ザルメスク急襲
◆
俺達は王国内を飛び続け、敵国ヘルドとの国境が近くなってきた。
ヘルド軍の物資の中継点であるザルメスクまで30kmほどだ。
そろそろアパッチ攻撃ヘリの航続限界距離になる。燃料がほとんど残っていない。
一旦国境近くの適当な場所で機体を送還し、クールタイムが経過した後に再召喚するつもりだ。
その間にザルメスクを遠隔攻撃する。
シルフィードの竜の姿は目立つので、途中で人間形態に戻ってもらいヘリに搭乗させる。
国境そばで着陸地点を探すときには、あまり目立ちたくない。
「えっ。えーー。中ってこうなってたんだ。見たことのない魔法技術ね。へーー」
機内の装備に興味深々のシルフィードに、ヘルメットを被せパイロット席に押し込む。
「え。何これ。遠くの景色が大きくなって見えるんですけど。何、この点滅してる表示?」
ヘルメット表示照準システム(IHADSS)に写しだされる映像を見て、いちいち騒ぐのは勘弁して欲しい。
「操縦の邪魔になるから、周囲の機材を弄らないでくれよ」
念を押してから、目立たぬように低空飛行で着陸場所を探す。
ロングボウレーダーを対地目標モードにして、地上の様子を探りながら着陸地点を探した。
「これ。ここに写ってるのって、もしかして地上の状況?凄い!」
シルフィードがはしゃぐ。静かにしてくれ。
なんとか着陸出来そうなところを見つけた。
森の中を通る小さな川沿いに、灌木に囲まれた空き地がある。
俺は周囲を警戒しつつ着陸した。シルフィードがパイロット席から出るのを手伝ってやり、最後に地上に降りる。
相棒であるヘリの召喚可能時間が、そろそろ切れる。
俺は取り敢えず必要となる、食料などの物資を下ろした。
着陸した場所はちょっと狭いが、なんとかなるだろう。
ヘリは召喚可能時間を過ぎ、消えてしまった。
俺は新たな兵器を呼び出す。
「M270 MLRS 来い!」
光の塊が5つ現れ車両の姿に変わる。
多連装ロケットシステム 自走発射機M270 MLRSは、俺が召喚可能な兵器たちの中でも例外的な存在だ。
広範囲のエリアを一気に制圧出来るのだ。
この兵器は、1台の指揮装置が複数台の自走発射機を制御する形で運用される。
現れた車両は、多連装ロケットシステム指揮装置x1台、自走発射機M270 MLRSx3台、弾薬車x1台だ。
自走発射機は装甲車をベースにした車両で、回転可能なロケット弾の発射機が乗っている。
1台の自走発射機M270 MLRSは12発のM26ロケット弾を積載し、内蔵した合計7,728発のM77子弾を空中でばら撒く。
1つの子弾は成形炸薬の爆発により、約4センチまでの圧延鋼板を貫通し破片を周囲にばら撒く。
召喚した自走発射機は3台で、東京ドームの約15倍のエリアに存在する兵員や軽装甲の車輌を、一気に殺傷・破壊可能だ。最大射程距離は32km。
指揮車が俺の脳内に話かけてくる。
『召喚に応じて参上致しました。ご命令ください』
兵器らしからぬ、艶めかしい女性の声だ。
「指定した地点の街、ザルメスクを破壊してくれ」
『了解いたしました』
準備の出来た、3台の自走発射機がほぼ同時にロケットを発射する。
轟音とともに火炎を巻き上げ、大型のロケット弾が煙の尾を引きながら青空高く舞い上がる。
数秒の間隔を置き、次々と発射されていく。
味方として見る分には良いが、攻撃される方は地獄だろう。
『何これ。怖い』
辺りに響く大きな発射音とともに連続して射出されていくロケット弾を、呆然と見ていたシルフィードが、そう呟やいたのを俺は脳内で聞く。
突然、何かが視界の角で動いた。
俺は、近くの木立の中に異常を感じる。
また、何かが動く。
恐らく敵だろう。深い森のなかとは言え、ここは敵の勢力範囲だ。
俺は89式小銃を構えると、木立の方に銃口を向けた。
木の隙間から見える影をよく見ると…少年と少女の二人連れだ。
轟音と共に発射されるミサイルを、木立の中からぽかんとして眺めている。
俺達の存在を忘れてしまっているようだ。
多分、彼等は街がヘルドに占領される前に森に逃げ込んだのだろう。
しかし、良くこんな街から離れた場所まで来れたものだ。
食料は大丈夫だったんだろうか?
…いや大丈夫な筈は無い。腹が減っているだろう。
俺はシルフィードに、少年たちの出現を教えるために肩に触れ、木立の方を指差した。
「こっちに来いよ。一緒に食事にしよう」少年たちに声をかける。
轟音に負けないように大声で。
シルフィードも一緒に声をかける。
「大丈夫? 怪我してない? お腹減ってない」
少年達と見かけの年令が近いシルフィードの方が安心できるか。
シルフィードはゆっくりと、木立の影の少年たちの方向に歩む。
「心配しなくていいわ。 私たちは 帝国…じゃなかった王国軍よ。」
「大変だったでしょう。もう大丈夫。食料もあるわ」
ちょうど多連装ロケットシステムの車両たちは、全てのロケット弾を撃ちきり、召喚可能時間が過ぎて消えていった。
◆
木立から二人の姿が現れる。
兄弟か恋人なのか?少年も少女も10代の中頃か、もしかしたらその上だ。
俺は、二人の耳が獣の耳に似ている事に気がついた。
獣人族という奴かも知れない。
戦闘糧食を温め、二人に差し出す。
腹が減っていたらしく、彼等はおずおずと受け取った。
話を聞くと二人は幼なじみだそうで、街から一緒に逃げてきたそうだ。
ここから60kmほど離れた街から、ヘルド軍と自衛軍が戦っている隙に、森に逃げ込んだそうだ。
少女は大人しそうなお嬢さんタイプに見える。少年の方は体格も良く身体を使う職人のような感じだ。
耳は獣の形をしているが、それ以外は普通の人間と変わらない。
二人共、一食分の戦闘糧食では足りなかったらしく、俺は慌てて残りの食事を温め、二人に差し出した。
「さっきの魔法は、あなたがやったんですか?」
少年が聞く。
魔法とはロケット弾での攻撃の事か。
「そうだ。この先にあるヘルド軍の街を攻撃していたんだ」
「凄かった。あんなの初めて見た。あんな魔法があったなんて」
「おなた達は王国軍の人?」少女が尋ねる。
「王国=帝国の連合軍だ。 こっちの女の人は帝国の軍人さんだ」
俺が紹介するとシルフィードは、にこやかに微笑む。
こういう顔も出来るのか。俺にはそんな顔は見せたことが無かった。
少年が悔しそうに言う。
「僕も一緒にヘルドと戰いたい。本当は自治軍と一緒に最後まで戦いたかったんだ。
でもリナを逃さなければいけなかったから、一緒に森へ逃げた」
「あなた達は、どこの領主の軍?それとも王国直属の軍? ここの領主の軍は全滅しちゃったみたいなんだ。僕も一緒に連れて行って。僕はエトと言います。
一生懸命戦うから」
少年は必死に俺に頼む。
俺は自分の事をどう説明したら良いか悩んだ。
領主の下で戦っているわけじゃないしな。
シルフィードが横から話に割り込む。
「この人、見かけはそうでもないけど本当はもの凄く強い王国の召喚士なの。
今の魔法見たら分かるよね?
どこの領主とも関係無いけど、帝国の皇帝もこの人の味方」
「戦いに参加してくれる兵士を探してるから、この人―フユトミによく頼んでみたら。
私も帝国所属の竜で一緒に戦っているの。
風属性のドラゴンで名前はシルフィード」
「竜?あなたがドラゴン? 嘘はやめてよ。おかしい。ドラゴンはそんな格好はしていない」
そう? と言うとシルフィードは、いたずらっぽく笑い後ろに下がる。
そして踊るように回転すると、一瞬全身が青色の光りに包まれ、竜の姿に変身した。
「…!」
「ほら?本当でしょ」
…シルフィード、今の変身のせいで服が裂けたが替えはあるよな?
◆
一緒に戦わせてくれ、とせがむ少年と少女に、また迎えに来ると伝え俺達は再度飛び立った。
敵の目のつかないところに、それまで潜んでいてくれ。
一緒に戦うかどうかはともかく、あそこの森にずっと置いていく訳にはいかない。
帰り道に俺のヘリで一人運び、もう一人はシルフィードに乗せて連れ帰るつもりだ。
現在シルフィードは竜の姿で、俺と並びザルメスクへ向け飛んでいる。
ロケット弾でのザルメスク攻撃の戦果を確認した後、問題なければ今度は首都への攻撃に向かう。
ザルメスクにはすぐ着いた。
「…これは」シルフィードが喘いだ。
3台の自走発射機M270 MLRSの2波に渡る攻撃は、東京ドーム30個分のエリア(1,440,000平方メートル)を破壊しつくしていた。
軍事の街であったザルメスクは壊滅していた。
通りに面した石造りの大きな建物も半分は倒壊し、倉庫や住居であったと思われる木製の建物はほとんど全部が瓦礫の山となっている。
主要な住人であった筈のオークやリザードマンなどの軍人達は、死体となって横たわっているか、重症の者達ばかりで、通りを動いている者は少なかった。
ヘルド軍所属の地竜やワイバーン達は、全滅している。
シルフィードは想像以上の攻撃力に圧倒されたのか、黙っている。
彼等の世界には、戦略級ドラゴンに代表されるように1対1での戦いでは、現代兵器に相当する威力を持つものも多い。
しかし、広範囲のエリアごと破壊する兵器の概念は無いのだ。
過去において最高クラスの魔術師が行使したと言われる隕石落としの伝説が残っている位だ。
シルフィードがショックを受けていたようなので、M270 MLRSのロケット弾ではドラゴンの持つ防御は突破出来ないよ、と伝えようとした。
だがそんな慰めは逆効果だと思い直し、言うのを止める。
俺たちは次の攻撃地点、ヘルドの首都タリスへ向かった。




