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ヘルドの女

俺達の隊は修道院しゅうどういんを確保した。

リンダとシルフィードたちの戦況が気になり聞いてみる。

彼女らは大聖堂だいせいどうの制圧に向かった。そこは敵が兵舎へいしゃの代わりに使っている。


『雑魚はあらかた排除したわ。今は残ったオーガと戦闘中、もうすぐ終わる』とシルフィードが、俺の頭のなかに直接答える。


『了解だ』

シルフィードがオーガに遅れをとる事はあるまい。


俺はロドルフに伝令を送るよう頼み、本隊から増員の兵を呼ぶ。

大聖堂と修道院を確保しながら、さらに先まで戦線を広げるためだ。

囚われていた市民たちと負傷者兵を後方に送り、必要な兵を残すと俺たちは大聖堂に向かった。


リンダとシルフィードが俺達を出迎える。

「ツカサ! 制圧完了。敵はほとんど倒したわ。10数名ほど逃がしたけど」 リンダが報告をする。


「修道院の方の制圧は完了して、囚われていた市民たちは開放した。そちらも負傷兵を後方に下げてくれ」


「リンダ!! 俺の活躍を見せたかったぜ」 とロドルフ。


全く無視するリンダ。


「いや凄かったんだぜ~。なあフユトミ! 俺、最高だったよな。なあ?」


悪いが俺は助けんぞ。女の気を惹くとか、そういうのは個人競技だからな。


「さあ、街の中央部の確保にいくぞ」



現在までの戦果は次のとおりだ。


市門前の広場に集まっていた敵の大部隊は、シルフィードが蹴散らした。

アパッチが敵の本部であった商館をミサイルで潰し、兵たちは、街の主要拠点である修道院と大聖堂を確保している。

大勢たいせいけっしたと考えて良いだろう。


残りは、市民の家や商店、ギルド街などのある中央部だ。

小規模な建物が多く、街の機能を維持いじさせる為だろう、今も市民たちが働かされている。

巻き添えにせずに、ヘルド兵の掃討そうとうを行うのは難しそうだ。


アパッチの航空支援のもと、俺たちは隊列を組み中央部に乗り込む。


しかし、制圧は思ったより簡単だった。

俺達が大部隊で姿すがたをあらわすと、ヘルド兵たちが逃亡を始めたからだ。

敵の本部を最初につぶしたのが効いたのだろう。軍を統率とうそつする上位の指揮官しきかんはあらかた死んでしまっているから、逃亡とうぼうしても罰するものがいない。


ヘルド兵が市民たちを人質にとらなかったのも、助かった。

この時代・世界の一般的な考えからすれば、人質に意味があるのは貴族だけだからだろう。

平民をたてにしても、一緒に殺される…というのが奴らの考え方のようだ。


それでも逃亡が遅れた100人程度のヘルド兵を、俺達は始末した。

敵の略奪りゃくだつ陵辱りょうじょく、殺害などの残虐ざんぎゃく行為を考えれば、市民たちに見える形で報復を行う必要があったからだ。


そして街の中央部の半分あまりを制圧した頃。

勝ちいくさの予感に、緊張感が薄れかけていたその時。


一人の兵が息せき切って、俺たちのところに走ってくる。


「どうした?」とロドルフは、やってきた部下に尋ねた。


「フユトミ殿、ロドルフ隊長! 破壊した商館の中から女が現れて…兵たちを虐殺ぎゃくさつしています。我々では歯が立ちません」


「女? ヘルド兵か?」


「分かりません。外見は人間の女です。しかし、半裸でよろいも着ていないのに、我々の剣や弓をはじきます」


やばそうな相手だ。 俺は思った。


「リンダ、ロドルフ! 後は頼む。アパッチはこの場所で待機たいきさせる。何かのわなかもしれん、気をつけろ」


「了解よ」

「了解」


俺は中央部を、残した兵と共にリンダとロドルフに任せた。

離れたところで戦っているシルフィードに現場に来るよう伝えると、俺は走った。


商館は開戦時にアパッチのヘルファイア・ミサイルの直撃を受けて崩壊したはずだ。

破壊された瓦礫がれきの中から女が出てきた? ただ者ではなさそうだ。


俺は予備兵力として待機させておいた10式戦車を呼ぶ。

10式戦車のいる場所は、商館からそう離れていない。


『10式。商館まで来てくれ。急げ!』


『了解です♪』


俺は目的の商館に到着した。


商館であった残骸の前には、半裸の女が一人いる。均整のとれた体つきに豊満な胸。白い肌。

意外にも美しい顔だ。と言うか絶世の美女だ。

しかし、俺は違和感を感じる。顔形かおかたちととのい過ぎているのだ。


女のまわりには味方の兵の死体。数十体はあるだろう。損傷そんしょうが激しい。

いくつかはバラバラになって胴体らしき肉塊、頭、腕がき散らかされている。


一人の兵が首をつかまれ、そのまま女に地面に叩きつけられる。

身体と首が、不自然に折れ曲がる。


「女から離れろ。撤退てったいするんだ」俺は生き残っている兵たちに声をかける。

持っていた89式小銃を連発射撃に切り替え、撃った。


女の身体が連射された5.56mm普通弾を全てはじく。

そして、俺に気が付きこちらを向いた。


「ハーイ。あんたがフユトミ ツカサね? やっと会えた! 良かった」

女は俺に向かって歩き始める。


「聞いていたより可愛いじゃない。こういうの好みだわー。抱いたげる。あたしの事、好きにしていいわ。ほら!」

女は俺をまねき寄せるように両腕りょううでを広げる。


こいつ頭は大丈夫か?


『10式戦車、射撃しゃげき位置に着きました。いつでもどうぞ♪』


主砲を撃つには、敵と俺達との距離が近すぎる。

『重機関銃、撃て!』


10式車載の12.7mm重機関銃が火をく。

1分あたり800発を超える連射速度で、銃弾じゅうだんが女の白い肌に降り注いだ。


「痛あぁーい」

女は身をよじる。少しは効いているようだ。その証拠に女の目が少し涙目だ。


「フユトミちゃん、サディスト。もう少し優しくしてよ」


「お前は何者だ?」


「あたし? あたしはヘルド王の女で、エレシュキガルって言うの。魔族だけど気にしないよね?」


女は話し続ける。

「フユトミちゃん、うちらの首都のタリス、攻撃したでしょ。ヘルド王かんかんに怒って~。で、あたしに殺してこいって」


女は、舌なめずりするような下品な顔になり言葉を続けた。

「でも、やーめた。あたし強い男って好きー。顔も好みだし。あたしのものになれば、生かしておいたげる」


「うちの国来れば、好きなことできるよ~フユトミちゃん、強いんだから、殺したり、犯したり、好きにすればいいじゃん。

国王に私からもあやまってあげるよ。 謝れば許してくれるさあ!」


俺は女の長セリフを聞いているフリをしながら、周囲を確認する。

十分周囲との距離が取れれば、10式の主砲が撃てる。

問題は敵から近すぎる俺自身をどうするか…ってところだが。


だが俺は、見たくない光景を見てしまう。ユマとアネットが右後方、数十メートル先にいるのだ。

馬鹿な。なんで強敵のすぐそばに、のこのこ出てくるんだ。


…いや、馬鹿は俺だ。ここは彼女らの待機たいき場所の近くだ。

近くで騒動そうどうがあったのを知ると、俺の事が心配になり遠くから確認しようとしたのだろう。


俺は何気ないフリを装いながら、敵に声をかけようとした。だが遅かった。

この女―エレシュキガルと名乗った魔族―は、恐らくシルフィードと同じように俺の表層ひょうそうの思考を読む。


「へー。そいつが、あんたのいい人なんだあ」


女はユマの方を見る。

「じゃあ、ごめん。彼女、殺すね。そうすれば、あんたの心もあたしのもの」


エレシュキガルは、右手を振ると氷のような透き通ったやりを実体化。無造作むぞうさにユマたちに投げつける。

やりは女の手を離れると巨大化し、ユマに突き刺さる…ように見えた。


やりは青い光の壁に進路をはばまれ、エレシュキガルの手元に舞い戻る。


「好き勝手するんじゃないわよ!」

ようやく到着したシルフィードが、俺のうしろで叫ぶ。


エレシュキガルは、眉をひそめた。


「少女の姿はしてるけど…でも人間じゃないわね。ああ、そうか、竜の子ね。

帝国に飼われている出来損できそこないの竜」


出来損できそこないかどうか、試してみる?」


「フユトミちゃんの事が好きなんでしょ? 抱いてもらえない出来損ないのクセに」


今だ。俺はユマ達の方に走る。


「フユトミちゃん、逃げようたって、そうは…」


アパッチのM230E1 30mmチェーンガンが敵に炸裂さくれつした。

1500mを超える有効射程ギリギリからの援護射撃えんごしゃげきだ。


機関砲の直撃弾を受けて、敵は無様ぶざまに跳ね飛ばされる。


「10式! 今だ!」


44口径120mm滑腔砲(かっくうほう)、10式の主砲からHEAT-MP弾が発射される。

この距離では発射とほぼ同時に、エレシュキガルを直撃…するはずだった。


いかなる手段を使ったのか、弾頭はれ、女は直撃からまぬがれた。

しかし、当たらなかったとはいえ、かすったのだ。音速を超える弾頭の衝撃波しょうげきはが女の身体を襲う。

そして砲弾は間近の残骸に着弾し、爆発と破片が女に降り注ぐ。


ったか?


「あーちょっと効いたかな? フユトミちゃん、激しすぎ」

女はボロ雑巾(ぞうきん)のように地面に叩きつけられたにもかかわらず、のっそりと立ち上がった。

しかし、ダメージのせいだろう身体はふらついている。


「私たちに歯向はむかって、そんなにあたしに殺されたいなら、いーわよ、どーやって殺すか考えといてあげる。

そういうのも好きだもん」


「フユトミちゃんが死んだって、私の好きにする手段なんて色々あるのよ」

女は苦しいのか身体を震わしながらも、俺を見て無理に微笑ほほえむ。


「今日のとこは撤退(てったい)してあげるー じゃあねー また遊ぼうね!」

エレシュキガルは片手を上げ、何か呪文を唱えると消え失せた。


最後の強敵を退しりぞけ、その後間もなく俺達はエフェソスの街を開放した。




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