~憤るものたちと無知な彼女~
ご意見をいただいた(、)をつけるということ、文を丁寧にということを頑張ってみました。まだまだよく分かっていないので、ここがおかしいなどあれば是非一言お願いします。
誤字など修正しました。 1/1
迷宮核。
この存在を知る者は、意外かもしれないが多い。
ただ、知っているが教えないことがほとんどであるため、知るものが少ないと錯覚してしまう。
これを教えないほとんどの理由は【迷宮】を自分で自由に作ることができる、これ自体が強力な力であるからに他ならない。
迷宮とは、魔力を糧に生きるものにとっては生きている限り食に困らず、強き武器を求めるものにとっては宝の山であり、魔術を極めんとするものにとっては枯れることのない泉、そのような場所なのだ。
そんな物を自分の好きな場所に作ることができる。
その危険性・有用性は誰もが理解できることだろう。
だからこそ、己だけの胸に留める。
そして、秘密を知る者を消そうとするのだ。
そのようなことを繰り返しているうちに、いつからか何者かに造られた迷宮は【創造迷宮】と、そうでないものを【野良迷宮】と呼ばれるようになった。
もちろん、そんなことを知らないものにとってはどちらもただの【迷宮】に変わりないのだが。
だが、このような知識を知っていようが、そうでなかろうが迷宮の主同士がお互いを消そうとぶつかり合うことには何の違いはない。
そして、このような戦いを生き残った創造迷宮の主が高い実力を有しているのは必然だろう。
しかし、この在り方自体が、古い存在のみしか力を持てない、ということとほぼ同じ意味に他ならない。
だからこそ、力を持つ古いものに対抗するために若いものたちは【場】を作りだした。
そもそも【場】の性質は迷宮に非常に似ており、【場】の主を迷宮核と考えたものに近い。
だからこそ【場】は迷宮と似たような恩恵を受けながら、創造迷宮よりもはるかに扱いやすいのだ。
しかし創造迷宮とは違い、ただそこにあるだけで成長、とはいかないという問題を持つ。
ゆえに、【場】を持つものはよりよい【場】を作るために必死なのだ。
古きものと若いものの争いは人の知らぬ場所でひっそりと、しかし毎日のように一進一退で行われていた。
だが、ある場所ですべてのものにとって予想外の出来事が起こった。
【場】と迷宮の融合である。
【場】と迷宮の融合、これは単にそれを知る者同士の仲が悪い、という問題だけで行われなかったのではない。
長い時の中、それを行おうとしたものは当然いた。
だが、誰も成功しなかったのだ。
そもそも迷宮核と【場】の相性が悪いのではないか、といものが有力ではあるがそれだけである。
誰も理由が分かっていない。だからこそ、理想ではあるが誰もが諦めていたのだ。しかし、現実の問題としてこれは起こった。
このようなこと、誰も望んでいない。
古きものは、そもそも自分以外の力あるものを皆殺しにしようとしていたのだから当然として、若いものもこれを望んではいなかった。
そもそも、若いものが【場】を作った理由が、古いものに対抗しよう、という考えからきている。
古いもの達と同じ力を持てば終わりか?当然、そんなはずがない。古いものたちを打倒し、己たちこそが支配者となりたかったからこそ必死で力を求めたのだ。
だというのに、どこの誰かも分からない存在が自分たちより優れていると証明しているわけなのだから、気に入らないと思って当然である。
ゆえに、ただ気に入らない。それに関してのみ皆の心が一つになった瞬間だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この死者の都は名が表すように、まともなものが何もなかったのだ。
私の世界のように雪に覆われているわけでもないというのに木も、草も生えていなかった。そのことに理由はあるのかもしれない。だが、それをどうにかしようとしたようには見えないのだ。それだけなら、まだよかった。だが、崩れたまま修復されることなく放置されている建造物や無数に散らばる武具の残骸がどうしても目についてしまう。
唯一まともなのは、月の木の周りだけだろうか。
はっきり言うのは控えたが、実に趣味が悪い。あるいは、そういったことに無頓着すぎるとも言えるのだろうか。
とにかく、仕えている主の本拠地がこのような廃墟など、私は認めることはできない。
そんなことを考えていたからこそ、【場】を作ると言いだした時には運がいいと思った。
すぐさま【場】とは、体と同じであることを伝えたのだが、どうも言いたいことすべては伝わらなかったようだ。
力のことにばかり意識が向いているようで、体が汚いという意識はないらしい。
たしか敵の血を浴びることで敵を威嚇する種族がいるとは聞いたことがある。もしかするとそう言う種族なのだろうか?倒した敵の武具を無造作に捨て去っていることも、こんなものは無意味だ、という力の誇示といった意味があるのかもしれない。
しかし、本拠地ともなる場所であるならまともな場所にしたい、というのが正直な思いである。
このような、ぼろぼろの廃墟に居座るなど…私は、嫌である。
だからこそ、私の【場】と共有させ、氷の草や木、動物などを作り少しでもまともな場所にしたかった。
だが、【場】の共有ということは、私の力を死者の都でも自由に使えるようにするために絶対に必要ではある。しかしこれは、死者の都が持つ【場】の力を私も使うことができるようになる、という、力を分け与えることと同じ意味なのだ。
さすがに、そのことを直接言えば断られると思い、例えとして森を出すことでこの場所は完ぺきではないと伝えたわけだが…実にあっけなく【場】を共有する許可は降りた。
たしかに今は、私の持つ【場】の方が強大である。だが、あれほど巨大な月の木が育っているのだから、放っておいたとしてもすぐに【場】の力関係は逆転するはずだ。
だというのにをすぐに共有の許可を決定してくれた。
これが、強きものの余裕なのだろうか?
私は魔族のことしか知らない。しかし、魔族の強者は、己が一番でないと満足できないものが多い。ゆえに、貪欲に力を求めるものが多いのだ。
だからこそ、レクサスの力に対する姿勢はずいぶんと新鮮に映る。
強い力を持ちながら、より上の力を求めている。
しかし、力を貪欲に求め、何より優先しているというわけではない。むしろ、私の【場】のこともそうだが、行動のどこかに余裕が、遊びが感じられるのだ。
レクサスが外に出かけた。
壁を修理するために素材を集めてくるつもりらしい。だが、石や岩は、巨大な石の巨人を作るために使用されているはずだ。素材として使用できるものなど、ほとんど残っていないと思うのだが…あの行動に意味はあるのだろうか?それとも、何かあてがあるのだろうか?
しかし、そのことに一切触れることなく出て行った。ということは、知られたくないことの可能性が高い。なにも聞かない方がいいだろう。
変なことを考えるよりも、言われたように私は、私のやりたいことをやろう。
月の木の近くに立ち、月の木に意識を向ける。
月の木。
おとぎ話に出てくる木である。
実物を見ることなど、ありえないと思っていた。だというのに、こうして目の前に実物があり、この木を調べる許可まで下りている。
恵まれている、と、そう思う。
強大な力を持った竜族の住処に近付くなど命がいくつあっても足りない。そんな中、月の木を調べるなど絶対に不可能だ。だが、私は調べることができる。それも、自らの体でもあり、最も得意とする【場】の影響が及ぶ範囲で、だ。
月の木に注意を向け【場】から流れてくる大量の魔力を、そのまま月の木に向かって流す。
すると、乾いた大地に水がしみ込むように月の木は魔力を吸いこんでいく。
その光景は本当に一瞬だった。
だが、こうして見ているだけならば魔力を大量に吸っているようには見えない。
数度同じことを繰り返しても結果は変わらなかった。おそらくだが、月の木は自発的に魔力を吸うことが無いのではないだろうか。先ほどのように与えられた魔力のみを吸い、自発的に吸う魔力は今の大きさを維持するために必要最低限の魔力しか吸わない。そう考えるのが自然だ。おそらく、レクサスもこのように定期的に魔力を吸わせることで月の木を育てたのだろう。
そのように考えた時主であるレクサスが不在であるはずなのに、死者の都の【場】から魔力が送られてきた。
なぜ?
主が居ないというのに【場】が動くなどあり得ない。
最初から、そういった目的のために作られた【場】ならば不可能ではないが、この死者の都の【場】は戦うために作られたものなのだ。このように、何かに力を分けるようなことは絶対にしないはずである。
しかし、目の前で起こったのは間違いなく事実だ。
何者かの干渉か?
そう思い、すぐに死者の都の【場】を調べ上げる。だが、何の異常もない。私が作った時と少しの違いもなかった。…つまりこれは、明らかな異常である。
少しの成長もしていない。
【場】には魔力があり、魔力を吸い上げる迷宮核まであるのだ。だというのに【場】が成長しない。これではまるで【場】に意志があり、【場】の成長より月の木の成長を優先したかのようでさえある。
それとも、それが正解なのか。
もしかすると、死者の都の【場】…もっといえば、死者の都そのものを管理する存在がまぎれ込んでいるのだろうか?
…ありえそうだ。
そういう存在が居るからこそ、レクサスは本拠地ともいえる場所を、長期間空けることに抵抗がなかったという可能性は十分に考えられる。逆にそのぐらいの保険は懸けているのが普通であろう。
結局、【場】が成長していないこと以外の異常は何もなかった。
何度も何度も時間をかけて調べつくしたのだが、何もない。
原因が分からないままだ。
もう一度、魔力が送られてくるまで待ちその時に確かめよう。
…この方法がとれるのは、もし、先ほどの考えが間違っていなければ、という条件が付くのだが、まあいいだろう。
しばらくすると再び魔力が月の木に送られた。
やはり【場】の成長のために使うはずである魔力を、月の木に送っているようである。
意識を向けることでようやく気付くことができたのだが、死者の都は迷宮としても【場】としても迷宮核が中心となっている。これに気づくことができなかったのは、【場】の主はレクサスだと思いこんでいたせいだ。
すぐに、共有している私の【場】を使い迷宮核を調べる。
しかし、何も分からなかった。
分からない理由としては、そもそも私が迷宮核について何も知らない、ということもある。しかし、そのこと以上に分からない理由はこの迷宮核にも、【場】にもなんの細工もされていないことなのだ。
そう作られたわけでもない、何か細工があるわけでもない。だが意志があるかのように動く迷宮。
…わからない。
この迷宮は…死者の都は、分からないことばかりだ。
いつの間にか、新しい何かが現れる。私が最も自信のあった【場】の創造でさえこうなのだ。…安全を考えるなら、あまり深く考えない方がいいのかもしれない。余計なことをしなければ安全なのは間違いない。
だが、分からないという不安は心に残る。…私の不安を払うためにもレクサスに聞いておいた方がいいだろう。
しかし、いくつかの疑問にはあたりをつけることができた。
まず、月の木を生長させるために必要な魔力は迷宮核から送られている。
そして、死者の都を整備している何者かの存在だ。
…私は月の木を調べようとしたはずなのになぜ、迷宮について考えているのだろうか?
<メディア>
「!…レクサス様でしたか…。気づかず申し訳ありません」
本当に驚いた。
あり得ないと、そうは思うが先ほど考えていた姿の見えない何者かが現れたのかとさえ思ってしまった。
<…体が…以前見ていたが顔を見…る…初め…だった…。まあ…そんな…より聞きたい…とがある…>
体がないが、以前見たことがある。顔を見せるのは初めてだった。そんなことより、聞きたいことがある。
この言葉の意味はつまり、死者の都を整備している何者かは、体がないということなのだ。
気づいてしまえば当たり前である。
ここの怨霊がおかしかっただけであって、本来は怨霊の姿を見ることはできないのだ。ならば、見ることができないものがいたとしても不思議ではない。
そして顔を見せるのは初めてだった、という言葉。
おそらく、以前の配下を紹介した時に顔見せをしなかった存在なのだろう。タイミングから考えても、先ほど月の木に魔力を送ったことを期に紹介しようと思っていたということなのか。
そして、もっとも重要な言葉。
そんなことより。
つまり、レクサスにとってこの姿の見えない存在はその程度の認識なのだ。
それが分かったとたんに、姿を見ることができない恐怖が、姿を現すことさえできない存在、という認識に変わった。
すでに恐怖はない。
「私に応えられることであればなんでもお聞きください」
今回は無駄なことに時間を取られてしまったが、次からは何の憂いもなく月の木を調べることができそうだ。
備考
既存の迷宮と【場】の融合がうまくいかなかった理由。
【場】は核になるものが意識のある者でなければいけない。
しかし迷宮核は意識のない物でなければいけない。
この違いこそが迷宮と【場】の融合がうまくいかなかった理由。
しかし死者の都の迷宮は迷宮核に意識がある、という誰も知らない特別性があった。
この答には主や迷宮核の力の強弱、【場】の出来などでしか判断できない限り決して辿りつくことはできない。
そもそも確認することができないためおそらく気づく者はいない。
迷宮と【場】の融合がもたらす効果は単なるいいとこどり。
成長し、改良でき、力を扱いやすい。
メディアが想像していた、姿の見えない存在の正体は迷宮核です。
メディアはこれ以上ないほど完全に勘違いしていましたが死者の都の整備をしているわけではありません。感覚的には定期的に水を与えている感じです。
死者の都の支配権の強さは 主人公=迷宮核≧メディア です。
ただ、迷宮核、メディアともに主人公の命令を聞くため実際は
主人公>迷宮核≧メディア となっています。
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