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黒竜の呪い

ヘルファイア・ミサイルを黒竜こくりゅうに向かって発射する。

着弾まで数秒。

竜は炎を引きながら飛び込んでくるミサイルに気が付き、シルフィードから離れて飛び上がろうとする。


巨体に似合わず、動きが俊敏しゅんびんな竜だ。

飛んだ。


目標の移動を感知したヘルファイアは、進路を変更する。

かろうじて黒竜に突き刺さる。


ミサイルは浅い角度で尾の付け根部分に着弾し、タンデム成形炸薬弾頭せいけいさくやくだんとうが起爆。

竜の魔法シールドが明るく輝き、対戦車ミサイルの爆発に対抗する。

…爆発の破壊力はがれたようだ。


しかしダメージは完全には防げなかった。

尾の付け根がえぐられ、中の肉がむき出しになっている。

残念ながら致命傷ではなさそうだ。


苦しげに竜は咆哮ほうこうすると、俺のヘリの方を向き憎々しげににらむ。


黒竜よ。まだ安心するのは早い。終わりじゃない。

ヘルファイア・ミサイル、次弾発射だ。


黒竜は力を振りしぼり、高度を上げミサイルを何とか振りきった。

そして形勢不利を悟ったか、高速で飛行しながら逃げていく。


エンジンの片方をやられた、今のアパッチでは追撃ついげきは無理だ。


『シルフィード! 黒竜は逃げたぞ!』俺は倒れている竜に呼びかけた。


『…ごめん。…ありがと』シルフィードは苦しげに俺の心の中に返答する。


シルフィードの声を聞き、少し安心した。


すぐにでもシルフィードのそばに行きたかったが、その前にやらねばいけない事があった。

俺は、叩き落とした敵の攻撃ヘリ“ホーカム”の方を見た。

地上の林の中に不時着し、横倒しになっている。


アパッチのTADSを使いズームで敵ヘリを観察する。

敵パイロットらしい影がコックピット内に見える。

失神したのか、それとも死んだのか? …いや動いている。

何かに引っかかって、席から出られなくなっているらしい。


奴は俺と同じ召喚能力を持っているのだろうか?

そうだとすれば、かなりの脅威だ。


どうやって、この世界に来たのか? 敵側に他に召喚士の仲間がいるのか?

捕虜ほりょにして尋問じんもんしたい欲求にられる。


だが負傷したシルフィードを連れてすぐに移動しなければいけないし、森に残してきた少年達もいる。

余計な手間も時間もかけられない。


あんたは運が無かったな。

俺はチェーンガンをホーカムのコクピットに叩き込んだ。


ぐったりしているシルフィード…青い竜の側に着陸した。

「シルフィード。大丈夫か?」


竜は少女の姿に戻る。


顔色が悪い。息が苦しそうだ。


おかしい。

俺と以前戦った時は、ここまでひどくはならなかった。

竜の回復能力は強力なはずなのだ。


俺はシルフィードと黒竜との交戦の状況を思い出す。

そういえば、黒竜が首筋にみ付いていた。何かされたのか?

言いたかった言葉を無理やり飲み込む。

“なんで、すぐに逃げなかったんだ”


責任感が強いシルフィードは、多連装ロケットシステムM270 MLRSの車両群を守り切った。彼女は逃げなかった。

シルフィードのお蔭で、全てのロケット弾を首都タリスに浴びせる事に成功したのだ。


「シルフィード。俺に出来ることはないか。どうすれば助けられる?」


少女は目を開け、苦しそうに言う。

「…大丈夫…ごめん。森へ連れて行って。あの子達を回収しないと。本当に大丈夫だから…」


しかし、これでは…

こんなに痛めつけられるなんて。


この場所にとどまる訳にはいかないのは確かだ。

逃げた黒竜はこの場所を知っているのだ。援軍が来るかもしれない。

少女を抱き上げ、アパッチのコックピットになんとか収める。


俺は1基だけ残ったエンジンを注意深くあやつりながら、エトとリナが隠れている森に急いだ。


俺はエトとリナが隠れている森の上空に戻った。

最初に会った空き地に姿は無い。

上空から、周辺の森を赤外線を使って探す。

あせりながら10分も探しただろうか。


いた。


二人の影らしき白い姿が、ヘルメット内に投影とうえいされる。

ヘリに気がついたのだろう。二人は空き地に向かって走っている。

森の中を移動しながら、こちらに向け手を振っている。


同時に俺は10人ほどの集団の影を赤外線で感知した。200mほど先だ。


俺はかまわず広場に降下を始めた。

二人以外の集団の影は敵なのか、たまたま通りかかった隊商たいしょうなのか、今持っている情報ではわからない。

襲ってくればチェーンガンで破壊するまでだ。


降下中に周囲をもう一度確認すると、敵らしき姿は……襲って来ていない。

逃げ出している。俺のヘリに気がついたのだろう。


着陸するとシルフィードを降ろし、駆け寄ってきたエトとリナに合流した。


「シルフィードさん苦しそう。大丈夫ですか?」リナが心配そうに聞く。


アパッチはもう飛べない。

ホーカムから食らったダメージのせいで、飛行に支障が出ている。

一旦送還してクールタイムが過ぎるのを待つ必要がある。


シルフィードを救う為には、一刻も早く帝国に戻るしか無い。

他の手段を俺は知らない。


アパッチがいなくなったので、89式装甲戦闘車に乗り換えて移動する必要がある。

森を抜け、道沿いに出なければならない。


シルフィードを背負い移動している最中さいちゅう、彼女の様態ようたいが急変する。

肩につかまっていたシルフィードの腕から力が突然抜け、俺の背中からころげ落ちそうになる。

あわてて彼女の体を支え、地面に横たえる。


顔が土気色だ。目は焦点しょうてんを失っている。

慌てて脈を診る。ほとんど無い。


「シルフィード!」俺は叫んだ。反応は無い。

シルフィードが死ぬ?! まさか。嘘だろ。


リナが何か言い出そうとして、めたのを俺は見逃さなかった。


「リナ。どうした」


彼女は言い出すべきかどうか、迷った様子だったが俺に急かされ話しだす。

「フユトミさん。私、お伽話とぎばなしで聞いたことがあるんです。

竜は自分が愛している人、おもい人の生命力を使って寿命を延ばせるって。

でも、それをする竜は悪い竜だって。」


「そのお伽話とぎばなしでは竜と両思いになった人間の女が命をあげるんです。

その人が竜にキスをすると、竜は助かるんです。でも、その女の人は死んじゃって」


リナがはっとした顔になった。

「ごめんなさい。私やっぱ話すべきじゃなかった。忘れてください!」


いいや。

「ありがとう。教えてくれて」


伽話とぎばなしがどこまで正確かなんて、試してみなけりゃ分からない。


俺はシルフィードのくちびるに顔を近づけると、自分の唇を重ね、シルフィードの体を抱きしめた。

お前が俺を好きだなんて事はある訳ないか、でも、

生きてくれ、と願いながら。


俺は気が遠くなるのを感じた。まるで生命力が吸い取られているような。

ユマの顔を思い浮かべる。

奇跡が起こってシルフィードが助かって…もし俺が死んだらごめんな。



「本当に余計な事してくれたわ! えっち、すけべ!」


シルフィードは、少なくとも文句を言える程度には回復してくれたようだ。

顔色はまだ悪いが、赤みがさしてきている。

みゃくたが正常だ。さすがに竜の生命力はすごい。

死にそうだったなんて、夢だったのだろうか。


「放っておいてくれれば、元気になったのに」

彼女は恥ずかしそうに横を向く。


「え、そうなのか。

すまない。お伽話とぎばなしを信じてしまって」


彼女の表情が凍りつく。

「お伽話。って。竜の想い人の伝説の話?」


「うん。そうだ」


「そ、それ嘘だから。竜が自分の好きな人の生命力貰えるって大嘘だから」


シルフィードはそう言ってから、うつむいた。


「ごめんなさい。でもやっぱりお礼は言わないと。

助けてくれてどうもありがとう。生命力をもらったのは本当の話。

ツカサの寿命は恐らく数年短くなった。本当にありがとう」


「それ位で助けられたのなら安いものさ。気にするな」


「そう言ってもらえると嬉しいわ」


俺は聞きたかった事を聞いた。

「それで、一体何が起こったんだ。竜と言うのはそう簡単に死なないと思っていたんだが」


「黒竜に呪いをかけられたの。首をまれた時に呪いの言葉を聞いてしまった。

でも、もう大丈夫。呪いは消えたから」


勘違いしないでよ、と彼女は横を向きながら顔を赤らめ付け加えた。


「竜の想い人だけが生命力をあげられる、ってのは嘘だからね。

そ、そこは逆だわ。人間の方が、竜“を”好きな時に命をあげられる。

うん、これが真実。絶対的な真実。乙女おとめの純情的に間違いないわ」


リナが意地になったように反対した。

「でも、このお伽話、昔から伝えられた真実だっておばあさんが言ってた。

お婆さん嘘嫌いだったし。

竜の方が人間に恋してるって絶対に聞きました。

私、嘘なんて言っていません」


「そ、そう。 う、うん。 人間には間違って伝わったんじゃない?

リナが嘘言ったなんて私言ってないし。

でも、それワタシ的になんというか、空気を読んで欲しいと言うか…立場もあるし」


最後の方のシルフィードの声は小さくなり、良く聞こえなかった。


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