エフェソス奪回
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ヘルド軍に占領されたエフェソスの街まで、あと5km程だ。
領主であるアルタイル・ド・イール侯爵は、戦闘の継続が不能な負傷兵、約100名を、彼等の移送用に200名程の兵をつけて一緒に街へ戻した。
残り2,600名の兵士だけで進軍することになる。
簡易テントのような仮設の指揮所の中で、俺は領主と、領主の部下であるロドルフ・エスコラに最終の作戦を説明する。
ロドルフは領主の部下で軍の大隊長だ。
短めの黒髪で、叩き上げの傭兵らしい精悍な顔つきの男だ。
領主が事前に説明してくれた話によると、兵たちの信頼も厚く有能な男のこと。
傭兵の出身で、やや礼儀知らずなとこは許してやって欲しいとも言われたが。
「…と言うわけだ。事前に説明した作戦内容からさほど変更は無い。この内容で街を奪い返す。 何か質問はあるか?」作戦の説明を終え、俺は最後に確認した。
「言われたとおりにやるが、それにしても、あんたの”戦車”と“ヘリコプター”だっけか、そこまで強力なのか?」
ロドルフが聞く。
「ああ。この作戦が出来るくらいには十分強力だ。 俺達が敵と戦っていたのを見なかったのか?」
「情けない話だが、部下たちを連れて逃げるのに必死だったからな。
そう言えば帝国のドラゴンも来てくれるんだろ? さっきまで黒竜と戦っていたが、どこに消えた? 怖気づいて逃げ出したんじゃないだろうな?」
シルフィードが不機嫌そうな顔で言う。
「さっきからここにいるんですけど。怖気づいたとか、戯言は止めてくれない? 私に喧嘩を売ってるの?」
ロドルフは少女の姿のシルフィードを眺めると 「嬢ちゃん。俺は嬢ちゃんのことじゃなくて帝国のドラゴンの話をして…」と言いかける。
シルフィードの機嫌がさらに悪化する前に、俺は話に割り込んだ。
「彼女が帝国の戦略級ドラゴンのシルフィードだ。人間の姿の竜を初めて見るのか?」
「ええっ!? そうなのか。俺はフユトミの性癖で夜の相手を連れ回してるんだとばかり…守備範囲が広いんだなあと…」
その後、シルフィードの怒りが静まるまで俺たちは大変な目にあった。
◆
俺と女たちは先頭に立ち、街に向かって進軍を開始する。
ユマも結局一緒だ。俺から離れようとしない。
ヘリは俺たちの上空を、10式戦車は隊列の先頭を進む。
今回、操縦はヘリ自身に任せて、俺は地上で戦うつもりだ。
リンダが不服そうに「ツカサも兵たちと一緒に戦うの? 司令官って後方で控えてないといけないんじゃないの?」と聞く。
「普通はそうだな。 今回、俺はシルフィードと並んでこの軍の最大戦力だから、現場を離れられない」
「あのロドルフって男、注意して。スケベだし。
連絡で領主のとこ行くと、いつも私のこと口説くのよ。アイツ」
「注意するもなにも…俺は男だから、奴がスケベでも脅威は感じないな。対象外だろう」
「…自分の女を口説かれたんだから、少しくらいは嫉妬すること!」
◆
兵たちと一緒に俺は地上で配置についた。
エフェソスの街の門から500mほど手前に布陣している。
ここまで、敵の召喚兵器たちは出て来ていない。
後方の空を飛行しているアパッチによると、敵のヘルド兵達は門の内側の広場で待ち構えている。
作戦開始の合図をする。
シルフィードはドラゴンに変身。
空に舞い上がり、門の内側で待ち構えているヘルドの大群に上空から襲いかかる。
彼女のドラゴン・ブレスは一瞬で、ヘルド兵を切り裂き、街の広場は阿鼻叫喚の地獄となる。
アパッチが、ヘルファイア・ミサイルを遠隔から、大きな商館の1つに向かって発射する。
事前に得た情報によれば敵が本部に使っている建物だ。敵の高位の指揮官達や支配者層が使っている。
ミサイルの着弾と共に建物は一瞬で崩壊する。
門の内側はシルフィードに任せ、俺は兵たちと共に、街の外側をぐるっと回り、反対方向にある市壁を目指す。
10式戦車が全速で走行しながら、俺達が進んでいる市壁に向かって主砲を発射する。
連射されたHEAT-MP弾は、街を取り囲む市壁を易易と砕き、兵たちが街の中へ入れるようにした。
アパッチは上空に陣取り、兵たちの街への侵入を援護する。
俺は先頭に立ち、10式が破壊した市壁を通って街の中に入り込む。
待ち構えていた少数のヘルドの兵たちは、アパッチのチェーンガンを浴びて肉塊となっている。
今回の作戦の最優先の目的は、街の確保と市民の開放だ。
ヘルド軍の掃討は重要度としては二番目だ。
兵たちを、こちら側に回りこませて侵入させたのは、不意を突く目的も勿論あった。
しかし、本当の目的は別にある。
奴隷にする目的で、市民を集めていた建物がこちらにあったからだ。
その建物は、修道院だ。
「すげえもんだな。あんた最高だぜ! こんな簡単に制圧できるのかよ」
俺の後から、街に入った大隊長のロドルフは嬉しそうだ。
「まだ、勝っていない。気を抜くなよ。甘く見て、負けるのはまっぴら御免だ」
「大丈夫だって。なあ、今度こそ街のみんなを助けられるってもんだ。フユトミ、感謝するぜ」
俺は苦笑した。
「礼を言うのはまだ早過ぎる。いくぞ」
◆
俺は集まって来た兵たちを小隊に分け、それぞれを拠点確保に向かわせた。
10式戦車は侵入地点で待機させる。支援用の予備兵力の扱いだ。
俺はアパッチと合計100人ほどの二個小隊を引き連れて、主要拠点の奪回に向かう。
手始めは修道院だ。
召喚したMINIMI機関銃を構える。予備弾倉はたっぷり用意してある。
『シルフィード。状況は?』
『市門前の広場のヘルド兵はあらかた片付けたわ。 そっちの方から、門に向かって逃げる敵兵が出始めたけど、どうする?』
『逃げる兵は放っておいて、俺の方へ来てくれ』
シルフィードは十分暴れたようだ。敵の戦力を相当削っただろう。
だが、街の中で市民と混在してる敵の方は厄介だ。
彼女が門のところに陣取っていると、そいつらは逃げられない。
居座られるより早く外に逃がして、市民を開放する方を優先する。
『了解。ちょっと戦い足りないけど、従ってあげるわ』
俺はロドルフの方を見ると、『シルフィードが戻ってきたら一緒に大聖堂の確保に向かってくれ…』と言いかけたが、ロドルフとシルフィードは、さっき大げんかしたのを思い出す。
「…リンダ。シルフィードが戻ってきたら一緒に大聖堂の中の敵を排除してくれ。三個小隊を預ける」
「了解。ツカサ。気をつけてね」
珍しく本当に心配そうな顔のリンダを安心させると、俺はロドルフに向かい声をかけた。
「ロドルフ。俺たちは修道院に行って市民の開放だ。奴隷にする為に中に集められている」
「おーし。了解だ。腕がなるぜ」
ユマとアネットは10式戦車と共に、領主や残りの兵と一緒に現在地で待機してもらう。
流石に接近戦の場所には連れていけない。
ユマは一瞬寂しそうな顔になったが、受け入れてくれた。
「無茶をしないで、必ず生きて帰ってきてください」
「もちろんだ。ここで死ぬ予定は無いな」 俺は答えた。
◆
俺たちは修道院に踏み込む。
扉を蹴破ると、味方の兵たちが部屋の中へ雪崩れ込んだ。
女、女、子供の女、それに少数の男たち。男の数が少ないのは殺されたのか。
この部屋だけでも100人以上の市民が半裸で力なく座っているか、床に転がっている。
ヘルド兵が大勢、抜刀してこちらに向かってくる。
俺はMINIMI機関銃を敵に向け連射した。
乾いた連射音とともに敵はバタバタと倒れていく。
しかし、市民たちが邪魔になり全部の敵は撃てない。
味方の兵たちが剣を抜き、突撃を開始した。 残った敵と戦い始める。
俺は撃ち漏らした残りの敵をざっと見る。魔術師っぽいのは無視していい。今、ここはユマの絶対魔法防御の結界内だ。魔法は使えない。
修道院の奥の扉が開き、4m近い巨人が3匹、入ってくる。
オーガと呼ばれる種族だろう。醜悪な顔にむき出しの牙、唾液を垂れ流しながら俺を見て咆哮する。
MINIMI機関銃をオーガに向け撃った。
機関銃の連射を受け、一匹が前のめりに倒れこむ。
しかし、弾倉(C-Mag)内の弾丸を撃ち尽くしてしまった。
ロドルフが「任せとけ!」と叫び、残った二匹のオーガに立ち向かう。
怪力で繰り出されるオーガのメイスを器用に避けながら、腕を狙って剣を振り落とす。
上手い!
ロドルフは二匹の注意を完全に引きつけた。
リンダがこの場に居たなら、奴への評価も変わっただろう。スケベなんだろうが、いい剣士だ。
残念だったな。ロドルフ。
俺は弾倉の交換を終えた。
「ロドルフ!もういいぞ」
「どうだい。俺の剣の腕もたいしたもんだろ!」 ロドルフは叫んだ。
奴がオーガから飛び離れたのを確認すると撃った。
頼もしいMINIMI機関銃の連射音と共に、銃弾の雨が敵に降り注ぐ。
二匹のオーガは、自分の作った血だまりに横たわった。
オーガ達がいなくなれば、この建物での味方の人数は敵の倍以上だ。
アパッチ攻撃ヘリが外で待機していて、敵の増援部隊はこの建物にはたどり着けない。
俺たちは敵を一掃し、修道院を敵の手から奪い返した。
「フユトミ。ありがとうな。女たちを救ってやれた」 ロドルフの嬉しそうな顔が印象的だった。




