疑惑:甲斐②―3
狭いベッドの上で、甲斐は荒い呼吸を続けていた。ズキズキする痛みと熱で頭がボーッとしており、思考力は馬鹿みたいに低下していた。目眩と涙で視界がぼやけて、いくら水を飲んでも喉は潤うこと無く、関節はぎくしゃくして錆びついているみたいだった。典型的な風邪の症状である。
「……ゲームのくせに、理不尽な……」
この世界が現実をかなり忠実に模していることは知っている。最初にこの世界で目覚めた時は、違和感が全く無くて、ここがゲームの中だなんて気づかなかったくらいだ。
しかし、リアルなのは物理法則的な面に限ってであって、その後次々と起こるあり得ない出来事を目撃して、すぐにここが現実じゃないと気がついた。どこの世界に、コンビニ強盗がアルバイトを射殺したり、いきなり運転手を引きずり下ろして強奪を試みる車泥棒が居るというのか。
犯罪シンジケートが生み出す違法なマネーが経済を潤し、下手したら交差点で信号待ちをしているだけで1時間に一回はロードキルが起こるような世界で、なにも風邪のウイルスまで再現しなくてもいいだろうに。
「運営はどうしてこんなどうでもいいところばかり、リアルにしたんだろうか……」
「その設定、まだ続ける気……?」
独り言をぼやいていると、ベッドサイドでそんな彼のことを看病していた妹が呆れていた。雨のバス停から家に連れ帰られてからずっと、甲斐はもはや隠すこと無く、ここはゲームの中であると主張し続けいてるのだが、妹は一向に信じてくれる気配がない。
冷静に、客観的に見て、この世界で起きている犯罪の数々は、いかにNPCであっても不自然に映るに違いないだろう。そう思ってあれこれ突っ込んでいるのだが、彼女は異常な事件が多いことは認めても、この世がゲームだなんてことは絶対に信じられないようだった。
何度車を奪われても文句を言うだけで済ましてしまうドライバー。たまにラグドール物理学みたいにおかしな格好で空を飛んでる通行人。アルバイトが射殺されたコンビニには、翌日にはもう新しいアルバイトが補充されている。彼女にとっては、それが当たり前の日常であるらしく、そこに違和感は感じられない。
本物の人間とNPCの壁が、どうやらそこにはあるようだった。
ピピピピピ……っと電子音が鳴り響く。妹は甲斐が脇に挟んでいた体温計を取り出すと天を仰いだ。
「ひどい熱……あんなところで寝てるからだよ?」
「ゲームの中で病気になるなんて思わないだろ。それならそうと、ヘルプに載せておいてくれ」
「あのさあ、それじゃ、お兄ちゃんの言う現実世界では、雨の中で寝てても風邪はひかないわけ?」
「そりゃひくよ。現実なんだから」
「なら、同じことしたら同じ結果になるでしょ。ここが現実を模した世界なら」
そう言われてみればそうかも知れないが……なんだか言いくるめられている気がする。
モヤモヤするものを抱えながら渋い顔をしていると、突然、そんな彼の額にビチャっと濡れタオルが張り付いた。熱冷ましのタオルを妹が取り替えてくれたようだが、どう考えてもちゃんと絞ってる形跡がない。
「ちょっとちょっと、ちゃんと絞ってよ。これじゃ逆に具合悪くなるよ」
「あれ? ごめん。おっかしいなあ」
妹は慌ててタオルを取り上げると、洗面器の上でビシャビシャのタオルを絞った。その反応から察するに、素で絞るのを忘れていたらしい。
ここ数日間、毎朝起こされていてわかったのだが、妹は世話焼きな性格をしているくせに、中身が全然伴っていないようだった。起こされる時間はいつもランダムで、朝食が用意されていたことは一度もない。料理は一切出来ず、毎日宅配ピザか、目の前のコンビニで済ましている。もちろん、部屋の掃除もしないから、四隅には乱雑に物が積み重なっており、その辺だけやたら埃っぽかった。
ナビの仕事は完璧にこなすのだが、それ以外は戦力外のようである。甲斐はおかしいのはお前の頭の方だと思いながら、
「もう、看病はいいから、少し寝かしてくれ。段々寒気がしてきた」
「寒いの? ちょっとまってね」
すると妹は何を思ったのか、いきなり狭い布団の中にゴソゴソと侵入してきて、甲斐の体にピッタリとくっついた。
「えへへ、これなら温かいよね?」
「ちょっとちょっと……風邪がうつるよ?」
「いいよ、別に。うつした方が早く治るって言うよね?」
抵抗する気力もなく、甲斐はなされるがままになっていた。妹は何がそんなに嬉しいんだか、兄の胸に額をゴシゴシ擦り付けてはニヤついていた。まるでマーキングする猫みたいだ。
吐息が熱く感じられるのは、きっと風邪のせいだけじゃないだろう。他人に優しくされるのはいつ以来だろうか……思い出せないくらい遠い昔か、多分、一度もそんな経験はなかった。
これがNPCじゃなかったら良かったのに……そんなことを考えつつ、甲斐は眠りに落ちていった。妹がやたらとスキンシップをしたがるのは、そうプログラムされているからだ。ここが現実だったら、絶対にこんなことは起こらないのだ……
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「……ぶへぇーっくしっ!! はっくしょん! はくしょっ! はくしょっ!!」
やたら汚ねえ鼻水をビシバシ飛ばしながら、狭いベッドの上で妹がぐったり横たわっていた。熱で顔は真っ赤に紅潮し、額に前髪が張り付いており、在りし日の整った顔立ちが見る影もなかった。
「は、は、は、外して……もう、私の鼻、外しっ……はくしょっ! 着脱可能にして! はははーっくしょーいっ!!」
「……言わんこっちゃない」
昨日、看病をしたまま同じベッドに潜り込んできた妹は、翌朝、兄の快気と引き換えにしっかり風邪をひいていた。うつした方が治りが早いというのは迷信であるが、ミイラ取りがミイラになるのはよくある話だ。
うつしてしまった手前、仕方ないから今度は甲斐が看病してやることにした。とにかく熱がひどいから、看病するにしても汗をかかせることを第一に考えて行動した方がいいだろう。
そう思って、おかゆでも作ってやろうとしたのだが、よく見れば部屋には炊飯器が存在しなかった。ならばと台所に立てば、コンロが一つしか無くて閉口する。こんなんで、よく二人で暮らせていたなと呆れつつ、食材を下のコンビニで用意することにする。
ちょうど、スイーツフェアなるものが開催されていたので、ビタミンの豊富そうなフルーツをいくつかチョイスし、後は卵と野菜があったので、雑炊にするのも悪くないかもと思い直してカゴに放り込む。
鍋でご飯を炊いている間に、部屋の四隅に溜まっていたゴミを片付け、窓を開け放して換気し、掃除機を掛けた。外気に当たった妹がくしゃみを連発していたが、多分、部屋の片付けを優先したほうが結果的にはいいだろう。それくらい、空気が淀んでいた。
炊きあがったご飯をよそって冷ましつつ、空いたアルミ鍋にだし汁を投入。沸騰するまでの間にネギと人参を刻み、グツグツ煮立ったところで火の通りにくい物から入れて少し煮込む。それから取っておいたご飯をどぼん。醤油で味を整え、溶いた卵を軽く混ぜて火を落とし、最後にネギを散らして完成だ。
予熱で卵が固まるのを待ってから、鍋ごとベッドの妹に持っていく。せめて器に移し替えてやりたかったが、部屋には食器棚すら見つからず、ついでにレンゲも無いからコンビニで貰ったプラスプーンを渡した。
情緒もへったくれもないただの病人食であったが、妹には好評で、彼女は感激しながら何度もお礼を言っていた。どうせ市販の出汁を使えば誰でも作れる物だが、こんなのでも喜んで貰えると結構嬉しいものである。
その後、汗をかいたパジャマを着替えさせてから、しっとりと湿った服を洗濯かごに入れて、これってやっぱりコインランドリーとかに持ってくんだよな? 洗濯機がないんだからそうなのだろうが、どこへ行けばそんなのがあるんだろうかと記憶を探っていると、ベッドの上で天井を見上げながら妹がぼそっとした声で話しかけてきた。
「お兄ちゃん……なんか凄い手慣れてるね」
「そうか?」
「どこでこんなスキル手に入れてきたの? ずっと一緒だったのに。私、今まで全然気づかなかったけど……」
どこでと言われても、物心ついた時からそうだったのだ。甲斐が生きていくには、母親に代わって、家事の一切を取り仕切るしか方法がなかった。そうすれば、母と弟のおこぼれで、なんとか食事にありつけたのだ。
稼ぎの悪い父親は、仕事がうまく行かなかったり機嫌が悪かったりすると、甲斐をいたぶるだけではなく、弟にまで手を出すことがあったから、そんな時のためにも、彼は家事スキルを磨いて万が一に備えなければならなかった。でなければ、いつ路頭に迷ってもおかしくなかったのだ。
「今風に言えば、ヤングケアラーだったんだよ。母さんが病気で、僕が世話しなければならなかったから」
「……その設定、まだ続ける気なの?」
妹は関心無さそうにぼやいている。甲斐はこれだけ言ってもまだ信じてくれないのかと落胆仕掛けたが……よくよく考えても見れば、設定とは言え彼女も自分の妹である。なら、今日までの二人の歴史というものがあったはずだと思い直し、ふと尋ねてみた。
「なあ、設定といえば、こっちの設定はどうなってるの?」
「え?」
「僕たちって兄妹って言っても、血が繋がってるわけじゃないんだろう?」
「うん……まあ、そうだね」
妹はなんだか歯切れが悪い。血が繋がってないと明確に言われるのが嫌なのだろうか? ……いや、兄だと思ってる人間に、いきなりそんなことを言われたら、誰だって面食らうだろう。
甲斐はそれ以上は深く考えずに続けた。
「いつどこで出会ったんだ? 親の存在も感じられないし、二人でどうやって暮らしてきたの?」
「……本気で言ってる?」
「ああ、大真面目だ」
妹はベッドの上から顔だけでこちらを見ている。甲斐はそんな妹の目をじっと見つめた。彼女は暫く逡巡するように沈黙していたが、やがておもむろに口を開いて、
「……小さい頃、誘拐に遭いかけたんだよ。知らない人が来て、ペットのフェレットを探してるって言われて、私は夢中になってそれを追いかけたんだ」
「フェレット……?」
「うん。そしたらお兄ちゃんが来て、私の手を掴んで、そっちに行っちゃいけないって。その人は悪い人だから逃げなきゃって。で、二人で逃げたの」
「……それで?」
「それだけだよ。それじゃ大変だねって、一緒に逃げて、それから二人で暮らし始めたんじゃない。お父さんとお母さんは、その時に死んじゃったって、お兄ちゃん言ってたけど……覚えてないの?」
なんだそれは……?
甲斐は閉口した。妹の返してきた答えはありえないくらい曖昧すぎて、整合性すら取れてない代物だった。そんなメチャクチャな過去しか持たずに、ずっと兄妹をやっていたのだとしたら、いくらゲームとはいえ設定が適当すぎるだろう。そのくせ、甲斐の言う現実は全部ウソだと頭から決めつけてくるのだから始末に負えない。どうしたら、妹にもここがゲームの中だと信じてもらえるだろうか……
それにしても……フェレットか。
その言葉を聞いた瞬間、甲斐はなんだか既視感のようなものを感じていた。一瞬、ズキッと頭の血管が切れたような嫌な感覚がしたと思ったら、突然、心臓がドキドキと鳴りだして、急に部屋の酸素濃度が変わったような、そんな気がした。
なんというか、ずっと水の中にいるのに気づかず藻掻いていたら、突然、水面に浮かび上がってしまい呆気に取られているような……そんな浮ついた感覚だ。体が重くなって、自由は奪われるが、不快ではない。寧ろ爽快だ。
どうしてそう思うのだろう……この感覚はなんなんだ?
「お兄ちゃんこそ、どんな風に生きてきたの? そこに私はいなかったわけ?」
戸惑っていると、妹がそう問い返してきた。
彼女の眉毛は複雑に歪んでいて、もしかすると自分の言ったことに違和感を感じ始めているのかも知れない。甲斐はこのまま話を続けていたら、何かが変わるかも知れないと思い、真面目に答えることにした。
「ああ、妹の代わりに弟が居たよ。うちの両親は本当にどうしようもなくて……」
それから彼は淡々と、彼の生きてきた地獄のような十数年間の出来事を語った。父親に殴られて育ったこと。ネグレクトを起こした母親の代わりに弟を育てたこと。その弟のことを受け入れられず苦しんだこと。そしてその弟に逆襲され、恐れたこと。
物心ついた時から父親はずっとロクでなしで、暴力で人を支配することを好み、気まぐれに甲斐を殴る性癖は最後まで治らなかった。逆に母親は小心で、いつも人の目を気にしてばかりいて、家の中に引きこもってずっと何かに怯えていた。そんな母も甲斐を罵るときだけはイキイキとしていたが、罵った後は決まって後悔したようにぐったりしていた。それが何だかはよくわからないが、彼女は何かを恐れていたのだ。
そんな狂った世界の中で、いつしか弟をちゃんと育てることだけが、彼の生きる目的になっていた。だから最後の日、弟を助けられると知って、彼は当たり前のように自分の命を差し出したのだ。いや、差し出したのは臓器なのだが。
そんな話をしていると、妹は最初は下らない作り話を聞いてる風に笑っていたが、だんだん表情が険しくなってきた。最後には自分のことでもないのに涙を流し、兄が可愛そうだと言って憤っていた。
「いくらなんでも酷すぎる! お兄ちゃん、なんでそんな家でずっと我慢し続けていたわけ!?」
「なんでって言われても、それが普通だったとしか……」
「全然、普通じゃないよ! 普通なら児相か、警察が介入してもおかしくないレベルだよ!? どうして誰にも相談しなかったの? 家出くらいしてもバチは当たらないのに……そうだよ。捜索願くらい出てたら、誰かが助けてくれたかも知れない」
「そんなこと、考えもしなかったなあ……」
相談しようにも、母親があれだから、周りの大人に相談するという発想自体が生まれなかったのだ。ただ、家出をしようと思ったことはある。それも何度も。でも、弟の事を考えると、そんなことは出来なかった。自分がいなくなった後に、弟がちゃんと生きていける保証はどこにもなかったからだ。
出来るならば、弟と一緒に逃げ出したかったが、現実ではそんなこと不可能だった。逆に、さっきの彼女の話が本当なら、こっちの世界の自分は妹を連れて逃げたのだ。現実では出来なかったことを、こっちの自分はやったんだと思うと、なんだか少し嬉しかった。
こっちの世界は、犯罪まみれで、嘘まみれで、本当にどこまでも妄想に満ちているが、だが、甲斐の生きてきた現実のほうが、よっぽどフィクションじみているように思えた。
と、そんなことを考えていると、妹がボソッと呟くように言った。
「ねえ、もし今の話が本当ならさ……? お兄ちゃん、もしかして本当の子供じゃなかったんじゃない?」
言いにくい言葉を言ってる自覚があるからだろうか、彼女は申し訳無さそうに上目遣いに様子を窺っている。でも甲斐はそんな気遣いは無用とばかりに、
「ああ、それなら多分そうだよ」
「……そうなの?」
甲斐はあっさり頷いて、
「両親とは、髪と目の色が違ったんだ。ほら、僕って肌が白くて目の色が少し薄いだろ? 両親は二人共真っ黒だったからさ」
「そうなんだ……」
「多分、母親の連れ子だったんだろうな。そう考えれば、親父が嫌っていたのもわかる気がする」
「それとこれとは全然別だよ!」
妹は甲斐の言葉に憤慨している。正直、自分のことで怒ってくれるのは嬉しい反面、どう接していいかわからなかった。何故って彼女のその怒りは、ずっと自分が見ないようにしてきた物だから、かえって苦痛を呼び起こすのだ。
だから何も言えずまごついてると……
その時、妹は急に真顔になったかと思ったら、ふっと、心の隙間に入り込むような、そんな言葉を口にした。
「なら、お兄ちゃんは殺されたのかも知れないね?」
「……え?」
それはあまりに唐突で、寝耳に水で、思いもよらない言葉だった。だから最初は意味をつかむのに苦労した。
妹は続ける。
「だって、そうじゃん。臓器売買だっけ? ほら、お兄ちゃんに接触してきた保険屋さんは、父親に保険金が支払われるって言ってたんでしょう?」
「あ、ああ……」
「聞いてた感じ、その父親だったらやってもおかしくないじゃない。赤の他人を殺したら、大金が転がり込んでくるんでしょう? お兄ちゃんなんて、簡単に殺せちゃいそうだし。考えようによっては、割のいい仕事だよね。私でもやっちゃうかも。あはははは」
妹はそんなことをのほほんと口にした。甲斐はそんな妹の言葉が否定できなくて戸惑っていた。
言われてみれば確かに……あの父親はいつだって社会を一方的に憎んでいて、楽して金儲け出来るなら何に手を出してもおかしくないような、現実世界よりも寧ろこっちの世界に向いてそうな人間性をしていた。
そしておそらく自分の子でない甲斐のことを疎ましく思っていて、出来れば排除したいと考えていた……子供の頃からずっと……実際に身の危険を感じていたから、だから甲斐はそうならないように、必死に自分は役に立つとアピールしていたのだ。
今まではそれで上手く行っていた。だが、そんな父親の目の前に、もし大金が積まれたら? 元々、家庭を顧みない父親なら、甲斐を殺して、家族も捨てて、海外にドロンするくらいのこと、朝飯前でやってのけるだろう。
そう思えば、あの保険屋と言うのも怪しいんじゃないか。臓器移植患者の中には、何をしてでも手に入れようとする輩がいる。そういう連中が海外でやりたい放題やったから、法律が変わったのだ。冷静に考えて、今にも死にそうな人間に金の話を迫るなんて、おかしな話じゃないか。
今にしてみれば、一度だけ目覚めたあの病院の雰囲気も、なんだかおかしかった。集中治療室か手術室かわからないが、なんでそんな場所に父親が入ってこれるんだ? そう考えると、あれもこれも、何から何まで怪しく思えて仕方がない……
「ま、この世界が本当にゲームなら、なんだけどさ……って、お兄ちゃん? 大丈夫? 顔色悪いけど……」
「……あ、ああ……大丈夫だ」
甲斐は顔面蒼白になりながら、ベッドの妹に返事した。これではどっちが病人かわからなかったが、お陰で頭は今までになく回転していた。
妹の言う通り、もしも自分が殺されたのだとしたら……それじゃあ、一緒に事故に巻き込まれたっていう弟はどうなったんだ? 無事なのだろうか? それとも……
いつまで経ってもやってこない死に怯え、もういっそ早く死んでくれと精神を病みかけていたが、こうしてまだ意識が残っていてくれたのは僥倖だったかも知れない。
もし自分が殺されたのだとしたら、こんなこと黙ってはいられない。自分に今何が起きているかははっきりしないが、この意識がまだ残ってるうちに、もう一度現実世界に戻る算段をつけてみよう。少なくとも、信頼できる誰かにこの事を伝えなくては……甲斐はそう決意した。




