迷宮都市へ
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地竜の顎を出たわけだが次はどこに行くのがいいか。
『もしどこに行くか決めてないなら迷宮都市に行ってみないか?地竜の卵をとった商人たちもそこで卵を売るつもりだったらしいから何か面白いものがあるかもしれないぞ』
積極的に人間に関わるつもりはないんだが。
それに俺は悪霊だ。そんな俺が人前に出てしまえば面倒になる。それにそもそも俺たちは誰もしゃべれないじゃないか。
まあ金はあるわけだがな。
『君も興味があるんじゃないか。街の近くで張り込んでおいて出てきたやつから外套と顔が隠れる兜を奪ってしまえばいいんだ。これなら問題なく入れるはずだ』
そこまで面倒を起こしてまで街に入るつもりなんてないわけだが。
ジズドはなんでこれほど街にこだわるのだろうか?
(人間の街か。どんなものか興味があるな)
アリエルまで加わってしまったか。
こうなってしまったのなら街に行ったほうがうるさくなくていい。
ならいくしかないな。
『ありがたい。商人たちの記憶を見てからずっと行ってみたかったんだ』
まあ行くなら早く行くとするか。
道案内を頼むぞ。
道中は迷宮都市の話を聞いた。
街の中心に穴がありそこが迷宮になっているらしい。
洞窟の中はほとんど探索されているらしく中堅どころの探索者が鉱石を集めるために利用しているらしい。
この鉱石で作った武具は性能がいいらしく迷宮都市の大きな収入源らしい。
また迷宮都市の近くに巨神の足跡と呼ばれる大きな湖があるらしい。
そこには湖竜がいるらしく腕に自信のある討伐者が素材を求めて頻繁に命を賭けているらしい。
ここで金を稼いで貴族だ王だ、委員会だギルドの上役だといった連中に貢物をして成り上がるのが一般的らしい。
湖竜から作った万病に効く薬、質のいい鉱石から作った武具、戦争のための傭兵、果てはどこに出しても捕まるような盗品や奴隷など基本的に金があれば何でも手に入るらしい。
場合によるが盗賊の首が金代わりになるらしいのだからどんな場所だと言いたくなる。
行くのが嫌になってきた。
なにかあればすぐ逃げよう。
迷宮都市まではかなり時間がかかった。
街の近くにある森で姿を隠しとにかく誰かが出てくるのを待つ。
『でてきませんね』
そうだな。
まあ顔を隠せる鎧を持ってる奴なんて都合よく見つけられないだろう。
そもそも全身金属鎧というのは凄まじく重く何より高い。
持ってるのは金持ちで力のあるやつか、戦争の時少しでも生存確率を上げたいやつしかいないのだ。気長に待つしかないだろう。
そうすると次の日の朝に商隊が出てきた。
商隊の護衛の中に上半身だけだが金属の鎧を着ているやつがいる。
武器は大剣のようである。
待つのも嫌になってきたところにちょうど良く表れてくれるなんてな。あれを貰うことにするか。
隠れている場所に近づいてきたところでいつものように一気に近付く。
俺の感覚では一瞬であったが狙ったはずの護衛は俺に反応して飛び退く。
基本的に奇襲を仕掛けたときは戦いを有利に進めていたのでそれが失敗したということで少し不安になってくる。
「敵襲か!」
「なぜこんな場所に悪霊が!?」
「護衛の連中は早く来い!戦えないやつらは下がってろ!」
多少離れたとしてもそんな距離など一息で潰せる。
だが武器を構えた連中の中に飛び込むのは嫌だ。
どうするべきか。
「悪霊のくせに鎧なんて着やがって…」
「首を狙え。悪霊といってもそれでやれる」
悪霊の倒し方を知っている。
悪霊を倒したことがあるのだろうか?
もしそうならかなりまずい。
早まったか?
「左腕に蛇をつけた悪霊って…あれってたしかギルドで危険種に指定されてたやつっじゃないですか?」
危険種?
「たしかにそんな通達ががあったな。まあ王都の駆けだしが話を大きくしただけだろ。よくある話だ」
よくあるのか。
というか俺が危険種って…ただ頑丈なだけだと思うのだが。
「でも情報の通りなら近づくものをすべて食いつくすらしいですよ?」
「ならなんで鎧なんて着てるんだ?」
「それは…」
「まあ負けたときは相手が大きく見えるもんだ。それが悪いとは言わんがそれが理由でビビるのは間違ってる。拾える勝ちも拾えなくなるからだ」
話をしながらもじりじりと間合いを詰めてくる。
結局どうやってこの状況を乗り切るべきか。
頭の鎧と外套も手に入れないといけない訳だし…失敗したな。
次があれば絶対人数が少ないやつらを狙うことにしよう。
ついに間合いに入ってしまったらしく凄まじい速度で大剣が振るわれる。
大剣使いが飛び退いた時の速さは熊より多少早いだけだったが剣を振る速度は地竜の拳に匹敵しているのではないかと思えるほどだ。
だが地竜の腕ほどの脅威は感じない。
それに今までの経験から使い手が強くとも弱い武器では俺に届かないのは分かっている。
届かせたいなら地竜の腕並みの武器を持って来いと言いたい。
当然のように大剣は当たる前にぼろぼろになる。
そして今まで戦った相手と違い今回の相手は重い武器を振りまわす戦い方をしている。
そんな戦い方をしている奴の武器が急になくなればどうなるか。
当然バランスを崩す。
その隙に踏み込んで胸を殴りつける。
バランスの崩れたあの状態らよく防いだものだが食ったので終わりだろう。
だが動いているところを見るにどうやら生きているらしい。
一度接触して形が残った武具ははじめて戦った討伐者以来だ。
おそらくいい鉱石を使っているのだろう。
近くにいる竜牙兵を骨にする食事に耐えるとはな。
やはり生き残るにはいい防具を買えということか。
それとも本人の生命力が竜牙兵とは比べ物にならないほど強いのか。
地竜の時に思った食う時の食いやすい食いにくいはあるようだ。
「頭!」
周りのやつらが冷静さを失い攻撃してくるが俺に届かせることができないまま武器を失っていく。
これなら突っ込んでいても問題なかったな。
最初は皆殺しにして目的のものを盗るつもりだったが意外なほど簡単に倒せてしまったことで迷いが生まれる。
この程度のやつらなら殺す必要すらない。
今まで食ってきた生き物は餌としか見ていなかったというのにずいぶんな考えである。
ここで生かしておいたところでいいことなど何もないのは分かる。
だが自分から後味の悪いことをするつもりもない。
自分から襲いかかっておいてとも思うがそんなことは関係ない。
俺は基本的に気分よく食いたいのである。
まあ兜と外套は貰うつもりだから大剣を使っていた男を食うのは決定している。
そう思いながら大剣使いの方に進んでいたが不意に声が聞こえた。
「これだから討伐者や傭兵など雇うだけ金の無駄だって言ったでしょう」
護衛たちが道を譲るように割れる。
現れたのは軽装の剣士だった。
「ここは私に任せてください。私だけで護衛が務まるところをみせましょう」
そう言って剣を構える。
先にこいつの相手をするしかないな。
薄い光の膜のようなものが剣を覆う。
魔法剣士か?
初めて見たな。
『あの剣士の外套のほうが高級そうですよ。奪うならあっちの外套にしませんか?』
俺としてはどちらでもいい。ただこいつは兜を持ってないからな。
『兜も商隊の馬車の中によさそうなのがありました。そっちにしましょう』
いつの間に見つけたのだろうか?
というか大剣使いは護衛とともに魔法剣士が囮になっているうちにさっさと逃げるべきだと商人を説得している。
欲の皮の突っ張ってる商人なんて人種は自分の財産を捨てるような真似は絶対にしないだろう。
そちらを見ていると魔法剣士が切りかかってきた。
踏み込みの速度は大剣使いより速いが以前戦った剣士と比べると遅い。
今度はわざわざ受ける意味はないので剣ごとへし折る勢いで右手で殴りかかる。
魔法剣士の彼は勝ちを確信しているようで笑みを浮かべている。
何を考えているのだろうか?
剣を一瞬で食いそのままの勢いで顔を殴る。
頭蓋は砕け体の肉は一瞬でなくなる。服を着た首なしの白骨死体の完成である。
やはりあまりうまくない。
この光景を見た商人が馬車を置いて逃げだす。
それに続くように我先にと護衛の連中も逃げだす。
大剣使いも走って逃げたのでまだ余裕があったということか。
今回のことでわかったが俺は頑丈なだけではなく思っている以上に強くなっているらしい。
油断して死ぬような真似はしたくないがあの数の護衛が逃げたのだ。
人間がいるような迷宮に入っても出会ってすぐやられるなんてことにはならなそうだ。
長居してしまえば強力な討伐部隊が送り込まれるかもしれないがそんなことになる前にその迷宮から離れてしまえばいい。
これはいろいろ行動できる場所が増えるのではないだろうか?
なにより今まで狩られるだけだと思っていた相手が実は意外なほど弱いということがわかったのは精神的にも大きい。
簡単に狩られないと人間がいるからと行動の制限をあまり考えなくていいからな。
しかも連中は俺のことを危険種と言っていた。
危険種は腕に自信のある討伐者が狩りに行くことはあるがそうでないなら逃げるのが基本である。
そして危険種というのは縄張りから動かないことが多い。
移動する危険種というのは俺の知る限りではいない。
これは討伐に来るやつがほとんどいないということと同じである。
いろいろ良いことを知れた。
魔法剣士から外套をはぎ取り兜をかぶる。
(これなら左手さえ隠したら全身金属鎧のただの人間に見えるぞ)
つまり完璧ということか。
なら一晩ほど過ごしてから街に入るとするか。
(今すぐではだめなのか?)
今は外を警戒しているかもしれないからな。急いでいるわけじゃないんだから一日置いた方が面倒も少ないだろうからな。
『なら馬車の中身と馬を死者の都に送っておかないかい?何かの役に立つかもしれないよ』
そうするか。
明日からが楽しみだ。




