タリス侵攻
◆
ザルメスクへの攻撃は成功した。
そのままシルフィードと一緒に、ヘルドの首都タリスに侵攻する。
今回は敵本土の中を突っ切るので、見つかればかなりの反撃が予想される。
目立つのは避けたかった。当初は俺単独で行くつもりだった。
しかしシルフィードに強硬に反対され、連れて行く事にする。
本音を言うと、手伝う、と言ってくれたのは嬉しかった。
流石に目立ちすぎるドラゴンの姿で飛ぶのは勘弁してもらい、彼女は今、非常用毛布に包まってパイロット席にいる。
さっきの変身で破れてしまった服の替えが無いからだ。
「後ろ見ないでよ!」
見ない。それに別に俺は悪くない。
ついでに言えば、ドラゴン形態の時はいつも裸だろうに。
首都攻撃の作戦は以下のとおりだ。
1.首都の近く30km位まで近づき、人目につかないところで多連装ロケットシステム 自走発射機M270 MLRSを召喚する。
2.召喚したM270 MLRS、及び関連車両を、ドラゴン形態のシルフィードに敵から守ってもらう。
3.俺はヘリを使って首都タリスを偵察し、ロケットの攻撃目標を決める。
4.M270 MLRSからロケット弾発射
5.シルフィードと共に戦果確認をした後で、王国へ帰還。
首都タリスは先ほど攻撃したザルメスクに比べ広いので、攻撃先を選ぶ必要がある。
その為に俺が単独で偵察する訳だ。
では作戦決行だ。
◆
首都タリスから30kmまで接近した。
ここまで敵からの攻撃もなかった。
敵ドラゴンの迎撃を予想していたのだが拍子抜けだ。ワイバーンさえ昇って来ない。
適当な林の中に空き地を見つけ、高度を下げ着陸した。
「M270 MLRS 来てくれ」
先ほどの召喚からクールタイムは十分過ぎている。再召喚が可能だ。
『参上致しました。ご命令を』
色っぽい声で再度出現した、自走発射機の指揮車が言う。
『後ほど攻撃座標を送る。それまで待機してくれ』
『了解いたしました』
「シルフィード。出番だ。よろしく頼む」
後席に声をかける。
「分かった。けどこっち向かないでよ」
シルフィードはパイロット席のキャノピーを跳ね上げると、外に飛び出る。
空中に飛びあがると竜の姿に……なった筈だ。俺は紳士なので目では見ていない。あくまで想像だ。
いずれにしろ、ここは首都から30kmしか離れていない。
M270 MLRSの車両たちは見つかると思った方がいいだろう。防衛はシルフィード頼みだ。
俺は、後を彼女にまかせ飛び立った。
これからは時間との戦いだ。
迅速に偵察し攻撃目標を定め、M270 MLRSに攻撃させる。
簡単な筈だった。
◆
俺は首都から2km位まで接近し、高度を上げた。
もう敵に見つかっているだろう。ドラゴンが来るかもしれない。
ズームを使ってヘルドの首都を観察する。
この距離なら敵の魔法は届かない。
すぐに目に入ったのが王宮らしき建物だ。
広大な街のど真ん中に石造りの巨大な建物がある。
建物の前に広場と幅の広い道が通っている。
ヘルドの王は異界の化け物だという噂がある。とてつもない魔力を持っているとも。
噂がどこまで本当かは分からないが、住んでいるとしたらあそこだろう。
王宮から1kmほど南に、平べったく広がる木造の建物があり、多くの兵士達が周囲にいる。ワイバーンや地竜の姿も見える。
王宮の守備隊の本部か。
俺は気になっている敵ドラゴンの姿を探した。しかし見当たらない。
首都にはいないのだろうか。
『ツカサ。 敵がこっちに来る。ヘルドの黒竜“エルス”。
凄い速度で向かってくる』
シルフィードが俺の脳内に直接、通信を伝える。
クソ。敵ドラゴンは首都防衛の任には着いていなかった。
しかも、こっちの動きはお見通しだ。シルフィードが一人になるのを待っていた。
『それとおかしいの。
“へりこぷたー”があなたが飛んでいった逆の方向からこっち来る。
あなたなの?なんで別の方向から飛んで来るの?』
『俺は、首都タリスのそばだ。そっちには戻っていない』
『でも、上で何かがくるくる回ってる見かけも同じだし、透明のガラスで前が覆われていて…』
俺は息を呑んだ。有り得ない。
『シルフィード、今すぐ逃げろ。こっちに来い。それは俺じゃない。
地上の車両は放っておけ。守らなくていい。すぐ来るんだ』
作戦は失敗したかも知れない。敵はヘリを召喚したんだ。
恐らくは攻撃ヘリを。
◆
俺は機首を後方に向け、急ぎ戻る。
『シルフィード。すぐにそちらに戻る。2対1では敵わない。逃げろ』
同時に待機中の自走発射機M270 MLRSの指揮車に命令する。
『目標地点を送る。ヘルドの王宮と守備隊の拠点だ。撃て』
可能な限り、ここだけでも叩く。
シルフィードと別れた場所まで残り10km。
ロングボウ・レーダーが敵を探知し、警告音がコックピットに鳴り響く。
高脅威目標を発見した警報だ。
レーダー上にはドラゴンらしき大きな目標と、もうひとつ。
システム表示が俺に告げる。敵推定:Ka-50攻撃ヘリ 脅威度:高
くそったれ。ロシアのホーカムか。
ホーカムは、ロシアのアフガニスタン侵攻の際に有名になった戦闘ヘリMi-24(ハインド)の事実上の後継機だ。
『シルフィード、大丈夫か?』
『…ごめん。まずいかも』俺はシルフィードの荒い息遣いを感じた気がした。
4kmまで接近。アパッチの持つ、空対空ミサイル・スティンガーの射程に入った。
敵ホーカムをロックオン。発射!
同時にコックピット内に敵ミサイルの接近警報が鳴る。
ホーカムの持つ、イグラ1V空対空ミサイルだろう。
ヘルメット内に投影されたレーダー映像上にマークが表示され、高速で接近してくる。
俺は機体の防御システムに対応をまかせ、そのままシルフィードに向けて飛ぶ。
防御システムが反応し、ローターマスト下のIRジャマーAN/ALQ-114(V)が作動。
妨害の為の赤外線パルスを撒き散らす。
敵ミサイルは目標を見失いアパッチから逸れていく。
シルフィードは危険な状態だ。
ヘルドの黒竜から雷撃を受け、飛ぶ力を失い地表に落ちていく。
ホーカムは俺の放ったスティンガーをフレアで防御し、シルフィードにトドメを刺そうと機首を向けつつある。
そうはさせるか。
俺はAGM-114Lヘルファイア・ミサイルをホーカムに向け発射した。
避けられるのは計算の上だ。
ヘルファイア・ミサイルは地上目標用のミサイル。空の目標は専門外だ。
しかし、敵に回避行動を強制させる程度の誘導性能は持っている。
チャフもフレアもヘルファイア・ミサイルは騙せない。
ホーカムはシルフィードを追うのを諦め、ミサイルの回避行動に移った。
『シルフィード。ヘリはこちらで引き受ける。何とか黒竜を倒せ』
『…分かったわ。頑張る』
ホーカムは、こちらにイグラ1V対空ミサイルを撃ってくる。
こちらも残りのスティンガーを敵に向け発射した。
敵ヘリは、こちらのスティンガー全弾をフレアで回避。
こちらは…
どぉん、という破裂音が聞こえ、衝撃をエンジン付近で受ける。
IRジャマーの防御をすり抜け、一発が左側のエンジンに命中。
俺は舌打ちしながら、機体を安定させる為に高度を下げた。
アパッチは黒煙を吹きながら地上に向かう。
アパッチ・ロングボウ戦闘ヘリは、高い生存性を持つ機体だ。
エンジンを2つ装備し、片方がやられても飛行は可能だ。
エンジンの間には防火壁があって、片方が延焼しても広がらない。
まだまだ。これからだ。殺られてたまるか。
しかし敵は、俺が機体を安定させようとしている隙を狙いシルフィードに機首を向けていた。
黒竜の雷撃を受け弱っていたシルフィードに、ロケット弾が注がれる。
10数発の連続したロケット攻撃を受け、力尽きたシルフィードは地上に叩きつけられる。あの攻撃はS-8ロケット弾の貫徹弾頭か?
次に来るのはトドメのヴィーフリ対戦車ミサイルだ。
そんなことは、させない。
俺は機体を相棒にまかせ、コクピットを跳ね上げた。
外の空気がなだれ込む。
もうスティンガーは残っていない。
ヘルファイア・ミサイルでは敵に避けられる。
「来い。SAM-2B」
俺は歩兵用の対空ミサイルを実体化した。
個人携帯地対空誘導弾(改)(SAM-2B)は歩兵が持ち運べる対空ミサイルだ。
バズーカ砲に似た外見。
しかし、91式携帯地対空誘導弾の改良型であるこのSAM-2Bは、スティンガーを上回る追尾性能を持つ。
フレアでの妨害にも強い。
いけっ
開いたコクピットから先端を突き出し、肩付けで撃った。
発射されたSAM-2Bは空中でロケットモーターに点火し、ホーカム目掛けて追いすがる。
シルフィードを照準中だったホーカムは慌てたようにフレアを吐き出す。
どん。
敵のチャフを無視し、SAM-2Bはホーカムに突き刺さる。
当たりどころが悪かったのだろう。
コントロールを失いきりもみ状態で地上に落下していく。
『シルフィード!』
シルフィードは返事をしない。
地上に叩き落とされたシルフィードの上に黒竜がのしかかり、首筋に噛み付いている。
いたぶって殺すつもりか。
俺は、ヘルファイア・ミサイルを黒竜に向かって発射した。




