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ユマ

黒竜はミサイルの直撃を受けて力尽ちからつき、息絶いきたええた。

「何とか勝てたようだな」俺は胸をなでおろした。


10式(ひとまるしき)戦車も自分の仕事を終えた。

敵のT72戦車は全て破壊され、黒い煙が立ちのぼっている。

領主りょうしゅの兵たちは損害は受けつつも、大部分は敵戦車から逃げることに成功した。


俺は気になっている、敵の召喚しょうかんの仕掛けに思いをめぐらす。

俺の兵器たちは耐久限界たいきゅうげんかいを超えるとすぐ消えるのに、敵の戦車は消えずに残骸ざんがいを残している。


前に戦った、敵の攻撃ヘリであるホーカムは最新型だった。

しかし、今回のハインドとT72戦車は、両方とも旧式の兵器だ。


あきらかに敵の召喚のやり方は、俺と違う。

ただし、何らかの制限がかかっている。

最新型を数十機、同時に出現させるのは敵にとっても無理のようだ。


いずれにしろ時間を空けると面倒だ。敵の召喚兵器をスクラップにした直後である今が、街への攻めどきだ。


俺はシルフィードのことが心配になり、心のなかで呼びかけた。


『シルフィード! 怪我けがは大丈夫か?』

彼女は、距離制限はあるものの遠隔えんかくから俺の心を読む。


『だ、大丈夫! こんくらい何よ』 しかし、言葉に反して苦しそうだ。

ズームされた画像を確認すると、雷撃サンダーで体表の一部が焼かれており、後ろ足の付け根付近の負傷ふしょうも目立つ。


黒竜も、好きな女と言いながらシルフィードを良くここまで、いためつけたものだ。


『シルフィード、すまんが少し休んでいてくれ。

10式を警護けいごの為に送る。俺はユマの救助きゅうじょに向かう』


『少し休めばなおるわ。あんたの地竜とかに守ってもらう必要ないわよっ!』


彼女の抗議は無視し、10式をシルフィードと領主の兵隊たちのサポートに向かわせる。

敵兵がまわりにひそんでいるかも知れないからだ。


俺自身は不時着ふじちゃくしたハインドの方に飛ぶ。いよいよユマの救助だ。


敵が不時着した場所の上空に着く。

その地点は森が深くなっていて、のせいで地面まで良く見通せない。

森の海の中に、ぽつんと横倒しになったハインドが浮かんでいる感じだ。


ユマがヘリから脱出して離れているのなら、すぐには見つけられない。


後席のアネットがさけぶ。

「ツカサ。 ほら、あそこ。ユマがこっちに向かってくる。あそこの大きな木が集まっているところの下! 待って! 誰かに追いかけられている。早く!!」彼女は魔法で視覚を強化しているようだ。


俺は機体のカメラを赤外線モードに変えると、アネットの指した方向を見る。


いた。


ヘルメット内の表示照準システム(IHADSS)に浮かび上がる白い影は、女性のシルエット。


ユマだ。


森のなかの小道をこちらに向かって一生懸命走っている。

そのユマを20mほど離れて森の中を数人の人影が追いかける。


くそっ。敵は兵士を、不時着したハインドに向かわせていたのか。


「ごめん、私の攻撃魔法は駄目だめ。木が邪魔じゃま。当たらない。

ごめん、ツカサ何とかして。早く。早くして!!」アネットがかせる。


俺は赤外線視覚を頼りに、チェーンガンを発砲はっぽうする。

30mm機関砲弾は木を切り炸裂さくれつするが、敵兵士には当たらない。


だが、大きな射撃音と爆発音は敵をひるませたようだ。

追いすがる兵士たちは、立ちすくむ。


ユマのいる上空にアパッチを移動させ、地上から生えている木々(きぎ)の先端、ぎりぎりまで高度を下げる。

彼女をおおい守るように、敵に向かってチェーンガンを乱射らんしゃした。


砲弾は木のみきけずり、えだを吹き飛ばす。

何発かの砲弾は隙間すきまを通りぬけ、敵近くに着弾し二人(ほど)をなぎ倒す。

残りの兵士達は、逃げ始めた。


俺は出来るだけ、周辺で木々(きぎ)の低いところを見つけ、ローターを巻き込まないようにギリギリまで高度を下げた。


「アネット、ヘリの中で待っていてくれ!」そう告げると、アパッチから飛び降りる。


不覚ふかくにも着地の時、足をくじいた。

かまわずさけぶ。


「ユマ!」


「ツカサ!」 ユマが走ってくる。


逃げている時につけた傷だろう。綺麗きれいな顔から血を流し服も一部切れている。

俺は飛び込んできたユマを、抱きしめた。


「ツカサ、わたし、わたし、ツカサが戦ってるのを見て、ツカサが黒竜と戦っているのを見て」


ユマはふるえている。


「じゅもん。もしかしたら、わたしの呪文役に立つかと思って、準備して。けど、うまく、うまく、いかなくて。いつもより時間かかってすぐ、すぐドラゴンに呪文をキャンセルされて」


「そしたら、男たちが追いかけてきて、逃げていたら、ツカサの“へりこぷたー”の音がそばに聞こえて」


「怖かった。もうツカサと会えないで、一人で死んじゃうんだと思った」


俺はユマを強く抱いた。

「もう大丈夫だ。すまなかった。待たせてしまった」


ユマは少し落ち着いてきたのだろう。

俺から顔を離し、涙混なみだまじりの目でにっこり微笑ほほえんだ。


「ううん。ツカサはいつでも私を救ってくれる。やっぱり今度も来てくれた」

そう言うと、ユマは再び俺の胸の中に顔をうずめた。


ユマが落ち着くのを待ち、一緒いっしょに森の中を歩き始めた。

アパッチをろしたいのだが、森が深く着地出来ないからだ。

相棒あいぼうは、上空で俺達の周りを監視かんししている。


俺は、銃器の中で一番使い慣れている89式5.56mm小銃を召喚した。


飛び降りた時にくじいた足は、ユマが治してくれていた。

彼女は俺から離れようとしない。俺はユマの背中に腕を回しながら歩く。


「ユマ。敵の兵器たちを破壊し、黒竜も倒せた。

敵が弱まっている間に、俺はエフェソスの街に攻め込まないといけない」

「ユマは一旦いったんコリントスの街に戻った方がいい。護衛ごえいをつける」


「やだ。絶対やだ。ツカサと一緒に行く。もう独りはいや

俺は困ってしまって、無言になった。


30分ほど歩くと何とかヘリを着地させられそうな場所に着く。


降りてきたヘリにユマを乗せる。

操縦はアパッチ自身に任せ、俺はコクピットの乗り込み用のステップで足を保持し、機体につかまった。

内部は二人乗りだ。アネットとユマを乗せると、俺は外側で機体につかまるしか無い。

近距離だし何とかなるだろう。


「シッカリ、ツカマッテ イロ。」

相棒のアパッチ15番機は、俺のことを気にしながらゆっくり舞い上がり、シルフィードと領主たちが待つ場所に向かった。


機体が地上に降りると、俺は飛び降りた。

リンダが駆け寄って来る。

彼女は領主と彼の私兵達と行動を共にしていた。領主との連絡役を彼女に頼んでおいたのだ。


「ツカサ。 大丈夫?」リンダが心配そうに聞く。


「ああ、なんとかな。ユマも無事だ」


領主がリンダの後ろからやってきて、会話に加わった。

「フユトミ殿。ご無事ぶじで何よりです。しかしヘルドの黒竜を倒すとは。

 まさか、この目でヘルドのドラゴンが、人間にほふられるところを見れるとは思わなかった…。

我らの歴史でドラゴンが人間に倒されたのは確か、数百年の昔に英雄エストラがデルボアの戦いで殺した竜が最後で…」


俺は長々と続きそうな領主の賞賛しょうさんの言葉を止めさせると、現状の確認をした。


「兵たちの被害は?」


「200名程は死亡もしくは重症のため、戦闘の続行は不能と考える。

敵の鋼鉄製の地竜にられもうした。フユトミ殿が加勢かせいによこしてくれた地竜の奮戦ぜんせんにも係わらず、誠に申し訳ない」


200名が脱落だつらくか。いや合計で400名程は戦力外になったと考えるべきだろう。

負傷者を援護えんごする為に、戦闘可能な兵を置いていく必要がある。

残った兵たちで街に攻め込む。2500名強と言ったところか。


上出来じょうできだ。助けが遅れてすまなかったな。兵たちの再編成を頼む。残りの兵で街に攻めこむ」

恐縮きょうしゅくしている領主との話を打ち切り、気になっていたシルフィードのそばによる。


「シルフィード。調子はどうだ」


シルフィードは少女の姿に戻っている。

心配のし過ぎは、かえって彼女を傷つける。

シルフィードは俺と対等に助けあいながら、戦うことを望んでいるのだ。


「も、もちろん大丈夫よ」


足の傷がひどい。なおっていない。つまり、あんまり大丈夫だいじょうぶそうじゃない。


俺はユマに声をかけた。

「ユマ。シルフィードの傷を見てやってくれないか」


「大丈夫って言ったでしょ。こんな傷一人で回復出来るわ」とシルフィード。


「シルフィードのおかげで、黒竜との戦いでは助かった。 ありがとう。

街に攻めこむ時も万全の態勢たいせいを取りたいんだ。

怪我けがを残しておくのは困る。パートナー、いや戦友からのお願いだ」


シルフィードはしょうがなさそうに、うなずいた。

「う、うん。分かったわ。そ、そうね。万全を期さないとね」


そして、彼女は小さくつぶやいた。

「あんたがそう言うなら」


ユマがシルフィードに治癒魔法ちゆまほうをかける。


ユマに関して言えば、一緒にエフェソスの街に攻めこむのは無茶むちゃだ。

彼女は人質ひとじちになってショックだったろう。休ませるべきだ。

それに危険でもある。

敵の勢力範囲のど真ん中に入って、また人質にとられたらどうするんだ?


「ユマ。領主が負傷兵ふしょうへいを、もといたコリントスのまちに戻す。ユマも一緒に戻ってくれ。リンダとアネットを護衛ごえいにつける」


いやです。さっきも言いました。ツカサと一緒に行きます!」

ユマは俺に顔を向けずに、きっぱり断言した。


俺はため息をつく。どうすりゃいい?


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