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タリス侵攻

ザルメスクへの攻撃は成功した。

そのままシルフィードと一緒に、ヘルドの首都タリスに侵攻する。


今回は敵本土の中を突っ切るので、見つかればかなりの反撃が予想される。

目立つのは避けたかった。当初は俺単独で行くつもりだった。

しかしシルフィードに強硬に反対され、連れて行く事にする。

本音ほんねを言うと、手伝う、と言ってくれたのは嬉しかった。


流石さすがに目立ちすぎるドラゴンの姿で飛ぶのは勘弁してもらい、彼女は今、非常用毛布にくるまってパイロット席にいる。

さっきの変身で破れてしまった服の替えが無いからだ。


「後ろ見ないでよ!」


見ない。それに別に俺は悪くない。

ついでに言えば、ドラゴン形態の時はいつも裸だろうに。


首都攻撃の作戦は以下のとおりだ。


1.首都の近く30km位まで近づき、人目につかないところで多連装ロケットシステム 自走発射機M270 MLRSを召喚する。

2.召喚したM270 MLRS、及び関連車両を、ドラゴン形態のシルフィードに敵から守ってもらう。

3.俺はヘリを使って首都タリスを偵察し、ロケットの攻撃目標を決める。

4.M270 MLRSからロケット弾発射

5.シルフィードと共に戦果確認をした後で、王国へ帰還きかん


首都タリスは先ほど攻撃したザルメスクに比べ広いので、攻撃先を選ぶ必要がある。

その為に俺が単独で偵察する訳だ。


では作戦決行だ。


首都タリスから30kmまで接近した。

ここまで敵からの攻撃もなかった。

敵ドラゴンの迎撃げいげきを予想していたのだが拍子抜ひょうしぬけだ。ワイバーンさえ昇って来ない。

適当な林の中に空き地を見つけ、高度を下げ着陸した。


「M270 MLRS 来てくれ」

先ほどの召喚からクールタイムは十分じゅうぶん過ぎている。再召喚が可能だ。


『参上致しました。ご命令を』

色っぽい声で再度出現した、自走発射機の指揮車が言う。


『後ほど攻撃座標を送る。それまで待機してくれ』


『了解いたしました』


「シルフィード。出番だ。よろしく頼む」

後席に声をかける。


「分かった。けどこっち向かないでよ」


シルフィードはパイロット席のキャノピーを跳ね上げると、外に飛び出る。

空中に飛びあがると竜の姿に……なった筈だ。俺は紳士なので目では見ていない。あくまで想像だ。


いずれにしろ、ここは首都から30kmしか離れていない。

M270 MLRSの車両たちは見つかると思った方がいいだろう。防衛はシルフィード頼みだ。


俺は、あとを彼女にまかせ飛び立った。

これからは時間との戦いだ。

迅速に偵察し攻撃目標を定め、M270 MLRSに攻撃させる。


簡単なはずだった。


俺は首都から2km位まで接近し、高度を上げた。

もう敵に見つかっているだろう。ドラゴンが来るかもしれない。


ズームを使ってヘルドの首都を観察する。

この距離なら敵の魔法は届かない。


すぐに目に入ったのが王宮らしき建物だ。

広大な街のど真ん中に石造りの巨大な建物がある。

建物の前に広場と幅の広い道が通っている。

ヘルドの王は異界の化け物だといううわさがある。とてつもない魔力を持っているとも。

噂がどこまで本当かは分からないが、住んでいるとしたらあそこだろう。


王宮から1kmほど南に、平べったく広がる木造の建物があり、多くの兵士達が周囲にいる。ワイバーンや地竜の姿も見える。

王宮の守備隊の本部か。


俺は気になっている敵ドラゴンの姿を探した。しかし見当たらない。

首都にはいないのだろうか。


『ツカサ。 敵がこっちに来る。ヘルドの黒竜こくりゅう“エルス”。

凄い速度で向かってくる』

シルフィードが俺の脳内に直接、通信を伝える。


クソ。敵ドラゴンは首都防衛の任には着いていなかった。

しかも、こっちの動きはお見通しだ。シルフィードが一人になるのを待っていた。


『それとおかしいの。

“へりこぷたー”があなたが飛んでいった逆の方向からこっち来る。

あなたなの?なんで別の方向から飛んで来るの?』


『俺は、首都タリスのそばだ。そっちには戻っていない』


『でも、上で何かがくるくる回ってる見かけも同じだし、透明のガラスで前が覆われていて…』


俺は息を呑んだ。有り得ない。

『シルフィード、今すぐ逃げろ。こっちに来い。それは俺じゃない。

地上の車両は放っておけ。守らなくていい。すぐ来るんだ』


作戦は失敗したかも知れない。敵はヘリを召喚したんだ。

恐らくは攻撃ヘリを。


俺は機首を後方に向け、急ぎ戻る。

『シルフィード。すぐにそちらに戻る。2対1ではかなわない。逃げろ』


同時に待機中の自走発射機M270 MLRSの指揮車に命令する。

『目標地点を送る。ヘルドの王宮と守備隊の拠点だ。撃て』

可能な限り、ここだけでも叩く。


シルフィードと別れた場所まで残り10km。

ロングボウ・レーダーが敵を探知し、警告音がコックピットに鳴り響く。

高脅威こうきょうい目標を発見した警報だ。


レーダー上にはドラゴンらしき大きな目標と、もうひとつ。

システム表示が俺に告げる。敵推定:Ka-50攻撃ヘリ 脅威度:高


くそったれ。ロシアのホーカムか。

ホーカムは、ロシアのアフガニスタン侵攻の際に有名になった戦闘ヘリMi-24(ハインド)の事実上の後継機だ。


『シルフィード、大丈夫か?』


『…ごめん。まずいかも』俺はシルフィードの荒い息遣いを感じた気がした。


4kmまで接近。アパッチの持つ、空対空ミサイル・スティンガーの射程に入った。

敵ホーカムをロックオン。発射!


同時にコックピット内に敵ミサイルの接近警報が鳴る。

ホーカムの持つ、イグラ1V空対空ミサイルだろう。

ヘルメット内に投影されたレーダー映像上にマークが表示され、高速で接近してくる。


俺は機体の防御システムに対応をまかせ、そのままシルフィードに向けて飛ぶ。


防御システムが反応し、ローターマスト下のIRジャマーAN/ALQ-114(V)が作動。

妨害の為の赤外線パルスをき散らす。


敵ミサイルは目標を見失いアパッチかられていく。


シルフィードは危険な状態だ。

ヘルドの黒竜から雷撃らいげきを受け、飛ぶ力を失い地表に落ちていく。


ホーカムは俺の放ったスティンガーをフレアで防御し、シルフィードにトドメを刺そうと機首を向けつつある。


そうはさせるか。


俺はAGM-114Lヘルファイア・ミサイルをホーカムに向け発射した。


避けられるのは計算の上だ。

ヘルファイア・ミサイルは地上目標用のミサイル。空の目標は専門外だ。

しかし、敵に回避行動を強制させる程度の誘導性能は持っている。

チャフもフレアもヘルファイア・ミサイルはだませない。


ホーカムはシルフィードを追うのをあきらめ、ミサイルの回避行動に移った。


『シルフィード。ヘリはこちらで引き受ける。何とか黒竜を倒せ』


『…分かったわ。頑張る』


ホーカムは、こちらにイグラ1V対空ミサイルを撃ってくる。

こちらも残りのスティンガーを敵に向け発射した。


敵ヘリは、こちらのスティンガー全弾をフレアで回避。


こちらは…

どぉん、という破裂音が聞こえ、衝撃をエンジン付近で受ける。

IRジャマーの防御をすり抜け、一発が左側のエンジンに命中。


俺は舌打ちしながら、機体を安定させる為に高度を下げた。

アパッチは黒煙を吹きながら地上に向かう。

アパッチ・ロングボウ戦闘ヘリは、高い生存性を持つ機体だ。

エンジンを2つ装備し、片方がやられても飛行は可能だ。

エンジンの間には防火壁があって、片方が延焼えんしょうしても広がらない。


まだまだ。これからだ。殺られてたまるか。


しかし敵は、俺が機体を安定させようとしているすきを狙いシルフィードに機首を向けていた。


黒竜の雷撃らいげきを受け弱っていたシルフィードに、ロケット弾が注がれる。

10数発の連続したロケット攻撃を受け、力尽きたシルフィードは地上に叩きつけられる。あの攻撃はS-8ロケット弾の貫徹かんてつ弾頭だんとうか?


次に来るのはトドメのヴィーフリ対戦車ミサイルだ。


そんなことは、させない。

俺は機体を相棒にまかせ、コクピットを跳ね上げた。

外の空気がなだれ込む。


もうスティンガーは残っていない。

ヘルファイア・ミサイルでは敵に避けられる。


「来い。SAM-2B」


俺は歩兵用の対空ミサイルを実体化した。


個人携帯地対空誘導弾(改)(SAM-2B)は歩兵が持ち運べる対空ミサイルだ。

バズーカ砲に似た外見。

しかし、91式携帯地対空誘導弾の改良型であるこのSAM-2Bは、スティンガーを上回る追尾ついび性能を持つ。

フレアでの妨害にも強い。


いけっ


開いたコクピットから先端を突き出し、肩付けで撃った。

発射されたSAM-2Bは空中でロケットモーターに点火し、ホーカム目掛けて追いすがる。


シルフィードを照準中だったホーカムは慌てたようにフレアを吐き出す。


どん。


敵のチャフを無視し、SAM-2Bはホーカムに突き刺さる。

当たりどころが悪かったのだろう。

コントロールを失いきりもみ状態で地上に落下していく。


『シルフィード!』

シルフィードは返事をしない。


地上に叩き落とされたシルフィードの上に黒竜がのしかかり、首筋にみ付いている。

いたぶって殺すつもりか。


俺は、ヘルファイア・ミサイルを黒竜に向かって発射した。

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