ユマ
◆
黒竜はミサイルの直撃を受けて力尽き、息絶えた。
「何とか勝てたようだな」俺は胸をなでおろした。
10式戦車も自分の仕事を終えた。
敵のT72戦車は全て破壊され、黒い煙が立ち昇っている。
領主の兵たちは損害は受けつつも、大部分は敵戦車から逃げることに成功した。
俺は気になっている、敵の召喚の仕掛けに思いを巡らす。
俺の兵器たちは耐久限界を超えるとすぐ消えるのに、敵の戦車は消えずに残骸を残している。
前に戦った、敵の攻撃ヘリであるホーカムは最新型だった。
しかし、今回のハインドとT72戦車は、両方とも旧式の兵器だ。
明らかに敵の召喚のやり方は、俺と違う。
ただし、何らかの制限がかかっている。
最新型を数十機、同時に出現させるのは敵にとっても無理のようだ。
いずれにしろ時間を空けると面倒だ。敵の召喚兵器をスクラップにした直後である今が、街への攻めどきだ。
俺はシルフィードのことが心配になり、心のなかで呼びかけた。
『シルフィード! 怪我は大丈夫か?』
彼女は、距離制限はあるものの遠隔から俺の心を読む。
『だ、大丈夫! こんくらい何よ』 しかし、言葉に反して苦しそうだ。
ズームされた画像を確認すると、雷撃で体表の一部が焼かれており、後ろ足の付け根付近の負傷も目立つ。
黒竜も、好きな女と言いながらシルフィードを良くここまで、傷めつけたものだ。
『シルフィード、すまんが少し休んでいてくれ。
10式を警護の為に送る。俺はユマの救助に向かう』
『少し休めば治るわ。あんたの地竜とかに守ってもらう必要ないわよっ!』
彼女の抗議は無視し、10式をシルフィードと領主の兵隊たちのサポートに向かわせる。
敵兵が周りに潜んでいるかも知れないからだ。
俺自身は不時着したハインドの方に飛ぶ。いよいよユマの救助だ。
◆
敵が不時着した場所の上空に着く。
その地点は森が深くなっていて、樹のせいで地面まで良く見通せない。
森の海の中に、ぽつんと横倒しになったハインドが浮かんでいる感じだ。
ユマがヘリから脱出して離れているのなら、すぐには見つけられない。
後席のアネットが叫ぶ。
「ツカサ。 ほら、あそこ。ユマがこっちに向かってくる。あそこの大きな木が集まっているところの下! 待って! 誰かに追いかけられている。早く!!」彼女は魔法で視覚を強化しているようだ。
俺は機体のカメラを赤外線モードに変えると、アネットの指した方向を見る。
いた。
ヘルメット内の表示照準システム(IHADSS)に浮かび上がる白い影は、女性のシルエット。
ユマだ。
森のなかの小道をこちらに向かって一生懸命走っている。
そのユマを20mほど離れて森の中を数人の人影が追いかける。
くそっ。敵は兵士を、不時着したハインドに向かわせていたのか。
「ごめん、私の攻撃魔法は駄目。木が邪魔。当たらない。
ごめん、ツカサ何とかして。早く。早くして!!」アネットが急かせる。
俺は赤外線視覚を頼りに、チェーンガンを発砲する。
30mm機関砲弾は木を切り裂き炸裂するが、敵兵士には当たらない。
だが、大きな射撃音と爆発音は敵をひるませたようだ。
追いすがる兵士たちは、立ちすくむ。
ユマのいる上空にアパッチを移動させ、地上から生えている木々(きぎ)の先端、ぎりぎりまで高度を下げる。
彼女を覆い守るように、敵に向かってチェーンガンを乱射した。
砲弾は木の幹を削り、枝を吹き飛ばす。
何発かの砲弾は隙間を通りぬけ、敵近くに着弾し二人程をなぎ倒す。
残りの兵士達は、逃げ始めた。
俺は出来るだけ、周辺で木々(きぎ)の低いところを見つけ、ローターを巻き込まないようにギリギリまで高度を下げた。
「アネット、ヘリの中で待っていてくれ!」そう告げると、アパッチから飛び降りる。
不覚にも着地の時、足をくじいた。
構わず叫ぶ。
「ユマ!」
「ツカサ!」 ユマが走ってくる。
逃げている時につけた傷だろう。綺麗な顔から血を流し服も一部切れている。
俺は飛び込んできたユマを、抱きしめた。
「ツカサ、わたし、わたし、ツカサが戦ってるのを見て、ツカサが黒竜と戦っているのを見て」
ユマは震えている。
「じゅもん。もしかしたら、わたしの呪文役に立つかと思って、準備して。けど、うまく、うまく、いかなくて。いつもより時間かかってすぐ、すぐドラゴンに呪文をキャンセルされて」
「そしたら、男たちが追いかけてきて、逃げていたら、ツカサの“へりこぷたー”の音がそばに聞こえて」
「怖かった。もうツカサと会えないで、一人で死んじゃうんだと思った」
俺はユマを強く抱いた。
「もう大丈夫だ。すまなかった。待たせてしまった」
ユマは少し落ち着いてきたのだろう。
俺から顔を離し、涙混じりの目でにっこり微笑んだ。
「ううん。ツカサはいつでも私を救ってくれる。やっぱり今度も来てくれた」
そう言うと、ユマは再び俺の胸の中に顔を埋めた。
◆
ユマが落ち着くのを待ち、一緒に森の中を歩き始めた。
アパッチを降ろしたいのだが、森が深く着地出来ないからだ。
相棒は、上空で俺達の周りを監視している。
俺は、銃器の中で一番使い慣れている89式5.56mm小銃を召喚した。
飛び降りた時に挫いた足は、ユマが治してくれていた。
彼女は俺から離れようとしない。俺はユマの背中に腕を回しながら歩く。
「ユマ。敵の兵器たちを破壊し、黒竜も倒せた。
敵が弱まっている間に、俺はエフェソスの街に攻め込まないといけない」
「ユマは一旦コリントスの街に戻った方がいい。護衛をつける」
「やだ。絶対やだ。ツカサと一緒に行く。もう独りは嫌」
俺は困ってしまって、無言になった。
30分ほど歩くと何とかヘリを着地させられそうな場所に着く。
降りてきたヘリにユマを乗せる。
操縦はアパッチ自身に任せ、俺はコクピットの乗り込み用のステップで足を保持し、機体につかまった。
内部は二人乗りだ。アネットとユマを乗せると、俺は外側で機体につかまるしか無い。
近距離だし何とかなるだろう。
「シッカリ、ツカマッテ イロ。」
相棒のアパッチ15番機は、俺のことを気にしながらゆっくり舞い上がり、シルフィードと領主たちが待つ場所に向かった。
◆
機体が地上に降りると、俺は飛び降りた。
リンダが駆け寄って来る。
彼女は領主と彼の私兵達と行動を共にしていた。領主との連絡役を彼女に頼んでおいたのだ。
「ツカサ。 大丈夫?」リンダが心配そうに聞く。
「ああ、なんとかな。ユマも無事だ」
領主がリンダの後ろからやってきて、会話に加わった。
「フユトミ殿。ご無事で何よりです。しかしヘルドの黒竜を倒すとは。
まさか、この目でヘルドのドラゴンが、人間に屠られるところを見れるとは思わなかった…。
我らの歴史でドラゴンが人間に倒されたのは確か、数百年の昔に英雄エストラがデルボアの戦いで殺した竜が最後で…」
俺は長々と続きそうな領主の賞賛の言葉を止めさせると、現状の確認をした。
「兵たちの被害は?」
「200名程は死亡もしくは重症のため、戦闘の続行は不能と考える。
敵の鋼鉄製の地竜に殺られ申した。フユトミ殿が加勢によこしてくれた地竜の奮戦にも係わらず、誠に申し訳ない」
200名が脱落か。いや合計で400名程は戦力外になったと考えるべきだろう。
負傷者を援護する為に、戦闘可能な兵を置いていく必要がある。
残った兵たちで街に攻め込む。2500名強と言ったところか。
「上出来だ。助けが遅れてすまなかったな。兵たちの再編成を頼む。残りの兵で街に攻めこむ」
恐縮している領主との話を打ち切り、気になっていたシルフィードの側による。
「シルフィード。調子はどうだ」
シルフィードは少女の姿に戻っている。
心配のし過ぎは、かえって彼女を傷つける。
シルフィードは俺と対等に助けあいながら、戦うことを望んでいるのだ。
「も、もちろん大丈夫よ」
足の傷が酷い。治っていない。つまり、あんまり大丈夫そうじゃない。
俺はユマに声をかけた。
「ユマ。シルフィードの傷を見てやってくれないか」
「大丈夫って言ったでしょ。こんな傷一人で回復出来るわ」とシルフィード。
「シルフィードのおかげで、黒竜との戦いでは助かった。 ありがとう。
街に攻めこむ時も万全の態勢を取りたいんだ。
怪我を残しておくのは困る。パートナー、いや戦友からのお願いだ」
シルフィードはしょうがなさそうに、俯いた。
「う、うん。分かったわ。そ、そうね。万全を期さないとね」
そして、彼女は小さく呟いた。
「あんたがそう言うなら」
ユマがシルフィードに治癒魔法をかける。
ユマに関して言えば、一緒にエフェソスの街に攻めこむのは無茶だ。
彼女は人質になってショックだったろう。休ませるべきだ。
それに危険でもある。
敵の勢力範囲のど真ん中に入って、また人質にとられたらどうするんだ?
「ユマ。領主が負傷兵を、もといたコリントスの街に戻す。ユマも一緒に戻ってくれ。リンダとアネットを護衛につける」
「嫌です。さっきも言いました。ツカサと一緒に行きます!」
ユマは俺に顔を向けずに、きっぱり断言した。
俺はため息をつく。どうすりゃいい?




