第3章 第6話 「通知」
20210528公開
【‐皇国歴313年「祝月」18日夕刻‐】
統合鎮護中隊が結成されて7日が過ぎた。
第3小隊の新編と、転属して来た元士家隊と元補隊の隊員に対する転科に伴う初期教育が終わり、基礎的な訓練を始めても問題の無いところまでやっと持って来れた。
それは良いんだが、俺が率いていた第1小隊も練度が落ちたので、それの手当ても同時に行う必要がある。
練度が落ちた理由は、第1小隊から統合鎮護中隊本部と第3小隊に結構な数の要員を異動させて、その穴も転属して来た隊員で埋めたからだ。おかげで実戦に出しても問題の無い強度にまで鍛え上げていた第1小隊の練度はがた落ちだ。
俺が中隊長に上がったので、最先任の2等曹を第2分隊長から小隊長に昇格させたが、ある意味ではこの中隊でしか有り得ない人事だ。
なんせ、部下の中には下級とはいえ貴族の4等士家当主とか5等士家当主とかが居るんだ。
苦労するだろうから、俺が後援しないとな。
そういう状態なので、今、何かあれば、第2小隊しか出せないが、クヌートソン1等士はなんだかんだ言っても有能なので任せても大丈夫だと思う。
小隊の方も7日前の演習を成功させたおかげで、部隊運用に自信を持って来ているし、使いこなせる隊員の数だけ魔杖弓M203を追加で装備させたので、火力も過剰なほどになっている。
現状では統合鎮護中隊最強の小隊と言って良いだろう。いや、訂正だ。皇国最強だな。
まあ、なんにしろ、第1小隊と第3小隊が使いもんになるまで、想定外の事が起こらない事を天翔ける全能神プランティナインス様に祈っておこう。
そして、予定では明日から士家隊から選抜された士家当主が魔杖弓M203の習熟訓練の為にやって来る事になっている。
同時進行だが、こればっかりは仕方が無い。
なんせ、2つ目の夢に出て来た『近代的な軍隊』は統合鎮護中隊しか存在しないのだから。
将来的には転科訓練用の部隊と場所を作るべきなんだが・・・
さて、そろそろ行くとするか。
と思ったら、エミリア・ペーデル曹長が俺の上着を持って来た。本人は早くも冬用の補隊儀礼装上衣を着ている。
今日はこれから、内裏に向かう予定だ。
ニールス第3皇子殿下のお召しだ。
確かにそろそろ内裏に上がる頃合だったので、近々上がろうとは思っていた。
でも、自主的に上がるのとお召しを受けるのとでは、意味合いが大きく違う。
考えられる理由としては、何らかの内示が出るって事だろう。
ただ、中身が分からない。
それと、気になるのは副官のエミリア・ペーデル曹長も一緒に召された事だ。
まあ、中隊絡みの事は確実とは思うんだが・・・
「5日後にニールス第3皇子殿下が畏れ多くも統合鎮護中隊視察に行啓あそばれる故、臣エルリング・ヴィストランドは万全の準備を致せ」
「は、臣、エルリング・ヴィストランド、全力を以って準備を致します」
何故か同席されている第2太后陛下の言葉に対する返事は一瞬の間が空いたが、なんとか失礼にならない程度に収められた。
一瞬だが、頭の中が真っ白になったのをすぐに総天然色付きに復帰させた事は褒めて欲しいものだ。
皇族が内裏を出る理由は、たいていが歴代の皇室に絡んだ行事の為だ。
少なくとも俺の知識では、皇族が士家隊や補隊の視察の為に内裏から出た事は記憶に無い。
有ったとしても、200年以上も昔の北土戦役の時代まで遡るのではないか?
そんな歴史的な行事の当事者になるなんて、子供の頃は思いもしなかった。
結局、その伝達以外は、ごく通常の挨拶程度のやりとりだけで駐屯地に戻って来た。
エミリア・ペーデル曹長なんて、本当に一言だけしか声を出していない。一緒に召された甲斐が有ったのだろうか?
帰還が夜になったにもかかわらず、俺はすぐに分隊長以上の役職の隊員全員を召集した。
俺の話を聞いて、興奮したのはクヌートソン1等士だけだった。
そして、その時になって、やっと気付いた。
『行啓』という言葉がさらりと使われていた事にだ。
その言葉は、皇子には使われない。
皇后か、太后、もしくは皇太子にしか使われないのだ・・・
お読み頂き、誠に有難うございます。




