要塞
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死者の都を一通り回ったが他にはおかしな場所も物も見つけることはできなかった。
そうなると次にやることは一つだろう。
死者の都周辺の街に行き死者の都がどういった扱いになっているのか調べなければ。
すぐに近場の街に行こうと思ったがメディアも行ってみたいと言い出した。
月の木の研究をさせてほしいなどと言っていたのでそちらを優先するのかと思っていたので意外である。
もしかすると主である俺についていかなければだめだと思い同行すると言いだしたのかもしれない。
俺はそんな考えがなかったためどちらを優先しても問題ないと思ったのだがついてきてくれるというならそれもいいだろう。
近場の街に情報収集に出かけると言ってもどこに街があるのか全く知らないので大森林の周りを動き回ることになるだろうな。
死者の都から出る時は間違いなく街にたどり着くまで時間がかかると思っていた。
しかし大森林を出るとまるで要塞のような堅固な壁を持った場所がいつの間にか出来上がっていた。
俺が覚えている限りでは大森林の周辺にはこんなものはなかったはずなのだが。
(こんな場所にこんなものなどあったか?)
『私たちが死者の都を出るまではなかったはずです。おそらくそれ以降に作られたものかと』
俺たちが死者の都を出てからこんなものを作ったというのかだろうか?
しかしこの壁、遠目で分かるほど作りがしっかりしているな。
『この壁からは強力な悪霊よけの結界を感じます。僧侶の連中が協力したのは間違いないですよ』
あいつらは神の教えとやらを説いてるか怪我人の手当てでもしているのが本職だと思っていたがやはりやる時はやるということか。
しかし結界か。
結界などの魔法を使う連中は総じて厄介である。
それが光魔法となるといろいろな意味で厄介さが増すのだ。
なぜなら神への狂信がないと大規模な光魔法なんてものは使えない。
以前襲われた時に使われた光弾くらいなら朝と晩に神に祈っていれば使える。
しかし大規模な光魔法、特にこの壁に施されているらしい強力な悪魔よけを使うやつは一歩先に進んでいる。
つまり言い方が悪くなるが大規模な光魔法、悪霊よけの結界などを使えるようなやつは神に狂っているのだ。
それほどの結界があるということはそんな奴までここまで出張ってきたということである。
実に厄介で面倒な話になってきたものだ。
しかしこの壁は要塞のようでさえあるな。
『間違いなく要塞でしょうね』
(そんな分かりきっていることなどどうでもいいからとにかく入ってみようじゃないか)
俺としてはここが死者の都を攻めるために作られたものじゃないという希望を捨てたくないのだがほぼ間違いなくそうはならないだろう。
しかしアリエルがなぜか乗り気である。
まあ最初から情報収集が目的だったので入るという以外の選択肢はないわけだが。
しかしこの堅牢な壁に守られている場所に簡単に入ることができるのだろうか?
まあとにかく行ってみるか。
結論から言えば拍子抜けするほど簡単に入ることができた。
なぜこんなにも簡単に入ることができるのか?
そんな当然の疑問は中に入るとすぐに解決した。
街に入ると突き刺さる大量の視線。
しかしそれは俺ではなく俺の後ろをついてきているメディアに向けられている。
先ほど通してくれた門番は当然のように街の案内をするといい何とかメディアとの会話の機会を作ろうとしている。
どうやら良くも悪くもメディアの容姿のことを考えてなかったせいでこうなってしまったようだ。
『これは彼女の容姿のことも考えて行動したほうがよかったですね』
たしかに目立ってしまったが簡単に街に入れたからいいじゃないか。
『ただの街に立ち寄るだけならそれでもいいですが今回のような場合はあまり目立ちすぎるといろいろと面倒ですよ?』
俺としては目立ったとしてもやることは変わらないと思うんだがな。
勝手に案内もついてくれたしメディアに任せておけば知りたいことだって意外と簡単にわかるんじゃないのか?
「とりあえず街を案内してくれませんか?」
どうやらメディアがこちらの会話を聞いて気を利かせてくれたようだ。
門番は自慢げな顔で任せておけと言っている。
『まあかまいませんけど…今のうちにいろんな質問に対する返事か言い訳でも考えないとだめになるじゃないですか…』
難しく考えなくても死者の都について聞くだけじゃないか。
そんなに深く考えなくてもなんとかなるだろ。
『繰り返しみたいになりますがこの街が普通の街なら問題ないですけどどう見ても普通の街じゃないでしょう?もしここが死者の都に対する最前線の要塞のような役割をしていたらどうするんです?そんなことさえ知らずにそんな場所まで来ている美しい女なんて警戒されて当然ですよ?』
(まあ今回はどうしようもないのだからそういったことは次から気をつければいいではないか。それにここが死者の都に対する最前線ならそれだけ死者の都が危険視されているということだろう?ならそれが分かっただけでここに来た目的は十分果たせているではないか)
アリエルの言うとおりだ。
難しく考えなくともやばいと思われているなら思われているということを知ることが重要なのだ。
その後のことはまたその時考えたらいいじゃないか。
へまをしてもすぐにアリエルに門を使えばすぐに逃げられるのだからもっと気楽にいけばいいのにな。
「レクサス様この方が街を案内してくれるそうです」
アリエルたちと話していると先ほどの門番がメディアの後ろから現れる。
「門番のサイだ。見て楽しいかはわからんが案内しよう。着いてきてくれ」
まず案内されたのは門の近くにある壁から生える形で作られている建造物であった。
武骨ではあるが無駄がなくそれでいて頑丈な作りになっているのがここからでもわかる。
「用がない時は近くまでいけない決まりになっているがここには騎士たちがいる。見て分かるとは思うが壁の防衛は彼らが担当している」
なるほど。
しかし騎士か。
こいつらがいるということは本格的に危険な存在扱いだ。
しかも騎士が長期間滞在することが前提の作りなのだから完全に討ち滅ぼすつもりなのだろう。
「近くには行くのはいいが中に入ることはできないからさっさと次に行くぞ。あまりじろじろ見ていると不審人物扱いされて最悪捕まるからな」
俺たちを簡単に入れたくせにそういうことは気にしているんだな。
よくわからんやつだ。
しかし最悪捕まるか。
どうやら騎士団はかなり本格的なやつらがいるのだろうな。
「ここは魔術師たちが使っている工房らしい。先の騎士団と同じように用がなければ入ってはいけないことになっている」
工房といってもただでかいだけの建物だな。
中に入ることができないなら何も分からん。
そう思って建物を見ていると建物の周りに石でできた彫像があることに気づいた。
形はさまざまでありすごく簡単な人型から本当に少しだけ人間に見える形をしたもの、騎士のような鎧を着売りに出せそうなほど精密なものまでさまざまである。
しかし石でできた人型を見ると石巨人を思い出すな。
少し探りを入れて貰えるとありがたいのだが…。
そんなことを考えているとメディアと目が合う。
「この彫像は…もしかして話に聞いていた擬似生命を宿すための器でしょうか?それとも簡易的な操作術の術に使うものでしょうか?」
「あんたもその手の話を聞いてこの街に来た魔術師かい?俺は詳しいことは分からんが…石巨人を小型化して一人一人に護衛としてつけるって話が出ていてな。どの程度なら動かせるのか、悪霊どもに対抗する力はあるのか、材料はあるのかってことなんかをやってるうちにできたらしいぞ。なんでも簡単な形のほうが硬く強い、細かい彫像は細かい動きができるんだと。まあ次の討伐戦までには最高の状態に仕上げてるなんていってたがな」
メディアが気を利かせてくれたな。
どうやらあたりのようだ。
まあここ以外はあり得ないとは思ってはいたが今ので確実になったと言ったところか。
あの巨人は厄介だったし詳しく調べたいな。
まあ魔術のことは何を言っているのか分からない状態になるだろうからアリエルかジズドに任せることになるだろうが。
しかしよくどんな魔術なのか当てられるもんだな。
俺なら探りを入れようにもどんなふうに探りを入れればいいのか分からないという状況になる自信がある。
「私たちはこれの話を聞いてここまで足を運んだのですが詳しい話を聞くのは無理なのですか…仕方ないですね魔術師にとって魔術は重要なもの。簡単に見ず知らずものに教えることはできませんからね」
そんなことを言いながらとても残念そうな顔をしながら目を伏せている。
まだ演技を続けているようだが絶対に知っておかなければならないようなことはほぼ知ることができた。
後は細かく聞いたり魔術のことを聞いたりするぐらいしかないだろう。
しかし死者の都の悪霊討伐に騎士団まで動員し、最前線の場所に魔術研究のための施設を作るなんてな。
どれだけ討伐に力を入れているのだろうか?
討伐のためにわざわざ要塞を作るなんて聞いたことがないぞ。
『ここまで本格的に討伐のために施設を作っているなんて思いもしませんでした。どうするつもりですか?』
どうすると聞かれてもなにも考えていない。
とりあえずこいつらの本気さは十分理解できた。
本当はなぜ死者の都などという場所を討伐しようとしているのかの理由を調べるつもりだったがここまで本気で討ちに来ているのだから理由などどうでもいい。
俺の安心できる場所を守るためにはこちらを討ちに来た討伐隊を壊滅させるしかない。
とにかくこの街を壊すことも考えたが飛竜を圧倒した石巨人がいることに加え壁に施されたあの結界がある。
おそらく街の破壊は無理だろう。
今の状況ではさっさと戻って壁を強化するくらいしか思いつかない。
『なら以前言っていたように死者の都を迷宮にしてしまうのはどうでしょう?ただ数で押すのではなく壁自体に仕掛けを施して死者の都を囲むように強化の陣を施すなんていいと思うんですが』
死者の都を囲むように強化の陣を施すのか。
いい案ではないだろうか。
『こういったことは彼女が得意なはずなので後でそのことについて話しをする時間を作ってください』
ジズドが教えを請うほどメディアの魔術に対する技術や理解は深いということなのだろう。
アリエルの言葉に従って配下にしておいたのは正解のようだ。
「すみませんがそろそろ次の場所に案内してくれるとありがたいのですが」
「おっと悪いな。なら次に行こうじゃないか。と言ってももう見るべき場所は教会ぐらいしかないんだがな」
教会か。
メディアはいいとしても俺たちはやばくないだろうか?
僧侶連中に一発で俺が悪霊だってばれる気がするんだが。
『僧侶は私たち悪霊や怨霊の類と違って見た目で判断していますから多分大丈夫でしょう』
そうなのか。
というか僧侶って悪霊のことを見た目で判断してるのか。
「ここが教会だ。まあ普通の街にある教会みたいに教えを説いたりする場所だ。どこの街にでもある普通の教会だからこれは見ても意味はないだろ」
普通の教会なんて見たことないがな。
あいつら神を信じろそうすれば救われると毎回毎回うるさいんだよな。
だいたい敬虔な信徒が魔物に殺されたって話を何回も聞いてたら神に祈ったら救われるなんて大した意味がないってすぐに気付きそうなもんだがな。
死んだ後に救われてたとしても生きてないなら意味がないだろ。
「そうですか。案内ありがとうございます」
メディアもここには興味がないのかすぐに会話を切り上げてしまう。
「それじゃあな。またあったら声でもかけてくれ」
門番の男もすぐに去ってしまった。
わざわざ案内を買って出た割にはすぐに引いたな。
諦めるのが早すぎるのかさっぱりしたやつなのか判断に迷ってしまう。
さてとりあえずの目的は果たしたわけだがどうするか。
「私は石の彫像が気になりました。どうにか調べられないでしょうか?」
そう言われてもな。
さすがに魔術師の工房に行くのは気が引けてしまう。
『無理なら無理で別にいいじゃないですか。せっかくここまで来たのですから一度くらいそれらしい行動をしておかないと逆に怪しいかもしれませんよ?』
それもそうだ。
メディアが言ったようにわざわざ魔術の話を聞いたからここまで来たという話に沿うように行動するなら何もしないのはおかしい。
もしかしたらという可能性も少しだがあるかもしれない。行ってみるか。
「ありがとうございます」
まあ当然のように入ることはできなかった。
メディアが粘っていたがここは自分の工房ではなくルフ要塞の工房だということで部外者は絶対に入ることはできないらしい。
しかしいくつかわかったことがあった。
まずここはルフ要塞という名前で死者の都の悪霊を討伐するために作られたものだということ。
そしてどうやらこの街の資金源や食料は周りの国が出しているらしいということ。
つまりここは周りの国すべてが支援して作り上げた死者の都の悪霊を討伐するための要塞だということだ。
なぜそこまで死者の都の悪霊を討伐したがるのかわからないがかなりまずい扱いをされているようである。
死者の都についての扱いを聞きに来るつもりではあったがここまで警戒されているとはな。
すぐに死者の都に戻り防備を固めなければ。




