ。何故かはわからんが魔族の大群が移動している。ジズドが死者の都を調べている間に進んでいたが、進行方向にあるのは死者の都ぐらいだ)


 魔族。

 生まれながらにして魔を操るすべを持つ人型の存在の総称。

 メディアも魔族だが見た目はほとんど人間だ。見た目は人間だが中身は人間とはかけ離れている。そういう意味でならメディアはとても魔族らしい魔族であると言える。だが、本物の魔族はそんなものではない。

 背に翼を持ち空を駆けることのできるもの。

 腕が三本以上あるもの、あるいは最初から腕がないもの。

 そういった外見上で人に何かを加えたようなものが正真正銘の本物の魔族であり、魔族の中でも特に強い力を持っていると言われている。


 その魔族がなぜ大群で移動などしている?やつらは、人の手など届かないような場所に住んでいると聞いたのだが…。


(それは少し間違っている。人の手が届かないのではなく、力が届かないのだ。メディアもそうだったように魔族は会おうと思えば会うことはできる。ただ、命の保証ができないから会おうとしないだけだ。その結果会うための方法が失われ、人の手が届かない場所に居るのだと勘違いしているだけだ)


 なるほど。だが、そんな事情をよく知っているな。人間の俺でも初めて聞いたぞ。


(私がまだ自由だった頃からそういった流れのようなものはあったからな。ただ魔族の連中は、魔族こそが支配者になるだのと仲間内で騒いでいたわけだ。結果、仲間内での戦いに集中していたせいで魔族自体が人の目に触れていなかったのだろう)


 支配者になる、か。どうやって支配者になるつもりだったんだろうな。


(迷宮だ。自身の持つ迷宮を最も強い迷宮にすることで最強を目指したらしい。まあ、このあたりの話は聞いたことだから詳しくは知らんがな)


『その話の通りなら、死者の都が迷宮になったから攻めてきたんじゃないですか?』


 さすがにあり得ないと思うぞ。争っていた連中がわざわざこんな場所まで来る意味はないだろ。


(いや、あり得るかもしれん)


 なに?


(やつらが争っている理由は、簡単に言ってしまえば力のためだ。そして死者の都の迷宮核は迷宮核四つが融合したもの。四つ分の融合に意味があるかは分からないが、それに意味があれば狙われる理由としては十分だ)


 …もしそうなら、まずいか?


 魔族の大群なんて相手にしたくないぞ。まだ人間の大軍の方がましだ。


(最近は何も食ってなかったしちょうどいいではないか。あれだけの数なのだから何体かはそこそこの強さのが混じっているだろうが、どう考えても餌の方が多いぞ)


 人間が相手だからこそ守るということを軽く考えていたわけだが、魔族まで出てくるなんてな。逃げるわけにもいかないし面倒なことになった。


 死者の都に誘い込んで始末するか?


(それはやめておけ。やつらの数はかなりのものだ。死者の都で戦えば最終的に勝つのは間違いないがお前がため込んだ珍品を奪われるかもしれん。それにメディアの様子を見るかぎり、魔族が月の木を見つけてたら面倒なことになるぞ)


『私も死者の都に誘い込むのは反対ですね。大量に敵が居るのならもしかすると迷宮核を奪われるかもしれません。死者の都にはメディアさんと筆頭さん、城の守りを任せている死霊兵を残しておいて外で迎え撃ちましょう』


 …俺たちが有利に戦うための死者の都の迷宮化のはずなのに、俺たちが死者の都に気を使ってしまっている。これでは何を目的として死者の都を迷宮にしたのか、それを忘れそうになるほど無意味なことになってしまった。そういった対策も考えないといけないな。


 とにかくこのことをメディアに伝えに行くか。








「魔族が攻めてきたのですか?」


 ああ、俺は今から死霊兵を連れてやつらを迎撃する。


「死者の都で待ち構えてはだめなのですか?」


 ここで守るのは、いろいろと不都合があってな。


「…そうですか…」


 メディアは俺がいない間、死者の都を守ってほしい。


「私は行かなくてもいいのですか?」


 ここを守るやつが居なくなるからな。それと、城に死霊兵を残している。命令を聞くように言っておくから、有効に使ってくれ。


「分かりました」


『私たちから逃げた敵がここまで来た時にどう対応させるのか、伝えておかなくていいのですか?』


 確かにそれを忘れていたな。メディア、弱いものは殺さなくていい。だが強いものは確実に殺せ。


 命令はこれでいいだろう。弱いやつは死霊兵に勝てないのだからわざわざメディアが相手する必要はないからな。


 そんなことをするくらいなら月の木でも守った方がましだ。


「なるほど、分かりました。守りはお任せください」


 これでメディアに伝えるべきことは伝えたな。


(なら行くぞ)


 まだ筆頭君にメディアの命令を聞けと伝えてないだろ。それが先だ。







 筆頭君にメディアの命令を聞くように伝えたのでアリエルの案内に従って森を進む。


 方向はこっちであってるのか?


(間違いない。もうすぐ見えるぞ)


 アリエルはそういうが気配のようなものは感じない。しかし、魔族が相手か。不安だ。


「ふむ、悪霊ですか」


 ん?


(もうすぐ見えると言っただろうが。気を抜きすぎだ)


 その男はいつからそこに居たのか全く分からなかった。見た目は人間のようでありながら、人とは何かが決定的に違う雰囲気を纏っている。こいつは気づいたら目の前に居た、という言葉が当てはまる様に当然のように存在しているのだ。その後ろにいる配下らしきものも大量に居ると言うのに全く気付かなかった。


「まさか我らでもできぬことをなしたものが、悪霊などを使役しているとは…。しかも我らを相手に一体だけを偵察によこすなど、ずいぶんと舐められたものですね」


(こいつは雑魚だ。大群の右に居る尻尾付きのでか物が一番強いから気をつけろ。…しかしメディアの時もそうだったが、なぜ魔族は力の差が分からないのだ?)


 アリエルの言葉は心からの疑問のように聞こえたが、俺にも力の差なんて分からない。まあ、アリエルが言うなら実際に力の差があるのだろう。


 まあ、なんでもいいか。やってしまおう。アリエル、門を使ってくれ。


 アリエルに頼み門を開けてもらう。炎帝相手では使う機会を逃してしまったから今回はそうならないように最初から使うことにする。


「む?」


 自分で言ってしまえばなんだがおかしく感じてしまうがそれは地獄への道が開いたかのようだった。俺の目の前の空間が一人通れるほど通れる大きさで歪む。そしてそこから姿を現したのは悪霊だ。一人ずつ、だが途切れることなく次から次へと悪霊があふれてくる。


「な!?空間転移だと!?馬鹿な!悪霊がそ…」


 目の前の男が最後までしゃべることなく顔が吹き飛ぶ。それを行ったのは巨大な悪霊だった。本当に体が大きいというわけではない、見た目は骨なのでほかの悪霊とほとんど変わらない。だが張っている力が違う。圧倒的な力に対する本能的な恐怖が体を大きく見せてしまうのだ。こいつだけ別の種族だと言われても信じてしまう、それほどにこいつは周りの悪霊とは別物だった。


(ほう、こんなやつがいたのか。筆頭を超えているぞ)


 筆頭君が弱いとは思わないが、アリエルの言葉は正しいだろう。口で説明する必要など欠片も感じさせないというかのように、本能の部分がこいつは別物だと、明らかな強者だと告げている。

 巨体の悪霊が口を笑みを作るように開き魔族の大群に突っ込んでいく。その時に気づいたがやつの歯は肉食の動物のように鋭く尖っていた。人間ではありえない、そんな牙を持っていながら人型である存在。そんな種族を俺は一つしか知らない。


 鬼族か。


 現れた鬼族は腕を振るうだけで破壊をまき散らしている。大地ごと魔族の大群が引き裂かれていく。それは人間では決して真似することのできない暴力の化身そのものだ。腕を振るうたびに吹き荒れる暴風が鮮血の雨を降らせ森を赤く染め、魔族の返り血を浴びながら生者では聞くことのできない咆哮を上げているのが理解できる。


(なるほど、これが鬼族か)


 俺はアリエルの声にこたえることもなくその光景を視界に納め続ける。いつの間にこれほどの存在が悪霊になったのかなどどうでもよかった。ただこれほどの存在を今の今まで知らなかった己を恥じることしかできなかったからだ。


「はははははははは!!こりゃおもしろいみせものだな!悪霊の王さまよ!」


 そう語りかけてきたのはアリエルが一番強いと言っていた尻尾付きのでか物であった。鬼族…もうあの強いやつは鬼と呼ぶことにしよう。とにかく鬼は俺がこいつと戦いたがっていると思っているのか手を出してこない。


「ありゃ鬼族じゃないか!それもとびっきりの規格外のだ!ははははは!!どんなやつが居るのかと思って面白半分で来てみれば、あんな規格外の悪霊を操る悪霊の王さまがいるとはな!まったく、何が起こるか分からんもんだな」


 何が面白いのか目の前のでか物は笑い続けている。その笑みは当然のように好戦的なものだが不思議とそれが不自然ではない。


「しかもその門の向こう側の力はメディアの嬢ちゃんじゃないか?」


 まさかばれたのか?ばれて問題のあることでもないが、まさか気づかれるとは思わなかったな。たしかに、門は死者の都につながっている。向こうからこちらに来られるのだから、こちらから向こうのことが分かるのは当然だ。だが魔族はそう言ったことを調べるのは苦手だと思っていたが…考えを改める必要があるな。


「ふぅむ、話せんのか?まあ、そんなことどうでもよいか。」


 そう言うと巨大な尻尾を後ろに伸ばし尻尾で体制を整えるような格好をしながら前傾姿勢を取る。それと同時に体の周り、特に腕と足を中心に雷が迸り地面を焦がしていく。それは腕から地面に向かって絶えず雷が落ちているという不思議な光景でもあった。


「さあ、悪霊の王よ!我を楽しませて見せよ!」


 言葉からあふれ出る自信、恵まれた体と強大な魔力。なるほど、こいつは確かに強いのだろう。だが、気にいらない。楽しませるだと?いきなり攻めて来ておいて楽しませろだと?舐めるなよ。

 対する俺には以前メディアとの戦いで現れた黒い煙が纏わりついてくる。怨霊どもが、見ることができるほどの密度で俺の周りに現れた。


「禍々しいな。それがお前の本気か?」


 分からない。俺はいつだって本気だ。ただ生きるためだけに全力か、それを邪魔した存在を殺すために全力かの違いしかない。こいつは炎帝とは違う。炎帝は言葉こそ悪かったが戦うことに真剣だった。だがこいつはどうだ?いきなり攻めてきたと思ったら楽しませろだと?…楽しむ暇もなく死ぬがいいさ。




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