そして見つかる私の死体:マイア③―5
殺人容疑で逮捕する……突然、やってきた刑事にそんなことを言われて、マイアは慌てふためいた。逮捕状なんて生まれてこの方、見たことが無かったから、それが本物かどうかは確かめようがなかったが、少なくとも目の前の彼らが本物の警察官であることは数日前に確認済みである。だから多分、そこに書かれている罪状も間違いないのだろう。
しかし、いくらなんでも殺人だなんて……マイアが泡を食っていると、刑事たちはこうなることを予想していたのか、ことさら笑顔を向けて腰を低くし、
「落ち着いてください。これは手続き上の問題で、実は我々も本当にあなたが人を殺したなんて思ってはいないんですよ。お父様のことがあったばかりで、本当に心苦しいのですが……どうかここは一つ穏便に、何も聞かないでついてきて貰えませんかね?」
彼らの態度は紳士的で、大きな体を小さく丸めて懇願する姿は愛嬌もあり、マイアはどうにか落ち着きを取り戻すと、取りあえずこうしていても始まらないから、言われたとおりに彼らについていくことに決めた。
三田に書き置きを残し、ノエルを連れて行こうか迷ったが、流石に子供っぽ過ぎると断念し、着たきりの喪服を着替えてから家から出ると、門扉の向こう側に三台の車が置かれていた。一台は黒塗りのセダンで、あとの二台はツートンカラーのパトカーである。
今が通勤時だったらさぞかし目立ったことだろう。警察が、早朝に来たのはそういう理由もあったのだろうか。マイアは黒塗りの車に乗せられると、その前後を護衛するかのようにパトカーが列を作った。
パトカーは最寄りの所轄署ではなく、桜田門にある警視庁本部へと向かった。その建物は、恐らくコフィンが出来るまで、日本一堅牢な建物だったのではなかろうか。テレビでしかお目にかかれないようなそんな場所へいきなり連れてこられて、一体何が起きているのか、マイアは自分のことながら実感がわかなくて目眩がしていた。
彼女を乗せたセダンは庁舎前まで来るとパトカーと別れ、一台だけ地下駐車場へと降りていった。そこで待っていた制服警官に案内され、エレベーターで上階へと上がると、頑丈そうな壁に囲まれた窓のない部屋に通された。
殺風景な部屋で、出されたお茶に手を付けずにじっと待っていると、いつの間にか手のひらが汗で滲んでいた。空調は効いているようだが、やたら暑く感じるのは、多分精神的な問題だろう。要件があるなら早くして欲しい……
まるでまな板の上の鯉のような心境で待っていると、今朝家に迎えに来た刑事の一人がノートパソコンを片手にやってきた。
「朝早くからお呼び立てして申し訳ございませんでした。緊張していらっしゃるようですけど、そう硬くならず、まずはリラックスしてください」
「はあ……」
そんな無理な注文をするためにこんな場所まで連れてきたわけはあるまい。マイアは言葉を飲み込みつつ、いい加減にちゃんと理由を聞かせて欲しいと、少々前のめりになって問いただした。
「それで……どうして私はこんなところに連れてこられたんでしょうか? 朝に見せられた紙には、殺人なんて物騒なことが書かれてましたけど……何かの間違いですよね?」
「ええ、もちろん。それについては、少々事情がありまして」
「警察は、私がお父さんを殺したなんて、本気で思ってるんですか?」
マイアは今までの経緯から考えて、当然、殺人というのは彼女の父親に対する殺人事件のことだと思っていた。ところが、刑事は彼女の言葉を慌てて打ち消すように、
「いや、とんでもない! 我々はあなたがお父様を殺したなんて、思っていませんよ。あなたが殺したと思ってるのは別件で……あ、いや! もちろん、殺したとは考えてないんですけど、あー……紛らわしいなあ……」
「別件? どういうことです?」
「つまりその……お父様の事件とはまた別の殺人事件が起きてしまったんですよ」
刑事はそうため息交じりに伝えると、今度は非常に言いにくそうに、何度も何度もマイアの顔を恨めしそうに見た後に、恐る恐るといった感じで言った。
「またあなたの心臓に負担をかけるのは、本当に心苦しいのですが……えー、被害者はあなたの婚約者である……近衛睦月……」
「え……?」
「彼が、その~……殺されまして、そしてあなたが容疑者として上がってるんですよ」
全く想像もしていなかった名前がいきなり出てきて、しかも自分がその容疑者だと言われて、彼女は思考停止した。それはそうだろう、何しろ近衛とは、父親が死んだ前日以来、一回も会っていないのだ。葬式にも来なかったから、てっきりずっと警察に拘留されているのだとばかり思っていたのだが……
マイアはブンブンと力いっぱい首を振ると、
「ちょ……ちょっと待って? 近衛さんが……死んだ? それどころか、私が近衛さんを……殺した!? そんなはずありません!! 絶対、何かの間違いですよ!!」
すると刑事の方もあっさりそれを認めて、
「ええ、もちろん。もちろんです。我々もあなたが犯人だなんて思ってはいないんです」
「じゃあどうして、私は逮捕なんてされたんですか? 今朝見せられたあれって、逮捕状ってやつですよね?」
「ええ、これにはそうせざるを得ない理由がありまして……これはもう、口で説明するより見てもらったほうが早いんですが」
刑事は苦虫を噛み潰したような表情でガリガリと頭を掻きむしると、持ってきたノートパソコンをマイアにも見えるように開いた。予め用意していたらしき動画アプリが起動されていて、刑事はカチカチとマウスを操作すると、とある動画を流した。
映し出された映像には、殺風景な廊下の風景が映っていた。公共施設っぽいリノリウムの床に天井の蛍光灯の光が反射している。一体、どこだろう? と思ってよくよく見てみれば、画面の右側にずらりと鉄格子が並んでいるのが見えた。刑事が言う。
「これは、この庁舎内にある留置場の監視カメラの映像です」
「留置場……」
「プライバシー保護の関係で、残念ながら室内の映像は無いのですが……出入りするには絶対この廊下を通るしかありませんし、この映像の手前には看守の詰め所がありますし、定期的に様子も見回っていますから、何か異常があればすぐにわかるようになっています。近衛さんはこの3日ほど、ここに勾留されていました」
「警察は一体、何の容疑で彼を拘束していたんですか?」
「それについても後で話しますから……そろそろ出てきますよ。画面を見ていてください」
「……え!?」
刑事に言われて、視線を画面に戻した時だった。
殺風景な廊下の映像に、不意に誰かが入ってきた。それはまるで病院の検診衣みたいな服を着た小柄な女性で、おかっぱ頭がまるで自分みたいだな……と思っていたら、丁度その時、その人が立ち止まって振り返った。
その横顔を見たマイアは絶句した。
何故なら、その動画に映っていた女性は、どう見てもマイア本人にしか見えなかったのだ。身長も、体格も、目鼻立ちも、髪型から何から何まで、自分そっくりだったのだ。しかし、マイアにはこの場所に来た記憶も無ければ、こんな服を着た覚えもない。
マイアが当惑し、呆然とその様子を見守っていると、動画の女性は当たり前のように鉄格子の扉を開けて、おそらくは近衛がいるのであろう独房の中へと入っていった。画面の右側に消えていった彼女が何をしているかは見えず、また殺風景な廊下の映像だけが延々と映し出されている。
マイアがポカンと助けを求めるように刑事の顔を見ると、彼はちゃんと見てろと言いたげにディスプレイを指さしてから、動画を早送りして画面を切り替えた。するとさっき独房に入っていった彼女が今度はその中から出てきて、来た道を引き返していく姿が映し出された。
ただし、着ている服は来た時と同じではない。真っ白だった病院着は真っ赤な鮮血に染まり、彼女が歩いた後にはポツポツと血痕が続いている……その映像を最後に、画面はまた殺風景な廊下の風景だけを映していた。
刑事は動画ファイルを止めると、
「この後30分くらいして、見回りの看守が廊下の血痕に気づき、独房の中で死んでいる近衛さんを発見しました。見ての通り、彼は恐らくこの時、この女性に殺されていたのだと思われます」
「でも……だって……」
マイアが目を白黒させながら言い訳を探していると、刑事はわかっているとでも言いたげに手のひらを向けて制止しながら、
「ええ、どう見ても動画の女性は鷹司マイア・ロックスミスさん……あなたにしか見えません。だから当然、私たちもあなたが犯人だとして手配を始めたんですけど……すぐに断念しました。あり得ないんですよ」
「あり得ない……?」
そりゃそうだ。自分はやっていないのだから。マイアはそう言いたかったのだが、刑事が考えていることは全然違った。
「まず、この映像が撮られたのは昨日の早朝なのですが……その時刻、あなたがお父様の葬儀のために斎場にいたことを、我々は確認しているのですよ。気を悪くしないで欲しいのですが……実はあなたには、ずっと張り込みの刑事がついていたんです。もしかしたら、犯人があなたに接触してくるかも知れないと思って……それは、お父様の事件が起きた日から、さっき、あなたを家に迎えに行った直前まで。ずっと、行動を見張っていたんです」
それ自体は有り得る話だし、お陰で自分のアリバイが証明されたのだから文句を言うつもりもないのだが……それじゃ、あの映像に映ってる女は何者なのだろうか?
「これまた失礼な話なのですが、一応、可能性を考慮して、房内からあなたの指紋が検出されないか調べもしましたが、そんなものは一切見つかりませんでした。というか、そもそも、この女性がどこから現れたのかも分かっていないんです。
最初に言った通り、この映像はここ、警視庁本部ビル内にある留置場で、一般人が簡単に近づけるような場所じゃないんです。おまけに、この手前には詰め所があって、看守の目に触れず廊下に出ることは出来ない。そしてもちろん、独房には鍵が掛けられていたはずですが、動画の女性はまるで最初から開いていたかのように中に入っている。
彼女のこの格好も問題です。これだけ目立つ服装で庁舎内をうろついていたら、気づかないほうがおかしいですし、なんなら庁舎内の他の監視カメラや、外の交差点のカメラ、この付近にある建物のカメラなども含めて、全部調べてみたのですが、この女性の姿はどこにも映っていなかったんです。彼女は、忽然とこの廊下に現れたとしか思えない……」
刑事はそこまで淡々と説明してから、少し自虐的な感じに笑って、
「そんなわけで、我々はあなたが犯人であるとは考えておりません。ただ、映像だけを見るなら、そこに映っているのはどう見てもあなたですから、現場検証や事情聴取をする上でも、逮捕せざるを得なかったというのがこれまでの経緯なんです」
「事情はなんとなく理解しました……でも、私には近衛さんを殺すような理由はないんですよ。寧ろ、彼のことを恩人とすら思っているくらいで……」
「ええ、ですから動機の面でも、あなたは犯人ではないと思っているんですが……」
刑事はそう言った後、上の空といった感じで暫くの間空中を見つめていたかと思えば、少々歯切れが悪そうに続けて、
「……今更、隠し立てするよりは、あなたを信用してお話します。実は我々は元々、近衛さんではなく、あなたのお父様のことを疑っていたんですよ」
「父を……? え? でも父は被害者ですよね。何を疑うっていうんですか?」
マイアが首を傾げていると、刑事はさもありなんと頷いてから、
「疑っていたというのは、今回の一連の殺人事件のことではなく、国際的な臓器密売グループのことについてです。お父様の訃報をお知らせにいった時にも少しお話ししましたが、我々は初めは国内外で暗躍している臓器密売グループのことを捜査していました。その捜査線上に、ある時、お父様の名前が上がったんです。
あなたのお父様は世界的な大企業のCEOで、政財界との太いパイプをいくつも持っています。そんな彼と組織が繋がっているのではないか? と考えた我々は、すぐに身辺を洗いました。すると、ごく最近に娘さんが……つまり、あなたが心臓移植の手術を受けたと知って、これは間違いないと、我々は色めき立ちました。ところが、いざ調べ始めてみると臓器を見つけてきたのはお父様ではなく、婚約者の近衛氏だと言うことに行き当たり、我々は認識を改めざるを得なくなりました。
そうこうしているうちに、あなたのお父様が何者かに殺害されるという事件が起きてしまい、後手を踏んでしまった我々は臍を噛みました。現時点でも容疑者ははっきりとはしていませんが、恐らくは組織の人間による凶行であろうと考えた我々は、何らかの事情を知っているはずの近衛さんを保護する意味もあり、拘束して事情聴取を行っていたのです……まあ、保護すると言っておきながら、結果はあれだったわけですが」
刑事はバツが悪そうに眉根を寄せる。実際、自分たちのホームに侵入された上に、殺害されたのでは立つ瀬もないだろう。しかし、その犯人がどう見てもマイアだというのは、一体、何の冗談なんだろうか?
「ともあれ、勾留中の近衛氏は、お父様が死んだこともあって、比較的あっさり、自分と組織との関係を認めました」
「それじゃ近衛さんは、臓器密売グループに私の心臓を見つけるように依頼していたんですか!?」
「はい。ですが、それはある意味予想通りでしたし、それだけでお父様が殺されるなんてことにはならないでしょう。だから我々は、彼がまだ何か隠してるんじゃないか? と追及の手を緩めませんでした」
具体的にどういうことだろう? と、マイアが首を捻っていると、
「一番の疑問は、その心臓の出どころについてでした。移植手術というのは、単に臓器があればいいわけではなく、患者間の相性というか適合条件が必要ですよね? しかも心臓という臓器は一つしか無く、保存もきかないので、移植を行う場合は、ドナーはもう回復の見込みがない死にかけの人物に限られる……
しかし、マイアさんの病状の進行具合から鑑みて、そんな短期間で都合よく適合するドナーが見つかるとは思えないんですよ。だからもしかして……近衛氏は初めからドナーのことを知っていたんじゃないか? と我々は考えました。つまり、近衛氏は予め適合者を知っていて、その情報を元に、臓器密売グループがドナーを殺したのではないかと、そう考えたわけです」
マイアの心臓がドキッと高鳴った。それは昨晩、ノエルが指摘した話と一致していた。どうやら警察も同じことを考えていたのだ。そしてもしその考えが正しいのだとしたら……
「それが事実なら、近衛氏はあなたのために人を殺したと同じことになる。だからでしょうか、組織との関係は認めても、彼はドナーについては知らぬ存ぜぬと否認していました。では、どうやってドナーを見つけたのだ? と厳しく問いただしても、そんなの知らない、犯人に聞いてくれの一点張りです。それで仕方なく、我々は彼の身辺を洗い、そして浮上した二人の人物を追っていたのですが……ところで、マイアさん。あなたは田中と、もしくは甲斐という名前に心当たりは……」
「甲斐ですって!?」
刑事が言い終わるよりも前に、マイアは立ち上がって叫んでいた。退院後から見続けている奇妙な夢……その登場人物である甲斐が、まさかこんなところで繋がってくるなんて。
そんな彼女の反応が劇的すぎて、刑事は一瞬呆気にとられたように目をパチクリさせていたが、すぐに気を取り直して前のめりになって、
「心当たりがあるんですか!?」
「はい。多分、私の心臓は、その甲斐さんのもので間違いないです」
「……詳しく、聞かせてください」
刑事は要領を得ない言葉に首を傾げている。マイアは少し興奮気味に、今までに見た夢の話をしてみた。すると、最初は真剣に聞いていた刑事は、段々と苦笑気味に表情を崩していき、
「それは、非常に面白い話だと思いますが、流石に夢の中の出来事は捜査の役には立たないですよね」
「でも、甲斐なんて名前、私は今まで聞いたこともなかったですし、しかも夢の中のその人が誰かに臓器提供をしたのも間違いないんですよ? こんな偶然ってありますか? ……そういえば、はっきりとは覚えていませんが、最初に出てきた保険屋さんの名前も、確か田中だったかも知れません」
「まあ、そっちはありふれた名前ですし……」
刑事は少し考えるような素振りを見せてから、
「もしかして、近衛氏がどこかでポロッと漏らしていたのを、あなたが記憶していただけかも知れませんよ。例えば入院中とか。彼は、甲斐という人物のことを知っていたわけですから」
「どうかなあ……」
「せめて、その甲斐という人物の居所が掴めていたら信じたかも知れませんが。今のところ、実在しているかも怪しいですからね。まあ、記憶には留めておきますが」
「はあ……」
しかし、今にして思えば、父は甲斐のことを調べている最中に殺害され、近衛もマイアには知らぬ振りをしていたが、その名前に聞き覚えがありそうな反応を見せていた。何の関係もないとは思えない。
とは言え、夢の話を捜査に取り入れるわけにはいかないという刑事の言葉も理解できる。信じてくれとは到底言えず、結局、今のマイアにはどうしようもなかった。
と、そんな時だった。コンコンっと、部屋の扉がノックされて、外から別の刑事がにゅっと顔を覗かせた。
「警部……ちょっといいですか?」
やってきた刑事はどことなく深刻そうな顔をして、マイアと警部の顔を交互に見ている。マイアには聞かれたくない話なのだろうか?
呼ばれた方は彼女に会釈してから立ち上がると、邪魔をしにきた同僚に少々非難がましく抗議しながら廊下に出ていったが……暫くすると、さっきの刑事と同じように、深刻そうな顔をして帰ってきた。
部屋に戻ってきた彼はドアの前で立ち止まると、ありえないといった表情のままマイアの顔をじっと見つめている。
何かあったのだろうか? 刑事のおかしな様子に戸惑っていると、やがて彼は困惑気味に唇を震わせながら、
「大変申し訳ありません。こうして逮捕しておきながらなんなんですが……実は、たった今、あなたの釈放が決まりまして……」
「ええっ!?」
それはあまりに唐突すぎて、マイアは思わず素っ頓狂な声をあげてしまったが、すぐに取り繕うに声を抑えて、
「そ、そうですか……わ、わかりました。でも、解放されておいてなんですけど、これまた急過ぎませんか? 一体、何があったんです?」
今までの話を聞いていれば、警察がマイアのことを本気で疑ってるわけじゃないのは分かっていた。と同時に、身柄を拘束しなければならない理由も分かる。だから不平を言わずにこうして黙って捕まっていたのだが……それがいきなり解放されるなんて、流石にちょっと急展開すぎて釈然としない。
もしかして、母あたりがマイアが捕まったと聞いて、抗議でもしたのだろうか? 彼女のバックには政財界がついているし、あり得ない話ではないだろう。聞いたところで教えてくれるとは限らないが、流石に黙っていられなかったマイアは、一応とばかりに尋ねてみたのだが……刑事は隠し立てするつもりはなかったらしく、その答えは意外とあっさり返ってきた。
しかし、その答えは彼女の予想に反して、彼女には絶対想像出来ないような、全然別の理由にあった。
「実は……たった今、あなたの死体が発見されたそうなんですよ」
「……はあ?」
刑事は自分で言ってることなのに、自分自身も全然納得できていない、といった感じの実に複雑な表情をしながら、
「お台場にある公園で、昨日、身元不明の女性の死体を発見したと、付近に住む浮浪者から通報があったらしいんです。それでその身元を探していたところ、どうも今回の容疑者……つまりあなたと似ているということで、先程こちらに情報が回ってきたのですが……指紋を照合してみると、留置所に残されていたものと一致したらしく、鑑識は犯人で間違いないと断定したようなんです」
「え、つまり……あの動画に映っていた、あの私そっくりな人が……死んでたってことですか?」
「はい……」
刑事は自嘲気味に、
「しかし、この死体はどこから出てきたんでしょうか? 何故、彼女は近衛を殺したのでしょうか? 確か、あなたは双子でしたよね……? 誘拐された、あなたの双子が、実は今まで生きていた……なんてことは、ないですかねえ?」
マイアは何も答えられなかった。仮にそんなことがあったとしても、それなら見つかるのは女性の死体ではなく、男性の死体だろう。わかっていることは唯一つ、自分そっくりな女性が近衛を殺し、そして死んだと言うことだけだった。
刑事はこの現実をどう受け止めればいいのかと頭を抱えている。マイアは彼に同情しながらも、自分自身も混乱する頭を鎮めるので精一杯だった。




