手探りで見つけた物
91.手探りで見つけた物
これは友人から聞いた話。
そいつはある日の真夜中に、ふと目が覚めた。
その日は普段よりも早く起きて仕事に出掛けなくちゃならない予定だったらしく、寝惚けて枕に顔を埋めたまま、ベッドの脇に放り出した携帯を手探りで探っていたんだとか。
携帯に差し込んだ充電器のコードを辿って指を這わせていくと、生暖かい物に触れたらしい。
なんだ? と思いながらも、その姿勢のまま、不思議と生暖かいそれを指でなぞっていった。
次第にそれのディテールが露になってきて、その謎の物体が何なのかを思い当たった時、そいつは大層肝を冷やしたんだとか。
それ、『手』だったんだって。
甲を向けた五本の指のそれぞれの先に、固く長い爪があるのまでしっかり確認したらしい。つまり自分の眠るベッドの脇に、何者かの手が落ちていたんだって。
でもそいつは自分の部屋にそんな得体の知れない物が落ちているのを認めたくもなかったし、心霊的な事だとも信じたくなくかった。
だから何かの間違いだと信じて、怖くてあげられなくなった顔をより深く枕に埋め込んで、指をその『手』らしき物から更に這わせていった。どう考えても人肌の様な弾力の腕を伝って。
ゆっくり、ゆっくりとなぞっていくと、今度は虫の触覚のような物が無数に触れて、そいつの掌をむず痒く包み込んだ。
そいつはそれが毛髪だと思うと同時に、咄嗟に手を引っ込めて、思わず顔をあげた。
けれど、窓から射した月明かりに照らされたのは、寸分たがわぬいつもの自分の部屋だった。
何だ、夢だったのかと思ってホッと息をついて、トイレに行こうと部屋の蛍光灯を点けたら、蛍光灯から垂れる紐を摘まんだ自分の親指と中指と薬指に、黒くて長い毛髪が無数に、何重にもなってぐるぐるに巻いてたらしい。




